続 トンボ歳時記
No.651. コバネアオイトトンボの産卵観察.2018.10.26.

今日は午前中晴れ,夕方から下り坂,という予報です.最近になって,やっと秋らしい晴れの日が続くようになってきました.朝起きて空を見ると,一面快晴の青空.これからは,まだ時期的に見ることが可能で,観察が不十分なトンボたちを見ていこうと思っています.その中で今日はコバネアオイトトンボの産卵観察を行うことにしました.

コバネアオイトトンボは,先日のブログで発見したことをお伝えしましたが,その後の探索も含めて,まだ産卵を観察していません.コバネアオイトトンボは,カンガレイやクログワイなどの,組織が柔らかい植物に産卵すると言われています.この生息地にはカンガレイがあるのですが,わずか二株しか見当たりません.あとは,ヒメガマがいっぱい茂っているというような池です.そこで今日は,そのカンガレイの生えている付近に陣取り,観察をすることにしました.

▲池岸に止まっているタイリクアカネのオス.

ここに来る途中から目についていましたが,この池にはタイリクアカネがたくさんやって来ているようです.海岸近い池ではありません.海岸からは数km離れたかなり内陸部の池です.本当にタイリクアカネは,普通に見つかるようになりました.1960年ころはどこにいるかよく分からなかったトンボで,1969年に海岸近くにいることが報告されてから,観察方法が分かったというトンボです.でも今なら,普通に見られるトンボの一つであると言ってもよい状態になっています.

さて,コバネアオイトトンボですが,地岸の日当たりのよいところに止まっているオスを最初に見つけました.しかしその後なかなか姿を見せません.池周囲の草むらにもぐっているかもしれないと思い,周辺も調べてみました.そこでは,オスが,2頭ほど見つかりました.しかしメスの姿やタンデムの個体はまったく見られません.

▲最初に見つけた,日当たりのよい地岸に止まっていたコバネアオイトトンボのオス.

▲周囲の草むらの中に潜んでいたコバネアオイトトンボのオス.体色が茶金色になっている.

▲同じく草むらにもぐり込んでいたコバネアオイトトンボのオス.

草むらで見つけた,体色が茶色っぽい金属光沢に薄緑色の淡色部を持つ個体は,他に類を見ないコバネアオイトトンボ独特の色彩です.体色が鮮やかな緑の金属光沢の個体も気品を感じますが,こちらの方が渋い感じです.ところで,コバネアオイトトンボの産卵の方ですが,まったくやって来る気配さえありません.待っている間にマユタテアカネが目の前で産卵を始めました.このメスはノシメ斑がないメスです.

▲マユタテアカネの産卵.メスはノシメ斑がないタイプ.

▲打泥(打水)の瞬間.

1時間ほど経って,11時が近くなりました.この個体数では,やはり産卵を見るのは難しいかな?,と思い始めたときでした.知人の出した本に,ヒメガマに産卵するコバネアオイトトンボの写真が掲載されているのを思い出しました.ここはあまりにもカンガレイが少ないので,もしや,と思って,ヒメガマの群落の方に入ってみました.するとどうでしょう,コバネアオイトトンボがヒメガマに産卵をしていたのです.ここでもまた先入観に左右されてしまっていました.

▲ヒメガマの群落に近づいて行って最初に見つけた産卵ペア.メスは茶金色のタイプ.

▲私の動きに反応して少し移動して産卵を再開した.

この後,このペアを見失ってしまいました.すると,池岸の方で,アカトンボたちの産卵が始まりました.まずはキトンボが水際で打泥産卵しています.上下動の少ないふわふわ動くような感じの産卵です.コバネアオイトトンボは今日のテーマですが,キトンボは好きなのでどうしてもこちらに気を奪われます.どうせコバネアオイトトンボは長時間産卵しているはずですから,また後で探せばいい.

▲水際で連続打泥産卵をするキトンボ.

▲1秒に1回くらいのリズムで,トントンと連続打泥する.

キトンボの産卵が終わり,コバネアオイトトンボを探そうとしたら,今度はタイリクアカネやコノシメトンボが産卵に来る始末.タイリクアカネは連結産卵が今年うまく記録に撮れていないので,またこちらに気をとられてしまいました.コノシメトンボも,以前キトンボを見に行ったときにいちおう観察できましたが,あまり十分な感じではありませんでした.そういうことで,コバネアオイトトンボはまた後回し.

▲ヒメガマの生えた水際で産卵するタイリクアカネのペア.

▲タイリクアカネの産卵は3組,どのペアも非常に神経質で,結局寄ることができなかった.

▲やはり,ヒメガマ群落の水際で産卵するコノシメトンボのペア.

▲ここのトンボはいずれも神経質,コノシメトンボにも近づけなかった.

アカトンボの産卵の写真を撮っていても,やはりコバネアオイトトンボが気になります.このあたりでアカトンボを追いかけるのは止めて,再びコバネアオイトトンボの産卵ペアの探索に向かいました.ペアは意外とすぐに見つかりました.この産卵ペアは,先のペアとは違う個体のようです.メスが先の個体よりは緑っぽい色をしています.

▲最初のペアとは異なるペア.メスの体色から分かる.典型的なコバネアオイトトンボの連結植物内産卵.

▲上の写真を少し角度を変えて撮ってみた.産卵管を突き立てているのが分かる.

▲写真が横に向いているわけではなく,斜めの葉に載るように止まって産卵をしている..

▲枯れた葉のつけ根あたりで産卵をしているペア.

▲メスの拡大.メスの腹部を折りたたむように曲げ,オオアオイトトンボのように力が入るようにしている.

コバネアオイトトンボのペアは,確かにヒメガマの葉に産卵をしていました.しかし今日観察した限りでは,枯れた葉にだけ産卵をしていました.緑色の葉はやはり固いのかもしれません.また上の一番下の写真のように,コバネアオイトトンボは腹部を折りたたむようにして曲げ,6本の足でしっかりと基質をつかんで,産卵管に力が入りやすいような姿勢で産卵しているのが分かります.これは固い樹皮に産卵するオオアオイトトンボがよくやる姿勢です.

ヒメガマの群落内に入ってよく探すと,単独オスたちがヒメガマの間を飛んでメスを探しているようです.オスの個体数もこちらの方に多く集まっているように思われました.

▲ヒメガマの群落内で活動するコバネアオイトトンボのオス.

▲ヒメガマ群落内のオスたち.

これで観察を終えて,12時ごろに現地を離れました.もっといてもよかったのですが,今日の空模様にいささか裏切られた感じで,このころには肌寒い風が吹き出したからです.実は朝現地に着くまでは雲一つない快晴.ところが,現地に着くやいなや雲が出現.みるみる全天を覆って,30分もすると曇りに変わりました.太陽は雲の間からときどき顔を出す程度だったのです.ですから,見ての通り,今日の写真は多くがストロボの力を借りたものになっています.そして,家に帰ったら,また快晴に戻っていました.なんとまあ嫌みな天気なんでしょうね.

最後に,前も紹介しましたが,コバネアオイトトンボの顔拡大写真.目のブルーの輝きがどことなく地球を見ているように思えます.

▲コバネアオイトトンボオスの顔拡大写真.