No. 894. オグマサナエとフタスジサナエの区別.2023.4.12.

「オグマサナエとフタスジサナエの区別」という,ちょっと不思議なタイトルで今日は書きます.トンボについて知っている方なら,そんなもの胸側の黒条を見ればすぐに分かるではないか,といぶかしく思われるかもしれません.ただ,今年の観察で,私はちょっと迷ってしまう経験をしたので,それについて今日はお話をします.まず,写真1を見てください.


▲写真1.これはフタスジサナエですか? オグマサナエですか?▲

胸側に,2本目の細い黒条が見えるからフタスジサナエだ,と考えた方が多いと思います.では次の写真2はどうでしょうか.


▲写真2.これはフタスジサナエですか? オグマサナエですか?▲

正解は,写真1がフタスジサナエ,写真2がオグマサナエです.撮った写真をじっくり見比べれば,正解される方も多いと思います.しかし現場でどちらか一方だけをパッと見たとき,間違いなく判別できるでしょうか.写真1を撮った場所は,オグマサナエとフタスジサナエが共存している池です.そして撮影したのが4月9日.兵庫県南部で毎年観察をしていると,フタスジサナエが羽化するのは,4月中下旬が普通です.オグマサナエはそれより早く羽化しますので,例年ですとこの時期だとオグマサナエの可能性が大きいです.

写真を撮っているときは,羽化殻の形態から,フタスジサナエを疑いませんでした.しかし自宅で写真をじっと見ていると,羽化殻の腹部第10節も結構細長く写っているし,胸側の前側の黒条もしわの影のように見えるし,さらにもう一枚の別個体の写真3を見ても,胸側の前の黒条が非常にうすくてはっきりとしません.


▲写真3.胸側の前の黒条がうすく,はっきりとしない.▲

さらに写真3では,翅胸前面の黄斑が大きく,前肩条も太くなっていて,オグマサナエ的です.

羽化の時期的な問題,形態的な問題,そしてこれは撮影角度と屈折率の問題なのですが羽化殻の腹部第10節が細長く見えること,そしてなにより,オグマサナエの羽化を20年以上も見ていないという比較経験が乏しい状況で,この写真1,3がフタスジサナエであることの確信が揺らぎました.そして昨日,本当に久しぶりにオグマサナエの羽化を観察できたので,これらがフタスジサナエであることの確信が持てました.まとめます.

一番大きな点は,フタスジサナエの胸側の前の黒条は,羽化後しばらくしてから明瞭になってくるということです.休止期のような幼虫から成虫が出てきた直後には,非常に不明瞭で,だんだんと時間が経ってくるとはっきりと現れてきます.

▲写真4.フタスジ(上)には胸側の前黒条が出始めるが,オグマ(下)には出ない.▲

では,休止期の写真を見たとき,フタスジサナエかオグマサナエかを見分けるにはどうしたらいいでしょうか.


▲写真5.フタスジサナエメス(左)とオグマサナエオス(右)▲

ちょっと写真がオスとメスになっていてよくないのですが,オグマサナエは黒化の程度が高いようです.脚の腿節の色もオグマサナエの方が黒いです.特に腹部側縁がオグマサナエは黒ですが,フタスジサナエは白っぽくなっています.これは羽化が間近な終齢幼虫をひっくり返してみるとよく分かるのですが,オグマサナエの腹部腹面は黒い色をしていますが,フタスジサナエは明るい褐色です,これは羽化殻の色ではなく,中に入っている成虫の腹部の色が透けているものです.その違いが羽化直後の腹部の色の違いとして観察できるようです.ただし写真6で分かるように,オグマサナエでもメスはかなり腹部側面が白いです.

もう一つは複眼の色です.フタスジサナエでは複眼の背面が茶色っぽく濁っていますが,オグマサナエでは灰色がかった色が出ていて,やや透けた感じがします.写真はオスで,オスは茶色味が強いのですが,メスの場合はもっとはっきりと灰色味が出ます(写真6).


