トンボノート
No.790. 奇跡の一枚!.2021.6.10.

今日は,キイロサナエの発生状況を調べに行ってきました.ちょっと時期的に早いのですが,この数日の晴れ続きもいよいよ終わり,次の好天の予想がつかないので,行ってみることにしました.その他,ショウジョウトンボとオオイトトンボをセカンドターゲットとしました.ショウジョウトンボはビデオに撮りたいのと,オオイトトンボは,セスジイトトンボに刺激されて,クロイトトンボ属を見たくなったためです.

さてタイトルですが,「奇跡の一枚」というたいそう大げさなタイトルです(笑).でもそう言っても言いすぎではないと,私的には信じています.それはショウジョウトンボの観察の時,交尾の写真が撮れたことです.

▲ショウジョウトンボの交尾.連写していたので,実は2枚撮れている.

ご存じと思いますが,ショウジョウトンボのメスは動きまわって打水産卵します.そしてオスはそれを見つけると,急襲するように接近します.メスはすごいスピードで逃げます.オスが運良く(メスにとっては運悪く)捕まえたとき,ほんの数秒,すばしこく飛びながら交尾を行い,すぐにメスを放します.連写記録によると,この写真の交尾の場合は,交尾を始めたのが13:21’59″で,交尾を解いたのが13:22’02″,つまりわずか3秒間だけ交尾態になっていたのです.

つまり,このような写真を撮るには,この3秒の間に,トンボが目の前に来ること,それがファインダーに入ること,そのとき偶然にピントが合っていること(合わす時間はまずない),そのときシャッター速度を高速に合わせていること,シャッターが切れること,そして順光の位置であること.これだけの偶然が積み重ならないと写真になりません.こんな幸運,多分二度とないでしょうね.





▲産卵するショウジョウトンボ.このメスを上のオスが捕まえたのだ.

産卵していたショウジョウトンボは,上の1頭だけで,ビデオにはなりませんでした.

ということで,順序が後先になりましたが,キイロサナエの観察から始めます.9:30ぐらいに現地に入りました.もう気温は30℃を超えようかというぐらい高くなっていました.キイロサナエはいました.もう成熟して水辺に出てきていました.









▲水辺で活動しているキイロサナエのオスたち.

近くの休耕田の湿地では,ハラビロトンボがたくさん発生していて,オスたちが追いかけ合いをしていました.湿地には,ホソミオツネントンボやモートンイトトンボもいました.またヤマサナエが,キイロサナエを避けるように,少し離れたところに止まっていて,私が近づくと,逃げて樹上に上がって行きました.また老熟したシオヤトンボが産卵をしていました.前にオグマサナエのところでも書きましたが,老熟した独特の色彩が私は好きです.シオヤトンボのメスは無彩色になります.複眼もねずみ色に輝きます.金属製のフィギアみたいな,こんな渋いトンボはなかなかいません.

▲ハラビロトンボたちが湿地の上で追いかけ合いをして活動している.

▲ホソミオツネントンボのタンデム.このメスまだ褐色のままだ.

▲モートンイトトンボのオス.モートンイトトンボはたくさん発生していた.

▲地面に止まっていたヤマサナエのオスが,逃げて樹上に飛び上がった.

▲老熟したシオヤトンボの産卵.無彩色の渋い色彩のトンボだ.

あと,サラサヤンマが摂食飛翔をしていたり,樹林の中の湿地で縄張り飛翔をしていました.写真はすべて失敗.オオシオカラトンボとシオカラトンボも同じ場所で活動していました.

さて,時刻は11:00を過ぎました.多分気温は30℃を超えています.キイロサナエたちはいつの間にか水辺から消えていました.あまりに暑すぎるのかも知れません.日陰に1,2頭だけ残っていました.これでは今日はキイロサナエの産卵は期待できそうにありませんので,ショウジョウトンボやオオイトトンボをを見に行くことにしました.ショウジョウトンボは最初に紹介したとおりです.オオイトトンボは,交尾,産卵など,繁殖活動を始めていました.彼らはこの気温も何ともないのでしょうね.

▲オオイトトンボのタンデム.

▲オオイトトンボの交尾.上のタンデムの個体が交尾をした.



▲タヌキモに産卵するオオイトトンボのカップル.

イトトンボたちはやはり沈水植物が好きですね.組織がやわらかいからでしょう.オオイトトンボたちはタヌキモに産卵していました.最近ライブビュー撮影をやってみたい気持ちが強く,このオオイトトンボも試してみました.液晶モニターを引き出して上から見られるようにして,カメラを水面ぎりぎりに置いて撮ってみました.何か感じが違う写真になりました.カメラの位置が,水中から出る光の臨界角を超える位置になっており,水中のタヌキモが見えなくなって,水面に反射するオオイトトンボだけが目立つ写真になりました.

▲一つ上の写真と同じ場所で産卵している.

ここではもう一つ嬉しいおまけがありました.モートンイトトンボが池岸に集まっておりどうやらメスが産卵しそうなのです.そういえば,もう正午を回っており,産卵時刻になっています.

▲モートンイトトンボのオスとメスが集まっていた.写っていないがメスも3頭いた.

先ほどの湿地にもモートンイトトンボはいましたが,ここは開放的な植生で,産卵してくれたら写真に撮るには絶好のロケーションです.しばらく岸辺に座り込んでトンボの動きを見ていました.すると,止まっていた1頭のメスが,ハリイの茎に産卵するときのように腹部を曲げ始めました.

▲腹部を曲げて産卵のような動きを見せたモートンイトトンボのメス.

ほどなく,メスたちが(そう複数のメスです),水面にたおれたハリイに産卵を始めました.この産卵の恰好こそ,私のイメージするモートンイトトンボの産卵です.開放的な場所なので,カメラの位置も自由に決められ,これもまたラッキーでした.





▲倒れたハリイの茎に産卵するモートンイトトンボのメス.

モートンイトトンボのメスの色彩は独特の薄緑色です.大きく引きのばしてみると,とても美しい色です.イトトンボというのは小さくて野外でははっきりと見えないので,このように改めて観るとなんか新鮮です.さて,ここでもライブビュー撮影をしてみました.また,立ち上がったハリイの茎の根元に産卵する別の姿勢の個体も撮っておきました.

▲水面ぎりぎりライブビュー撮影.

▲立ち上がったハリイの茎に産卵するモートンイトトンボのメス.

最近イトトンボがいないことを嘆いてばかりいましたが,やはりいるところにはまだまだいてくれるので,ほっとします.これ以外には,キイトトンボ,クロイトトンボがいました.例によってクロイトトンボは個体数は多かったのですが,写真は少ないのです.





▲夏のイトトンボキイトトンボも,本格的ではないものの,活動を始めていた.

▲クロイトトンボたちもたくさん活動をしていた.

では,今日これ以外に記録できたトンボたちの紹介をして,今日の観察記を終えたいと思います.いたのは,モノサシトンボ,ハッチョウトンボ,ハグロトンボ,ムカシヤンマなどです.写真はありませんが,アジアイトトンボがモートンイトトンボに混じって活動しており,ギンヤンマやクロスジギンヤンマも飛んでいました.

▲水面ぎりぎりライブビュー撮影.モノサシトンボ.

▲ハッチョウトンボのオス.

▲ハグロトンボのオス.まだ羽化して間もない感じだ.

▲ムカシヤンマのオス.翅も白くなり,老熟している.

やはり6月は,新旧取り混ぜて,色々なトンボたちが見られる季節です.梅雨の合間の晴れ3連チャン,いささか疲れました.明日は休養します.