No. 978. ヒメサナエとオジロサナエ.2024.7.21.

いつものところへ行って,いつものトンボがいるのを確認して,そして安心して帰る,という観察が年に何回かあります.このヒメサナエとオジロサナエの観察もその一つです.この場所は工事によって一時崩壊するのではないかという恐れがありましたが,工事が終わって3年,どうやら生き延びたようです.工事終了後の原状復帰もすばらしく,ほとんど昔と変わらない状態です.

さてこの時期,産卵活動に的を絞った場合,ヒメサナエには少し遅くオジロサナエには若干早いという微妙な時期です.まずオジロサナエ.川にも出てきており,オスとしては繁殖活動期に入っているといってもよい状態でした.


▲産卵場所の環境でメスを待つオス.▲

オス同士のバトルも繰り広げられ,久しぶりにオジロサナエの活動を楽しみました.しかし草むらにたむろしているオスもいて,これからという感じもしました.


▲草むらにたむろするオジロサナエのオス.▲


▲これはたむろしているのではなく流畔のシダ植物の止まっている.▲

結局オジロサナエについては産卵活動を見ることはできませんでした.オスはそこそこいたので,時機が到来すれば結構産卵活動も盛んになるのではないでしょうか.オジロサナエについてはやはり早朝をねらわないといけないかもしれません.

一方ヒメサナエについては,流れに出ているオスの数が非常に少なかったように感じました.


▲暑い日差しの中で頑張るヒメサナエのオス.外気温37℃!.▲


▲ヒメサナエのオス.ときどき日陰にも降りてくることがあった.▲

ヒメサナエの数が減っているというより,やはり時期がちょっと遅いのだと感じました.というのは,オスの数に比して,今日はメスに結構よく出会いました.まず流れに沿った道を歩いていると,川からヒメサナエのメスが飛び出してきました.


▲流れから飛び出してきて葉に止まったヒメサナエのメス.▲

また観察地に着いたとき,メスが流れに降りてきました.このメスは産卵せずに飛び去りました.私の接近がよくなかったかもしれません.


▲観察ポイントに降りてきたヒメサナエのメス.▲

そして,産卵にはのべ3回現れました.面白いことに私が腰を下ろしている真ん前に産卵に来たのです.それも2回も.私がオスに見つからないような遮蔽物に見えたのかもしれません.長時間腰掛けていると石に見えるのかも.


▲目の前に降りてきて産卵を始めた1回目のメス.座ったままカメラを向けた.▲


▲ヒメサナエの擬瞳孔が面白く,こちらを横目で見ているみたいだ.▲

あと1回の産卵は,水面上を激しく移動して連続打水するような産卵で,ホバリングして間欠打水する,写真のような産卵とは異なるものでした.

オスの方は,何度か川面に降りてきたものの,粘り強くメスを待つ個体はいませんでした.一方,草むらでは何頭か見かけました.


▲流れに出ず草むらで過ごすヒメサナエのオス.▲

という感じで,感触としては,時期と時間を選べば,ここで楽しい観察が出来るかもしれないという感触を得ました.

ここへ行く途中,アカトンボの未熟個体を2頭見ました.一つはミヤマアカネのオス,もう一つはナツアカネです.ナツアカネの未熟な個体は,成熟個体の多さと比べてあまり見かけることがないので,こんなところに一人でぽつんといるんですね.


▲ミヤマアカネの未熟なオス.▲


▲ナツアカネの未熟なオス.▲

ということで,今日は2時間ほどで観察を終えました.なにしろ外気温37℃の危険な暑さでしたから.

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今年初めて出会ったトンボたち.
No. 50. オジロサナエ,オス.
No. 51. ヒメサナエ,オス・メス・産卵
No. 52. ナツアカネ,未熟オス.
No. 53. ミヤマアカネ,未熟オス.

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No. 977. オオシオカラトンボ.2024.7.20.

今日は樹林に潜むカトリヤンマを探しに行きました.しかしカトリヤンマは一度だけ目の前を通り過ぎただけでした.多かったのはオオシオカラトンボ.今年の南西諸島旅行で,やたらとオオシオカラトンボの亜種を探していましたので,本家本元のオオシオカラトンボを記録しておくことにしました.


▲本家本元のオオシオカラトンボ.Orthetrum melania melania.


▲オオシオカラトンボの未熟なオス.▲

初めメスがいると思って近づくと,未熟なまだ粉を吹いていないオスがいました.これなかなか見るチャンスが少ないんです.複眼が明るい赤茶色であることもメスとは違ってきれいです.次の写真が成熟メスです比べてみてください.


▲オオシオカラトンボの成熟メス.▲

小さな湿地で交尾産卵が行われていました.


▲オオシオカラトンボの交尾.▲


▲産卵を始めたオオシオカラトンボ.▲


▲やはりオキナワオオシオカラトンボのメスとは大分違う.▲

さて,アカトンボたちがひっそりと夏を越していました.リスアカネとヒメアカネです.リスアカネというのは意外とこの未熟な個体には出会いませんね.成熟が早いからかもしれません.


▲リスアカネの未熟なオス.翅端の褐色斑も濃い.▲


▲ヒメアカネの未熟なメス.▲

暑さは35℃.日陰にいても息苦しくなります.2時間ほどで退散しました.

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今年初めて出会ったトンボたち
No. 48. リスアカネ,未熟オス.
No. 49. ヒメアカネ,未熟メス.

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No. 976. キイトトンボの産卵.2024.7.17.

しばらく梅雨末期の曇天が続きましたが,今日は少し安定した天気になりました.夏の池に夏の普通のトンボたちを見に行きました.夏のイトトンボと言えばキイトトンボ.最近はたくさんいるところが減ってきたように感じます.


▲池の近くの草むらにポツポツとみられたキイトトンボのオス.▲

池の近くの草むらを歩くと,キイトトンボがあちこちから飛び出してきました.たくさんというほどではありませんが,元気にしているなと感じるほどにはいました.池の際に入って眺めてみると,3組が産卵していました.ちょうど真昼頃です.


▲産卵するキイトトンボ.産卵は3ペアいたが,これらはそのうちの2ペア.▲

キイトトンボに混じってベニイトトンボもいましたが,こちらは産卵はしていませんでした.


▲ベニイトトンボのオスたち.▲

そのほかのイトトンボとしては,クロイトトンボが頑張っていました.


▲クロイトトンボの交尾.▲

池は夏のトンボたちで賑やかでした.コシアキトンボ,シオカラトンボ,チョウトンボ,ショウジョウトンボ,ギンヤンマ,どれも活発に活動をしており,自分たちが主役であると主張するように飛び回っていました.


▲ショウジョウトンボのオス.▲


▲チョウトンボのオス.▲


▲シオカラトンボのオス.▲

この後ヤブヤンマの産卵を見に行きましたが,まだ少し早かったようです.池の上を1回だけヤブヤンマが飛びました.その代わりといっては何ですが,タイワンウチワヤンマが姿を現していました.奄美大島でたくさん見てきたトンボですが,こちらではやっと出現期を迎えたようです.


▲タイワンウチワヤンマが姿を見せた.いよいよ夏本番だ.▲

当たり前のトンボが当たり前のように飛んでいる.これが夏の風景なのです.少し安心しました.梅雨が終われば,川へ行ってみたいと思っています.最後に今日のゲスト,キアゲハのメスです.家庭菜園のにんじんの大敵で,見つけると家内はすぐに殺しています.ちょっとかわいそうな気もしますが...


▲大きくてきれいなキアゲハのメス.▲

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今日初めて出会ったトンボたち
No. 47. タイワンウチワヤンマ,オス

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No. 975. 奄美大島のトンボ観察.2024.7.11.

県外へ出かけたときは「観察記」ではなく「エッセイ」にしていました.それはできるだけ多くの種類のトンボたちに出会い,観察というよりは写真撮影が目的の旅行だったからです.しかし今回は特定の種類にターゲットを絞って,その生態観察を主に行うための訪問です.

■ハネビロトンボ Tramea virginia (Rambur, 1842)
まずはハネビロトンボです.ハネビロトンボは鹿児島県には広く分布しているようで,地元の人が言うには,極めて普通のトンボらしいです.多分こちらでいうところの「コシアキトンボ」ぐらいの位置づけなのではないでしょうか.前回奄美に来たときに鹿児島県の方がトンボを見に来られていたのですが,ハネビロトンボにはカメラを向けることすらほとんどしなかったですから.

しかし私にとっては異国のトンボであることに変わりはありません.特に放卵時に,タンデムで飛来したペアのオスがメスを放してメスが単独で打水し,その直後にまたオスがメスを捕まえてタンデムになるということを繰り返すという珍しい習性を持っていますので,これを記録したいと長年思っていたのです.ですから今回の訪問では,これを記録することが最優先事項でした.

ハネビロトンボのタンデムは,池を高速で縦横に飛び回りながら産卵するので,どこで打水・放卵をするか全く分かりません.35℃の高温のなか日陰に座って観察していると,そんなハネビロトンボにも,打水する好みの場所があることに気づきました.浮葉植物だけでなくそこに藻が浮かんでいるような場所です.それが分かればそこで根気強く待つのみです.


▲池を縦横に飛び回るハネビロトンボのペア.▲


▲放卵直前のハネビロトンボペア.メスの腹端には黄色い卵塊が見える.▲

放卵する前には,水面の低い位置で一瞬止まるような動きをするのでそれと分かります.しかしそれをカメラでとらえるのは難しく,止まった瞬間にカメラを向けてピントを合わせてシャッターを切ってもだいたいが手遅れで,ジャストのタイミングになるのは至難の業であることが分かりました.ただ救いは,かなりの数産卵に来てくれたことでした.何度かやっているうちに反応するコツがつかめました.それは止まる前からトンボを追いつづけることでした.

しかし多くの場合は単なる通過で,それを何回もやられるとこちらの集中力が切れてきます.きっとトンボを追っている間息を止めているのだと思います.年寄りにはきつい.それでもなんとか成功し,記録を録ることができました.


▲放卵寸前のペア.やはりメスの腹部先端には卵塊が形成されている.▲


▲オスがメスを放した.黄色い卵塊が見える.メスが打水する直前である.▲


▲メスが打水・放卵した瞬間.▲


▲打水を終えてメスが上昇に転じたとき,オスはそれをつかみに行こうとする.▲


▲後ろから抱きついて再びタンデムを形成しようとするオス.▲

この連続写真を見ていると,オスの姿格好が面白い.オスはメスと再びタンデムになるために,脚をいっぱいに広げて確実にメスをつかみ,尾部上付属器を根元から背側に直角になるように折って腹部を曲げ,すぐにメスの後頭部を挟めるような体勢をとっていることが分かります.最後の写真の次は,ペアが急上昇したためにフレームアウトしてしまいました.タンデムになる瞬間は,もう一つの撮影例にありましたので,それを載せておきましょう.