▲写真6.オグマメス(右)の複眼の背面はフタスジメス(左)より灰色味が強い.▲

今日は,私が迷った話をしましたが,皆さんもコサナエ属の羽化については注意をして観察してください.まあ,時間をかけて観察すれば,いずれははっきりすることなのですが...

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No. 893. オグマサナエの羽化観察.2023.4.11.

昨日,オグマサナエの処女飛行をいくつか見ました.この場所はオグマサナエの繁殖場所のようです.過去何年間かにわたって県内のオグマサナエの成虫が見られる池をあちこち回り,羽化や産卵の観察に挑みましたが,ほとんど成功しませんでした.去年は意地になって県外へ出て産卵の観察をしました.でも今回はいい手応えがあったので,今日もう一度同じ場所へ出かけ,羽化の観察に挑戦することにしました.あいにくの曇り空で風も強く,時々日が差すような天候でしたが,羽化期は短いのでしかたありません.

池に着いたのは,9:20ごろでした.この池は堰堤が急勾配でドン深なので,池の上流部の林に接している,勾配の緩い場所へまず降りてみました.水際を眺めましたが,オグマサナエは羽化殻すら見つかりません.ふと見ると,タベサナエの幼虫が水際を歩いていて,落ち葉の上に定位し動かなくなりました.羽化を始めるようです.


▲タベサナエの幼虫.羽化を始めるべく定位した.▲

今日のねらいはオグマサナエなので,このタベサナエは放っておくことにしました.そして,別の観察しやすい場所へ移動しました.するとラッキーなことに,コサナエ属が1頭頭部を持ち上げて休止姿勢をしているのを見つけました.脅かさないように近づきましたら,どうやらオグマサナエのようです.

慎重に周囲を見渡すと,別のオグマサナエの幼虫が水際から出てきて羽化場所を探すような行動をとっていますし,すぐ横にはタベサナエの幼虫が定位していました.


▲別のオグマサナエの幼虫が水際から陸へ上がり,羽化場所を探していた.▲


▲タベサナエの幼虫も水際に定位していた.▲

今日は観察がうまくいきそうです.それにしてもオグマサナエの羽化に出会うまで,ずいぶんと長い年月がかかりました.今日はじっくりと観察です.これら3頭は同時並行で観察を進めたのですが,記録は別々にします.まずは休止状態になっていたオグマサナエのオスからです.


▲9:38’08″.休止姿勢で羽化が始まっていた.オグマサナエのオス.▲


▲9:48’37″.休止期を終え,腹部を抜きにかかる.▲


▲9:48’55″.腹部を抜き,一直線に伸ばして,これから翅の伸展が始まる.▲


▲9:53’23″.風が強いので,羽化成虫は向きを変えて羽化を継続した.▲


▲9:56’49″.翅の伸展が進む.やはり根元から延びていく.▲


▲10:03’06″.翅が伸びきり,次は腹部が伸長を始める.▲


▲10:09’00″.腹部はかなり伸長した.肛門水が出ているのが分かる.▲


▲10:22’23″.翅に透明感が増し,腹部はほぼ完全に伸びきった.▲


▲10:32’59″.翅を開いた.10:48’33″に処女飛行に飛び立った.▲

このオス,翅を開いてから飛び立つまで15分少々かかっています.観察していて分かったのですが,翅を開いたときには空が雲で覆われていて,日が差していませんでした.風も結構強く吹いていました.おそらく気温は20℃ほどあったとは思いますが,体感温度は結構冷たく感じました.このオスは日が差すのを待っているのだと思い,じっと観察を続けていると,太陽が顔を出して1,2分体を温めることができた後,飛び上がりました.やはり直射日光に当たって体温を上げることが必要なようです.

さて,今度は,完全に始めから終わりまでを記録できる個体の方です.この個体はメスで,水際から上がった後,結構陸地を歩きました.水辺から30cmほど離れた枯れ草の間に入り込むようにして定位しました.9:50ごろです.では続けてみていきましょう.


