トップ写真の解説
ヒメクロサナエは,幼虫は比較的よく採集できますが,成虫の姿を見ることが少ないトンボです.毎年のように成虫の写真を撮ろうと,春には必ず源流域に出かけるのですが,この写真を撮るまでことごとく不発状態でした.ところがこの場所では,オスがかなりふつうに流れの石の上や,葉の上に止まっていたのです.いやはやいるところにはいるものだと思わされてしまいました.そしてラッキーなことに,この年は複数のメスが産卵に訪れたました.ヒメクロサナエの産卵は,静止接水産卵といって,静止状態で卵を石の表面に張り付ける,あまり他に例を見ない様式です.
静止接水産卵.2016.5.22.
成虫
成虫は,春に出現し,初夏が来る前には姿を消します.春早くに出現するサナエトンボのイメージがありますが,兵庫県下ではやや標高の高いところに生息しているため,平地のサナエトンボよりは少し遅れて出現するように思えます.5月の下旬に入ったころにも処女飛行の個体が見つかり,6月下旬にも成虫が捕れます.メスは,突然樹上から舞い降りてきて,細流の石などに静止し,腹部先端を水に浸けて放卵します.
オスの静止.2014.5.31.
幼虫
河川の上流や源流域で,岩や石ころの間にたまったわずかな砂地に潜っていたり,よどみの落ち葉の堆積物の中に潜んでいたりします.比較的簡単に採集できる幼虫です.ダビドサナエやクロサナエと混じって採れることも多いですが,ダビドサナエ属幼虫よりは触角が円いので区別もそれほど難しくありません.幼虫期間は2年と思われます.
スタジオ写真.2010.5.3.