▲打水・放卵後,オスがメスの後頭部を挟み,タンデムを再形成する瞬間.▲

でも,ハネビロトンボは,なぜこんな複雑な産卵様式を採用しているのでしょう.ふつうに連結打水産卵すればいいように思うのですが.現に同じように池を縦横に飛んで打水産卵するオオキイロトンボは,連結のまま打水しています.

これはオスの意志かメスが逃げたのかは分かりませんが,連結飛行中にオスがメスを放したり,打水・放卵の後オスがタンデムを形成しなかったりして,メスの単独産卵に移行する場合があります.


▲単独産卵に移行して産卵場所を探すハネビロトンボのメス.▲


▲暑いせいか,腹部を下垂しながら産卵場所を探すハネビロトンボのメス.▲


▲打水前のメス.腹端に卵塊が形成されている.▲

だいたいこんな感じで主に午前中たくさんのペアが産卵にやって来ます.もちろん,単独で飛び回るオスはあちこちに見られます.やはり一定の範囲を巡回するように飛んでいて,他のオスが侵入すると激しく追尾して追い払いますので,なわばりを形成していると考えられます.


▲なわばり飛行する,まだ少し若いオスのハネビロトンボ.▲

午前中はほとんど止まることなく飛び続けているハネビロトンボですが,お昼頃からぼちぼち木の枝先などに止まり始めます.最も日差しが強くなり気温も高くなる頃です.そんな状況なのに,彼らは日向に止まります.普通はコフキトンボのように体を水平にして止まりますが,暑い日向に止まるときには,腹部を下垂することが多いようです.腹部挙上姿勢は,観察した限りでは見られませんでした.


▲コフキトンボのように,体を水平にして枝先に止まるハネビロトンボ.▲


▲腹部を下垂して止まるハネビロトンボのオスたち.▲

ハネビロトンボで面白いのは,この腹部下垂姿勢を,飛びながらでもやっているところです.日向でなわばりの巡回で飛んでいるとき,腹部を下垂して飛ぶことがあります.


▲腹部下垂姿勢でなわばり巡回のために飛ぶハネビロトンボのオス.▲

観察中のエピソードとして,ハネビロトンボのペアが産卵のため空中で一時停止したとき,リュウキュウギンヤンマが襲いかかり,餌として連れ去ってしまいました.産卵というのは動きが予測しやすく,スピードも落ちるので,大型のヤンマにねらわれやすいのですね.カメラは構えていましたが,ピンボケでした.

長い間ハネビロトンボの姿を観察・記録したかった思いがやっと実現し,楽しい時間を過ごすことができました.

■アオビタイトンボ Brachydiplax chalybea flavovittata Ris, 1911
今回の訪問では,ハネビロトンボを追いかけてばかりいたような気がしますが,もう一つどうしても確認したい課題がありました.それはアオビタイトンボの産卵,そしてメスがどこにいるかを見つけることです.台湾に行ったときも沖縄県を訪れたときも,アオビタイトンボのオスはよく見つかりましたが,メスが見つかりませんでした.だいたいこういったトンボのメスは,池周辺や,やや離れた草地などにたむろしているものなのですが,今日に至るまで全く見つけることができていません.


▲アオビタイトンボのオス.オスは今回非常に数が多かった.▲

アオビタイトンボは,お昼前から出てくる数が増えてきます.今回朝早くから観察を始めましたが,早朝はシオカラトンボばかりでした.気温の高くないうちは,より北方に分布が広がっているシオカラトンボの方が目立つのでしょうか.アオビタイトンボはお昼が近くなると目立つようになり,夕方が近くなると今度はシオカラトンボが目立たなくなります.よく見るとこの2種姿格好も似ています.


▲朝のうちはシオカラトンボが目立つ.▲

アオビタイトンボの数が増えてくると,あちこちでオス同士の争いが始まります.コシアキトンボのように2頭が並んで飛び,しばらくして一方が他方を上空へ追いやるような行動になったり,そのまま離れてしまうこともあります.


▲オス2頭が闘争しているところ.▲

さて肝心のメスですが,最初に出会ったのは産卵しているメスを見つけたときでした.時刻は14時ごろで,もっとも暑い盛りです.アオビタイトンボはどんな産卵をするのか興味もありました.結論から言うと,茎や葉や枝など水面に出ている物体に卵を貼り付ける様式で,コシアキトンボと似ている感じです.ただ,コシアキトンボほどに連続性はなく,しばらくホバリングしてから腹端を打ちつけるといった間欠的な感じでした.


▲産卵しているアオビタイトンボのメスを発見した.▲


▲まず,腹端を打ちつける部分にねらいを定めて少しホバリングする.▲


▲腹端を打ちつける直前の状態.腹部先端が上に反っている点に注目.▲


▲腹部先端を反らしたまま枯れ茎に腹端を打ちつけて放卵する.▲

卵は枯れ茎にひっついているのが確認できました.薄緑色で透き通っています.このカットでははっきりとした写真がありませんでしたが,16時頃に見たもう一つの産卵場所にはたくさんの卵が着いているのが見えました.


▲こちらの産卵では,葉の表面に卵を貼り付けている.15:58.▲


▲葉面の緑色のが卵である.少なくとも左側の葉の卵は上のメスが放卵したもの.▲

上の枯れ茎に産卵している写真では水面より上側に卵を貼り付けていますが,下の葉上に卵を貼り付けている写真では水面より下側に卵が貼り付いています.コシアキトンボでは水面より上,コフキトンボでは水面より下,というふうにこれらの種の間ではかなり厳密に貼り付ける場所を選び分けていますが,アオビタイトンボはその辺はどちらでもいいのでしょうか.

ところで,まだ課題は解決していません.フリーのメスはどこに潜んでいるのでしょうか.草地にいない場合は樹上に上がるという可能性があります.そこで林縁に生える木の枝を見ながら探索してみました.すると意外と簡単に見つかりました.


▲林縁の木の枝や葉に止まるアオビタイトンボのメス.▲

若干若い感じのする個体ですが,それでもメスはこういった感じのところに隠れていることが分かりました.成熟するともっと高いところに上がっているかもしれません.こういった場所にはやや若いオスもいました.


▲若い感じのオスも同じにところに見られた.腰の部分がまだ地色だ.▲

アオビタイトンボは現在山口県でも見られるほどに北上しています.ベニトンボのようにやがて兵庫県などでも普通に見られるようになるのでしょうか.1977年に沖縄島で発見されるまでは大東諸島にしか分布していなかったトンボです.これを見るために南大東島へ行った人もきっといたに違いありません.最近の,南方種の北への分布拡大には,目を見張るものがあります.


▲北上を続けているアオビタイトンボ.昔は大東諸島にしかいなかった.▲

■アマミルリモントンボ Coeliccia ryukyuensis amamii Asahina, 1962
さて,まだ訪問の目的があります.アマミルリモントンボの産卵を見ることです.マサキルリモントンボ,リュウキュウルリモントンボと,いずれも産卵の観察が実現していません.しかし,先島諸島,沖縄本島,いずれの訪問も,より多くのトンボに出会うことが目的でしたので,産卵観察のために時間を割くことは,限られた時間の中で優先順位として低かったのです.

しかし今回はちょっとした意地がありました.前回来たときに,アマミルリモントンボのオスはたくさん見つかりました.個体群密度から見て,産卵が見られる可能性は高いと考えていました.何が何でも見つけるという気合いで探しました.ポイントは時間帯です.午前中の早い時間帯に探してみることにしました.これがうまく当たったようです.まず最初に見たのが,連結しているペアでした.


▲タンデム状態のアマミルリモントンボ.8:11.▲

成熟したメスを見たのはこれが初めてです.このペアはこの状態から動きがないので,別のペアを探しに行きました.すると少し離れたところに産卵中のペアがいました.朽ち木に産卵していました.コケのようなところに産卵するかと想像していましたが,意外と堅い基質に産卵するのですね.だから産卵管がやや大きく発達しているのでしょう.


▲朽ち木に産卵するアマミルリモントンボ.▲

この場所は農道の横を流れる細流です.どうしてもこの角度でしか撮れないので溝に降りて撮ることにしました.そんなとき,農家の方が車で通り,突然止まって窓を開け,「ハブに注意してくださいね」と言われました.そうか,ハブというのはこういうところに潜んでいるのか,と思い気持ちを引き締めたところです.


▲もうこれ以上は下の位置にできないぎりぎりの高さで撮った.▲

写真はたくさん採りましたが,植物内産卵をするトンボの産卵は何枚撮っても同じなので,ある程度で止めました.フリーのオスもいましたが,数は春に比べて減っていました.水が一部涸れていたせいかもしれません.


▲アマミルリモントンボのオス.▲

■リュウキュウギンヤンマ Anax panybeus Hagen, 1867
私が訪問したときだけかもしれませんが,奄美大島ではギンヤンマよりリュウキュウギンヤンマの方が普通でした.実は今回の目的の中にリュウキュウギンヤンマの産卵観察というのがあったのですが,リュウキュウギンヤンマの産卵メスは非常に敏感で,5mぐらい離れていても,こちらの動きに反応し,異常を感じれば産卵を止めて飛び去ってしまうのです.

今回は一度だけ産卵に入ったメスに出会いました.このメスも同様に敏感でしたが,産卵基質に止まる前にかなり長時間ホバリングしましたので,これをいただきました.時刻は16:40で,もう夕刻に近いですね.


▲産卵基質に止まる前にしばらくホバリングしたリュウキュウギンヤンマのメス.▲


▲どういうわけか私から視線が届かないような場所を選んで産卵する.▲

結局産卵はこんな感じでしか観察できませんでした.のぞき込もうとするとそれを敏感に感じ取って飛び去ってしまいました.こういうときは不動の姿勢で待つという鉄則を忘れてしまったようです.

しかし一方オスの行動については結構面白い観察が出来ました.オスは,普通のギンヤンマのように,池の上を飛んでメスを探しているのですが,これが意外と少ないのです.どこにいるかというと陸上!.林縁のやや開けた空間を往復しながら長時間飛んでいるオスがそこそこの数いました.普通なら摂食飛翔で片付けてしまいそうな感じの飛び方です.確かに餌昆虫が飛びますと追飛して捕らえたりしているようです.

しかしながら,この行動は,朝から夕方まで特に時間帯に関係なく行われています.普通摂食飛翔というのは時間帯が限られているように思うのですが,朝昼夕方を問わずいつもどこかでやっているという感じなのです.そしてメスが近くを飛ぶとそれを捕らえタンデムになって飛び去るのを見ています.メスが非常に敏感ですぐに逃げてしまうことと考え合わせると,これはひょっとしたらオスがメスを捕まえる戦略ではないかと思ってしまいます.真相は分かりませんが,とにかく陸上をよく旋回飛翔するトンボです.

▲林縁の道の上を飛び回るリュウキュウギンヤンマのオス.▲

■ハネナガチョウトンボ Rhyothemis severini Ris, 1913
奄美大島と言えば,奄美大島にしか分布しない珍しいトンボがいます.1993年に初めて発見されて以来奄美大島以外では見つかっていません.津田(2000)によると,海外では台湾やベトナムに分布しているそうです.

