No. 919. キイロサナエの観察.2023.6.16.

今日から三日間ほど梅雨の中休み.今日は雨後の晴れをねらって兵庫北部へ行ってきました.ねらいはキイロサナエです.キイロサナエは最近本当に見かけなくなったトンボです.まずいつもの観察地へ出かけましたが,用水路の草刈りが行われていなくて水面が見えない状態の場所が多く,あまりキイロサナエの数が見られませんでした.


▲キイロサナエのオス.この場所は数が少なかった.▲

そこで少し移動して,去年産卵を見た場所へ行ってみることにしました.現地に入りますと,オスが4頭ほど行ったり来たりしていました.やはりメスが来るところを知っているのでしょうか.他のところではポツポツ止まっているだけですのに,ここではオス同士が追いかけ合いバトルを繰り広げるほどの密度でした.


▲止まっているオスと,産卵に来そうな場所を探索するオス.▲

去年産卵に下りてきたポイントにはしっかりとオスが陣取り,時々岸近くを往復してメスを探すような飛び方をします.本当に去年メスが来たところの場所そのものです.なぜメスはここに下りてくるのでしょう? 背後の樹林の形と流れまでの距離が,樹上から下りてきやすい構造になっているのかもしれません.


▲オスたちはあちこち止まってメスを待っている.▲

10:40ぐらいからここでメスを待っていますが,なかなかメスの姿を見ることができません.コヤマトンボが行ったり来たりしていますので,これと遊びながらメスを待ちます.全く去年と同じ状況です.


▲キイロサナエの産卵場を飛び回るコヤマトンボ.▲

11:50,キイロサナエのメスが入りました.水面を旋回飛翔した後,対岸に止まり卵塊をつくり始めました.近づくと飛び上がりホバリングしました.


▲私が気になったのか飛び上がり様子を見るキイロサナエのメス.▲

その後このキイロサナエはぐるっと旋回し,こちら側の岸の地面に止まり卵塊形成を継続しました.目の前の位置です.


▲こちら側の岸の地面の上で卵塊形成するキイロサナエのメス.▲

その後このキイロサナエは飛び立ちましたが,見失ってしまいました.私の存在が気に入らなかったようです.少しすると5mぐらい上流の水際から,キイロサナエの交尾態が飛び立ちました.そこで産卵を継続していたようです.オスに見つかりお持ち帰りになりました.残念です.しかし,このポイント,何の変哲もない草の生えたなだらかな岸辺なのですが,産卵にやってきますね.こういうポイントを見つけることが,写真記録の成否を分けます.

さて,もう少し待ちましたがメスはやって来ませんので,別のトンボを見に行くことに凍ました.まずはハッチョウトンボ.ちょうど正午過ぎになりましたので,ハッチョウトンボが繁殖活動を行う時間帯です.


▲ハッチョウトンボのオスとメス.メスは産卵に来ていた.▲

案の定1頭のメスがオスに警護されながら産卵をしていました.交尾を見なかったので,もう産卵を始めてから時間が経っているのでしょう.すぐに飛び立ってしまいました.今年のハッチョウトンボは結構数が多いようです.

池ではキイトトンボが活動を始めていました.


▲キイトトンボたちが繁殖活動を始めていた.いよいよ夏だ...▲

キイトトンボのオスは,通常胸部が淡い黄緑色をしているものですが,1頭だけ,緑がかっていないオスがいました.何気ないことですが,結構珍しい気がします.


▲胸部が淡い黄緑色をしていないキイトトンボのオス.▲

オオイトトンボも今年は少し数が増えて,クロイトトンボより目立っていました.時期的な問題かもしれません.クロイトトンボは早い時期からたくさん羽化しますから.


▲オオイトトンボの交尾と産卵.▲

それから今日もまたクロスジギンヤンマが目の前に産卵にやってきました.今年これで4回目かな.今年はクロギンの当たり年です.


▲クロスジギンヤンマの産卵.▲

先日も書きましたが,この時期のクロスジギンヤンマはメスの複眼の上部が透き通っているので,ちょっと感じが違います.

あと目撃したトンボは,シオカラトンボ,クロイトトンボ,モートンイトトンボ,モノサシトンボ,ショウジョウトンボ,コフキトンボ,ハラビロトンボなどで,春の生き残りのヤマサナエ,コサナエ,トラフトンボなどがいました.


▲成熟して水色がきれいにでているモノサシトンボのオス.▲


▲まだトラフトンボが飛んでいた.結構遅い記録である.▲

トンボの多いところへ来ると,やはり幸せな気持ちになります.ここ何回かの神戸市内の調査とは天地の差ですね.トータル3時間半ほどの観察でした.

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No. 918. 神戸のトンボ調査(10)2023.6.13.

今日は一日家にいるつもりでしたが,なんか朝から太陽が顔を出したりして,梅雨の中休み状態しかし曇りベースという感じでしたので,神戸市内のトンボ調査に出かけることにしました.一応狙いはオオイトトンボとしました.

オオイトトンボの過去の記録地である植物園と,もう一つこの春見つけたタヌキモが生えている池です.しかし,どちらもクロイトトンボは飛んでいましたが,オオイトトンボは姿がありませんでした.オオイトトンボは神戸市では本当に見つけにくいトンボになりました.以前も一日歩き続けて探しましたが見つからずでした.まだ当てはありますので,後日出かけてみます.

まあそんな中で今年の初出会い記録を増やすことができましたので,順次紹介していきましょう.まずはモノサシトンボ.


▲No.24:モノサシトンボの未熟オス(上)と未熟メス(下).▲

モノサシトンボは一つの池で結構たくさん飛んでいました.まだまだ羽化が続いているような状態でした.次はショウジョウトンボ.


▲No.25:ショウジョウトンボのオス(上)とメス(下).▲

そしてアオイトトンボがもう羽化を始めていました.


▲No.26:アオイトトンボの未熟なメス.▲

さらに,最後に寄った別の池ではオオヤマトンボが飛んでいました.


▲No.27:オオヤマトンボのオス.▲

今年は早春のトンボたちもまだまだ生き残っているようで,フタスジサナエが元気に飛んでいました.


