兵庫トンボ研究会に委託されている,ベッコウトンボの採卵のための調査に行ってきました.私の分担している池は2つありますが,すぐ近くなので,2つとも回ってきました.
池は水がきれいで,浅いところでは底が見える状態でした.大きなタイワンドジョウ(カムルチー?)が水面に浮かんでいました.経験から言うと,タイワンドジョウのいる池はトンボ相が豊かで,個体数が多い場合が多いのです.不思議ですが,肉食魚のタイワンドジョウとトンボは共存できるようです.
▲クロイトトンボの若いオス.草の中にもぐっている.
不均翅類のトンボは,ギンヤンマとシオカラトンボだけでした.それに対してイトトンボの類はたくさんいました.若い個体が多く,池を周回する小径を歩くと,その草むらから,クロイトトンボとセスジイトトンボが,次々に飛び出してきました.その他にはアオモンイトトンボやアジアイトトンボも見られました.
▲セスジイトトンボの若いメス.同じく小径の草の中に止まっている.
さらに池の方からは,にクロイトトンボ属のものと思われるトンボが,羽化して,草むらや周辺の木の葉上に次々と止まっていくようすが観察できました.
▲クロイトトンボのメス(左)とセスジイトトンボの交尾(右).
クロイトトンボやセスジイトトンボはもはや繁殖活動に入っており,交尾や産卵を見ました.セスジイトトンボは結構早いように感じますが,気のせいでしょうか......
アオイトトンボも早くも羽化期に入っており,ひらひらと池から草地の方へ飛び込んできていました.一方でまだオツネントンボもいました.でも,「まだ」というのは変で,昔の感覚では,オツネントンボは今でも繁殖期だと思います.
▲羽化直後のアオイトトンボ(左)とオツネントンボ(右)
今日見られたトンボはほとんどすべて,春早くから出現し,夏にも見られ,秋も遅くまで飛んでいるトンボばかりです.春に羽化し,春の一時期だけに出現するトンボが全くいませんでした.以前なら,この時期,平地の池では,フタスジサナエなどのコサナエ属,クロスジギンヤンマ,トラフトンボ,ヨツボシトンボ,ハラビロトンボなど,よく目につくトンボたちが飛び交っていたのですが,それらが見られないので,池が妙に静かに感じられます.
深泥池で感じたのと同じように,「日のよく当たる池では春のトンボが欠落している」,そういう表現がぴったりする印象です.今年の今日までの観察では,昔のような春のにぎやかな風景が見られた池は,山に囲まれ,日陰が多くでき,水温が比較的低いような池でした.このコーナーで紹介したクロスジギンヤンマやヨツボシトンボがたくさんいた池は,みな樹林の隣接した台地上または谷の池です.
今日はまだ5月上旬ですが,日射しはものすごく暑く,半袖でも汗をいっぱいかく状態でした.最高気温が30℃以上の真夏日が,全国で130ヶ所以上あったと報道されていました.気候変動がトンボという昆虫の季節的推移に,目に見える形で現れてきたような予感がします.私の考えすぎならいいのですが......
最後になりましたが,もちろん,ベッコウトンボはいませんでした.