同じく最近日本に入って来た,サイジョウチョウトンボ,またその少し前のアカスジベッコウトンボはいずれも台湾に分布しており,国内ではまず与那国島で初めて発見されています.これらが台湾から来たと言いきることができないにしても,台湾-与那国島-西表島という分布拡大ルートには共通性があります.ところが同じく台湾以南に分布するハネナガチョウトンボは,それらをすっ飛ばしていきなり奄美大島に現れ,しかもその他の離島には出現していないのですから,不思議としか言いようがありません.


▲ハネナガチョウトンボのオス.▲

今回,ハネナガチョウトンボは姿が見られたらいいという程度の感覚で観察に来ました.でもその無欲がよかったのでしょうか,交尾・産卵を観察することができました.まずメスが入って産卵しているのを見ました.植生の中にもぐり込んでの打泥(打水)産卵です.これを上記写真のオスが見つけて,交尾態になりました.交尾態は割合近くに静止してくれましたので,写真記録にとることができました.


▲ハネナガチョウトンボの交尾.▲

交尾しているメスの翅が非常に長く感じられ,ハネナガチョウトンボの和名の意味が分かります.交尾が終わった後もメスは産卵を継続しました.なお,産卵を見たのは全部で3回でした.数が少ないトンボですが,よく観察できたと思っています.


▲植生の間に入り込んで産卵を続けるハネナガチョウトンボのメス.▲

ハネナガチョウトンボは南国のトンボです.暑さには強いのでしょう.お昼過ぎのもっとも暑いときにも池を離れず,腹部挙上姿勢で頑張っていました.そしてときどき周辺を飛び回ります.飛ぶ姿を遠くで見ていると,チョウトンボの飛び方と言うより黒いハネビロトンボといった方がよいような印象です.ハネビロトンボと同様に,翅の基部だけに色が付いているからでしょう.


▲腹部挙上姿勢で頑張るオス.▲

ハネナガチョウトンボは条例で採集禁止になっているようですので,注意したいものです.いつまでも元気で残り続けてほしいトンボです.


▲光線の加減か,紫色に怪しく輝くハネナガチョウトンボ.▲

◆その他のトンボたち
今回は生態観察・記録を中心に訪問したので,いくつかの種には出会えず終わってしまいました.そんな中でちょっとした出会いがあったトンボたちを最後に紹介しておきましょう.

■オキナワオオシオカラトンボ Orthetrum melania ryukyuense Sasamoto et Futahashi, 2013
オキナワオオシオカラトンボは沖縄本島で十分観察できたので,今回は観察目的から外しました.オスは小さな流れに止まっていましたし,交尾を目撃しました.


▲流れに止まるオキナワオオシオカラトンボのオス.▲


▲オキナワオオシオカラトンボの交尾.▲

■タイリクショウジョウトンボ Crocothemis servilia servilia (Drury, 1770)
ハネビロトンボ観察中にこのトンボをたくさん見ました.ときどきメスが入り産卵もしていました.


▲産卵にやって来たメス.交尾されてしばらく静止中.▲


▲タイリクショウジョウトンボの産卵.水滴が前方に飛んでいる.▲

■オキナワチョウトンボ Rhyothemis variegata imperatrix Selys, 1887
先島諸島では非常にたくさんの個体を見ましたが,奄美大島では,あまり多いようには見えませんでした.どちらかと言えば数は少ないトンボでした.メスでやたら翅の黒い部分が大きいのがいました.


▲オキナワチョウトンボと産卵に来たメス.▲

■タイワンウチワヤンマ Ictinogomphus pertinax (Hagen in Selys, 1854)
さすが夏です.タイワンウチワヤンマの数が非常に多かったです.他のトンボを撮影すると,浮葉植物に着いている羽化殻が写るほどです.ハネビロトンボの産卵の写真にも写っています.産卵もいくつか見ました.面白かったのは,こちらで産卵するときは短時間ホバリングしてから浮遊物に腹卵を打ちつけるような動きをしますが,ここで見たのは,まさにすばやい連続打水産卵でした.これは多分オスが多すぎて,ゆっくり停止飛翔などしているとオスにつかみかかられるからかもしれません.


▲タイワンウチワヤンマのオスとメス.▲

■最後に
今回目的としなかったトンボの中で,やはり出会いたかったトンボに,ミナミヤンマがあります.奄美大島のミナミヤンマは翅の前縁部が褐色に彩られていて,なかなか美しいトンボです.飛ぶ姿はそれなりに見ましたが写真に撮れるような状況ではありませんでした.一度だけ,木陰で座ってトンボ観察しているときに,ミナミヤンマのメスが止まりたそうに飛んできたことがありました.しかしハネビロトンボがこれを追いやって,結局止まらずに逃げてしまいました.止まってくれると嬉しいところでしたが惜しかったです.

タイワンシオカラトンボの姿を探しにあちこち移動しました.しかしどこも乾燥していて,これらがいそうな湿地状の場所が見つかりませんでした.それなら水田のあるところへと思いましたら,奄美大島にはほとんど水田地帯がないのですね.国土地理院の地図で水田のマークがついているところはわずかしかありません.ちょっと意外でした.ということで,探す場所が分からず出会えずじまいでした.

ベニトンボハラボソトンボコシブトトンボ産卵アオモンイトトンボ,リュウキュウハグロトンボ,オオキイロトンボなどを見ました.それからムスジイトトンボでしょうか.水色のクロイトトンボ系の産卵を見ましたが,遠すぎて種名の確認にまでは至りませんでした.このなかで,オオキイロトンボは奄美大島では飛来種扱いになっています(尾園ら,2021).残念ながら証拠写真はすべてピンボケでした.


▲やはりベニトンボには登場してもらわないと.産卵は全く見ずだった.▲


▲ハラボソトンボはとても数が少ないトンボであった.▲

チビサナエは探してはみたが見つからず,薄明薄暮の観察は行っていないので,まあ,今の季節これくらいが普通のところだと思います.以上.

カテゴリー: 県外のトンボ, 観察記 | No. 975. 奄美大島のトンボ観察.2024.7.11. はコメントを受け付けていません

No. 974. 思わぬところでハネビロエゾトンボ.2024.7.7.

水に浸かったカメラの調子がやはり少し変でカメラの修理は10万円近くかかりそうですし,ストロボももう6年以上使って推定十万発以上光らせているので,カメラやストロボを新調することにしました.痛い出費です.今日はその機材テストで出かけてきました.前回やはりカメラテスト(このときは水に浸かったカメラが使えるかどうかのテスト)の時にベニイトトンボの新産地を発見しました.今日は,思わぬところでハネビロエゾトンボに出会いました.おそらくここは過去にも記録がないと思います.


▲なわばり活動をするハネビロエゾトンボのオス.▲

新しいカメラで,視度調整をまだ行っていなかったせいか,微妙にピントが来ていない写真ばかりでした.ハネビロエゾトンボは長い時間ホバリングしてくれるので,写真に撮りやすい相手なのですが.このトンボ,10分ほどで,どこかへ飛び去ってしまいました.

あとは夏のトンボたちをためしにとり続けました.


▲ものすごくたくさん飛んでいたチョウトンボ.▲


▲コシアキトンボも今が盛りである.▲


▲ショウジョウトンボも負けずと飛んでいる.▲


▲シオカラトンボも元気である.▲


▲どこから来たのか,ハグロトンボも見られた.▲

いろいろと設定をいじらなければならないことが分かり,まあテストとしてはよかったです.今年は,アオハダトンボ,ベニイトトンボ,ハネビロエゾトンボと,レッドデータブックに載っているトンボの新産地が見つかり,いつも行かない時期にいつも行かない場所へ行くことの重要性を,改めて認識させられています.

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今日初登場のトンボたち
No. 45. ハネビロエゾトンボ,オス.
No. 46. ハグロトンボ,メス.

カテゴリー: 兵庫県のトンボ, 観察記 | No. 974. 思わぬところでハネビロエゾトンボ.2024.7.7. はコメントを受け付けていません

No, 973. キイロサナエなどの確認調査.2024.7.3.

沖縄県から帰ってきたら,地元は梅雨真っ盛りでした.今日久しぶりに晴れたので,6月に確認しなければならないトンボを見に行くことにしました.今日は現況調査で,確認できたら次に行くという流れの予定です.しかしちょっと異変を感じましたので,後ほどお話しします.

まずは一番のねらいはキイロサナエです,7月に入ると一気に数を減らすトンボですから,7月に入りたての今の時期は,出会うにはもう最後のチャンスです.


▲いつも通りの場所にキイロサナエのオスたちが止まっていた.▲

キイロサナエとくれば,同時期に確認しなければならないトンボに,モートンイトトンボがいます.そこで,例年モートンイトトンボのたくさんいる休耕湿地へ行ってみました.雨が降り続いてせいか水は多かったですが,モートンイトトンボが全く見当たりません.いつもなら飛んでいるハラビロトンボもほとんど姿を見せません.ここは大きな個体群でしたので,たとえ時期が少し遅くなっても,少数は生き残っているものです.それが1頭も見当たらない.キイトトンボが時折飛ぶだけです.

そこで別の場所へ行ってみることにしました.しかしそこにも全く姿がありませんでした.ハッチョウトンボが活動しているだけでした.これは後でまとめます.

まあ仕方がないので,今度は今が出現初期のヒヌマイトトンボの確認に行くことにしました.ところが,ヒヌマイトトンボが全く見当たりません.一緒に生活しているアジアイトトンボもいない.オオシオカラトンボが1頭だけ,行ったり来たりしているだけでした.

モートンイトトンボ,ヒヌマイトトンボ,全く姿を見ることがなく終わりました.イトトンボ類は,クロイトトンボとキイトトンボがいくつか飛んでいただけでした.ホソミオツネントンボはまだ生き残っている個体がいたのに....とにかくイトトンボの姿が少ないのです.


▲イトトンボ類の姿が少ないのに,ホソミオツネントンボはまだ元気だった.▲

まだデータで証明できるほどではありませんが,印象として,今年はトンボの消長,特に没姿が早く一斉に起きている感じがします.今回のモートンイトトンボの未確認は,発生したが没姿してしまったのか,出現しなかったのかは確認できません.後者であればいやな感じがします.

イトトンボ類は,池の表面などに伸びている沈水植物や浮かんでいる藻などにつかまって生活しています.水面付近は直射日光を受け高温になりやすい環境です.適度な高温は成長を早めますが,暑すぎると溶存酸素も減り,高温の影響で幼虫が死滅することも考えられます.トンボ減少に薬剤の影響が言われていますが,高温が続く春から夏にかけてのトンボ幼虫に対する影響は,かなり大きくなってきているような予感がします.

さて,それ以外の不均翅類は季節交代が進みつつあります.まずまだヤマサナエが生き残っていました.


▲ヤマサナエのメス.産卵弁を確認したので間違いない.▲

ウチワヤンマが,久しぶりに流れでなわばりを張っているのを見ました.ここの観察場所はかつてに比べるとウチワヤンマが減少しました.


