トンボノート
No.794. 昨日の続きで.2021.6.25.

どうもコフキトンボの産卵に出会えないので,時間帯を変え,今日は朝早くに出かけてみる予定にしていました.しかし朝起きると空はどんよりした曇り空.データ放送で天気予報を見ると,9時過ぎから昼過ぎまで雨の予報.ちょっと出鼻をくじかれた感じでした.行くのをためらっていると,日が射してきました.梅雨の天気予報はよく外れるので,データ放送の予報を無視して出かけることにしました.想定より1時間ほど遅れて,8:30の到着でした.着くなり,道路上をコフキトンボの交尾態が横切りました.やはり朝早くに繁殖活動をしているようです….

池の土手に上がると,さっそくウチワヤンマの交尾態が止まっていました.ということで,今日はまずウチワヤンマから紹介していきましょう.

▲8:29,ウチワヤンマの交尾静止.

この交尾カップルは見失ってしまいましたが,別のものと思われるカップルが池の横を飛び,少し向こうの方で姿が消えました.こういうときは産卵している可能性が高いのです.オスはメスを放した後,しばらくの間産卵警護をしますので,せわしなく狭い範囲を飛んでいるオスを探せば,産卵している場所が見つかります.結果その通りで,岸に生えている草の間からのぞき込んで記録を撮りました.







▲浮かぶヒシの実などに卵を貼り付けて産卵しているウチワヤンマのメス.

その後,コフキトンボの交尾態が飛んだり,コシアキトンボが産卵を始めたり,トンボがせわしなく動きまわっていました.これはあとで紹介します.10:00を過ぎた頃,待っている場所の眼前に,ウチワヤンマの交尾態が往ったり来たりして飛び始めました.この動きは明らかにこの場所を産卵場所として選ぼうとしている動きです.私の待っているところは草が生えていないところで,昨日から陣取っており,待ちに待ったチャンスになりそうです.

産卵基質の上を周回するように飛んだかと思うと,産卵場所を決めたのか,キショウブの葉のかたまりが浮かんでいるところの上で,交尾態が停止飛翔を始めました.

▲産卵基質の上を周回しながら飛び,産卵場所を見定めているカップル.

▲キショウブの葉のかたまりが浮かんでいる上で停止飛翔するウチワヤンマ交尾態.

しばらく観察していると,一瞬交尾態がキショウブの葉の上に止まるような動きをしました.実際に脚の先でちょっとキショウブの葉に触れてみたという感じです.産卵基質を確かめているのでしょうか? それとも,オスとメスのコミュニケーションでしょうか.以前も産卵前に交尾態で産卵基質の上に止まるカップルを見ています.

▲一瞬キショウブの葉に止まるような動きを見せた.

その後すぐに上昇し,産卵基質の上でしばらく停止飛翔した後,オスがメスを放しました.メスを放したオスは少し上昇し,メスは産卵基質のすぐ上でさらにしばらく停止飛翔をしました.

▲完全に止まることなく,すぐに交尾ペアは上昇した.

▲産卵基質の上で停止飛翔したあと,オスが交尾を解いた,その瞬間.

▲メスを放したオスはまっすぐ上昇し,メスはしばらくその場で停止飛翔をした.

さて,いよいよ産卵開始です.ところが,こんなことがあるのですね.なんと,今日のメインのねらいであるコフキトンボが,ウチワヤンマのすぐ横で産卵を始めたのです.「同時に来るか!?」と思わず叫んでしまいました.ウチワヤンマがこのような見やすい場所で産卵することはめったにないことだし,コフキトンボはなかなか産卵に出会えていないし…,

▲左がオスから離れたウチワヤンマのメス,右が単独で産卵を始めたコフキトンボ.

とっさのことでしたが,ウチワヤンマはしばらく産卵が続くので,いったんコフキトンボを写真に撮ることにしました.このことはあとでまた紹介します.ということで,ちょっと間が空きましたが,ウチワヤンマの産卵の観察に入りました.近いし,邪魔物はないし,トンボも大型ですので,こんなときはオートフォーカスで写真が撮れます.





▲産卵を続けるウチワヤンマのメス.見にくいが一番下は糸を引いている.



▲間欠的に打水する,下はその瞬間である.

産卵は,オスがメスを放してから2分23秒後に終わりました.この間,ずっと同じ場所で産卵をし続けます.だいたいがそうなのですが,大きく移動しないのがウチワヤンマの産卵の特徴です.交尾態で産卵場所を探しているときに,池の全周を飛び回るほど動きまわるのですが,ここと決めたら,よほど脅かすことなどがない限り,そのポイントで産卵をし続けます.