▲フタスジサナエのオス(上)とメス(下).▲

そのほか最初に立ち寄った池では,イトトンボたちが草むらで休んでいました.


▲まだ午前中なので,アオモンイトトンボの交尾タイムである.▲


▲セスジイトトンボのオスとメスも摂食中.▲


▲クロイトトンボも草むらでお休み中.▲

この写真で,クロイトトンボのオスの翅胸前面の淡色条が非常に太い(広い)のでなんかセスジイトトンボとの交雑種みたいに見えます.後この池では,オオヤマトンボ,コフキトンボ,コシアキトンボ,シオカラトンボなどが見られました.

あと欲を出してサラサヤンマとハッチョウトンボを見に,過去に記録のある湿地に行きましたが,何もいませんでした.昔ハッチョウトンボが消えて,その後ずっと途絶えたままになっています.復活も,種の供給源がないのでしょうね,このまま何もいない湿地状態が続きそうです.本当にトンボがいません.

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今日は,神戸のトンボ調査を始める前に,ちょっと隣市の森林公園を覗いてみたのです.なんとクロスジギンヤンマが産卵に来ていました.今年はクロスジギンヤンマの産卵によく接近遭遇します.それも写真が撮りやすい位置に産卵に来てくれます.これで3回目です.


▲クロスジギンヤンマの産卵.複眼上部が透き通り老熟を感じさせる.▲

この公園でも春のトンボがまだ活動していました.ヨツボシトンボとフタスジサナエとヤマサナエです.

▲ヨツボシトンボ(上),フタスジサナエ(中),ヤマサナエ(下).▲

あとチョウトンボが羽化を始めていました.ショウジョウトンボとシオカラトンボとクロイトトンボは元気いっぱいでした.


▲ショウジョウトンボ.数はあまり多くはなかった.▲


▲クロイトトンボはまた数が増えたように感じた.▲


▲シオカラトンボ.▲

やはり6月は多種のトンボに出会えます.ただ観察モードではなく調査モードなので,止まっている写真ばかりになりました.

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No. 917. 神戸のトンボ調査(9)2023.6.9.

今日も隙間時間を利用して,市内トンボワンポイント調査に出かけてきました.昼頃から薄曇りになり気温も上がってきましたので,トンボが飛ぶと思いました.市内であれば移動時間もかからないし,こういった突然の天気回復に対応できます.今日の狙いは普通種です.

最初は,アオモンイトトンボを見に行きました.以前は沈水・浮葉植生が非常に豊富であった市内の池です.今は抽水植生を除いて全く消えています.最初に出会ったトンボはコフキトンボでした.まだ羽化直後という感じです.


▲No.18:コフキトンボのオスとメス.まだ粉も十分吹いていない未熟個体だ.▲

一昨日コフキトンボを見に行きましたが,そこもまだ未熟な個体ばかりでした.今年は,早春のトンボは出現が早かったのですが,いわゆる春から初夏にかけて出現するトンボはいつもと同じか,やや遅れて出現しているように思えます.

狙いのアオモンイトトンボを探すべく,池堰堤の草地を歩いて行きましたら,嬉しいことにセスジイトトンボがいました.メスばかり4頭見つけました.オスは池面に出ているのかもしれません.この池は水際に下りるのが難しいので,メスだけの確認で我慢しました.


▲No.19:セスジイトトンボのメス.一番下の個体は成熟している.▲

セスジイトトンボは最近見かけにくくなっていますので,市内の池に残っていたことを嬉しく思います.もっともこの池はかつて沈水植生が豊かだった頃には,軽く3桁の個体数がいましたから,激減はしていますけどね.そしてさらにしばらく歩くと,アオモンイトトンボがいました.


▲No.20:アオモンイトトンボのオスとメス.▲

写真がピンボケしていましたが,成熟した個体も見られました.この池ではそれ以外のトンボの姿がありませんでした.やはりトンボ目の個体数は非常に少ないと言えるでしょう.

この池はこれくらいにして,別の観察場所に移動しました.市内にある森林公園です.


▲No.21:コシアキトンボのオス.▲

コシアキトンボはもう水面で活動を始めていました.本当にこのトンボはどこにでもいるトンボですね.池の中程に突き出ている枯れ枝の先には,ウチワヤンマのメスが止まっていました.


▲No.22:ウチワヤンマのメス.▲

家に帰ってこの写真をよく見ると,ウチワヤンマの下にイトトンボが2頭止まっているのに気づきました.少し拡大してみました.


▲ウチワヤンマの下に止まるイトトンボ.クロイトトンボ(左)と???.▲

左側のトンボはクロイトトンボですが,右側のトンボは明らかにクロイトトンボではありません.クロイトトンボ属ではあるようで,オオイトトンボ,セスジイトトンボ,ムスジイトトンボのどれかです.無理を承知でさらに拡大してみました.すると,眼後紋が目立たないこと,複眼の下部が青色をしていること,前肩条の中に淡色部が見られないことなどから,ムスジイトトンボであると判定しました.


▲No.23:ムスジイトトンボのオス.▲

さらに,ムスジイトトンボ,セスジイトトンボ,オオイトトンボの写真をいったんぼかしてからシャープネスをかけて,上の写真と同じような状態にして比較してみました.


▲わざとぼやけさせた処理をして比較対照を作製したもの.▲

このような処理をしても,セスジイトトンボとオオイトトンボは,眼後紋が見えます.しかしムスジイトトンボの眼後紋は不明瞭になりました.また背隆線上の黒条と前肩条の間の淡色部分の幅が,セスジイトトンボでは狭く上の写真はムスジイトトンボに近いです.オオイトトンボは腹部代8,9節の水色部分の背面に黒斑がありまが,上の写真ではそれがないように見えます.やはりムスジイトトンボが妥当だと考えます.まあ,機会があればこの池にまた調査に入って確認してみたいと思います.

ということで,普通種発見調査はまあまあというところでした.あとキイトトンボも目撃しています.神戸市内で23種撮影・確認完了.30~40種くらいまでは簡単にいくのですが,50種を超えるあたりからが大変です.オツネントンボ,オグマサナエ,ムカシヤンマは今年は逃してしまったことはほぼ確実です.サラサヤンマとヤマサナエもそろそろ危ないかな.やはり1年では無理で,来年も市内調査を続ける必要があるかもしれません.

