H070. ナツアカネ Sympetrum darwinianum
<特ちょう>
ナツアカネはトンボ型の幼虫です.体全体がやわらかく,表面はすべすべしています.
翅芽(しが)は,まっすぐ後ろにのびています.
触角(しょっかく)は糸のように細いです.腹の横のとげ(
側棘:そっきょく)は第8,9節にあってどちらも長く,写真2のように,第8節のとげが第9節の後ろはしこえています.背中のとげ(
背棘:はいきょく)は先がするどくとがっていて,腹部の第4−8節にあります.写真3のように,顔を正面から見たとき,
下唇側片(かしんそくへん)の上に黒いはん点がほとんどありません.ただし,小さなものが少しついているときがあります.
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写真2.腹部の第8,9節の横にするどいとげ(側棘)があります. どちらも長く,第8節のとげの先は第9節の後ろはしをこえます. 先のとがった背中のとげ(背棘)が,腹部の第4−8節にあります. |
写真3.ナツアカネの全体図と,下唇側片.
下唇側片の上には黒いはん点がほとんどありません.
触角は糸のように細いです. |
<よく似た幼虫との区別>
ナツアカネはアカトンボのなかまです.アカトンボの幼虫は,どれもとてもよく似ていて,トンボの専門家でも見分けられないことがあります.ですから,区別がつかなくて迷っても,それはしかたがないことです.みなさんもたくさん研究をして,見分け方を見つけてください.
さて,ナツアカネの特ちょうは,腹部の第8節の横のとげが,第9節の後ろはしをこえることです.このように長いとげ(
側棘)を持つアカトンボの幼虫は,5種類しかいません(写真4).その中で,顔を正面から見たときに,
下唇側片の上には黒いはん点がほとんどないのは,ナツアカネと
マダラナニワトンボです.現在,
マダラナニワトンボは兵庫県ではほとんど見つからないトンボです.ですから,腹部の第8節の横のとげが第9節の後ろはしをこえていて,
下唇側片の上には黒いはん点がほとんどなければ,ナツアカネと考えてまちがいありません.
写真4.腹部の第8節の横のとげの先が第9節の後ろはしをこえるアカトンボの幼虫.大きさと
下唇側片上のはん点の有無.
<さがす場所のヒント>
ナツアカネは水田の住人です.水田以外でも,水田のイネと似たような草が生えて,水がたまるような湿地に住んでいることもあります.ただし,平野の水田には少なく,山が近くにあるようなところが好きです.9月の中ごろ,稲刈り(いねかり)をする前の水田にやって来て,空中から卵をばらまきます(写真5).卵はそのまま冬をこし,次の年の春に幼虫が誕生します.そして,7月のはじめには羽化して親になってしまいます.ですから,幼虫の採れる時期は,4月から6月に限られています.とくに
終齢幼虫は,6月の終わりから7月のはじめの短い期間にしか採れません.
最近はきつい農薬を使うことが多くなって,そういった水田ではナツアカネは育ちません.また水田は農家の人の持ちものですから,勝手に入って幼虫を採らないようにしましょう.
写真5.産卵にやって来たオス・メスのペア.稲刈り前の水田で,イネの上から卵をばらまきます.