トンボノート
No.831. コサナエとホンサナエと.2022.5.6.

今日は一日遅れのアップです.

コサナエ属の3種の産卵行動を観察できました.ここまで来ると,仕事は完璧にしないと...などと勝手な理屈をつけて,兵庫北部へコサナエの産卵を観察に出かけました.この時期ホンサナエが活動していることもあって,どちらかといえば,こちらが本命です.今日は,コサナエのいる池にヨツボシトンボがたくさん集まっていて,例年2,3頭ぐらいしか見ないのに,20−30頭はいたように思います.こちらを見ている方が楽しかったというのが本音です.

コサナエは,到着後ほどなく産卵に訪れ,いわば簡単にミッション・コンプリートという感じになりました.こうなると気が楽です.


▲メスがよく産卵に入る場所にはきっちりとコサナエのオスが止まっていた.

産卵ポイントにはオスがきっちりと止まっていましたが,写真を撮った後,驚かせて,ここから退場してもらいました.


▲9:43に産卵に入ってきたコサナエのメス.

オスを追い払ったおかげで,この場所に入ったメスは落ち着いて産卵を続けてくれました.コサナエも,時によっては,非常に激しい動きで産卵をするのですが,このコサナエは落ち着いて産卵をしていました.


▲向きをいろいろと変えて産卵を続けるコサナエのメス.

2枚目の産卵写真,腹部を振った瞬間ですが,やはり卵は写りません.先に撮影したタベサナエやオグマサナエの卵が写った写真は,例外的なものなのです.その後,ヨツボシトンボを見ているときに,足下で別のコサナエが産卵していました.ただ発見が遅かったせいか,すぐに産卵を終え飛び去ってしまいました.


▲足下で産卵をしていたコサナエ.


▲コサナエのオスは,さらにメスを待ち続けているが,私はヨツボシに...

コサナエを待っているときに,クロスジギンヤンマのメスが産卵に入りました.今日は池がにぎやかです.


▲クロスジギンヤンマのメス.のんきに産卵しているが...

ここに着いたときから,クロスジギンヤンマのオスが飛び回っていました.メスはほとんど「無防備」に(そんな感じに見えた)産卵を続けていますが,これはオスに見つかるのではないかな,と思っていましたら,案の定その通りになりました.ただ,メスが頑強に抵抗したためか,オスは諦めて飛び去りました.


▲オスがメスにタンデムになろうと挑みかかったが,メスの抵抗にあい諦めた.

このあと,ヨツボシトンボの観察中に,もう1頭メスが入りました.このメス,上のメスと同じ個体かどうかは分かりませんが,オスが現れたら敏感に反応し,すぐに飛び去ってしまいました.


▲岸から垂れ下がっている草に産卵しているとき,にらめっこ状態になった.

さて,合間ができると,飛び回っているヨツボシトンボに気をとられ,ついついそちらに行ってしまうようになりました.今年ヨツボシトンボを探しに行かねばならないかと思っていたので,これは収穫です.メスも次々と産卵に入り,そのメスを2,3頭のオスが追いかけ回し取り合いをする,といった,数が減った最近ではなかなか見られない光景を楽しむことができました.


▲この池にはヨシは全く生えていない.そこで,岸から垂れている草に止まる.

ヨツボシトンボは,止まっているより飛んでいる方が本来の姿です.特に午前の早い時間帯には,飛び回って活動しています.オスは飛んでいる最中しょっちゅうホバリングします.しかしそれは1秒程度で,カメラを向けてピントを合わすのには微妙に短い時間なのです.もちろん移動しているときはものすごい速さで,ファインダーに収めることすら難しい状態になります.それでも頑張ってトライしてみたら,何枚も没になった中で,2枚だけピントが来ていました.


▲飛び回るヨツボシトンボのオス.

オスに比べると,メスの産卵は,狭い範囲で打水を続けるので撮影はかなり楽です.たくさん産卵していた中で,2頭分だけ撮影をしました.


▲岸近くの藻が生えているあたりで打水産卵する.


▲動き回って産卵を続けるメスたち.

こうやって産卵をしている間にも,オスがこのメスを見つけて,しつこく追いかけ回します.そのたびにメスは産卵を中断して逃げ回ります.時には,オスにつかまって交尾に至ることがあります.交尾は十数秒で終わります.今日は交尾の写真は撮れるチャンスに恵まれませんでした.まあそんなですから,メスはときどき嫌気がさして,池の堤上の草に止まって,休憩というか,オスをやり過ごします.


▲ヨツボシトンボのメス.腹部は幅広くずんぐりした体型である.

こんなヨツボシトンボたちの喧噪も,11:00ごろには落ち着いてきました.メスが入らなくなり,飛んでいたオスも止まるようになりました.日も高くなり,結構気温が上がってきました.ほかのトンボはいないかと水面を見回しましたら,ホソミオツネントンボ,オオイトトンボが飛んでいました.オオイトトンボは数が減った気がします.

さて,ここはこれぐらいにして,今年テーマにしている,とある造成湿地のトンボ調査に向かうことにしました.歩いていると,ムカシヤンマが止まっていました.写真を撮ろうと近づくと飛んで逃げました.飛んだあたりに行ってみましたが姿がありません.仕方がないので,さらに歩き進めていると,なんと,このムカシヤンマ,私に左腕の裏側に止まっていたのです.カメラを向けてシャッターを切ってみましたが,うまく写りません.そこで,カメラを置いて,セルフタイマーで撮ってみました.うまくいきました.


▲私の左腕の裏側に止まってムカシヤンマ.セルフタイマーで撮影.

もっと撮ろうとしていたとき,そばを小さな虫が飛びました.これに反応してムカシヤンマが飛び立ち,すぐ向こうの木の柵に止まりました.


