トンボノート
No.780. オグマサナエの観察.2021.5.13-14.

今年は梅雨入りが早くなりそうで,「週末には梅雨入りか?」という天気予報が出ています.そういう意味では,昨日,今日は,とても大切な「非雨天」の日.そこで,友人にいただいた情報をもとに,オグマサナエを観察に行くことにしました.ここはオグマサナエの個体数が多いところと聞いていましたが,まさにその通りでした.

まずは13日.この日は天気が悪いことは承知していましたが,ロケハンを兼ねて様子を見に行くことにしました.産卵をビデオに撮るというのが一番大きな目的で,この日はビデオカメラだけしか持って行きませんでした.現地に到着すると,石垣やコンクリートの上など,明るいところにコサナエ属がペタペタ止まっていました.確かめてみると全部オグマサナエでした.

一通り見回って,友人が産卵を見たという杉の葉が垂れている場所へ陣取りました.私もここが一番いいと感じたからです.13:40,14:00にオグマサナエのメスが産卵に来ました.13:40のメスは,入ってきて地面に止まりましたが,私が急な動きを見せたのを嫌ったのか,飛んで行ってしまいました.14:00のメスは,木の根元付近でかなり長時間産卵をやってくれました.しかし,持って行ったのがビデオカメラでしたから,木の枝葉の陰で産卵しているメスをどうしても捉えることができず,結局うまく撮影できずに終わりました.

オグマサナエは夕方に産卵に来るように感じていましたが,この日は空もどんよりしていて,夕方の雰囲気がありました.メスが去ったあと,オスが入ってきました.記録を一枚撮っておきました.

▲オグマサナエのオス.メスが産卵を終えたあと,入ってきた.

これ以外には,トラフトンボが水面を飛行していたのと,ホソミオツネントンボが飛んでいました.またクロスジギンヤンマがうす暗い曇り空の下で,産卵していました.

▲クロスジギンヤンマの産卵.

まあ,本番は明日ですので,3時間ほどでオグマサナエの産卵メスを2回見た,というかなりいい手応えを持ってこの日は帰宅しました.

さて,日付は変わって14日.予報では一日中晴れです.しかし実際はどんよりとした曇り空.ただ気温は高そうで,12日水曜日が雨だったこともあり,昨日,今日と産卵には来るはずだという確信を持って,気合いを入れて現地に7:30に入りました.朝の産卵をねらったわけです.しかしまだ空はどんよりと曇っています.でもこの状態は,早朝という感じを醸し出しており,これから日が射して暖かくなってくると,そこから一日が始まるという感じになるので,オグマサナエの生態を観察するには都合の良い状況かと思われます.

オグマサナエのオスはまだ池には現れていません.メスはオスが出てくる前に産卵に来ることが多いので,緊張感をもって池面を見渡していました.7:55,一頭のメスが入りました.私の背後の地面に止まりました.産卵に来たようです.翅を震わせています.ただ私がふり返った動きによって,それを感じて飛び去ってしまいました.昨日と同じ失敗です.ここのオグマサナエは,オスもメスも人の動きを敏感に感じ取って逃げてしまいます.

8:00,トラフトンボが水面を飛び始めました.またオグマサナエのオスも現れ,水面を2,3頭で追いかけ合いをしています.でもよく見ると,オスが他のオスを「後ろから」追いやるのでなく,先頭の個体が一直線逃げているのを追いかけているというのが,飛び方の違いで分かります.多分先頭はメスなのでしょう.池に入ったメスを2,3頭のオスが先頭の個体と同じ軌跡を描いて飛んでいます.

8:21,メスが池から足下の方へ入ってきて,Uターンするように飛びました.これは産卵する気配はありませんでした.2頭目のメスです.やはり朝に入ってくるようです.空は,やっと雲が切れ始め,太陽の光が池に差しこみました.

9:03,ついに産卵をするメスに巡り会いました.すぐ前で産卵をするのですが,足下が悪くよく滑るので,どうしても私の動きが不自然になり,メスはそれを感じて移動します.なかなか同じところで産卵をするという感じではなく,10mくらいの範囲をあちこちせわしなく移動するので,ビデオ撮影はあきらめ,メスを追いかけながら写真撮影をしました.

