トップ写真の解説
1990年代には,兵庫県でも神戸市,明石市,加古郡など南部の方にしか見られなかったタイワンウチワヤンマも,2000年代後半にはかなり内陸部に進入し,加西市の中国自動車道より北側にも普通に見られるようになりました.出現季節は初夏から初秋までで,特に,9月上中旬という,池にトンボが比較的少なくなる時期に,我が物顔で飛んでいます.写真は暑い夏のさなかに産卵にやってきたメスです.糸を引くように腹部先端から細い繊維が伸び,その先に卵のようなものがついているのが見えます.
産卵.2009.8.14.
成虫
兵庫県南部では6月下旬から羽化が始まるようで,7月上旬に羽化殻がよく見つかります.その後成虫は10月に入って,キトンボが池を飛ぶころまで見られます.兵庫県南部で,7月に始まり10月まで生殖活動を続けるような生物季節を持つトンボ類はあまり例がありません.強いてあげるならネキトンボ,リスアカネがその類に入るぐらいです.南方から北上してきた本種が新しいトンボのニッチを開拓しているような気がします.
若いオスの静止.2010.8.7.
幼虫
タイワンウチワヤンマは幼虫で越冬しますが,春先に幼虫をすくうとさまざまな大きさのものが採れます.環境の合図を受けて成長に同調性がつくられるようなしくみは感じられません.冬の間どういうわけか幼虫が採れないのですが,春先になると岸近くの浅いところで採れるようになります.冬季に深みへ移動している可能性があります.暖かい季節には,幼虫は泥や砂礫底の池底の,落ち葉の間などにもぐって生活しています.
スタジオ写真.2011.6.11.