▲捕食中のムカシヤンマのオス.

さて,湿地調査の方はあまりたいした成果もなく,シオカラトンボが産卵しているぐらいでした.


▲シオカラトンボの警護産卵.

お昼過ぎになりました.本命のホンサナエは夕方なのですが,実は朝一番に立ち寄って様子を見たのです.しかしこのとき,1頭だけそれらしいのが飛んだだけで,成虫を全く見なかったのです.そういう状況だったので,ひとまず夕方の観察をするかどうか決めるために,ホンサナエたちが集まっていいるかどうかだけを,産卵ポイントへ確かめに行くことにしました.


▲いました,いました.いつものコンクリート岩壁に上に止まっていました.

いつも必ずと言っていいほど止まっているコンクリートの岩壁の上に,2頭のホンサナエのオスが止まっていました.今年も集まっていたようです.ホンサナエというのは,ある年突然姿を消すということがあるので,ちょっと不安になっていましたが,いて,安心しました.そこで,川に入り,もうちょっと探してみました.


▲ホンサナエたちは,夏のような日差しにも負けず,飛んだり止まったりしていた.

写真に時刻を付けたのは,実はこの後,長い観察になったからです.まあ,いずれにしても去年並み(去年は少なかった)にいたので,夕方の産卵観察を決行することにしました.

この後,木陰に車を止めていねむり.身体がほてってきたのでソフトクリームを食べて冷やしたりと,休憩時間をとりました.そして16:30,いよいよ観察開始です.水量が少し多かったためウェーダーをはいて川に入り,完全装備で臨みました.


▲16:30から17:00過ぎまでの間,西日を受けながらオスたちは活動していた.

この時点で,オスを5頭確認しました.去年より多い感じです.去年の観察では,だいたい17:20ごろにはオスがいなくなって,メスの卵塊づくりが見られました.そろそろと期待感も膨らみます.しかし,今年はオスに全く去る気配がありません.むしろもっと数が増えたように思えます.そして止まるより水面を飛翔することが多くなりました.


▲日陰を飛ぶと,もう暗い感じの写真になってしまう.


▲日がだいぶん西に傾き,光にあかね色が差してきたが,まだ飛んでいる.

18:00になっても,全然オスたちが山へ帰る気配がありません.それよりもっと飛翔が活発になって,オス同士の追いかけ合いも激しさを増しています.この追いかけ合いは,なわばり活動ではなく,飛んでいるトンボがメスかどうかを確かめに近寄っているように見えます.これだけオスがいたら,メスが来てもゆっくりと卵塊などつくっていられないだろうなと思うぐらいの状態です.

これは日が沈むまではムリかと思いました.やがて,太陽が山の稜線に隠れ,この場所における日没になりました.しかし,オスたちの飛翔はまったく緩む気配がありません.一種の黄昏飛翔です.川面をビュンビュン飛ぶホンサナエのオスたちの群れ,こういうのは初めて見るので,ある意味卵塊づくりの観察より興奮を覚えました.日が沈むと,川は薄暗くなりはじめ,トンボも,下の写真のように,影だけが見えるという状態になりました.


▲ストロボを使わず,その場の雰囲気を表現するように撮影したもの.


▲ストロボを使うとこんな感じである.

18:20,川下の方から,水面ギリギリを一直線で飛ぶトンボと,それを追って,2,3頭のオスが追跡するシーンが展開されました.メスが入ったのですね.メスの飛び方はオスのように上下動がなく,ホバリングもなく,こういうオスが集まっている場所では一直線に飛ぶのが特徴です.こんなに暗くなってから来るか...


▲もう一度ストロブボ使用(上)となし(下)の比較.もう影だけを追って撮影.

その後,1頭のメスをお持ち帰りしたオスを目撃しました.このメスには,私は全く気づきませんでした.空はまだ明るいのですが,川面は薄暗く,もうトンボは水面に反射する空の明るさのなかの影でしか確認できなくなりました.ほとんどのトンボが,腹部を持ち上げて頭を下にした格好でホバリングするように飛んでいるのですが,一方いつまでたっても飛ばず,ひたすら止まってメスを待っている,サボりというかグウタラというか,そんなオスもいます.トンボにも個性があって面白い.

▲このオス,ずっとコンクリートの岩壁に止まって,メスを待っている.

メスはその後も1頭入りましたが,オスに追われて出て行ったようです.しかしさすがに18:30近くになると,知らぬ間にオスの数が減っていました.上のサボリなオスもいつの間にやらいなくなりました.


▲最後まで飛んでいた(と思われる)オス.

18:41に,別の場所に止まっていた最後のオスが飛び去り,とうとう,というかやっとオスがいなくなりました.過去3回ほど観察に来ていますが,こんなに遅くまでオスが飛んでいたのは初めて見ました.さて,ホンサナエのオスに負けじと,私はもう少し粘ることにしました.オスのいないこの状態を待っていたのですから.

その後3回,メスが足下を飛びました.まだメスは飛んでいるんですね.ただ,通過しただけで,卵塊形成には至りませんでした.いやひょっとしたら,どこかに止まっていたかもしれませんが,もう見えません.ということで,18:55,観察を終えることにしました.


▲すっかり夕方の雰囲気になっている.日が沈んだ山の稜線.

今日は朝から大変長い観察になりました.ホンサナエだけでも2時間半,川の中に立ちっぱなし,でも,時間を忘れるぐらい興奮して,アドレナリンが出っぱなしの状態.疲れは感じませんでしたが,明日ぐらいに堪えるだろうなぁ.自宅到着は22:00前でした.

まだまだトンボには不思議がいっぱいです.未経験な知らないことばかり.これなので,トンボ観察はやめられないのです.