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No. 916. オオヤマトンボの産卵.2023.6.7.

今日は曇りの予報でしたが,天気予報が変わり,薄曇り的に晴れました.この時期の太陽は貴重ですので,いつもの池にウチワヤンマやコフキトンボやコシアキトンボの産卵を見に行くことにしました.


▲ウチワヤンマのオス.2頭だけ見た.▲


▲コフキトンボのオス.まだ複眼が黒くなく若い.▲


▲活動しているコシアキトンボがいる一方で,まだ羽化している.▲

ここ2,3年,ウチワヤンマやコフキトンボの活動時期が早まっている印象を持っていましたが,今年は少し遅れているようです.ウチワヤンマの個体数も少ないですし,コフキトンボもまだ若い個体しかいません.コシアキトンボは池面で活動している個体が少しはいましたが,まだ羽化が継続しているようでした.池岸の植生をきれいに刈り取っていたので,ちょっとトンボが集まりにくい感じはしました.しかしたぶん,まだ時期的にちょっと早いのでしょう.もう少ししてからが狙い目のようです.

そんな中で,オオヤマトンボのオスが2頭,池を周回して飛んでいました.


▲オオヤマトンボが池を周回するように飛んでいた.▲


▲目の前を行ったり来たりするオオヤマトンボ.▲

こうなると狙いを変更し,オオヤマトンボの産卵をターゲットにしました.今まで幾度となくオオヤマトンボの産卵を狙ってきましたが,どうも目の前で産卵を見る機会に恵まれませんでした.しかし今日はほぼ初めてと言っていいでしょう,オオヤマトンボに狙いを定めて,産卵メスが目の前に入ったというのは...


▲オスと同じようなコースでメスが進入してきた.▲

メスはオスと同じようなコースで飛んできたので,はじめはオスだとばかり思っていました.そんな感じでしたので,目の前を通り過ぎてから産卵を始めたとき,少し慌ててしまいました.


▲目の前を通り過ぎたとき,初めてメスだと気づいた.▲


▲目の前を通り過ぎてから産卵を始めた.慌てて産卵場所へ走った.▲

イメージとしては左右に往復しながら打水するので,横の位置から撮ればうまく撮れるのではないかと考えていました.でも実際は同じ位置で往復移動するのではなく,少しずつ移動しながら往復打水するので,こちらも移動しながら撮影することになり,ファインダーに入れるのが非常に難しく,半分以上視野から外れてしまいました.


▲まず岸辺に平行に飛ぶ.オオヤマトンボのメス.▲


▲続いて,体をいったん岸とは反対の方向にひねる.▲


▲打水するときは体を岸の方にひねり直す.水滴が岸に向かって飛んでいる.▲

オオヤマトンボのメスは,岸辺のラインに沿って平行に移動しながら打水しますが,打水の前にはいったん岸辺とは反対の方向に体をひねり,その後体を岸辺の方にひねり直すときに打水します.その結果水滴は,打水位置から岸辺の方に向かって飛ぶことになります.上の写真にはその様子をうまく捉えることができました.打水位置から岸辺に向かって水滴が飛んでいます.いままでビデオではこの様子を捉えることができていましたが,スチル写真では初めてです.今日一番の収穫でしょう.


▲その後も産卵は続いたが,...▲

その後も産卵は続きましたが,なんと,こんな時に限って周回オスがやってくるのですね.オスの写真を撮ろうと待っているときには全然来ないのに...オスはしっかりとメスを捕らえ,交尾態になりながら,池の外へ連れ去りました.やけくそでシャッターを切りましたら,逆光ではありましたがピントが来ていました.


▲メスはオスに見つかり,お持ち帰りされてしまった.▲

まだいつものトンボたちが出始めで静かな池でした.そのときに狙えるトンボを観察するという鉄則で,オオヤマトンボの記録を取ることができました.今日はここまで.

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No. 915. 今日はトンボがいるところへ行く.2023.6.4.

昨日があまりにも欲求不満がたまる調査でしたので,今日はトンボが確実に見られるところへ出かけることにしました.つまり例年出かけているところに行くということです.

まずは源流域へヒメクロサナエとクロサナエを見に行くことにしました.今年はクロサナエの姿をまだ見ていませんので,そちらがターゲットです.朝8:20ごろに現地に入り,12;20ごろまで4時間粘りました.しかし成果はほとんどありませんでした.今日の予報は晴れなのに,日が差していませんでした.観察地の上空に帯状の雲があって,その両側は青空.なんで私のいるところだけが曇っているのだろう... 半日肌寒い時間を過ごしました.

サナエトンボは天気に左右されます.一時,薄日が差して少し温かく感じる時間帯がありました.そのときトンボたちに動きがありました.今日のヒメクロサナエのオスは止まろうとせず,メスが産卵しそうなところをのぞき込むような飛び方をして,どこかへ行ってしまいます.メスも2回ほど飛びました.そのうち1回,メスは水を飲もうとしたのでしょうか水面に衝突しました.目測でも誤ったかな? そして体が濡れ,すぐ近くの葉に止まって休憩しました.


▲水に落ちて慌てて跳び上がったヒメクロサナエのメス.▲

今日もクロサナエには出会えず,もう下りてくる場所を変えたのかなぁ? 今年は,Davidius 属がこの場所にあまりいません.帰りに Davidius 属のヒラサナエをのぞき込みましたが,やはり2頭だけでした.


▲ヒラサナエもこの2頭を見ただけであった.▲

今年はトンボの出現時期が例年と違うのか,どうも例年通りに出かけても思った通りに思ったトンボに出会えないことが多いです.

ということで,午後は,池の方に行くことにしました.ちょっと流れをのぞいてみると,ニホンカワトンボのオスがメスの後ろに止まり,何かメスにアピールしているような行動が見られました,


▲ニホンカワトンボのオスとメス.▲

池にはイトトンボたちがいました.イトトンボが当たり前にいることに安堵感を覚えます.オオイトトンボ,クロイトトンボ,モートンイトトンボなどが活動していました.写真になりませんでしたが,キイトトンボも連結態で飛んでいました.


