昨日,日本トンボ学会の一般講演で,衝撃的な話を聞きました.アキアカネの減少の一つの原因と考えられているネオニコチノイド系殺虫剤の影響が,トンボといった極めて一部の昆虫群の減少にとどまらず,広く水生節足動物減少に影響を及ぼし,さらに食物連鎖を通して漁獲高の減少を引き起こしているという話でした.さらに陸上生態系にも影響が及び,ミツバチの体内や蜂蜜に残留していて,ミツバチの減少を引き起こしている原因ではないかという話もありました.演者は千葉工業大学の亀田豊准教授をはじめ,トンボ学会からの二名でした. なお,ヒトに影響を及ぼす濃度ではないということも述べられていましたが,ヨーロッパの多くの国ではこの殺虫剤は使用禁止になっているそうです.
ここで,「農薬」と書かずにより広い意味での「殺虫剤」と書いたのには理由があります.ミツバチの体内に残留しているネオニコチノイド系薬剤の生態系内での移動経路を解析研究した話の中で,「シロアリ駆除のための薬剤」が地中に浸透し,植物がそれを吸収し体内に取り込んで花粉や蜜にそれが含まれ,ミツバチが運搬して蜂蜜に含有されることや,地下を通って湧水となってわき出ている水をミツバチが飲んで体内に蓄積されている,といった話があったからです.つまり農業利用以外に広く利用されているネオニコチノイド系薬剤の影響という視点での話だったのです.
ネオニコチノイド系薬剤は,浸透性薬剤で動植物体内に取り込まれ,昆虫の神経系を撹乱する薬剤だそうです.ミツバチの場合, 働き蜂が巣から突然いなくなる症状,”蜂群崩壊症候群(CCD)”を引き起こす原因ではないかと考えられています.あくまで想像ですが,ひょっとしたら,神経系をやられて太陽コンパスが使えなくなり,帰巣できなくなってしまうのかもしれませんね.
ミツバチに対するネオニコチノイド系薬剤の影響に関する記事は,インターネットを検索するとたくさん出てきますので,興味のある方は, ネオニコチノイド(neonicotinoids) や ミツバチ,蜜(honey),CCDなどをキーワードにして,検索してみてください.色々な考え方や意見が表明されています.
さて,亀田氏の講演の後,トンボ学会の二名からは,アキアカネやノシメトンボの減少を詳細なデータから,ネオニコチノイド系薬剤の使用を示唆したものや,マダラナニワトンボやベッコウトンボなどの絶滅危惧種の突然の減少に,やはりネオニコチノイド系薬剤が影響していることを示唆する話でした.基本的には,使用時期と減少時期の一致性,薬剤の生息地における残留濃度と消滅の有無などの関係性から論じた内容でした.詳細はまだ研究中ですので,また公表されれば,本Webサイトでも取り上げたいと思っています.
私は,日々の野外観察や,そのまとめとしていくつかのトンボの減少についてこのサイトで議論していますが,よく使うフレーズに「生息地の見た目には何の変化もないのに,突然特定のトンボが減少したり消滅したりする」というのがあります.今まで薬剤の影響を強く感じていました.しかし今回の講演を聴いて,ますます確信が持てたという感じでした.