▲小川でなわばり活動を展開するウチワヤンマ.▲

アキアカネの未熟個体が,あちこちの草むらで見られました.多分水田や休耕湿地で羽化したものと思います.こちらはきちんと羽化しているんですね.


▲羽化直後と思われるアキアカネが水辺に止まっていた.▲

チョウトンボが活動を開始していました.これからしばらくはチョウトンボがたくさん舞う池の風景が楽しめそうです.


▲いよいよ夏の季節の到来だ.チョウトンボが舞い始めた.▲

さて,今日は兵庫県の日本海側は35℃の猛暑日の予報です.11:00過ぎには,日向ではすでに35℃になっていました.私は暑さには強いと思っていましたが,今日初めて熱中症になりかけた自分を感じました.立ちくらみがひどく歩けないほどになりましたし,ほんのちょっと歩いても呼吸がすぐに速くなり息苦しくなりました.また汗も大量にかきました.そんな中,ハッチョウトンボの撮影に集中していました.


▲ハッチョウトンボの交尾と交尾後の静止.▲

ハッチョウトンボは交尾が終わってもすぐには産卵を始めず,メスにしばらく静止する時間があります.オスはその間じっと近くに止まってメスの産卵開始を待ちます.メスが飛び立って産卵を始めると,近くに寄り添って警護します.他のオスが来るとメスから離れてでもそのオスを追い払います.


▲産卵するメスを警護する交尾オス.▲

ハッチョウトンボのメスは,産卵を中断してよく止まります.理由は分かりません.


▲何回か打水すると,すぐに止まるメス.▲

そんなメスと付き合いながら写真記録をとり続けました.しかし中腰になると呼吸が速くなりとても苦しくなります.これはだめだと感じながら,早く産卵が終わってくれと願っていました.写真を撮りに来てこんな思いをするのは初めてでした.


▲産卵を続けるハッチョウトンボのメス.▲

やっとのことで産卵が終わると,私は日陰に入り休息.しかし呼吸が普通になったと思っても歩き始めると立ちくらみ,呼吸速度の上昇が襲ってきます.少しずつ移動し,やっと車に戻りました.その後,大量の水分補給と,アイスクリームを食べて体内から体を冷やしました.車のクーラーも十分効かせて体表面も冷やしましたら,やっと元の状態に戻りました.夜,肉をむしゃむしゃ食べたら元気が復活したようです.皆さんも熱中症にご注意ください.

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今日今季初めて出会ったトンボ
No. 42. チョウトンボ.オス.
No. 43. キイロサナエ.オス.
No. 44. アキアカネ.オス.
・このまま行ったらモートンイトトンボを見ずに終わるかもしれない.
・グンバイトンボも時期が終わりそうだ.

カテゴリー: 兵庫県のトンボ, 観察記 | No, 973. キイロサナエなどの確認調査.2024.7.3. はコメントを受け付けていません

No. 972. 沖縄県のトンボたち 3.2024.6.27.

沖縄県のトンボたちの第3節です.今回はあちこち移動するよりも,1ヶ所でじっと待つような観察を行ったので,6/23~6/25までの3日間活動した割には,出会った種数が少ない感じです.今回も均翅亜目にはあまり多くで会うことがありませんでした.イトトンボの類が少ないのは何故なのでしょう?.

■カラスヤンマ Chlorogomphus brunneus brunneus Oguma, 1926
沖縄県には,カラスヤンマ,オキナワミナミヤンマ,イリオモテミナミヤンマの3種のミナミヤンマ科のトンボが棲息しています.この中でもっとも出会いやすいのが,カラスヤンマです.イリオモテミナミヤンマには通過するオス3頭しか出会えなかったこともあり,カラスヤンマにはぜひメスに出会いたいという強い気持ちで観察に挑みました.オキナワミナミヤンマには出会うのが難しく,運がよければくらいの気持ちです.

運良く,2日目の観察で,カラスヤンマの産卵に出くわしました.


▲9:40頃.産卵場所と決めた小さな砂州のまわりを飛び回るカラスヤンマのメス.▲

はじめこれを見たとき,黒いチョウが水を飲みに降りてきたように見えました.実は第1日目も水を飲みに降りてきたカラスヤンマのメスを見ていたのですが,このときもしばらくはチョウかと思って見ていました.それくらい黒い翅がひらひらと羽ばたくように見える飛び方です.今回は2回目の遭遇なのに,まだ間違っているのですから学習能力が足りませんね.しかしそれが幸いしたかもしれません.チョウだと思って近づいていったので,こちらに「行くぞ!といった殺気」がなく,相手を警戒させなかったような私の動きでした.近づいても動じることなく産卵を続けていました.こういうの,メスの方が神経が図太くどっしりと構えています.


▲産卵に入ったカラスヤンマ.▲

産卵は水があるかないかというような,砂州に腹端を打ちつけて行います.これは四国で見たミナミヤンマと同じです.砂州の上をぐるぐると回るように飛行しながら,腹端を打ちつけ放卵するポイントを探っているように見えます.そしてやがてポイントを決めたら,ほぼ直立に降下するようにして,腹端を小石やその隙間に打ちつけます.


▲腹端を小石に打ちつけて放卵する瞬間.連写の3コマ,約1/3秒の動き▲

この3枚の一番上の写真ではトンボにピントが来ていますが,砂州のピントが合っている部分はほぼトンボと同じ距離にあると考えられますので,腹端を打ちつけるポイントのほぼ真上から垂直な姿勢に変えて砂州に降下していることが分かります.腹端を打ちつけた瞬間には腹部先端がその衝撃で背側に曲がっているのが分かります.周辺を旋回する飛行では腹端はむしろ腹部側に曲げられています.これが背側に曲がることで産卵弁が開き,卵が放出されるのかもしれません.

産卵は2分ほど続きました.短かったですが,出会えてよかったと思います.もちろんその後待ち続けましたが,産卵には来ませんでした.ただ水を飲みに降りてきたメスがいて,これは流れの上の木の枝に止まりました.これはその後数分で飛び去りました.


▲10:45頃.水を飲みに来てしばらく止まったカラスヤンマのメス.▲

さらに待ち続けますと,今度はオスが流れの上20mくらいの距離を往復しながら飛翔し始めました.オスは飛んでも短時間で飛び去ることが多かったのですが,このオスは5分近くも飛び続けてくれました.しかし飛ぶスピードはとても速くて,オオヤマトンボが飛ぶような感じよりもっと速いです.とにかくシャッターを切らなきゃ写らないという気持ちで173回シャッターを切りましたら,3枚だけピントが来ていました.1.7%の成功率です.まあこんなものでしょう.


▲11:30頃.流れの上を往復飛翔するカラスヤンマのオス.▲

第1日目も,オスが水を飲みに来た後木に止まったのを見ています.これもなかなか見られないような気がします.しかし飛んでいるオスがとてもスマートなので,ちょっと気に入ってしまいました.


▲水を飲みに来た後止まったカラスヤンマのオス.▲

こうなったらもうとことん挑戦してやろうという気になり,山道に静止するカラスヤンマを探しに行くことにしました.一応オスもメスも写真に収めることができましたので,ダメモトで気持ちには余裕がありました.ところが,こんな時に限って見つかるものなんですよね.2m位の高さの小枝に止まるメスがいました.低い位置に止まっていることはあまりないそうなので,これまたラッキーでした.


▲13:30頃.小枝の先に止まるカラスヤンマのメス.▲

これを見ているときに,林の中を出たり入ったりするような飛び方をする,カラスヤンマのオスを見ました.止まりに来たのかと思ってしばらく見ていても止まりません.その動きから推察すると,どうも止まっているメスを探しているような感じです.このオスがこと止まっているメスを見つけたら面白い瞬間が撮れるなどと考えしばらく待機しましたが,残念ながらそれはありませんでした.

お別れに,ストロボを使わず自然光だけで,ISO2500にして撮ってみました.私は色をはっきりと出したいので必ずストロボを使うのですが,ギラギラ光るのが嫌われるのか,あまりストロボを付けて撮っている人は見かけません.


▲木漏れ日で翅が透けるように撮ってみた.1/200,ISO2,500.▲

いろいろな状態のカラスヤンマが観察できたので,もう十分だと感じていました.しかしまだ一つ出会いが残っていました.トビイロヤンマを観察に夕方出かけたところで,黄昏摂食飛翔するカラスヤンマに出会いました.オスもメスも摂食していましたし,水田の植物ぎりぎりの低いところを飛んで摂食する個体もいました.結構よく出てくるトンボなんですね,カラスヤンマというのは...,それだけ数が多いということかも...


▲18:30頃.黄昏摂食飛翔をするカラスヤンマのメス.▲

沖縄は,明石の標準時と時差が40分ぐらいあるそうで,18:30といっても兵庫県では17:50ぐらいです.まだトンボに陽が当たっています.まあこういうことで,この日はカラスヤンマに出会うことが多かった一日でした.

■オキナワオオシオカラトンボ Orthetrum melania ryukyuense Sasamoto et Futahashi, 2013
第3節でもう一つぜひ見たかったトンボがあります.それはオキナワオオシオカラトンボのメスです.またオオシオカラトンボが出てきましたが,今回の旅行では,ヤエヤマオオシオカラトンボとオキナワオオシオカラトンボのメスの写真を是非とも撮りたかったのです.腹部で黄褐色をしている腹節の数が違うからです.


▲オオシオカラトンボ3亜種のメスの比較.腹部先端の黒色部の腹節が異なる.▲

オキナワオオシオカラトンボは,ヤエヤマオオシオカラトンボに比べると,ごく普通に出会うことができました.まさにもっとも普通のトンボの一つという感じです.これを見たとき,ますます,八重山のオオシオカラトンボがアカスジベッコウトンボやコフキショウジョウトンボに追いやられているのではないかという印象を,強く持ちました.沖縄本島にはアカスジベッコウトンボはまだ入って来ていませんしコフキショウジョウトンボは分布していません.オオシオカラトンボのいる環境にはオオシオカラトンボがいる,ということで,この3日間オキナワオオシオカラトンボには各地で出会うことができました.


▲オキナワオオシオカラトンボのオス.下はほぼ腹端まで青灰色をしている.▲


▲オキナワオオシオカラトンボのメス.腹部第7節まで黄褐色をしている.▲

第1日目に見た,道路に水があふれている場所では,3組以上のペアが産卵に訪れました.産卵の様式は他の亜種と変わりありません.オスがメスに接近し,上から押さえ込むようにして警護する(というか産卵を強制する)姿もそっくりです.


▲オスはメスに非常に接近して警護する.▲

こうやって写真を見ていると,メスは別種のトンボのように見えてしまいます.こんなことに興味を抱く私は,やはりカルト的なんでしょうね.珍しいトンボを一生懸命追いかける方がよほど普通の人の感覚かもしれません.

■オキナワオジロサナエ Stylogomphus ryukyuanus asatoi Asahina, 1972
オキナワオジロサナエはチビサナエの亜種です.6月上旬に羽化するサナエトンボですので,まだ出始めで,産卵は期待できないかもしれないと思っていました.現に処女飛行に飛び立つのを2回見ました.またオスの姿を全く見なかったことも,まだ出現の初期だったからかもしれません.