▲オオイトトンボの産卵,途中からメスが潜水した.▲


▲産卵するオオイトトンボたち.▲

ちょうどオオイトトンボの産卵時間帯だったようです.あちこちで産卵している姿が見られました.一方モートンイトトンボの方は産卵時間帯が終わったのでしょうか,メスも摂食ばかりしていました.


▲モートンイトトンボは今がシーズンである.▲

クロイトトンボの数が一番多かったです.池の水面近くを飛び回り,あちこちで産卵もしていました.


▲産卵するクロイトトンボたち.▲

モノサシトンボも日陰に止まっていました.


▲モノサシトンボのオス.▲

まだ早春のトンボも生き残っていました.トラフトンボがクロスジギンヤンマを追い散らしています.こっちの方が小さいのにクロスジギンヤンマは追いかけようとしません.


▲まだトラフトンボが飛んでいる.▲


▲ホソミオツネントンボの単独産卵.▲

ホソミオツネントンボも産卵していました.連結産卵が2組いましたが,面白いのは上の写真のメスの単独産卵です.6月ぐらいになると,ホソミオツネントンボの単独産卵も時々見られるようになります.オスがいなくなるのでしょう.ただ,なおここでは別の意味で興味深い写真なのです.それは体が褐色をしていることです.この早春のホソミオツネントンボの観察で,「まだ青くなっていない」という言い方で褐色のメスを紹介していました.そのときこの個体は青くなるのだろうかと疑問を呈しておきました.この時期まで青くなっていないということは,ホソミオツネントンボには青くならない個体がいるという言い方をしてもよいと考えます.

あとコサナエも1頭見かけました.次はこの時期のトンボたちです.まずはショウジョウトンボ.もうすっかり晩春から初夏に現れるトンボになってしまいました.もう一つはハッチョウトンボ.今年も元気に出ていました.


▲ショウジョウトンボのストメス.メスは産卵にやってきた個体.▲


▲ハッチョウトンボのオスとメス.▲

シオカラトンボが一番たくさんいました.未熟な個体から成熟個体,交尾,産卵など様々な活動が見られました.


▲活動するシオカラトンボたち.▲

今日はキイロサナエの姿を探すことも目的の一つでした.池を離れて草原に入って探しました.キイロサナエには会えませんでしたが,ヤマサナエがいました.また樹上に飛び上がったトンボがいて,体が見える位置ではありませんでしたので,翅が見るように写真を撮ると,その縁紋の細長さからムカシヤンマであることが分かりました.


▲ヤマサナエ.午後だったせいか,草原にたむろしていた.▲


▲葉の上に止まったトンボ.縁紋が細長いことからムカシヤンマである.▲

今日はトンボがたくさんいました.これが普通なのですね.かつての神戸もそうでした.ということで,今日はおしまいです.

カテゴリー: 兵庫県のトンボ, 観察記 | No. 915. 今日はトンボがいるところへ行く.2023.6.4. はコメントを受け付けていません

No. 914. 神戸のトンボ調査(8)2023.6.3.

台風一過,今日はお昼前からよく晴れたので,神戸市内のトンボ調査に行ってきました.3年前にいただいた情報で,サラサヤンマを見つけたというのがあったので,今日はそこへ行ってみることにしました.湿地のようなところがありましたが.残念ながらトンボはいませんでした.

そこで,周辺の池を順番に回っていくことにしました.しかし本当にトンボがいません.2時間半ほど歩き回って,シオカラトンボが10頭あまり,ギンヤンマが4頭ほど,そしてタベサナエが1頭でした.


▲老熟したタベサナエのオス.▲

30年ほど前に神戸市内の調査を盛んにやっていた頃,本当にタベサナエの姿がありませんでした.フタスジサナエばかりという感じでした.今年はこれで2カ所目です.前回見つけた場所とは山続きにはなっています.神戸でタベサナエが増えつつあるのでしょうか.

まあそれはいいとして,景色のいい田園地帯を歩いても,全くトンボがいないというこの状態,なんか本当に恐ろしさを感じます.このサイトを始めた頃は,神戸市内にはたくさんのトンボが見られました.今日来たところも,以前何度もやって来たことがあります.アオヤンマ,ネアカヨシヤンマ,ヤゴをすくえばマルタンヤンマなどが採れ,チョウトンボ,オニヤンマ,コシアキトンボなどが飛び交っていました.かつて「トンボ飛び交う街 神戸」というNHKの番組に出て神戸のトンボを紹介したことがありましたが,もうあの頃の面影は皆無です.

今はほとんど何もいません.下の写真は,今日調べた一つの池です.池の上流部に湿地が見えています.さらにこの上にも池があります.集水域には水田はありません.この景色の中にトンボが全くいないのです.いや,シオカラトンボはいました.2頭だけ.こんな田園地帯,全く信じられません.


▲今日調べた池の一つ,ものすごく見た目の環境はいい.▲


▲上の写真の上側にある池.イトトンボ1匹飛ばない.▲

さらにいくつかの谷筋の池に入ろうとすると,あちこちに「立入禁止」の立て札が立っています.最近よくニュースになる作物の泥棒でも入るのでしょうか? 入るなという根拠が何も書かれていないので,おそらく農家の方が入ってきてほしくないからなのでしょう.私有地ならそう書くはずですから.こんなこともあり,トンボを調べられません.神戸市内ではだんだんとトンボの調査がやりにくくなってくることを感じます.六甲山などでも,観光開発のせいでしょうか,あちこち立入禁止になっていますし,車を止めるのも駐車料金がいります.先日ムカシトンボを見に行ったときは,駐車料金や交通機関のお金で2,200円ほどかかりました.

このサイトのタイトルは「神戸のトンボ」ですが,なんか,神戸にはたくさんのトンボがいるという紹介ではなく,「トンボが衰退していく街 神戸」の記録になりそうで悲しいです.

ということで,今日は愚痴ばかりになりましたので,「観察記」ではなく「エッセイ」にしました.

カテゴリー: エッセイ, 神戸市のトンボ | No. 914. 神戸のトンボ調査(8)2023.6.3. はコメントを受け付けていません

No. 913. 神戸のトンボ調査(7)2023.6.1.