▲9:53’43″.定位しているオグマサナエメスの幼虫.▲


▲10:05’39″.背中・頭部が開裂し,胴体が姿を見せ始めた.▲


▲10:08’04″.胸部の上昇に引っ張られるようにして脚が抜けていく.▲


▲10:11’11″.脚が抜けた.まずは横に広げる.状態を確かめているのだろうか.▲


▲10:14’29″.休止期.脚は体の横にぴったりとくっつける.▲


▲10:20’06″.休止期が終わり,腹部を抜き始める.休止期は7,8分であった.▲


▲10:20’16″.腹部が完全に抜け,これから翅の伸長が始まる.▲


▲10:22’03″.翅の伸長が始まった.▲


▲10:27’48″.翅は基部から伸びていく.▲


▲10:31’47″.翅の先端が腹部の先端を超えた.▲


▲10:37’37″.翅は伸びきり,腹部の伸長が続く.▲


▲10:45’10″.腹部先端が羽根の先端を超え,伸びていく.▲


▲10:57’48″.腹部はほぼ伸びきり,後は開翅を待つばかり.▲


▲11:04’43″.翅が開いた.またこのとき空一面の雲で陽が当たっていない.▲

さて,11:04過ぎに翅が開きましたが,まだなかなか飛び立とうとしません.空は日が差しそうになく,これは長期戦になるかな?と思いましたが,最後まで見届けることにしました.飛び立ったのは11:29’29″で,開翅から25分かかりました.やはり日がちょっと差した後で飛び立ちました.処女飛行にはある程度の体温があったほうがいいのでしょうね.


▲11:29’29″.やっとのことで飛び立った.▲

このオグマサナエ,幼虫が定位してから1時間30分以上かかって,処女飛行に飛び立ちました.幼虫の背中の開裂から開翅まではほぼ1時間で,多くのサナエトンボ科と似たような経過時間でした.

では最後にタベサナエの羽化を紹介しておきます.


▲10:13’46″.背中が割れ,成虫の体が出てきました.▲


▲10:19’49″.休止期.▲


▲10:32’16″.翅の伸長.▲


▲10:50’59″.翅の伸長が終わり,腹部の伸長が続く.▲


▲10:58’44″.腹部が伸長している.▲


▲11:22’14″.開翅.▲

タベサナエは11:28’36″に飛び立ちました.こちらはあまり陽が当たらなかったですが,飛び立ちました.

「チャンスは必ず攻めるの鉄則で」ということですが,今日は非常に疲れました.羽化の観察はほとんど動くことができずじっとしていて,腰を曲げて撮影を繰り返しますので.体が痛くて肩が凝ります.まあ,オグマサナエの羽化を観察できて,これでコサナエ属の羽化は全部観察・記録することができました.

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No. 892. オグマサナエが羽化していた.2023.4.10.

昨日,タベサナエやフタスジサナエの羽化を観察しましたので,残ったオグマサナエの羽化を見たくて,まったくの新しい場所に挑戦しました.そこは集水域に水田がなく,おそらく農薬の影響がないと思われるところです.実際に行ってみると,岸からいきなり深くなっていて水生植物もほとんどない池でした。こういうドン深の池はオグマサナエの好む環境なのです.

池に着いたのが11:20ごろで,堰堤に沿って歩きますと,コサナエ属のトンボが飛び上がりました.全部で7,8頭が飛びましたが,全部池に隣接する林の樹上に飛び上がってしまい,種名を確認できません.ただ,腹部が長い感じがしますし,池の環境がオグマサナエですので,期待をしながらゆっくりと探索を進めました.やっとのことで,1頭だけ,堰堤に止まっている状態の個体に接近ができました.前肩条はあるのですが,胸側の部分が翅に隠れて現地では種名が確認できませんでした.そして自宅で写真をよく見ると,胸側の黒条が1本.オグマサナエと確認できました.昨日のフタスジサナエやタベサナエと比べると分かりますが,オグマサナエのメスは,羽化直後の複眼が灰色がかっているので,その点でも間違いありません。


▲オグマサナエのメス.池から飛び上がって堰堤に止まったもの.▲

池の堰堤の角度が急で,しかもドン深なので,危なくて水際まで降りることができません.羽化や羽化殻は見つけられませんでしたが,結構個体数もいるようで,繁殖期に来ればいろいろな行動が見られるかもしれません.今年の楽しみができました.