▲6/25,最終日に細流で飛び立つのを見たオキナワオジロサナエのオス.▲

しかし私がわざわざ神戸から見に行ったからでしょうか? 1頭だけ産卵に訪れました.兵庫県で見たオジロサナエの産卵とは異なり,ホバリングしたまま卵塊をつくっているようで,静止して卵塊をつくる行動は見られませんでした.


▲産卵に入って来たオキナワオジロサナエのメス.▲


▲腹端を打ちつける位置を確認しているのだろうか.▲


▲産卵場所はカラスヤンマと同様,砂州である.▲


▲腹端を腹面側に曲げたまま腹部を産卵基質に打ちつけている.▲

「チビサナエ」という原名の通りで,本当に小さく可憐なサナエトンボです.

■トビイロヤンマ Anaciaeschna jaspidea (Burmeister, 1839)
トビイロヤンマは,春の沖縄旅行からのテーマです.でもこのトンボは撮影が難しいトンボであることが身にしみて分かりました.今回は夕方に一度産地へ出かけました.17:00過ぎに現地に着いたのですが,もうトビイロヤンマはたくさん飛んでいました.ただ飛び方が摂食飛翔とは明らかに違います.探雌飛翔といった方がいい感じです.

まるでアオヤンマのごとく,水田に生えている植物の間に深くもぐり込み,何かを探しているような仕草です.そしてもぐり込んだ姿が見えなくなったかと思うと,ちょっと位置を変えてふわっと植物の上に浮き上がってきます.そして少し飛んでまたもぐり込みと,同じような行動を繰り返しています.数は結構多く,30頭ぐらいはいたでしょうか.あっちでふわり,こっちでふわりと,もうカメラを構えて見ている方は,モグラたたきに挑戦しているような気分でした.

それほど速い動きではないものの,姿が見えなくなるのでピントを追い続けることができず,この辺に出てきそうだと思えるところにピントを合わせ,出てくるのを待つといった撮影方法でした.目の前1mほどで飛んでくれたこともありましたが,当然予測が外れることが多く,撮影はほとんどうまくいきませんでした.


▲植物の間から浮き上がってきた瞬間のトビイロヤンマ.▲

ときどきトビイロヤンマの羽化や産卵の写真が出ていますが,これは相当幸運に見舞われた結果ではないかと思えました.またはそういう時間帯があるのかもしれません.遠方から訪れた一見さんが簡単に撮れる相手ではないようです.

しかし,これだけたくさんのオスが次々にもぐり込んで,仮にメスを探しているなら,交尾態になって飛び出るペアを全く見なかったことが不思議です.やはり別の目的があるのでしょうか.謎は深まるばかりです.

■リュウキュウハグロトンボ Matrona japonica (Forster, 1897)
リュウキュウハグロトンボの産卵を見たいと思っていました.オスは川でなわばり活動をしていましたし,メスも現れましたが,交尾や産卵を見ることがありませんでした.ただ残念だったのは,飛んできたメスの腹端が濡れており,これはどこかで産卵をしていたことは間違いないと思います.オスがそのメスのすぐそばに止まりましたが,そのオスはメスに関心を示しませんでした.交尾して産卵済みのメスだったからかもしれません.


▲なわばりオス.岸の植物に止まって周囲を監視している.▲


▲産卵管を清掃しているリュウキュウハグロトンボのメス.▲


▲この写真で,腹部先端が濡れているのが分かる.▲

■リュウキュウルリモントンボ Coeliccia ryukyuensis ryukyuensis Asahina, 1951
これも産卵が見たかったトンボです.しかし結局見ることはできませんでした.交尾しているペアだけは見ることができましたので,成熟したメスの姿もやっと見ることができました.


▲リュウキュウルリモントンボのオスは見つけることができるようになった.▲

交尾は薄暗い樹陰の奥で行われていて,写真に撮るのも難しい場所でした.タンデムになってだらんとした状態を発見し,その後交尾に至りました.交尾の写真を見ていると,メスの産卵管の部分が異常に大きく見えます.図鑑によると落ち葉などに産卵するとありますが,相当硬い物にも産卵することが可能なように見えます.オオアオイトトンボのような雰囲気のある腹部先端です.


▲メスの産卵管の部分がすごく太くしっかりしているように見える.▲

成熟した単独メスを見かけることはできませんでした.しかし羽化直後と思われるメスを見ました.胸部に赤い線が見えているのが面白いです.アマミルリモントンボの羽化直後のメスにはこのような赤い線は見当たりませんでした.


▲リュウキュウルリモントンボの羽化直後のメス.▲

マサキルリモントンボ,アマミルリモントンボ,リュウキュウルリモントンボと,いずれも産卵を見ることができませんでした.なかなか手強いトンボたちです.

■ヤンバルトゲオトンボ Rhipidolestes shozoi Ishida, 2005
トゲオトンボがまだ生き残っていました.翅端が黒くないし顔面も赤くないのでヤンバルトゲオトンボだと思いますが,オキナワトゲオトンボの可能性もあります.ここはちょうど分布境界で両種が混生しているところだそうです.


▲比較的明るいところに止まっていた.背景が緑というのも珍しい.▲

■その他のトンボたち other odonates found in this Island.
第3節は川が中心のトンボ探索でした.最終日は池に行ってみたくて,アクセス可能なダム湖を訪れてみました.いろいろなトンボたちが見られました.まだ沖縄本島にはベニトンボが優勢な感じがしました.少し北になるだけでずいぶんと生物季節の進み方が違うように思えます.


▲ベニトンボがいるとなぜだかホッとする.▲

沖縄県ではヒメハネビロトンボを見ることが多いのですが,ハネビロトンボが単独で産卵しているのを見かけました.ただダム湖の上から見下ろした場所で,あまりはっきりとしません.


▲単独産卵をするハネビロトンボに,他のトンボたちがまとわりつく.▲

この池には,タイワンウチワヤンマやオオヤマトンボも活動をしていました.そしてオオキイロトンボも連結で飛び回り,産卵場所を探していました.水面に水草などが浮かぶところが好みのはずですので,そういうところで待ち続けますと,ワンチャンスありました.上から見下ろす構図なので,翅が全部見えて特徴がよく分かる写真になりました.


▲オオキイロトンボの打水後の上昇.▲

最終日,最後に見たトンボはオオハラビロトンボのメスでした.この旅行,最初に出会ったのがホテルの駐車場でのオオハラビロトンボのメス.なんか因縁めいたものを感じますね.


▲木陰で休むオオハラビロトンボのメス.▲

ということで,往き帰りおよび途中移動の移動日を含めて13日間の旅行は終わりを告げました.写真は5000枚ぐらい撮ったような気がします.またどこかへ行こうと考えています.今年は兵庫県以外のトンボ情報が多くなりそうな年です.

カテゴリー: エッセイ, 県外のトンボ | No. 972. 沖縄県のトンボたち 3.2024.6.27. はコメントを受け付けていません

No. 971. 沖縄県のトンボたち 2.2024.6.26.

沖縄県のトンボ観察旅行の第2節です.島を移動し,第1節では見られなかったトンボたちを中心に,観察を行いました.6月20,21日の2日間だけでしたが,梅雨明けが宣言され,第1節に比べると青空が戻ってきたようです.また夏至でもあります.そんな第1日目,まだ前日の雨のあとが道路の水たまりとなって残っている状態でした.でもその水たまりに,ヒメトンボ,ハラボソトンボなどが集まっているのが不思議でした.一時的水域というのも彼らにとっては興味の対象なのでしょうね.

■オオキイロトンボ Hydrobasileus croceus (Brauer, 1867)
さて,第2節の一番のねらいは,オオキイロトンボです.このトンボはそれほど珍しい種ではなく,いるところへ行けば普通に見られる種類です.ただ,よく似たハネビロトンボが好きな私には,魅力的なトンボです.


▲タンデムで飛行するオオキイロトンボ.▲

朝現地に着くと,もはやオオキイロトンボがタンデムで飛んでいました.オオキイロトンボのメスはタンデムになっているときに,脚でオスの腹部にしがみついているのが面白いです.このトンボは飛び方が速く急旋回したりもするので,振り回されるメスは首が折れないようにこのような姿勢をとっているのかもしれません.


▲池を飛び回るオオキイロトンボのペア.▲

オオキイロトンボはタンデムで良く飛び回るのですが,なかなか産卵の行動を行いません.またすぐに池から飛び出し,どこかを周回してから,また池に戻ってくるような動きをします.それでも時間が10時を過ぎたあたりになると,ときどき連結で打水する動きを見せるようになりました.この瞬間は飛行スピードが落ちるのでシャッターチャンスなのですが,その前兆が分かりませんのでなかなか難しい.

そんなとき遠くの方で,オスがメスを放し,メスが水面上でホバリングする動きが見られました.遠すぎてちょっと写真にはきつかったですが,行動が分かるほどには撮れました.


▲オスがメスを放し,メスは水面のすぐ上でホバリングを始めた.▲

このメスの動きが面白いのです.「動き」と書きましたが,実は「動かない」のです.他のオスが来てちょっかいをかけようが,何しようが,同じ一点でじっとホバリングしているのです.多分卵塊をつくっているのではないでしょうか.


▲他のオスがちょっかいをかけに来て動かず...▲


▲交尾オスが近づいてきても動かず...▲

別のカットでは,腹端に薄緑色の卵塊らしきものが見えました.ですから多分この状態で卵塊を形成していると思ったわけですが,その証拠写真は撮れませんでした.


▲卵塊だと思われるものを腹端に付けて飛ぶメス.▲

■アカスジベッコウトンボ Neurothemis ramburii ramburii (Brauer, 1866)
このトンボは本当に八重山地方では増加していることが実感されます.ここでもあちこちに止まっていて活動をしていました.ここではメスを紹介しておきましょう.まずは産卵に入って来たメスです.


▲産卵にやって来たメスのアカスジベッコウトンボ.打水産卵である.▲

水面に浮遊物のあるようなところで打水産卵をしています.湿地や浅い水域によく見られるので,池でもこのような水中が見えないようなところを好むのかもしれません.

一方で,メスは普段は池から離れたところにいるようです.山道を登っていく途中にメスたちが止まっていました.こちらはまだやや未熟な感じはします.結構分散する性質があるようです.


▲近くに池がないような山道で過ごすやや未熟なメスたち.▲

コフキショウジョウトンボでも負けそうなくらい闘争にも強いし,分散力があって分布を広げる力もあるようです.今後沖縄県のトンボ集団を変える力があるようなトンボです.

■ヒメトンボ Diplacodes trivialis (Rambur, 1842)
ヒメトンボの産卵を見たいとずっと思いながら,ヒメトンボの動きに注意していました.やっとのことで叶いました.アカスジベッコウトンボが産卵した場所と全く同じ場所にヒメトンボのメスが入り,打水産卵を行いました.オスがそばにいて警護していました.