さて,先ほど同時産卵を始めたコフキトンボに話題を移しましょう.コフキトンボも,到着した時にはもうすでにオスがたくさん池の周囲に止まっており,繁殖活動を始めていました.あとで池の周囲を回ったときにも,ほとんどのオスが複眼が黒くなり,腹部にシミが出ている成熟状態でした.

▲成熟したコフキトンボのオス.複眼が黒く腹部にシミのような黒斑が出る.

朝のトンボたちの動きは昼ごろの動きとは大きく違っていて,活発に飛び回っています.コフキトンボもコシアキトンボのように,並んで飛んで上空へ一気に飛び上がるような縄張り防衛の闘争を行いますが,朝はそれが頻繁に見られました.

▲縄張り内に侵入したオスを,並んで飛んで追い払おうとする.

コフキトンボの交尾飛翔は,ウチワヤンマと似て,産卵基質の上で停止飛翔しながら行われるのを,過去に何度か見ています.ただ今日はちょっと違っていて,池の水面を一直線に飛んで池の外に出て行ったり,反対側の岸の方へ飛んでいったり,と結構動きまわっていました.ウチワヤンマの産卵場所探索とよく似ています.これを4回見ました.

▲水面上を向こう岸目指して飛んでいくコフキトンボの交尾態.

私が定位置で待っていると,少し岸から離れたところに浮かぶ一本のキショウブの葉に,トントンと産卵するコフキトンボを見つけました.あんな目立つところで産卵するか? と思って近づこうとすると,やはり簡単にオスに見つかって追われ,逃げていきました.今日のねらい通り,朝に産卵することが多いのでしょうか.水面には腹端を打ちつけてできたときの水紋が両側に広がっています.これ,オオクチバスのいる池だと,それを呼び寄せているような感じの震動ですね.この池はオオクチバスはいなくて,大きなタイワンドジョウがたくさんいます.タイワンドジョウのいる池は不思議とトンボが豊富なのです.

▲8:53,水面に浮かぶ一本のキショウブの葉に産卵を始めたコフキトンボ.

そして次に見た産卵が,ウチワヤンマとの同時産卵でした.この産卵も,交尾のあとで産卵を始めたのではなく,メスが単独で産卵を始めたものですから,オスに見つかれば間違いなく,追われるか捕まるかするはずです.それもあって,ウチワヤンマを置いてこちらを記録しました.







▲10:03.ウチワヤンマの横で産卵をするコフキトンボのメス.

このコフキトンボは,案の定,すぐにオスに見つかり,交尾態になりました.私の目の前を交尾態で飛びました,そしてそれにもう一頭のオスがつかみかかり,と,面白い構図になりましたが,このとき私はウチワヤンマの方に気をとられていましたので,記録はできていません.本当に,めったに産卵に来ないくせに,なぜこんなときにだけ同時に来るのでしょう.

今日の観察を終えたあと,池の周囲を回ってみましたら,池の反対側にもたくさんのコフキトンボがいました.この調子だと,全部で三桁はいたかも知れません.

▲池の反対側に止まっているコフキトンボの成熟オス.

さて,残るはコシアキトンボです.今日も2回の産卵を見ました.コシアキトンボも活発に飛び回り,しょっちゅう並んで上昇するパターンを繰り返していました.コフキトンボとも干渉し,またウチワヤンマはコシアキトンボをよく追いかけ回していました.これら3種はいずれも普通種ですが,たくさんの数がいて,元気に活動しているのを見ると,なんか心が安まります.

▲コシアキトンボもしょっちゅう追いかけ合いをしていた.

▲止まっているコフキトンボのオスにちょっかいをかけるコシアキトンボのオス.





▲9:26.1回目の産卵.ヒシの実に産卵している.

▲9:48.2回目の産卵.昨日と同じところで産卵している.

今日は天気予報を信じずやって来て正解でした.トンボたちの元気な姿を間近に見ることができました.11:00前に終了しました.空は霞がかかったようにはなっていますが,快晴状態.予報ではこの時間この地域は雨でした.梅雨の天気は梅雨前線の位置がちょっと変わると激変しますので,朝の空模様を見て活動をする方が確かかも知れません.

しかし,前にも書きましたが,植物上産卵する3種のトンボが,同じ池で同じ時期に活動しているというのは,面白いことだと思います.