ということで,周辺のほかの池を回ってみました.が,特に目新しいこともなく,オツネントンボとホソミオツネントンボがいただけです.ただ,私の今までのフィールドでは見られにくくなったオツネントンボがこの付近では結構見られたので,これは収穫と言えます.それにしてもホソミイトトンボには出会いませんね.


▲オツネントンボの集団産卵.上の2枚は違う池である.▲


▲ホソミオツネントンボ.なんか繁殖活動が見られない...▲

今日は,このあたり以外に,川と池を回ったのですが,いずれもトンボの姿がありませんでした.まだカワトンボ類はちょっと早いのかな.明日も晴れそうですので,またどこかへ出かけることにします.

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No. 891. タベサナエ・フタスジサナエ羽化.2023.4.9.

今日はタベサナエの羽化を見に行きました.昨年も4月10日に羽化が始まっていましたので,より暖かい今年の春はもっと早いのではないかという予想です.そして予想通り羽化が始まっており,この1,2日のうちに羽化したと思われる個体も飛んでいました。


▲今日羽化したと思われる個体.タベサナエ。▲

水辺では,羽化殻を含め,タベサナエが7頭ほど羽化をしていました.これから羽化を始めようとする幼虫もいました。


▲これから羽化を始めようとするタベサナエの幼虫.▲


▲池の片隅でまとまって羽化をするタベサナエたち.▲


▲上とは違う近くの池でもタベサナエが羽化をしていた.▲

この場所は池が3つあるのですが,そのうち2つの池でタベサナエが羽化をしていました.そこで,さらに少し離れた別のところへも行ってみることにしました.

行ってみると,水際でコサナエ属が何頭か羽化していました。時期的に見てタベサナエだと思いカメラを向けると,前肩条が見えました.フタスジサナエです。フタスジサナエはだいたい4月の中下旬に羽化を始めることが多いので,上旬に出ているとは思いませんでした。羽化途中の個体は7,8頭,羽化殻は10個以上付いていました。


▲羽化をするフタスジサナエ.▲


▲羽化するフラスジサナエたち.▲

羽化を観察して池を離れますと,昨日または今日羽化したと思われるフタスジサナエがひらひら飛んで止まりました.


▲池を少し離れたところ止まったフタスジサナエのオス.▲

この場所には,草地にタベサナエ,転がっている丸太にシオヤトンボが止まっていました。


▲草地を飛ぶタベサナエのオス.▲


▲シオヤトンボの未熟なオス.▲

このあと,ホソミイトトンボを探しに行きましたが不発でした.そこではハラビロトンボが飛んでいました.写真にはなりませんでした.いよいよトンボシーズンが本格的に始まりました.

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No.890. ホソミオツネントンボを探しに.2023.4.4.

今日は先日とは違う場所へ,ホソミオツネントンボの活動を見に行きました.今年は初見の場所へ行くことが多いと思うので,なかなか思ったようにはトンボが観察できないと思います.探し回って,やっと3頭のオスが飛び回っているところに出会えました.残念ながら産卵はしていません.


▲ホソミオツネントンボのオスたち.▲

今年はトンボの出現が早い感じです.年によっては,4月4日など,まだトンボの姿が全く見られないこともありますから.

そこで,成虫越冬種ではなく,春に羽化する気の早いトンボ,アジアイトトンボの様子を見に行きました.成虫越冬種が活動する時期には,それらに混じってよく飛んでいますから,きっと羽化しているでしょう.こちらは,いつもの場所へ行くことにしました.


▲アジアイトトンボのオス(上)と未熟メス(下).▲

アジアイトトンボは,もう羽化し始めていました.今日羽化したような個体もいましたが,写真の個体はこの1週間以内の羽化でしょう.多分3月下旬には羽化していたでしょうね.まだ写真にはなっていませんが,シオヤトンボも出ていますし,今年は桜に負けず早いですね.コサナエ属ももう間もなく出てくるかもしれません.忙しくなりそうです.

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