▲ヒメトンボの打水産卵.▲

ちっちゃなトンボですが,動きはかくっかくっとした感じで,きびきびしています.

■タイリクショウジョウトンボ Crocothemis servilia servilia (Drury, 1770)
4月下旬に来たときには,この場所でもっとも数が多かったのはベニトンボでした.でも6月下旬の今回,ベニトンボに変わってタイリクショウジョウトンボが優先的な種になっていました.南国でもやはりトンボが移り変わっていくのですね.


▲タイリクショウジョウトンボのオスと浮葉の上に産卵するメス.▲

■ベニトンボ Trithemis aurora (Burmeister, 1839)
ベニトンボは姿を消したわけではありません.池よりむしろ川に入っていました.ただ数は多くはありませんでした.ベニトンボは春に1回目の出現ピークがあり,また後に2回目のピークがあるのかもしれません.奈良県などの観察ではそのようにいわれています.


▲流れに入って活動しているベニトンボ.▲


▲朝に同じ場所を訪れると,オスメスとも草むらの中に止まっていた.▲

■コシブトトンボ Acisoma panorpoides panorpoides Rambur, 1842
ベニトンボと一緒にコシブトトンボも草むらの中に潜って朝を迎えていました.


▲コシブトトンボは生殖活動をまだ見ていない.▲

■タイワンウチワヤンマ Ictinogomphus pertinax (Hagen in Selys, 1854)
春にはほとんど姿を見なかったタイワンウチワヤンマも,数が増えて,池での活動が盛んに行われていました.メスも産卵に入って来ましたが,止まったあと,1回打水して飛び去りました.この場所も,先のアカスジベッコウトンボやヒメトンボの産卵場所と同じです.水面に植物が密に浮かんでいる場所というのは,さまざまの打水産卵をするトンボにとって,産卵基質として重要な役割を果たしているようです.


▲棒の先に止まるのでなく池岸のコンクリートに止まってなわばりを張っている.▲


▲産卵にやって来たタイワンウチワヤンマのメス.交尾後に静止.▲

このコンクリートに止まるオス君は,私がオオキイロトンボをねらっているときにずっと一緒にいたヤツで,仲間といったところでしょうか.メスは黄斑がちょっとこちらのより大きい気がします.

■ハラボソトンボ Orthetrum sabina sabina (Drury, 1770)
ハラボソトンボは,やはり池よりは水田地帯に多いトンボです.カンカン照りの日中に日向で活動しているトンボです.珍しくメスも混じって止まっていました.


▲ハラボソトンボのオス(上)とメス(下).14時頃の暑さも平気なようだ.▲

■コナカハグロトンボ Euphaea yayeyamana Oguma, 1913
流れには相変わらずコナカハグロトンボがいます.昔のような大群が群れているところには出会いませんでしたが,どこにでも,流水があればいるといった感じでした.ここではメスばかりを出しておきます.翅が真っ黒です.


▲およそ流れがあれば必ずいるコナカハグロトンボのメスたち.▲

■ヒメホソサナエ Leptogomphus yayeyamensis Oguma, 1926
コナカハグロトンボを見て,チビカワトンボがまだ残っているかもしれないと思い,山に登って上流を目指しました.しかし,もう時期が遅かったのか,登る標高がまだ足りなかったのか,見つけることはできませんでした.そのかわり,ヒメホソサナエが3頭ほど流れにいました.ところが,これが全部メスなのです.産卵しているわけでもありません.普通流れにいるとすればオスの可能性が高いと思うのですが,全部メスとは,...このトンボ,どういった生活をしているのでしょうか.前にも言ったように思いますが,不思議なトンボです.


▲こんな感じで,何もせず流れの畔に止まっているヒメホソサナエのメス.▲


▲流れで,何もしないメスばかりに出会う,不思議なトンボだ.▲

といった感じで,第2節は,普通種ばかりになりました.ヒナヤマトンボも探索に挑戦しましたが,水量がまだ多く,ちょっと飛ぶ気配がありませんでした.時間が遅かったせいかもしれません.それでも中心のねらいはオオキイロトンボでしたから,まあ,目標は達成した感じです.あと,オキナワチョウトンボ,ウスバキトンボ,オオヤマトンボ,ヒメハネビロトンボ,コフキショウジョウトンボなども飛んでいました.リュウキュウベニイトトンボはちょっと立ち寄った公園で見つけています.

普通種とはいえ,多様なトンボたちがそこそこの数集まって飛んでいる.やはりこれが自然の姿ですね.昔子供の頃,夏休みに昆虫採集に行ったときのような気分を味わいました.日差しも夏の日差しですしね.

次は第3節です.最後なので少し気合いが入っています.

カテゴリー: エッセイ, 県外のトンボ | No. 971. 沖縄県のトンボたち 2.2024.6.26. はコメントを受け付けていません

No. 970. 沖縄県のトンボたち 1-2.2024.6.22.

沖縄県のトンボたちの紹介第1節第2回は,不均翅亜目です.沖縄県には魅力的な不均翅類が生息しています.イリオモテミナミヤンマなどはその最たるものでしょう.私も当然出会いを期待して出かけましたが,実際に出会えたのは飛ぶオス3回だけでした.1回は上空を通過しただけですが,2回は網で採るのが目的なら届くくらいの距離でした.ただほとんどの人は縁取り翅のメスが目的ですから,これでは満足できません.私も同じです.ただ,天候がもう一つで,オスでもよくまあ飛んでくれたと感じてはいます.一過性の通過なので写真は全くムリでした.

その他にも,ワタナベオジロサナエなど,見てみたいトンボたちはいましたが,サナエトンボ類は日が射さないと川に下りてこないので,今回のどんより曇り状態では望み薄.この第1節で川へ入らなかった理由でもあります.最終日に少し日が射したので,下りてきそうな場所へ出かけてみましたが,やはりだめでした.そういったトンボ屋が見てみたい種についてはほとんど成果がありませんでしたが,南の島の普通の不均翅類にはだいたい出会えたように思います.

では紹介していきましょう.

◆ヤンマ科 Family Aeshnidae Burmeister, 1839
ヤンマ科ではオオギンヤンマ,リュウキュウギンヤンマ,ギンヤンマなどを見ましたが写真撮影できるような飛び方ではありませんでした.

■リュウキュウカトリヤンマ Gynacantha ryukyuensis Asahina, 1962
リュウキュウカトリヤンマは出会いをあまり期待していないトンボでした.沖縄にあまり縁がない私には,どこにいるのか全く見当がつかないトンボでした.最終日,少し天気が回復傾向だった日,薄暗い林内の池で偶然産卵に入っていたメスとで会いました.いるとは思わなかったので,不用意に池の畔を歩いてしまい,写真に撮りやすい場所で産卵していたメスを飛ばしてしまいました.しかし逃げることはなく,場所を移動して産卵を続けてくれました.


▲リュウキュウカトリヤンマの産卵.胸部は薄緑色でなく褐色をしている.▲

暗い場所で,黒っぽい土の上に止まって,真っ黒な体色のリュウキュウカトリヤンマが産卵していると,ほとんどその姿を認めることができません.現地ではリュウキュウカトリヤンマがどれくらい普通に見られるのか分かりませんが,最近地元ではカトリヤンマの産卵も見にくくなっていることを考えると,これは結構ラッキーなのではないでしょうか.

この後この個体が飛んで次にどこへ止まったか分からなくなりました.あきらめてしばらくうろうろしましたが,もう一度のぞいたときに飛び立ち,実はより近くで産卵をしていたことが分かりました.ダメですね.

しかし,逃げてしまったようには思えず,時間をおいて何度かのぞいてみました.すると,また産卵していたようで,飛び立ち,すぐ上の木の枝に止まりました.目の前です.こういうラッキーはときどきあります.これが最初と同じ個体かどうかは分かりません.


▲産卵を中断して木の枝に止まったリュウキュウカトリヤンマのメス.▲

さすがにこの個体はどこかへ飛んでいってしまいました.その後も,池の上を飛ぶリュウキュウカトリヤンマらしいトンボを,2,3度見ました.

◆サナエトンボ科 Family Gomphidae Rambur, 1842

■ヒメホソサナエ Leptogomphus yayeyamensis Oguma, 1926
この第1節では川に入らなかったこともあり,ヒメホソサナエには山道で偶然に出会うことを期待するしかありませんでした.もっとも,このヒメホソサナエというトンボはどういった環境を好んで生活しているのか私には不明なので,川に入ったとしても見つけることができるかどうかは分からない種でした.今回は山道を歩いているときに偶然目の前に止まったメス1頭と出会っただけでした.


▲完全背面撮影.ヒメホソサナエのメス.▲

■タイワンウチワヤンマ Ictinogomphus pertinax (Hagen in Selys, 1854)
タイワンウチワヤンマは,1981年に淡路島に初記録が出て以来,兵庫県では普通のトンボになるほど数が増えました.しかしこちらでは意外と出会いがありませんでした.いた証拠みたいな写真だけです.やはり開放的な止水域が少ないせいでしょう.


▲タイワンウチワヤンマのオス.ここの池は開放的な環境だった.▲

◆トンボ科 Family Gomphidae Rambur, 1842
トンボ科は南のトンボの華といえる存在です.ヒメホソサナエを見ても分かるとおり,他の分類群のトンボたちはいずれも本土と大きく変わらない色彩をしているものがほとんどです.これを重宝がるトンボ屋(もちろん私も含みます)はかなりマニアックでカルト的存在です.トンボ科の多くは普通種と言われ,そんなに無理しなくても出会えるものが多いです.でもこれらを集めなければ南の島へ来た意味がないように感じるのは私だけでしょうか.

■ ウミアカトンボ Macrodiplax cora (Brauer, 1867)
ウミアカトンボはちょうど30年前,南大東島で出会ったきりのトンボです.これもどこにいるかはっきりしないトンボですが,とある田園地帯にたくさん止まっていました.未熟な個体もいたので,どこで羽化したのだろうと気になりました.幼虫採集の道具を持参していなかったので,その付近を探索することができませんでした.かつて数多くの幼虫に出会いましたが,ウミアカトンボの幼虫には出会えていません.


▲ウミアカトンボの成熟オス.頭部が不釣り合いに大きく見える.▲

▲ウミアカトンボのメス.▲


▲胸側の模様はアキアカネ的だ.ウミアカトンボのオスとメス.▲

南大東島でもそうでしたが,成熟したオスとメスが混在して止まっていても,全く繁殖活動の気配がなく,ただただ風に向かって風見鶏みたいに止まっているだけのトンボです.

■サイジョウチョウトンボ Rhyothemis regia regia (Brauer, 1867)
このトンボは2020年9月に,与那国島において,日本国内で初めて発見された飛来種です.まだまだ国内では新参のトンボと言えるでしょう.その後分布の広がりも報告されており,今後は定着性が議論される種となるでしょう.今回は3日間同じ場所で飛んでいるのを観察できましたので,かなり個体数を増加させていることが予感されました.まだまだニュースになる種ですので,少し詳しく報告します.