今日は台風がやってくる直前の晴れ間,お昼頃から曇ってくることは必至なので,足下の自然を見ると言うことで,家から10分かからないところへトンボ観察に行きました.今年は神戸市内のトンボにどれくらい出会えるかということを一つの目標にしていますので,足下へもきちんと行ってみることにしました.わずかな隙間時間にはぴったりの調査です.


▲家から10分かからないところにある谷筋.▲

まずは,昔,黄昏飛翔を見に行った谷筋(上の写真)へ行ってみました.ところが「恐ろしい」ことにトンボが全くいません.本当に何もいないのです.道路の反対側にはきれいな水の流れる小川があり,感じとしてはヤマサナエなどが飛びそうです.荒れた天候の次の快晴の日,トンボは出てくるはずです.でもいない.本当に田園地帯は荒れていることが強く感じられました.

とにかく上流の方に上がっていきトンボに出会わないので引き返したとき,コサナエ属らしい影が樹上に飛び上がったのを見ました.正体は分からず.さらに少し行くと,やっとトンボを見つけました.シオカラトンボのオスです.見ているとメスが入り,交尾しました.


▲やっと見つけたシオカラトンボの交尾.▲

やがて交尾は解かれ産卵かと思いきや,このメスご覧の通り左前翅がほぼ失われています.そのせいか飛ぶことができず,水に落ち,這い上がってきました.オスの方は少し前に止まったままです.


▲メスは水に落ち這い上がった.オスは止まったまま.▲

たったこれだけですが,トンボがいただけでもよかった.帰り道,車に驚いて道路から飛び立ちサナエトンボがいました.緑の眼で黒と黄色の縞模様,地面にペタッと止まっていたこと,そしてその大きさから,多分ヤマサナエでしょう.いることはいたようですね.

このあと,反対側の谷へも入ってみました.いくつかの普通種がいました.


▲ハラビロトンボのメス.ハラビロトンボは数頭見られた.▲


▲No.17:オオシオカラトンボのオス.▲


▲シオヤトンボのオス.今日はシオカラトンボ属全種が一同に見られた.▲


▲フタスジサナエのオス.▲

谷筋に入っていったのは,期待はしていませんでしたが,オグマサナエに出会える可能性がゼロではないからです.10年ほど前,この近くでオグマサナエを見ていますので.

家のまわりにも普通種なら結構いるみたいです.

カテゴリー: 神戸市のトンボ, 観察記 | No. 913. 神戸のトンボ調査(7)2023.6.1. はコメントを受け付けていません

No. 912. 神戸のトンボ調査(6)2023.5.27.

今日は晴れる予報で,以前から六甲山をハイキングしながら,ムカシトンボやその他のトンボを調べる予定にしていました.しかしこの2,3日の間に曇りベースに予報が変わり,どうしようかと考えました.来週は台風が接近するかもしれないし,ムカシトンボはもう時期的に引き延ばすことができないし,ということで,出かけることにしました.麓に車を止め,六甲山までは公共交通機関を使い,歩いて降りてくるというコースです.

ムカシトンボの生息する流れは,残念ながら曇天で気温が低い状態.これでは出てこないと思いながらも,1時間は待機しました.しかし天候の回復も望めず,10:30,現地を後にしました.ただ,フキが生えているところがあり,葉柄を調べましたら,産卵痕がありました.ムカシトンボは,まだこの地で生き続けているようです.


▲No.14:ムカシトンボ.流畔のフキの葉柄に見られたムカシトンボの産卵痕.▲

卵ですが,まあこれもムカシトンボに違いないので,カウントしておきました.ヒメクロサナエは全く動きがありませんでした.

今日は引き返さず,そのまま麓まで下ります.途中山道が川と交差するところがあり,そこで,ダビドサナエとミヤマカワトンボに出会いました.神戸市のトンボの再調査で,これらのトンボを見るためにわざわざ一日を潰して出かける必要がなくなりましたので,ラッキーでした.


▲No.15:ダビドサナエのオス.▲

ダビドサナエは最近本当に出会わなくなりましたが,こういう上流の環境へ出かけないからかもしれません.六甲山の渓流にはちゃんと居ました.少し日が差したのがよかったのでしょうね.


▲No.16:ミヤマカワトンボのメス.▲

あと,アサヒナカワトンボに出会いました.


▲アサヒナカワトンボのオスとメス.オスは脚がちぎれている.▲

山から下りると晴れてきましたので,帰りに,市外へアオヤンマの様子を見に行きました.アオヤンマは飛んでいましたが,すぐに池から出て行ったりして,落ち着きがなく,また午前中に来た方がよいような感じでした.いずれにしても今年も生き残っていました.

今日は山下りをして神戸のトンボ調査を行いました.

カテゴリー: 神戸市のトンボ, 観察記 | No. 912. 神戸のトンボ調査(6)2023.5.27. はコメントを受け付けていません

No. 911. 台湾のトンボたち:不均翅亜目.2023.5.27.

さて,台湾のトンボたちの最終回は,シオカラトンボ属を除く不均翅亜目です.今回の台湾旅行では,サナエトンボ科のすがたを見ることがほとんどなく,私が見たのは,5mぐらいの高さの樹木の葉の上に止まった正体不明のサナエトンボ1頭だけでした.同行した友人はカレンサナエ Asiagomphus pacificus を1頭確認しました.彼によると,もうちょっとたくさん見られるはずだと言っていましたが,今年は春先の天候がちょっと異常だったので,それが原因しているかもしれないとも言っていました.

サナエトンボ科 Gomphidae 以外にも,ヤマトンボ科 Macromiidae はタイワンコヤマトンボ数頭,ミナミヤンマ科 Chlorogomphidae は上空を飛ぶ個体を5頭ほど,オニヤンマ科 Cordulegastridae とエゾトンボ科 Corduliidae はゼロ,ヤンマ科 Aeshnidae はリュウキュウギンヤンマと友人が見たタイワンヤンマ Planaeschna taiwana と私が目撃したカトリヤンマ属 Gynacantha sp. の1頭だけで,トンボ科 Libellulidae 以外の不均翅亜目にはあまり出会うことができませんでした.

