No. 893. オグマサナエの羽化観察.2023.4.11.

昨日,オグマサナエの処女飛行をいくつか見ました.この場所はオグマサナエの繁殖場所のようです.過去何年間かにわたって県内のオグマサナエの成虫が見られる池をあちこち回り,羽化や産卵の観察に挑みましたが,ほとんど成功しませんでした.去年は意地になって県外へ出て産卵の観察をしました.でも今回はいい手応えがあったので,今日もう一度同じ場所へ出かけ,羽化の観察に挑戦することにしました.あいにくの曇り空で風も強く,時々日が差すような天候でしたが,羽化期は短いのでしかたありません.

池に着いたのは,9:20ごろでした.この池は堰堤が急勾配でドン深なので,池の上流部の林に接している,勾配の緩い場所へまず降りてみました.水際を眺めましたが,オグマサナエは羽化殻すら見つかりません.ふと見ると,タベサナエの幼虫が水際を歩いていて,落ち葉の上に定位し動かなくなりました.羽化を始めるようです.


▲タベサナエの幼虫.羽化を始めるべく定位した.▲

今日のねらいはオグマサナエなので,このタベサナエは放っておくことにしました.そして,別の観察しやすい場所へ移動しました.するとラッキーなことに,コサナエ属が1頭頭部を持ち上げて休止姿勢をしているのを見つけました.脅かさないように近づきましたら,どうやらオグマサナエのようです.

慎重に周囲を見渡すと,別のオグマサナエの幼虫が水際から出てきて羽化場所を探すような行動をとっていますし,すぐ横にはタベサナエの幼虫が定位していました.


▲別のオグマサナエの幼虫が水際から陸へ上がり,羽化場所を探していた.▲


▲タベサナエの幼虫も水際に定位していた.▲

今日は観察がうまくいきそうです.それにしてもオグマサナエの羽化に出会うまで,ずいぶんと長い年月がかかりました.今日はじっくりと観察です.これら3頭は同時並行で観察を進めたのですが,記録は別々にします.まずは休止状態になっていたオグマサナエのオスからです.


▲9:38’08″.休止姿勢で羽化が始まっていた.オグマサナエのオス.▲


▲9:48’37″.休止期を終え,腹部を抜きにかかる.▲


▲9:48’55″.腹部を抜き,一直線に伸ばして,これから翅の伸展が始まる.▲


▲9:53’23″.風が強いので,羽化成虫は向きを変えて羽化を継続した.▲


▲9:56’49″.翅の伸展が進む.やはり根元から延びていく.▲


▲10:03’06″.翅が伸びきり,次は腹部が伸長を始める.▲


▲10:09’00″.腹部はかなり伸長した.肛門水が出ているのが分かる.▲


▲10:22’23″.翅に透明感が増し,腹部はほぼ完全に伸びきった.▲


▲10:32’59″.翅を開いた.10:48’33″に処女飛行に飛び立った.▲

このオス,翅を開いてから飛び立つまで15分少々かかっています.観察していて分かったのですが,翅を開いたときには空が雲で覆われていて,日が差していませんでした.風も結構強く吹いていました.おそらく気温は20℃ほどあったとは思いますが,体感温度は結構冷たく感じました.このオスは日が差すのを待っているのだと思い,じっと観察を続けていると,太陽が顔を出して1,2分体を温めることができた後,飛び上がりました.やはり直射日光に当たって体温を上げることが必要なようです.

さて,今度は,完全に始めから終わりまでを記録できる個体の方です.この個体はメスで,水際から上がった後,結構陸地を歩きました.水辺から30cmほど離れた枯れ草の間に入り込むようにして定位しました.9:50ごろです.では続けてみていきましょう.


▲9:53’43″.定位しているオグマサナエメスの幼虫.▲


▲10:05’39″.背中・頭部が開裂し,胴体が姿を見せ始めた.▲


▲10:08’04″.胸部の上昇に引っ張られるようにして脚が抜けていく.▲


▲10:11’11″.脚が抜けた.まずは横に広げる.状態を確かめているのだろうか.▲


▲10:14’29″.休止期.脚は体の横にぴったりとくっつける.▲


▲10:20’06″.休止期が終わり,腹部を抜き始める.休止期は7,8分であった.▲


▲10:20’16″.腹部が完全に抜け,これから翅の伸長が始まる.▲


▲10:22’03″.翅の伸長が始まった.▲


▲10:27’48″.翅は基部から伸びていく.▲


▲10:31’47″.翅の先端が腹部の先端を超えた.▲


▲10:37’37″.翅は伸びきり,腹部の伸長が続く.▲


▲10:45’10″.腹部先端が羽根の先端を超え,伸びていく.▲


▲10:57’48″.腹部はほぼ伸びきり,後は開翅を待つばかり.▲


▲11:04’43″.翅が開いた.またこのとき空一面の雲で陽が当たっていない.▲

さて,11:04過ぎに翅が開きましたが,まだなかなか飛び立とうとしません.空は日が差しそうになく,これは長期戦になるかな?と思いましたが,最後まで見届けることにしました.飛び立ったのは11:29’29″で,開翅から25分かかりました.やはり日がちょっと差した後で飛び立ちました.処女飛行にはある程度の体温があったほうがいいのでしょうね.


▲11:29’29″.やっとのことで飛び立った.▲

このオグマサナエ,幼虫が定位してから1時間30分以上かかって,処女飛行に飛び立ちました.幼虫の背中の開裂から開翅まではほぼ1時間で,多くのサナエトンボ科と似たような経過時間でした.

では最後にタベサナエの羽化を紹介しておきます.


▲10:13’46″.背中が割れ,成虫の体が出てきました.▲


▲10:19’49″.休止期.▲


▲10:32’16″.翅の伸長.▲


▲10:50’59″.翅の伸長が終わり,腹部の伸長が続く.▲


▲10:58’44″.腹部が伸長している.▲


▲11:22’14″.開翅.▲

タベサナエは11:28’36″に飛び立ちました.こちらはあまり陽が当たらなかったですが,飛び立ちました.

「チャンスは必ず攻めるの鉄則で」ということですが,今日は非常に疲れました.羽化の観察はほとんど動くことができずじっとしていて,腰を曲げて撮影を繰り返しますので.体が痛くて肩が凝ります.まあ,オグマサナエの羽化を観察できて,これでコサナエ属の羽化は全部観察・記録することができました.

カテゴリー: 兵庫県のトンボ, 観察記 パーマリンク