トンボノート
No.789. 昨日の恐怖を晴らすため.2021.6.9.

昨日のトンボ調査は,恐怖そのものだと書きました.今日は昨日のような感覚は味わいたくないので,必ずトンボに出会えるところに行こうと決め,先日出会ったセスジイトトンボのいた川へ観察に行くことにしました.ここはグンバイトンボやアオサナエもいるので,うまくいけば産卵に出会えるかもしれません.いちおうねらいはセスジイトトンボとグンバイトンボに定めました.

現地に着いたのは9:50くらいでした.グンバイトンボやセスジイトトンボの繁殖活動は日が高く上がってからですので,これでも早いくらいです.ウェーダーに履き替えて,セスジイトトンボ産卵撮影用にビデオ機材もかついで,今日は本格的なコンテンツ作成で攻めることにしました.セスジイトトンボもグンバイトンボも,先日よりたくさん飛んでいました.アオハダトンボはやはり少なかったですけれども….まずはグンバイトンボから.



▲植物の茂っている岸辺に沿って,ツイツイと飛ぶグンバイトンボ.

▲オスどうしが出会うと,軍配状の足を開いて,威嚇する.

▲日向を飛ぶと,軍配状の白い脚が,陰になって目立たない.

11:10,1頭のオスがメスを捕まえタンデムになりました.移精行動は見なかったのですが,続いて交尾です.このオスあんまり上手でないようで何度もやり直して,やっと交尾に至りました.

▲1頭のオスがメスを捕まえ,タンデムになった.

▲メスを持ち上げ交尾しようとするも,何度も失敗してやり直していた.

▲やっとうまくいったようだ.

時間的にセスジイトトンボのタンデムが飛び始め,グンバイトンボの交尾が終わるまでじっと待てませんでした.で,知らぬ間に交尾は終わっていました.まあ,焦らなくても,その辺で産卵を始めるはずです.しばらくして探すことにしました.11:40,産卵しているペアを見つけました.これは多分先ほど交尾していたペアだと思います.





▲例によって歩哨姿勢で産卵するペア.

グンバイトンボの歩哨姿勢は,水面に対してほぼ直角に立ち上がるので,斜め上から写真を撮ったのではたいがいオスがピンボケになります.今回は,ライブビューを使って,水面ぎりぎりにカメラを置いて撮ってみましたが,あまりうまくいきませんでした.グンバイトンボの方はそんなこと気にせず,他のオスが近づいてきたら,翅をばたつかせ,軍配状の脚を広げて威嚇します.

産卵はこれ一組しか見られませんでしたが,オスはたくさん飛んでいました.前回来たときは,減少したのではないかと思うほど少なかったのですが,これだけ飛べば問題ないというくらいの数がいました.まあ,グンバイトンボはこれからですから.

さて,次はセスジイトトンボです.前回は久しぶりに出会えたうれしさでいっぱいでした.今日はたくさんいるうちに記録をきちんと撮っておく,という目的で機材を準備しましたので,まずは産卵のビデオ撮影を行いました.今日は全部で5,6組のペアが産卵していました.セスジイトトンボも,今年は数が多そうです.というか,イトトンボ類はこれくらい飛ぶのがふつうです.ビデオはまた後日公開します.



▲セスジイトトンボのオスは,よく見ると,水色がとてもきれいなトンボだ.

11:57,タンデムになったペアが,ワンド状になった水が滞留している場所にやって来ました.ここは水がほとんど流れていないので,アオミドロが浮かんでいます.先日のような,流れに洗われる草の方がきれいな感じがしますが,まあ贅沢は言っていられません.

▲ほぼ正午,セスジイトトンボの繁殖活動の始まりだ.

▲アオミドロにからめられたコカナダモに産卵をしているようだ.

その後数が増えてくると,あちこちで産卵する姿が見られました.産卵基質は,やはりコカナダモが好きなようです.沈水植物は組織がやわらかいからでしょうね.池では,アカミミガメなど外来生物に,沈水植物が完全といってよいほど食い尽くされてしまい,イトトンボが消えています.セスジイトトンボは川でも生活できるイトトンボですから,ここに生き残っているのでしょう.

▲コカナダモに産卵するセスジイトトンボ.

▲ライブビューで水面ぎりぎりの位置で撮影したセスジイトトンボの産卵.

ところで,今日は面白いものを見ました.セスジイトトンボの潜水産卵です.ムスジイトトンボ,クロイトトンボ,オオイトトンボの潜水産卵は見たことがありますが,セスジイトトンボは今日初めて見ました.完全に水没して産卵していました.

▲水没直前の産卵ペア.メスはすでに潜水している.

▲ペアが完全に水中に没した.翅や体に空気の層がついているのが分かる.

目的の2種が観察できました.きょうはこの2種にかかりきりでしたので,他のトンボはあまり追いかけていません.撮影できた分だけ簡単に紹介しておきます.まずはオドロキのホンサナエ.この川にはぽつんと止まっているホンサナエをよく目にするのですが,河床は基本的に石ころがゴロゴロという感じで,ホンサナエの好む砂泥底ではないのです.でも毎年のように見られるので,偶産というより,ここで生活しているとみた方が良さそうです.今日はメスでした.時期的にも遅い記録です.

▲ホンサナエのメス.岸辺の植物の中から飛び出してきた.

季節が入れ替わるように夏のトンボの羽化が続いていました.一番目立ったのはオジロサナエです.このポイントでは,夏にオジロサナエの姿を見たことがありませんので,繁殖活動はここではやっていないと思います.オジロサナエの幼虫は流下するという説があり,このたくさんのオジロサナエは,幼虫がこの川の上流からやって来て,羽化し,そして成虫は上流へ帰っていくのでしょう.一度この川の上流を探索してみる必要があるかも知れません.他には,コオニヤンマ,オナガサナエの羽化殻がありました.コオニヤンマは川にも現れました.

▲オジロサナエの処女飛行個体.

▲コオニヤンマの羽化殻.

▲オナガサナエの羽化殻.

その他の夏のトンボとしては,ハグロトンボの未熟な個体があちこち飛んでいました.

次はクロイトトンボ.ここは川なのですが,クロイトトンボは川でも平気なようです.セスジイトトンボより個体数が多いぐらいです.ここのクロイトトンボは純粋に川で生活しており,グンバイトンボにちょっかいをかけるくらい同所的に活動しています.クロイトトンボは池だけのトンボといってはいけないようです.



▲セスジイトトンボに混じって産卵活動を行うクロイトトンボ.

ここはヤマサナエが4月下旬に羽化するのですが,今年は非常に個体数が少ない感じです.今日も,オスが1頭現れただけでした.

▲ヤマサナエのオス.この個体は少し下流で,メスを待つような行動をとっていた.

さて,最後はアオサナエです.うまくいけば産卵観察などと思っていましたが,残念ながら今日も現れませんでした.この川には,この季節アオサナエがたいがいいるのですが,メスが来たのを見た記憶がありません.メスにはあまり好かれない場所なのでしょうか? まあ,オス君たち,正午頃の暑さで,垂直の腹部挙上姿勢をしていました.暑いのにご苦労様.



▲まっすぐ鉛直方向上に腹部挙上姿勢をとるアオサナエのオス.

ということで,13:40ごろ,観察を終了しました.気温は33℃でした.北風が吹いて夏のとは逆方向のフェーン現象です.川の中程でまだまだ頑張ってメスを待っているアオサナエ君にさよならを言って,引き上げました.やはり,生きている川でトンボと過ごすのが一番いいですね.ここが浚渫されたりしてなくならないことを祈るばかりです.

▲アオサナエ君,頑張ってください.