ということで,今日は主にトンボ科,そしてそれ以外に出会った一部のトンボたちを紹介します.ただこれらのトンボたちは十分に観察が出来ず,ほとんど止まっていたり飛んでいたりした個体を撮影したものです.

本論に入る前にひとつだけふれておきましょう.私には,時々メール交換をしている,台湾在住のトンボ研究者の知人がいます.彼に,台湾名の構造について教えてもらいました.台湾のトンボの種名は漢字4文字に統一されていて,そして最初の2文字が種名,後半の2文字が科名になっているそうです.種名は,学名の種小名から取ったもの,そのトンボの特徴から取ったものなど,特に決まりはありません.

例えば,アオナガイトトンボの台湾名「痩面細蟌」は,「細蟌」が科名のイトトンボ科(細蟌科)を示し,種名の「痩面」は小さな頭という意味です.これは学名の Pseudagrion microcephalum の種小名 microcephalum の意味するもの,つまり「micro=小さな,cephal=頭(接頭辞)」から名付けられているそうです.またタイワンハグロトンボの台湾名「白痣珈蟌」は,「珈蟌」がカワトンボ科(珈蟌科)を示し,種名の「白痣」は白い縁紋というメスの特徴からつけられているということです.

Nannophyopsis clara 台湾名:漆黑蜻蜓
台湾名は「真っ黒のトンボ」という意味です.


Nannophyopsis clara ハッチョウトンボほどの大きさだ(D),2023.5.18. ▲

日本名はアサケトンボと言います.日本には分布していません.ハッチョウトンボの親戚みたいな小さなトンボですが,とても面白いトンボです.日本のハッチョウトンボのメスを初めて見たときに私が強く感じたことは,これはハチの擬態ではないかということでした.体が小さく黒と白と黄色の縞模様で,飛んでいる姿がハチが飛ぶ姿にそっくりだからです.台湾で撮影したものではありませんが,一枚だけ紹介しておきましょう.


▲日本のハッチョウトンボのメス.ハチのような色彩・サイズである.▲

アサケトンボの方は,オスがハチ(ジガバチ類)にそっくりに見えます.メスには出会っていないのでそちらの様子は分かりません.とにかくその写真を見てください.


▲私にはジガバチを連想させるアサケトンボの形態と行動(D),2023.5.18. ▲

このトンボ,写真のように腹部先端が膨らんでおり,そしてそれを下の方に曲げる姿勢を取ることが非常に多いのです.そしてその先端についている尾部付属器で,止まっている草の葉の表面を突くような動作をします.まるでハチが刺しているようです.


▲普通に止まっているときもあるが,何かのきっかけで….(D),2023.5.18.  ▲


▲ハチが刺すような動作を見せるアサケトンボのオス(D),2023.5.18. ▲

下の写真は別の日に撮影したジガバチの写真です.腹部先端の形がそっくりなことが分かるでしょう.やはり小さいトンボは,他のトンボや捕食者にねらわれやすいからでしょうか,こういった擬態を進化させてきたのかもしれません.


▲ジガバチの一種.腹部先端の膨らみ方がアサケトンボの腹部先端とそっくりだ.▲

アサケトンボについては,メスそのものや,産卵活動などを観察することができず,非常に残念でした.あと何枚か写真を掲載しておくことにします.


▲アサケトンボ Nannophyopsis clara のオス(D),2023.5.18. ▲

この場所へはこのトンボを見ることが目的でしたので,うまく出会えてよかったです.

◆アカスジベッコウトンボ Neurothemis ramburii 台湾名:善變蜻蜓
台湾名は「気まぐれなトンボ」という意味みたいです.

台湾名に関して友人が「おそらくその赤みがかった色に多種多様の変異が見られるので,『変化が得意・一貫性がない=気まぐれな』というような意味なのだろうと教えてくれました.またここでは「台湾的蜻蛉」の掲載の学名 N. ramburii を用いていますが,多くの出版物では N. taiwanensis を使っているとも教えてくれました.

アカスジベッコウトンボは,日本では2006年に与那国島で見つかって以来,西表島にも入り込み,現在は我がもの顔でそれらの島々で飛んでいるとのことです.それ以外に同属のよく似たトンボが飛来しており,これらのトンボの総称としては,ベッコウトンボというのが別にいるために,わたしは学名のネウロテミスというのを使っています.おそらくアカスジベッコウトンボは台湾から飛来したのでしょうね.台湾ではもっとも数の多いネウロテミスですから.

このトンボは,今回見たいトンボの一つでした.国内に飛来しておそらく定着して以来,南方へトンボを見に行ったことがないので,まだお目にかかったことがないからです.幸い,オスたちが集まっている場面や,産卵に訪れたメスを見ることができました.


▲アカスジベッコウトンボのオスたち(A),2023.5.17. ▲

木々に囲まれたちょっと薄暗い水たまりに,4頭ほどのアカスジベッコウトンボが飛んだり止まったりしていました.追飛行動も盛んに行われていました.メスの方は,上記のオスと違って,小川に産卵に来た個体でした.産卵方式は普通の連続打水産卵です.藻の間をねらって打水していました.


▲連続打水産卵するアカスジベッコウトンボのメス(B),2023.5.17. ▲

ここでは種名をアカスジベッコウトンボとしていますが,この仲間は翅脈で見分けるそうです.特にメスの方がブレてしまっていますが,一応拡大してみました.


▲今回撮影した Neurothemis の前翅三角室の拡大.左がオス右翅と右がメス左翅.▲

三角室にたくさんの翅室があり,いずれもアカスジベッコウトンボ Neurothemis ramburii として矛盾はないようです.

◆コシアキトンボ Pseudothemis zonata 黄紉蜻蜓
台湾名は黄色でくくられたというような意味になるそうです.腹部の黄色い帯から来ているのでしょうね.

日本では,北海道を除いて,ある意味どこにでもいるトンボ,コシアキトンボ.台湾にもいました.5頭ほどが日本と同じように池岸を行ったり来たりしていました.まあ,コシアキトンボとはあまり長居することなく,さっさとお別れしたことは言うまでもありません.


