トンボノート
No.801. 夏の定番オナガサナエ.2021.8.7.

今日は天気予報では曇りですが,隣県の岡山県では朝のうち晴れの予報.だったら兵庫県も大丈夫だろうなどと勝手に決め込んで,夏の定番,オナガサナエの観察に行ってきました.明日から近づく熱帯低気圧が大雨を降らすかも知れない,と予報されているので,川の増水の前にぜひ行きたかったのです.しかし結果は逆,この暑さのせいか川の水が異常に少なく滞留して,いつもの観察ポイントでは,オナガサナエを誘引する水の流れのキラキラがほとんど見られません.そして,オスの姿もまったくありません.オスがこの場所を見放したということは,……,今日は手こずりそうな予感がしました.

一方水が少なくコカナダモがいっぱい茂っていたので,コオニヤンマがたくさん集まっていました.コオニヤンマはこういった藻に卵を貼り付けるのが好きなようです.案の定,一番に産卵に入ってきたのがコオニヤンマでした.

▲コオニヤンマは石の間に隠れるようにして産卵する.

いつものことですが,オスがいる川では,コオニヤンマのメスは,オスに見つからないように産卵をします.写真のように大きな石に囲まれた空間に入りこみ,低く飛んで産卵します.





▲腹端に赤い卵塊が見える.それをコカナダモに貼り付けるように産卵する.

▲オスは3頭ほど近くにいたが,結局このメスを見つけることはなかった.

さて,目的のオナガサナエですが,しばらく待っても飛ぶ気配がありません.そこで,少し移動してオスを探すことにしました.川幅が狭くなって少し流れがあるところへ行きますと,1頭だけオスが止まっていました.

▲流れの石に止まるオナガサナエのオス.

そこで,しばらくこの場所で待ってみることにしました.でも,まったくメスが入る感じがしません.今日はダメかな? と思い,また熱帯低気圧の雨の後で水量が増えたときに来るか,などと考えながら,いつもの場所に戻ってもう少し待つことにしました.わずかに水の流れのキラキラが残っているところで待つことにしました.しばらくすると,水面を猛スピードでオナガサナエらしき個体が飛びました.多分メスです.これは来る可能性があると,少し気をよくしたときでした.足下にメスが入りました.やはり水の流れのキラキラがあるところに入りました.



▲産卵にやって来たオナガサナエのメス.結構動きまわって産卵した.

気に入るポイントがないのでしょうか,あちこち動きまわって産卵しています.そのうちやっと落ち着いて産卵を始めました.ただこちらにお尻を向けています.位置を変えるために動くと逃げる可能性があるので,横向きになるのを辛抱強く待ちました.





▲産卵を続けるオナガサナエ.1分ほどで産卵を終えて飛び去った.

産卵後,2度ほど水浴びをしました.そして飛び立つとき,コオニヤンマに追われました.これは追飛などという生やさしいものではありません.捕食される危険があるのです.オナガサナエは突然飛行を止めヨシの中にポタリと落ちて,じっとしました.

▲コオニヤンマに襲われ,ヨシの中に落ちたオナガサナエのメス.

無事逃げることができたようです.

さて,もう9:44で,暑くなってきました.汗はボタボタ流れ落ちています.本来ならあと数頭やって来るのを待つところですが,今日は条件も悪そうですし,オナガサナエはこれで良しとして,他のトンボたちを追いかけることにしました.一つ気になっていたのがギンヤンマです.ここは川ですが,ギンヤンマが行ったり来たりして飛んでいて,タンデムのペアも飛んでいるのです.川で産卵することは珍しいことではありませんが,いちおう記録しておきたいと思い追いかけました.

▲流れに揺らめくコカナダモに産卵するギンヤンマのペア.

▲結構近づくことができた.これはほぼノートリミングのサイズである.

もう一つこの川に数が多かったのは,ハグロトンボです.例年たくさんいますが,今年は特に多いように感じました.水位が低く,あちこちでコカナダモが顔を出していて,産卵環境が最適な状態なのでしょう.10:00を過ぎた頃から,産卵を始めていました.

▲ヨシの陰でコカナダモに産卵するハグロトンボのメス.

このメスはオスの縄張りで産卵していました.オスはときどき周りを飛んでメスを見張っています.ときどき近くに止まって,メスと同調的に翅を開いたり閉じたりします.これはきっと何かのコミュニケーションだと思います.何のお話をしているのでしょうね.

▲産卵するメス(左)の横に止まって,同調的に翅を開閉しているオス(右).

これ以外には,セスジイトトンボ,クロイトトンボ,シオカラトンボなどが見られました.セスジイトトンボは以前来たときよりだいぶん数が減っていました.シオカラトンボは流れの上を飛び回って活動していました.

▲セスジイトトンボの成熟したメス.

▲クロイトトンボのオス.数はかなり少なくなっていた.

▲未成熟のシオカラトンボのオスが,流れの横のヨシ原に潜り込んでいた.

ということで,わずか1時間30分ほどの観察でしたが,「生きている川」はトンボを初めとした生き物が生き生きと活動しており,心を安めてくれます.