初めて見たのは,6月16日でした.オキナワチョウトンボに混じって飛んでいるのを見ました.翅はボロボロで,いかにも遠くから(海を渡って?)飛んできた感じがする個体でした.


▲水面上を飛ぶサイジョウチョウトンボのオス.6/16.▲

オキナワチョウトンボと激しいバトルを繰り広げています.が,多勢に無勢なのか,あるいは本質的にオキナワチョウトンボの方が強いのか,サイジョウチョウトンボは分が悪いようでした.飛ぶのが速いので写真に撮るのはなかなか難しいと感じていましたら,止まってくれました.


▲止まったサイジョウチョウトンボ.▲


▲前翅と後翅の間の表皮が破損している?.厳しい旅をしてきたのか? 6/16.▲

次に見たのは6月17日です.この日は関東からサイジョウチョウトンボを探しに来ているトンボ屋,というか前身は鳥屋だと言ってましたが,の方々と出会いました.目の数が多いのはすごいことで,その中の一人が見つけました.この日は2頭のサイジョウチョウトンボが入って飛んでいました.そのうちの1頭が,また止まりました.これも目の多さが幸いしています.


▲まだ成熟真っ盛りの感じのするサイジョウチョウトンボ.▲

この日のサイジョウチョウトンボは昨日のようなボロボロの個体ではなく,まだ元気な壮年期とでも言えそうな個体でした.翅の青色の輝きがきれいに残っています.この色だけを見ているとチョウトンボ的です.通常はこんな色をしているんですね.

6月18日はスコールが降ったりして,トンボ観察は雨の合間に行っただけで,サイジョウチョウトンボを見に行っていません.次に見たのは最終日6月19日です.梅雨明け前日で午後は晴れ間が出ました.


▲サイジョウチョウトンボが飛ぶのを見るのは3日目である.▲

写真の翅を形を比べると,この3頭はすべて別個体であることが分かります.少なくとも3頭いたことになります.他の場所も探してみましたが,私が見たのはここだけでした.例のトンボ屋さんは別の場所でも見たと言っていました.やはりかなり数が増えているのではないでしょうか.ただ成虫のオスはオキナワチョウトンボと行動が似通っている(ニッチが重複している)ようで,定着できるかどうかは微妙な感じもしました.それはあまりにもオキナワチョウトンボがどこにでもいるからです.サイジョウチョウトンボが入り込む隙がないような気がもします.

ところで,この記事を書いた後で手元に届いた最新のTOMBO誌Vol.67.には,サイジョウチョウトンボとオキナワチョウトンボの種間雑種の記事がありました.それによると,翅が黄色みを帯びていて,濃色部が金緑色に輝くのは種間雑種の可能性が高いと書かれています(北山ら,2024).今回出会ったサイジョウチョウトンボのうち,翅がボロボロのオスは,やたらに黄色っぽい色をしていますし,濃色部がどちらかといえば緑色に輝いているように見られます.これはオキナワチョウトンボとの種間雑種の可能性が高いのではないでしょうか.下の2枚を比べてみてください.


▲種間雑種ではないと思われる個体.▲


▲種間雑種と思われる個体.▲

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北山択・興膳昌弘・梅田孝・杉村光俊・二橋亮,2024.サイジョウチョウトンボとベッコウチョウトンボの種間雑種.TOMBO 67:81-89.

■オキナワチョウトンボ Rhyothemis variegata imperatrix Selys, 1887
おそらく沖縄に住んでいる人なら誰でも見たことがあるトンボでしょう.それくらいどこにでもいるトンボです.翅の模様の派手さから見ると,いかにも南国のトンボという気がします.私もこの旅行中あちこちで見ました.


▲旅行初日,ホテルへ向かう途中の道路で見かけたオキナワチョウトンボの群飛.▲


▲上の群飛の一部が止まった状態.▲

翅の模様は個体ごとにさまざまですが,オスについては,大きく分けてメス色型と淡色型とでもいえばいいようなタイプがあります(私が勝手に命名).上の写真で上に止まっているのがメス色型で,下のが淡色型です.


▲オキナワチョウトンボのメス.▲


▲メス色型のオス.基本的な色彩パターンはメスに類似する.▲


▲淡色型のオス.翅端にはサイジョウチョウトンボのような斑点がある.▲

こんなにたくさん飛んでいるトンボでも,アキアカネの先例があるように,一気に減少することがないとも言えません.いつまでもたくさん飛んで,カルト的なトンボ屋には見向きもされないトンボであり続けてほしいです.


▲オキナワチョウトンボたち.▲

■ヒメハネビロトンボ Tramea transmarina yayeyamana Asahina, 1964
もう何度かこのブログでも紹介しましたが,私の好きなトンボの一つです.これが飛ぶのを見ると,南国へ来たという気がします.


▲水田の際の草地に止まるヒメハネビロトンボたち.▲

ハネビロトンボのなかまというのは,池を飛ぶものという認識がありましたが,沖縄で観察して,水田の上もよく飛ぶのだということが分かりました.今回オスはたくさん見ましたが,メスには全く出会うことがありませんでした.

■コモンヒメハネビロトンボ Tramea transmarina euryale Selys, 1878-?
今回,あちこちでヒメハネビロトンボを見ました.その中に1頭だけコモンヒメハネビロトンボかもしれない翅の模様を持つ個体を見つけました.一番天気の悪かった6月18日にアプローチできない池で見ましたので,遠くから撮ったややすっきりしない写真しかありません.


▲コモンヒメハネビロトンボ-?のオス.6/18.▲

撮ったときにはどうかなと思ったのですが,ホテルに帰ってヒメハネビロトンボと比べるとコモンヒメハネビロトンボの可能性があるように思えました.しかし,ヒメハネビロトンボの斑紋の小さな個体である可能性も捨てきれません.


▲翅の基部の赤色部分の広がり方は明らかに異なる.▲

コモンヒメハネビロトンボだとすると,これが初お目通りとなります.

■ヒメトンボ Diplacodes trivialis (Rambur, 1842)
ヒメトンボは小さなトンボで,水田や湿地の周辺や少し離れた草地などに潜り込んで生活しています.草を蹴って歩くと突然飛び出したりします.このトンボの交尾や産卵などの繁殖活動を見たいのですが,第1節ではそのチャンスには恵まれませんでした.しかしその姿はあちこちで見られました.地面から飛び立ち,地面の上を低く飛び,地面に止まります.とにかくすばしこく,敏感で近づきにくいトンボです.


▲ヒメトンボのオス.とにかく地面に止まるのが好きなトンボである.▲


▲ヒメトンボの若いメス.メスは草地に隠れていることも多い.▲


▲かなり老熟したと思われるヒメトンボのメス.▲


▲成熟が進むとこのように体表面に粉を吹いたようになるのであろうか.▲


▲成熟が進んだオス.▲

ヒメトンボもかなり数が多く普通に見られるトンボですが,こうやって写真に撮ってゆっくり見てみると,その成熟段階によっていろいろな変化が見られるトンボだということが分かります.

■アカスジベッコウトンボ Neurothemis ramburii ramburii (Brauer, 1866)
このトンボは,サイジョウチョウトンボより14年早く,2006年に与那国島に初めて飛来が確認されたトンボです.その後,西表島,石垣島へと分布が広がっています.チョコレート色をした翅を持つこのトンボは,とても南国的なトンボだと思います.今回の観察では,オキナワチョウトンボに匹敵すると言って良いぐらい,あらゆる場所でその姿を見ることができました.もう確実に定着しているでしょう.

川,池,水路,湿地,湧き水,さらにメスや未熟な個体は山道で過ごしています.このようにどこでも姿が認められるトンボですが,一番好きなのは湿地的水環境のようです.また用水路的な水路にもたくさんのオスがなわばり活動を行っていました.コフキショウジョウトンボと同じ場所にいることもありますが,種間の闘争でも負けることはありません.


▲水のわき出しによってできた,山道の浅い流れに集まるアカスジベッコウトンボ.▲


▲少し離れた場所には,未熟なオスも止まっている.▲


▲メスたちは水域から少し離れたところで,ゆったりと休んでいることが多い.▲


▲用水路にずらっと止まるオスたち.前翅が少し上がった止まり方をする.▲

とにかくたくさんいるので,もう珍しさも何もなくなってしまいます.しかしこれだけいても,意外と産卵するメスには出会えません.一度成熟したメスがオスたちのいる用水路に現れましたが,水面に下りるように飛ぶと,何頭ものオスが追いかけ,結局産卵などせずに飛び去りました.


▲オスのいる用水路に現れたメスだが,すぐにオスに追われ飛び去った.▲

アカスジベッコウトンボにしてもサイジョウチョウトンボにしても,南から飛来したトンボが増えてくると,それまで分布していたトンボがどうなるか,気になるところです.今回トンボを観察していて感じたことの一つに,ホソミシオカラトンボ,ヤエヤマオオシオカラトンボなどのトンボに非常に出会いにくかったことがあげられます.ホソミシオカラトンボには結局出会えずでした.

こういった侵入定着種が種間競争のバランスを変え,トンボ景色を変えているように思えてなりません.32年前に沖縄に来たときには,ホソミシオカラトンボもオオシオカラトンボも割合簡単に見つかったものです.今はオオシオカラトンボがいそうな場所のほとんどにはコフキショウジョウトンボとアカスジベッコウトンボが入っています.とにかく翅の色が派手なアカスジベッコウトンボの多さは,この地域のトンボ景色を,侵入以前から大きく変えてしまっていることは間違いありません.

■ホソアカトンボ Agrionoptera insignis insignis (Rambur, 1842)
ホソアカトンボは今回の遠征の目的の一つでした.このような形のトンボは本土にはいません.32年前に来たときに湿地状の水たまりでたくさんの幼虫をすくった経験があります.そのときから気になっていたトンボです.細い腹部に深紅の色彩を持ち,翅が細長い独特のバランスを持った形態です.薄暗い池にいるというのも妙に惹きつけられるものがあります.


▲背景が真っ黒になるような暗い池に生活している.▲

このトンボの繁殖活動をぜひ見てみたくて,何度も通いましたが,ついに見ることなく終わりました.池にメスが現れることすらありませんでした.観察に来た時間帯に問題があるのかもしれません.メスは池から離れた山道に止まっていたりします.


▲山道で見られたホソアカトンボのメスたち.▲

このメスたち,これが成熟した状態かと思っていましたら,最終日,少し日が射したときに池の近くで見たメスが衝撃的でした.真っ黒黒助,真っ黒けなのです.こんなのが暗い池を飛んでもまず見つからないでしょうね.


▲ホソアカトンボの真っ黒なメス.これらは違う個体.▲

初めて見るトンボたちは,自分なりの新発見が多く,楽しいものです.なお図鑑によると腹部が赤くなるオス型のメスもいるそうです.

■オオハラビロトンボ Lyriothemis elegantissima Selys, 1883
初日にホテルに着いたとき,私を迎えてくれたのがオオハラビロトンボでした.レンタカーを駐車場に止めたときに飛び立った1頭のトンボ,それがオオハラビロトンボでした.このホテルの周辺にはそれらしい池や湿地はないように思えるのですが,いったいどこから来たのでしょう.それもほとんどがメスでした.