▲コシアキトンボ(D),2023.5.18. ▲

ただ一つ注目しておくべきことは,コシアキトンボの分布です.トカラ列島から奄美大島を経て沖縄本島(飛来記録はある)まで分布の空白地帯があります.八重山には分布しているので,こちらは台湾とのつながりが深い個体群でしょう.こういう日本と台湾との共通種で,南西諸島あたりに分布の空白地帯があるトンボはいくつかあります.トンボの地史を考えるに当たっては面白いテーマです.

◆オオメトンボ Zyxomma petiolatum 台湾名:纖腰蜻蜓
台湾名は「細い腰のトンボ」という意味です.

オオメトンボは,観察地Aにある小さな水たまりに集まっていました.初日時間があったので,台湾到着の夕方トンボを見に行ったのですが,空は曇っており薄暗かったのがよかったのでしょう.オオメトンボが数頭飛び交っており,交尾態で飛んでいる個体もいました.写真はすべてだめでした.オスが交尾を解いた後,メスはすぐに産卵を始めました.


▲オオメトンボ Zyxomma petiolatum のメスが産卵している(A),2023.5.16. ▲

とにかく暗いところを黒っぽいトンボがすばしこく飛び回っているので,もう完全に勘のみに頼って撮影しました.たった1枚だけ見られそうな写真が上のものです.

オオメトンボは水面に浮かんでいる浮遊物や,水面から突き出た枯れ木の枝などに卵を貼り付けます.最初は打水産卵しているように見えましたが,同じところを往復しながら産卵するので,よく見ると藻のような浮遊物がありました.

次の日,また夕方に行く機会があり,撮影に挑戦しましたが,やはりうまくいかず,1枚だけなんとかという写真が撮れました.


▲オオメトンボ Zyxomma petiolatum の産卵.(A),2023.5.17. ▲

不規則に敏捷に飛ぶトンボは記録が難しいです.なお,日本では南西諸島を中心に分布しており,台湾と分布がつながっているようです.

◆コシブトトンボ Acisoma panorpoides panorpoides 台湾名:粗腰蜻蜓
台湾名は「太い腰のトンボ」という意味です.日本名と同じですね.

コシブトトンボは南西諸島の奄美諸島以南に分布し,分布域は台湾とつながっているように見えます.台湾では極めて普通種と書かれています.確かに観察地Dでは,たくさん見られました.小さくてすばしこく草の間を飛び回っていました.


▲コシブトトンボ Acisoma p. panorpoides のオス(D),2023.5.18. ▲

▲コシブトトンボ Acisoma p. panorpoides のメス(D),2023.5.18. ▲

あまりにたくさんいたので,例によって,写真はあまり多くありません.オス・メスが同じ草むらで生活していますが,とくにオスがメスを追いかけるといった行動も目にしませんでした.


▲コシブトトンボのまだ未熟なオス.胸部は褐色で複眼も輝いていない(D).▲

◆アオビタイトンボ Brachydiplax chalybea flavovittata 台湾名:橙斑蜻蜓
台湾名は「橙色の斑紋があるトンボ」の意味

アオビタイトンボは神戸で偶産記録があるトンボです.最近日本では北上傾向が叫ばれており,台湾,そして南西諸島から,九州,山口県へと分布が北へ広がっています.


▲アオビタイトンボのオス.Brachydiplax chalybea flavovittata (D),2023.5.18. ▲

台湾名の橙色の斑というのが何を指すのか分かりませんが,翅の基部がきれいなオレンジ色で,よく目立ちます.メスを見ることがありませんでしたが,私が隣の池に移動している間に,警護産卵が行われていたようです.メスは池周辺の樹林にいると書かれています.メスは黒と黄色の色彩です.


▲半成熟個体は正面から見るとまた別の美しさがある(D),2023.5.18. ▲

Rhyothemis triangularis 台湾名:三角蜻蜓
台湾名は「三角のトンボ」という意味で,学名から来ているのでしょう.

台湾で見たいトンボの一つに,ハネナガチョウトンボ Rhyothemis severini severini がいました.友人は見られるだろうと言っていましたが,残念ながら我々が訪れた日には飛んでいませんでした.代わりにハネナガチョウトンボよりずっと小さい,日本名ヒメチョウトンボ Rhyothemis triangularis が5,6頭いました.こちらは日本には分布しません.いわゆるチョウトンボのように飛びます.飛んでいるところの写真は失敗でした.


Rhyothemis triangulare のオス(D),2023.5.18. ▲

あと,台湾には,最近与那国島に飛来したサイジョウチョウトンボ Rhyothemis rigia rigia が記録されていますが,台湾でも飛来種だそうです.

◆オオキイロトンボ Hydrobasileus croceus 台湾名:硃紅蜻蜓
 台湾名は「朱色のトンボ」という意味です.

日本では沖縄本島より南部に分布しており,台湾へと続きます.種小名の croceus というのは,確か黄色の意味だったと思います.台湾名では「朱色の」となっています.ですから,学名から取ったのでもないようです.

今回は,近くを飛んだことはあったと聞きましたが,私は間近で見る機会に恵まれませんでした. 上空を飛行する個体を2頭見ただけです.


▲オオキイロトンボ Hydrobasileus croceusのメス(F),2023.5.17. ▲

◆ハネビロトンボ Tramea virginia 台湾名:大華蜻蜓
台湾名は「大きな花のトンボ」という意味です.

遭遇したのは,摂食飛翔していたのが遠くで止まった個体と,目の前を通り過ぎた個体の合計2個体だけでした.


▲ハネビロトンボ Tramea virginia のメス(E),2023.5.17. ▲


▲ハネビロトンボ Tramea virginia のオス(D),2023.5.18. ▲

ハネビロトンボにはもっと出会えるかと思っていましたが,案外少なかったです.まだ出始めだったのかもしれません.下の写真を見ていると,台湾名の「大きな花」というのがイメージできます.

Zygonx takasago 台湾名:高砂蜻蜓
 台湾名は「高砂トンボ」の意味で,学名から取ったものだと思われます.

日本名もそのまま,タカサゴトンボです.これは観察地Cでタンデムになって飛び回っているのを2回見ました.ただとても写真にはなりませんでした.写真に撮れたのは観察地Fで,上空を集団で摂食飛翔する個体でした.


