日本産エゾトンボ属は,羽化殻(終齢幼虫)の形態から見たときに,4つのグループに分けられるのではないかと考えている.すなわち,背棘も側棘もなく体表面が毛でおおわれているホソミモリトンボとクモマエゾトンボからなるグループ,第8,9腹節背棘の基部が幅広く立ち上がりが鋭く,側刺毛が6−8本,腮刺毛が10−11本前後と数が少ないハネビロエゾトンボとコエゾトンボからなるグループ,第3腹節の背棘が小さくどちらかといえば不明瞭になりやすかったり,または欠けていて,第9腹節背棘の背側のラインがはっきりと下方に曲がって,側刺毛が9−11本,腮刺毛が15−16本前後と数が多いタカネトンボ,モリトンボ,キバネモリトンボからなるグループ,前二者の中間的な形質,つまり第9腹節の背棘がやや下方に曲がっているが立ち上がりが鋭く,側刺毛8,9本,腮刺毛9−13本程度のエゾトンボ1種からなるグループである.そして,これらグループ内の幼虫を互いに区別するのは困難である場合が多い.以下の検索キーでは,時に誤同定に導く可能性がある場合を考えて,変異(var.)の記述をよく読み,各種のページの記述等も読んで慎重に同定作業を進めていただきたい.しかしながら,結果として同定不能になる場合もあり得ると思っておいてお欲しい.
01.背棘が少なくとも第4−9腹節にある(a).側棘が第8,9腹節にある(c).・・・02
− 背棘はない(b).側棘もない(d).体表面が長い毛でおおわれていて,多くの場合泥をかぶっている.・・・07
a,c.キバネモリトンボ,b,d.ホソミモリトンボ.
03.背棘は4−9腹節にあり,第3腹節にない(a).・・・キバネモリトンボ
− 背棘は第3−9腹節にある(b).・・・04
var.朝比奈(1959)はタカネトンボについて,「背棘は第4ー9腹節にあって時に第3腹節に微小なものをみとめる」とある.もしタカネトンボの第3腹節に「全く」背棘がないものがあったとすれば,検索結果はキバネモリトンボに落ちてしまう.他に有効な区別点が見いだせないので,この場合はキバネモリトンボとの区別はほとんどつかないと考えた方がよい.ただしキバネモリトンボは,青森,岩手,新潟を除く本州,四国,九州には分布していない.
a.キバネモリトンボ,b.エゾトンボ.
a.キバネモリトンボ,b.エゾトンボ.
04.北海道の大雪山の高所,知床半島に生息し,それ以外の場所には分布しない.・・・モリトンボ
− 北海道から九州まで全国的に広く分布する.・・・タカネトンボ
var.タカネトンボとモリトンボについては明瞭な形態的識別点を見いだすことができていない.さらにキバネモリトンボの第3腹節に痕跡的な背棘があるように見える個体(杉村ら,1999)があれば,検索結果がここに落ちてくる.キバネモリトンボ,タカネトンボ,モリトンボの3種は誤同定の可能性が非常に高い一群である.ただし,青森,岩手,新潟を除く本州,四国,九州では,タカネトンボしか分布していない.
a.モリトンボ終齢幼虫,b.タカネトンボ終齢幼虫.
a.モリトンボ終齢幼虫,b.タカネトンボ終齢幼虫.
05.第9腹節背棘の背側のラインが直線的で角度が大きい(a.矢印).
そのため背棘基部が幅広く見える.側刺毛は7,8本,腮刺毛は10,11本程度.肢の腿節にある2つの褐色環状斑がコントラストよく目立つ.林内や湿地内の細流など流水に生息する.・・・ハネビロエゾトンボ
そのため背棘基部が幅広く見える.側刺毛は7,8本,腮刺毛は10,11本程度.肢の腿節にある2つの褐色環状斑がコントラストよく目立つ.林内や湿地内の細流など流水に生息する.・・・ハネビロエゾトンボ
− 第9腹節背棘の背側のラインが,後方にカーブを描くように曲がる(b,c,d.矢印).・・・06
var.コエゾトンボの背棘(b)は太くて立ち上がり角度も大きくハネビロエゾトンボと似ているが,やはり第9腹節のものは,その背側のラインが後方にゆるく曲がる(b.矢印).コエゾトンボは側刺毛が6本である.エゾトンボの背棘には個体変異(c,d)があって,背棘が発達している個体(c)ではハネビロエゾトンボと見間違えやすい.しかしその場合でも,角度は大きいものの第9腹節背棘の背側のラインは後方に向かって全体的にゆるくカーブしている(c.矢印).また背棘そのものもハネビロエゾトンボよりやや幅狭く先端が鋭く尖っているように見える.エゾトンボは主に湿地の生活者である.
a.ハネビロエゾトンボ,b.コエゾトンボ,c,d.エゾトンボ.
a.ハネビロエゾトンボ,b.コエゾトンボ,c,d.エゾトンボ.
07.羽化殻全長20mm前後(a),後肢脛節の毛は長く密度も高い(c).
体長については,石田(1996)では終齢幼虫について17.9−22.7mmと記述がある.北海道の大雪山と芦別岳付近に生息し,それ以外の場所には分布しない.・・・クモマエゾトンボ
体長については,石田(1996)では終齢幼虫について17.9−22.7mmと記述がある.北海道の大雪山と芦別岳付近に生息し,それ以外の場所には分布しない.・・・クモマエゾトンボ
− 羽化殻全長17mm前後(b).後肢脛節の毛は短く密度も低い(d).
体長については,石田(1996)では終齢幼虫について15.0−16.5mmと記述がありクモマエゾトンボと重ならない.北海道東部及び本州の福島,新潟,岐阜,長野,群馬,栃木の各県に分布する.・・・ホソミモリトンボ
体長については,石田(1996)では終齢幼虫について15.0−16.5mmと記述がありクモマエゾトンボと重ならない.北海道東部及び本州の福島,新潟,岐阜,長野,群馬,栃木の各県に分布する.・・・ホソミモリトンボ
a.クモマエゾトンボ,b.ホソミモリトンボ,c.クモマエゾトンボ後肢脛節の毛,d.ホソミモリトンボ後肢脛節の毛.