▲産卵に入ってきたオグマサナエのメス.
▲産卵ポイントの杉の葉が垂れているところで産卵しているオグマサナエ.

9:29,次のメスが入り,杉の葉に止まりました.しかし,私の手が動いただけで,逃げてしまいました.本当に敏感です.10:00少し前,またメスが入りました.今度は私も刺激しないようにナマケモノ的な動きで対処しました.撮影はできたのですが,よく見るとどうもオグマサナエではないように思えました.写真を確認するとタベサナエ.タベサナエはオスをまったく見ていないのですが,いるんですね.ちょっとがっかりしました.





▲タベサナエの産卵.腹部第10節の長さが短く前肩条がない.色も黄色があざやか.タベサナエだ.

その後,10時台に交尾形成を3例見ました.私が陣取っている場所以外にもメスが入ってきて,オスに捕まっているようです.交尾態はいずれも樹上高く消え去りました.空はいつの間にか雲がなくなり,青空になっていました.それからというもの,メスはパタッと来なくなりました.隅一で終わるのではないかという心配が当たりました.結局産卵の写真はこれだけでした.一方で,オスたちは,太陽が照り始めると活発に活動を始め,私の立っているところへも次々とオスがやって来ます.





▲オスたちは定住的な縄張りを持つというより,あちこち移動しながらメスを待っているように見える.

オグマサナエは,オスどうしが出会うと追尾行動で追い払いますが,定住的な縄張りは持たず短時間で飛び去って移動しています.これは縄張り形成と言うよりは探雌行動のように思えます.

時刻が11:00を過ぎました.オグマサナエの賑やかさは少しなくなってきました.そんなとき,トラフトンボの交尾態が飛び始めました.家の近くの生息場所でもそうでしたが,トラフトンボの交尾態は,一時に立て続けに入ってくる傾向があります.ここでも同じで,合計4ペアが,次々に入ってきました.アオミドロの浮かんでいる場所でメスを放しました.卵塊形成を見たかったのですけれども,離れたメスをオスが追うので,樹上高くメスは上がってしまいます.

▲トラフトンボの交尾態警護による産卵場所探し.
▲オスがメスを放した直後,メスは打水し,樹木の上の方に上がって卵塊形成をした.

どうも今日は卵塊形成観察が無理のようですので,ねらいを変えて,打水の瞬間をねらうことにしました.また,卵塊を抱えたメスが水面を飛ぶ姿も面白いので,それもねらうことにしました.





▲卵塊を抱えて,打水する場所をさがしているトラフトンボのメス.

トラフトンボの打水は,水面に腹端を浸けて,形成した卵塊を水面にこすりつけるように前方へ移動して,放卵します.ビデオでは撮ったことがありますが,写真では撮ったことがありません.今回映りは悪いですが,撮影に成功しました.











▲一連の打水行動.

打水するメスをカエルがしっかりとねらっていました.割合に動きが緩やかになりますから,狙い目なのでしょうね.

▲放卵するトラフトンボのメスをねらっているカエルさん.

トラフトンボの交尾態は,午後になってからも,2回訪れました.

さて,肝心のオグマサナエの方ですが,13:23に足下を周回するメスを見ましたが,これは産卵することなく,池の外へ出て行きました. 

14:00になりました.昨日はこの時間に産卵メスが来ました.今日は産卵ポイントには木漏れ日が差しこんでいます.そしてまだまだオスが入れ替わり立ち替わり入ってきます.昨日は曇天で夕方の雰囲気があったのでメスが来たのでしょう.今日はまったく来る気配がありませんし,もし来ても,オスにお持ち帰りされるでしょう.オスたちは差しこむ木漏れ日のスポットに止まっています.今日はここまでとすることにしました.

▲晴天の日にはやはりまだまだ活動は続くようだ.これではメスは出てこない.

この池のすぐ横を小さな川が流れています.少し覗いて帰ることにしました.ダビドサナエがいました.私的には,最近あまり会うことがないトンボになっています.

▲ダビドサナエのオス.

ということで,今日はこれでおしまいです.昨日・今日と,メスが10頭近く池に入ったのが確認できました.ただ,写真に撮るのは難しかったです.