新 トンボ歳時記
No.459. 源流域のトンボ観察.2014.5.31.

今年は,5月中ずっとといってよいほど,源流域の観察を行っています.今まで源流域のトンボの観察を気合を入れてやってこなかったので,どうしても源流域のトンボに苦手意識があります.ムカシトンボ,春のサナエトンボ,秋のミルンヤンマなどです.そこで去年,今年と,他のトンボたちを放り投げて,源流域に来てトンボ観察をしていますが,きょうやっと,成果らしい成果が出ましたので,ご紹介します.

まずアサヒナカワトンボはいつもながらたくさん飛んでいました.ここの流れにたくさん飛んでいるトビケラを食べているところを一枚.

0531-004

次はムカシトンボです.今日のムカシトンボは,老熟が感じられるものの,まだまだ元気なようでした.朝の8:30ころに現地入りし,9:00過ぎに道路上で摂食飛翔するメスを見ました.摂食飛翔はあまりに速く飛ぶのでほとんど写真になりませんが,大きめの虫をとらえたときに飛び方が鈍くなり,空を背景にしたシルエット写真一枚にピントが来ました.

0531-001

オスは例によって,流れの上を飛んでいます.ただ先週に比べると数が減ってきているようでした.午前9:00過ぎからもう流れの上を飛んでいました.15:00ころまで断続的に飛びました.メスは午後になってから産卵に訪れました.撮影しやすい植物に止まることなく,下草の下の,写真の撮りにくいところばかりに止まって産卵するのでいい写真はありません.一度だけ割合に撮りやすいところで産卵をしたのですが,ストロボの電池切れで発光せず,失敗に終わりました.でもこの失敗が後の幸運を保証したのでした.そのお話は後ほど.

0531-002

ところで,オス・メス各1回,都合2度,面白いものを見ました.流れの中にダイビングしたのです.はじめはメスでした.流れの上を飛んでいるかと思ったら,一瞬水面に飛び込んだように見え,姿が消えました.最初これは単に見失ったのだと思っていました.ところが,少し後に,今度はオスが,まったく同じところで,また水面に飛び込んだように見えて姿が消えたのです.この時はよほど自分の目が変になったかしらと思っていました.ところが,少し後,少し下流で,オスが流れから石の上に這い上がっているのを見ました.翅は濡れ,水を切るように翅をふるわせた後飛び立ちました.そしてシダの葉の裏にいったん止まりました.これが下の写真です.そう,やはり流れにダイビングしたのです.決して弱って落ちたという感じではなく,自らダイビングしたように見えました.光の反射か何かで,水面との距離感が取りにくいような状況があったのかもしれません.何しろオス・メスまったく同じポイントにダイビングしたのですから.

0531-003

さて,今日の狙いはヒメクロサナエの産卵です.朝早くからは産卵に来ないと予想し,午前中のうちにヒラサナエの様子を見に行ってきました.ヒラサナエはオス・メスとも成熟しており,オスは,湿地の中の開けた流れの場所になわばりを形成していました.一例交尾も観察しました.産卵は見ることができませんでした.ヒラサナエのいる日向はかなり暑く,これでは産卵も大変だろうという気がしました.

0531-005

観察を終えた後ふたたび源流域に戻って,ヒメクロサナエを待つことにしました.ヒメクロサナエのオスは,到着した後すぐに流れを覗いたときに1頭降りてきました(9:16).そして再び源流域に戻ってからというもの,引き上げる15:30直前まで,何度も何度もオスが断続的に下りてきました.もっとも低い位置での滞在時間は結構短く,また特定の範囲にばかり数多く下りてくるのでした.この辺樹上生活をしているオジロサナエに似ていると思いました.

0531-006

居るところには居るものだということはあるでしょうが,過去トンボをやり始めてから,数時間にわたって,それも数日間続けて源流域での観察をするということをほとんどしなかったため,こういった経験をすることができなかったのが大きいと思いました.源流域は,ちょっとのぞいただけでトンボがいないと決めつけてはいけないということを今日は学ばせていただきました.

0531-007

ところで今日は,とにかくヒメクロサナエの産卵を観察するために一日ここでじっと待つ予定です.ここで一つラッキーが起きました.待っているときに,ヒメクロサナエの交尾態が低い木の葉の上に止まったのです.交尾はメスを引き連れて高いところへ上がるのが普通だと思いますので,これはラッキーです.

0531-008

残念ながらアングルを変えようとして動いたときに飛んで逃げられました.その後は何の音沙汰もなしというところでした.帰る間際にメスが産卵に入ったのを見ましたが,追いかけていくと逃げられました.結局のところ,ヒメクロサナエのメスとの出会いはこれがすべてでした.また宿題が残ってしまいました.

ところがです.ところが....今日は本当についていました.ヒメクロサナエの産卵を待っているときに,クロサナエのオスが下りてきたのです.合計4回も.ただ,こちらは短時間ですぐに飛び去ってしまいました.

0531-009

このオスは,メスを待つというより,メスを追いかけていたのではないかと思っています.オスが下りてきてすぐにメスが産卵に入ったのです.そしてその後またすぐに下りてきました.もちろん産卵していたのと同じ場所にです.

下の写真は,そのメスの産卵ですが,これが撮れたのには,最初に書いたように,幸運があったのです.ストロボの電池が切れたのは,このメスが入るすぐ前に撮ったムカシトンボの産卵シーンだったのです.ムカシトンボの産卵がなかったら,このクロサナエの時にストロボの電池が切れているところでした.クロサナエは長年写真に撮りたいと思っていたトンボですから,きっと地団太踏んだことでしょう.ムカシトンボで失敗したので,クロサナエで失敗せずに済んだのでした.この日は本当に幸運が積み重なっています.まあ,こんな日もないと,毎週遠方に来ている甲斐がありませんものね.

0531-010

メスは合計2回産卵に入りました.この間約1時間開いているのですが,この2回目の産卵の前(14:02)にも,ほぼ同じ場所にオスが下りてきて,短時間止まった後また飛び去りました.つまり,オスとメスは間をおかずに姿を現しているのです.

0531-011

2回目の産卵メスは,残念ながら,ヒメクロサナエのオスと戯れているときに入ったので,産卵シーンは撮影できませんでしたが,産卵後石の上に止まったところを撮ることができました.今日はクロサナエが「外道」という非常にラッキーな一日だったと思います.ヒメクロサナエの産卵の宿題が残ったことがむしろうれしいくらいです.

最後にゲスト紹介.今日はヤマガラが私を恐れることなく3m位先で水浴びを3回もやってくれました.

0531-012

さあ,今日はこれで寝ます.明日はまた仕事なのです.天気がよさそうなのに残念です.