▲おおよそ池も湿地も何もないホテルの駐車場の木の枝に5,6頭は止まっていた.▲

オオハラビロトンボは,林の中の山道などにかなり普通に見られました.未熟な個体から成熟したものまでさまざまです.しかしこれもまた,繁殖活動を観察することがありませんでした.私が繁殖場所をよく知らないからなのでしょうね.


▲山道の際にはさまざまの成熟段階のオオハラビロトンボが止まっている.▲

かなりの普通種ですが,明るい場所にはあまり見られませんでした.

■コフキショウジョウトンボ Orthetrum pruinosum neglectum (Rambur, 1842)
今回もコフキショウジョウトンボのメスが見られませんでした.だいたいこういったトンボのメスは林縁などに止まっているものなのですが,全く見つかりません.今回は繁殖活動も見ませんでした.これだけ個体数がいるのに繁殖活動が見られないのは,やはり観察時間帯が問題なのかもしれません.暑い亜熱帯の世界では,涼しい朝夕にそういった活動を行っているのかもしれません.普通種でも,みな,なかなか手強い側面を持っています.


▲アカスジベッコウトンボと一緒に,用水路でなわばりを張っているオスたち.▲


▲山道の水が滲出している場所に,アカスジベッコウトンボと一緒にいたオス.▲

コフキショウジョウトンボとアカスジベッコウトンボは,似たような場所で一緒に見られることが多いです.

■ヤエヤマオオシオカラトンボ Orthetrum melania yaeyamense Sasamoto et Futahashi, 2013
サイジョウチョウトンボを観察したときに出会った関東のトンボ屋さんに,サイジョウチョウトンボはこれくらいにして,これからオオシオカラトンボを見に行く,と言ったら,怪訝な顔をされました.そうでしょうねぇ.ひょっとしたら今しか見られない飛来種のトンボを差し置いて,オオシオカラトンボを見に行くというのですから.

しかしながら先にも触れましたが,今回の観察旅行で,オオシオカラトンボは非常に出会いが難しい種でした.オオシオカラトンボのいそうな環境には,ことごとくコフキショウジョウトンボとアカスジベッコウトンボが入り込んでいたからです.結局ヤエヤマオオシオカラトンボは.これらの種が入り込まないような,林内の薄暗い湿地で活動しているのを見ただけでした.ニッチが重なっている部分から追いやられて,これらのトンボが利用しないニッチでかろうじて利用して生き延びている,といったふうでした.


▲林内の薄暗い湿地で活動するヤエヤマオオシオカラトンボ.▲

オスは全部で4頭ほどいました.幸いなことに観察中メスが入って産卵を始めてくれましたので,オス・メス一石二鳥というところでした.


▲観察中,産卵に入ってきたヤエヤマオオシオカラトンボのメス.▲

見て分かるように,メスは腹部の第6節まで黄色い色をしています.本土のオオシオカラトンボでは第6節は通常黒い色をしています.


▲本土のオオシオカラトンボは腹部第6節は通常黒い.▲

こうやってまとめていると,こんなことにこだわって写真を撮りに行く私の方が,よっぽどカルト的存在かもしれませんね.ふとそんな風に感じました.産卵は相当長時間やっていました.産卵の様式は本土のオオシオカラトンボと変わりないようです.


▲水をかくようにして打水するヤエヤマオオシオカラトンボのメス.▲


▲オスがメスを警護するのは同じである.▲

さて,これら以外のトンボとしては,ウスバキトンボ,アメイロトンボ,タイリクショウジョウトンボ,コシブトトンボなどがいました.これは第2節でたくさん出会いましたので.そちらで紹介することにしましょう.早朝・夕刻を攻めなかったので,そういった時間帯に姿を現すトンボ科が欠けていますね.

ということで,32年ぶりという長い間を置いて観察した沖縄普通種の景色は,大きく変化していることを感じた次第です.

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No. 969. 沖縄県のトンボたち 1-1.2024.6.20.

おそらくこれは一生に一度になるでしょう.6月14日より,ゆったりとした日程で沖縄県のトンボたちに接しに出かけました.沖縄本島はこの時期梅雨末期の大雨で,災害級の雨が降り続けました.しかし私はもっと南の方からトンボを見に行く予定を立てましたので,大雨には見舞われませんでしたが,それでも空は厚い雲でおおわれ続け,あまりいい条件とは言えませんでした.

この旅行は3つの節に分けています.まずはその第1節の1回目です.それでは最初は均翅亜目のトンボたちについてまとめてみたいと思います.

■カワトンボ科 Family Calopterygidae Selys, 1850

◆クロイワカワトンボ Psolodesmus kuroiwae Oguma, 1913
春に沖縄へ行ったときには,たった1頭しか姿を見ることができませんでしたが,今回はたくさんの個体と出会うことができました.でも今回はいわゆる川には入らなかったので,川のそばの山道やそこを横切る小さな沢で出会った個体が多かったです.


▲クロイワカワトンボの成熟オス.6/15.▲

▲クロイワカワトンボ.オスの縁紋が白くなりつつある.6/16.▲


▲クロイワカワトンボのメス.6/16.▲


▲クロイワカワトンボのオス.縁紋が黒くなっている.6/16.▲

クロイワカワトンボは,羽化して間もないときには縁紋が黒い色をしているということです.ですから上の写真は羽化して間がないという感じですね.さらにその上の6/15 撮影分のははっきりとした白色で,胸部の節の部分も白粉が吹いているように見え,成熟していることが分かります.その下のオスの写真は,縁紋が白くなりかけている感じです.縁紋の色がこのように変化していくのでしょう.


▲メスもオスも翅のはばたき運動を行う.6/16.▲

■ハナダカトンボ科 Family Chlorocyphidae Cowley, 1937

◆ヤエヤマハナダカトンボ Rhinocypha uenoi Asahina, 1964
台湾に行ったときに初めて見たハナダカトンボの行動に非常に興味を持ち,ぜひ日本産で見てみたいと,会いに出かけてきました.天候もあり,必ず見られるとは限らない中,かなり時間をかけて記録地に行ってみました.この歩き,ものすごく歳を感じました.息切れはするしスピードが出ません.先を行く老夫婦にも置いて行かれます.最もこちらはトンボを探しながらしょっちゅう立ち止まりますから,余計にそうなります.現地に近づくと,いました.オスが2頭いました.


▲現地について初めて見つけたヤエヤマハナダカトンボのオス.6/16.▲

見つけたオスは,少し離れた細い枝の先に止まっていました.近づくことはできませんので,遠くから撮りました.もう1頭はこのオスに追われてどこかへ姿を消しました.やがて,このオスは川面に下り,太い倒木に止まりました.すぐ横には水に濡れた産卵基質となりそうな倒木があります.これはうまくいくと産卵にメスがやって来るかもしれません.またもう1頭のオスとバトルが繰り広げられるかもしれません.まずは川に下りてこのオスを撮りました.


▲ヤエヤマハナダカトンボのオス.同じ個体.▲

まだほかにもいるかもしれないと思い,このオスを置いて少し別の場所を探索しに行きました.すると,なんたること,子供連れの一家が網を持ってそのオスを採ってしまったのです.「ヤエヤマハナダカトンボだ」とか言っています.これでは,オス同士のバトルも産卵メスとのやりとりも見ることはできません.ヒトがやって来ることが少ないこの場所に,よりによって網を持った昆虫採集少年が来るなんて,がっかりです.

この一家が去ってしばらくすると,もう1頭のオスがその場所にやって来ました.


▲もう1頭のオス.やはりこの場所が一番いいのだろう.▲

この1日を,ほぼヤエヤマハナダカトンボのためにだけ使ったのですが,結局,オス同士のバトルも,メスの産卵も見ることなく,観察を終えました.もう少し別の場所へ移動してヤエヤマハナダカトンボを探しても良かったのですが,移動・探索時間が惜しかったのと,産卵に来そうな場所でもあったので,ここで粘ることにしたのです.賭に負けましたね.ヤエヤマハナダカトンボも翅の打ち下ろし運動をするようです.


▲ものすごいスピードで翅の打ち下ろし運動を行うヤエヤマハナダカトンボ.▲

■ミナミカワトンボ科 Family Euphaeidae Selys, 1853

◆コナカハグロトンボ Euphaea yayeyamana Oguma, 1913
今回チビカワトンボは,川にも入らなかったし,時期が遅かったのか,出会うことはありませんでした.これは第2節に持ち越しです.コナカハグロトンボは,あちこちにいることが分かりました.およそ流れがあるところには,1,2頭は止まっていました.


▲流れから離れた山道に止まっていたコナカハグロトンボのオスとメス.6/15.▲

ヤエヤマハナダカトンボのいた流れでは,コナカハグロトンボのオスが羽化をしていました.これを見ていて子供にヤエヤマハナダカトンボを採られてしまったのです.この幼虫はカゲロウのような形態をしており,それもバッチリ撮ることができました.


▲コナカハグロトンボの羽化.流れの中の岩に着いていた.6/16.▲

■モノサシトンボ科 Family Platycnemididae Tillyard et Fraser, 1938

◆マサキルリモントンボ Coeliccia flavicauda masakii Asahina, 1951
奄美大島へ行ったときには,アマミルリモントンボをたくさん見ることができました.ただしオスだけでしたが.春に見ることができなかったマサキルリモントンボも,今の時期ならたくさん見られるだろうと思っていました.しかしこれが意外と難しいことを思い知らされました.いるにはいましたが,見つけた場所はどこもオス1頭がぽつんといるだけでした.アマミルリモントンボと同じでメスは見つかりませんでした.ルリモントンボたちのメスはどこに隠れているのでしょう.またひとつ私にとっての不思議が増えました.


▲マサキルリモントンボのオスたち.別々の場所で撮影.6/15と6/16.▲

■イトトンボ科 Family Coenagrionidae

◆リュウキュウベニイトトンボ Ceriagrion auranticum ryukyuanum Asahina, 1967
今回は意外なことにイトトンボ類にほとんど出会いませんでした.そんな中で,リュウキュウベニイトトンボだけは繁殖活動をしているところを観察できました.ただ,リュウキュウベニイトトンボは明るい池の住人のようなイメージを持っているのですが,私が見たのは,暗い林内の池でした.季節がちょうどサガリバナが咲く時期だったので,サガリバナに止まるリュウキュウベニイトトンボという,ちょっと粋な構図の写真が撮れました.


▲今はちょうどサガリバナの咲く季節.▲


▲サガリバナの落ちた花に止まるリュウキュウベニイトトンボのペア.6/19.▲

このペアはサガリバナには産卵をしませんでした.このオス,赤いダニがたくさんついています.自然が豊かな印とも言えるでしょう.


▲単独オスもいて,追いかけ合いをしていた.6/19.▲

イトトンボ科では,あと,ムスジイトトンボとアオモンイトトンボを見ました.まずは第1節の均翅亜目について紹介しました.次回は不均翅亜目です.

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