兵庫県の幼虫ガイド
H074. ノシメトンボ Sympetrum infuscatum
ノシメトンボ終齢幼虫
写真1.ノシメトンボ終齢幼虫(しゅうれいようちゅう).全長18mm前後.2011.6.11.
<特ちょう>
 ノシメトンボはトンボ型の幼虫です.体全体がやわらかく,表面はすべすべしています.翅芽(しが)は,まっすぐ後ろにのびています.触角(しょっかく)は糸のように細いです.腹の横のとげ(側棘:そっきょく)は第8,9節にあってどちらも長く,写真2のように,第8節のとげが第9節の後ろはしこえています.背中のとげ(背棘:はいきょく)は先がするどくとがっていて,腹部の第4−8節にあります.写真3のように,顔を正面から見たとき,下唇側片(かしんそくへん)の上に黒いはん点がちらばっています.

ノシメトンボのそっきょくとはいきょく ノシメトンボの触角とかしんそくへんのはん点
写真2.腹部の第8,9節の横にするどいとげ(側棘)があります.
どちらも長く,第8節のとげの先は第9節の後ろはしをこえます.
先のとがった背中のとげ(背棘)が,腹部の第4−8節にあります.
写真3.ノシメトンボの全体図と,下唇側片
下唇側片の上には黒いはん点があります.
触角は糸のように細いです.


<よく似た幼虫との区別>
 ノシメトンボはアカトンボのなかまです.アカトンボの幼虫は,どれもとてもよく似ていて,トンボの専門家でも見分けられないことがあります.ですから,区別がつかなくて迷っても,それはしかたがないことです.みなさんもたくさん研究をして,見分け方を見つけてください.
 さて,ノシメトンボの特ちょうは,腹部の第8節の横のとげが,第9節の後ろはしをこえることです.このように長いとげ(側棘)を持つアカトンボの幼虫は,5種類しかいません(写真4).その中で,顔を正面から見たときに,下唇側片の上には黒いはん点があるのは,ノシメトンボ以外では,ナニワトンボリスアカネです.ふつう,ノシメトンボはこれらの幼虫より大きいのですが,大きさではほとんど見分けられないでしょう.とくにリスアカネとよく似ています.リスアカネは腹部の先にまるみがあるように見えますが,それでは多分区別がつかないでしょう.見分けるのがとても難しいアカトンボです.

そっきょくの長いアカトンボ5種.
写真4.腹部の第8節の横のとげの先が第9節の後ろはしをこえるアカトンボの幼虫.大きさと下唇側片上のはん点の有無.
<さがす場所のヒント>
 ノシメトンボは浅いため池の住人です.写真5のように,ため池の水がぬかれて,岸辺に底が広く現れ,そこに草がいっぱいしげっているようなところで,草の中や上で産卵します.産卵は秋に行われますから,そのころに水がぬかれていた浅いため池で幼虫が採れます.池のまわりに木がなくても集まってきます.関東の方では水田でも産卵するようです.ほとんどの卵はそのまま冬をこし,次の年の春に幼虫が誕生します.そして,7月のはじめには羽化して親になってしまいます.ですから,幼虫の採れる時期は,4月から6月に限られています.とくに終齢幼虫は,6月の終わりから7月のはじめの短い期間にしか採れません.

ノシメトンボの産卵場所.
写真5.産卵にやって来たオス・メスのペア.水がぬかれたため池の横に広く広がった草地で,空中から卵をばらまきます.