▲摂食飛翔する Zygonx takasago(F),2023.5.17. ▲


▲集団で摂食飛翔する Zygonx takasago(F),2023.5.17. ▲

下の写真は非常に小さな点として,タカサゴトンボが7頭写っています.分かるでしょうか? トンボ科でありながら,ヤマトンボ科のように体に金緑色の光沢があります.

Trithemis festiva 台湾名:樂仙蜻蜓
 台湾名の意味は,おそらくその学名(種小名)から来ていて,festiva (祭り)が喜びを与えるので,台湾語の「幸せな人」を意味する「樂暢仙」から来ているのではないかと,友人が教えてくれました.

日本名はセボシトンボと言います.木を切った先に止まっていました.空を背にした逆光でよく分からなかったので,採集して名前を確認しました.採集個体を撮影し忘れました.川に多いトンボだそうです.


Trithemis festiva のメス.(F),2023.5.17. ▲

だんだんと写真の質が落ちてきました.こういう短期の旅行では,じっくりとねらうことができず,通りすがりにパチリということも多くなります.もうほとんど居た証拠だけというばかりの状態ですが,あと少しお付き合いください.

トンボ科は以上です.次はトンボ科以外に出会った不均翅亜目になります.

◆リュウキュウギンヤンマ Anax panybeus 台湾名:麻斑晏蜓
台湾名は,麻のような紋があるヤンマという意味です.「麻」は中国繁体字では少し描き方が異なるそうですが同じ意味です.

リュウキュウギンヤンマは,唯一池沼を調査対象とした観察地Dで,畑の上空を飛ぶ個体を見かけました.また産卵にも降りてきましたが,非常に敏感で,私が一歩動いただけで飛び去ってしまいました.今回は採集して確認した個体を撮影するのを忘れませんでした.


▲畑の上空を低く飛ぶリュウキュウギンヤンマ Anax panybeus(D),2023.5.18. ▲


▲産卵に降りてきたリュウキュウギンヤンマ Anax panybeus (D),2023.5.18. ▲


▲採集して確認した一番上の写真の個体.Anax panybeus(D),2023.5.18. ▲

観察地Dで遭遇したヤンマ科はこの1種だけでした.次はミナミヤンマ科です.

Chlorogomphus risi 台湾名:褐翼勾蜓
台湾名の「褐」の字は当て字で,「ヒ」でなく「ム」です.褐色の翅のミナミヤンマという意味ですしょう.

ミナミヤンマ科のトンボは,南方へ行ったなら是非見たいトンボの一つです.今回その姿を間近で…と思っていましたが,残念ながら,高空を飛ぶ個体を見ただけでした.それでも,のべ5頭ぐらいは見たと思います.ただ一過性の飛び方で,写真には撮りにくい相手でした.日本名では,タイワンミナミヤンマです.


▲タイワンミナミヤンマのオス Chlorogomphus risi(F),2023.5.17. ▲


▲タイワンミナミヤンマのメス Chlorogomphus risi(A),2023.5.18. ▲

最後は,ヤマトンボ科です.

◆タイワンコヤマトンボ Macromia clio 台湾名:海神弓蜓
台湾名は「海の神のヤマトンボ」という意味です.clioはギリシャ神話の神の名.

日本では西表島の奥深く入っていかないと見ることができないとされていたトンボです.現在ではかなりあちこちの川にいることが知られています.私も幼虫を奥深くない川で採集しています.

台湾では数回飛ぶ姿を見ました.ただ,非常に早く不規則に飛ぶので,写真撮影については全く手が出ませんでした.1回だけ目の前で産卵しましたが,前後に往復飛翔するので,全くピントが来ませんでした.左右に往復飛翔してくれれば撮れたのですが.ということで,種名確認のため採集した個体を撮影しました.日本のコヤマトンボに似ていますが,腹部の黄斑が上下で断ち切れています.


▲タイワンコヤマトンボ Macromia clio のオス (C),2023.5.18. ▲


▲タイワンコヤマトンボ Macromia clio のメス(B),2023.5.18. ▲

以上で台湾のトンボたちの紹介は終わりです.全部で33種を写真に収めることができました.あと,カトリヤンマ属の1種,タイワンウチワヤンマ,オオヤマトンボ,ヒメキトンボを見かけていますので,出会ったトンボは37種です.実質2日+アルファでの観察ですから,まあまあというところ.今回の目的種がサナエトンボであったことから,止水域へは1カ所だけで,後すべて河川でしたから.トンボ科が少なくなっているのでしょう.

記述に間違いがあればご教示いただければ幸いです.それでは.

カテゴリー: エッセイ, 台湾のトンボ | No. 911. 台湾のトンボたち:不均翅亜目.2023.5.27. はコメントを受け付けていません

No. 910. 池まわりで見つけたトンボたち.2023.5.25.

今日,友人の調査の案内役で,県南部の池をいくつか回ってきました.そこで見つけた今年初顔などのトンボを紹介しておきます.まずはサラサヤンマ.湿地状の廃田で摂食飛翔をしていました.時刻は午後,おそらくなわばり活動を終えて農道や廃田に出てきたのでしょう.


▲サラサヤンマのオスの摂食飛翔.▲

コサナエ属は,フタスジサナエ,タベサナエが見られました.老熟したタベサナエを紹介しておきます.


▲淡色部がすっかり緑灰色になったオスのタベサナエ.▲

もうコサナエ属も終わりに近いようですね.オグマサナエには出会えませんでした.最後の案内地で出会ったのがハッチョウトンボ.この場所でハッチョウトンボを見つけたのは初めてでした.というのは,この池はアカトンボしか見に来たことがなかったからです.まだ未熟で羽化して日が経っていない感じでした.


▲ハッチョウトンボの未熟な個体.上がオスで下がメス.▲

ハッチョウトンボの新産地を見つけたのが嬉しかったです.自分の基準で池を回らなかったのがよかったみたいです.

カテゴリー: 兵庫県のトンボ, 観察記 | No. 910. 池まわりで見つけたトンボたち.2023.5.25. はコメントを受け付けていません