トンボノート
No.928. 神戸のトンボたちは… 2023.7.7.

梅雨の中休みとでもいうべき晴れが続いた,7月4日,6日,7日とフィールドに出てトンボを見に行きました.4日は,昨年6月末に早くもヒメサナエがたくさん集まって産卵をしていましたので,それを確認に出かけました.6日は神戸のトンボ調査で,かつてトンボがそれなりに見られた川へ出かけました.

ところが,4日はまだヒメサナエは1頭のみで,他にはコオニヤンマが1,2頭,ミヤマカワトンボが数頭見られました.まだヒメサナエは早かったようで,昨年に比べると出現が遅くなっているようです.というより,昨年が例外的に早かったのかもしれません.いつも7月の中旬ごろにヒメサナエを観察に行ってましたから.


▲7月4日のヒメサナエ観察はまだ早かったか.唯一のヒメサナエ.

これはこれで致し方ないと諦めて帰りました.そして6日に神戸のトンボ調査を行いました.オナガサナエやオジロサナエがよく羽化していた川で,ハグロトンボやニホンカワトンボもたくさんいました.その他,コオニヤンマ,キイロサナエ,ヤマサナエなども見られた川です.神戸市内でグンバイトンボが唯一たくさんいた川でもあります.


▲調査した神戸市内の川で,6月下旬には,かつてよく見られたオジロサナエ.


▲グンバイトンボの市内屈指の産地で,もたくさん見られた.


▲キイロサナエも羽化していた.

まあ,4日のことがあったので,端境期でトンボはあまり見られないかもしれない,と思いながら,流れをのぞいたり,流れの横にある薄暗い道を歩いて,トンボたちとの出会いを期待しました.たとえ端境期でも,ハグロトンボの未熟な個体は,流れのそばの薄暗い道にはよく潜り込んでいます.少なくともそれを期待したのでした.


▲この川にもきちんとハグロトンボはいたのだ.

しかしです.1時間以上川に沿って歩いたり川をのぞいたりしたものの,出会ったトンボは,コオニヤンマ1頭,ハラビロトンボ1頭だけでした.


▲7月4日,止まっていた,No.28:コオニヤンマのオス.


▲この場所にはあまりに合わないハラビロトンボのメス.

ハグロトンボも薄暗い道には全く姿がありません.本当に恐ろしいほどトンボがいません.シオカラトンボもいないのです.


▲調査した川の景観とハグロトンボを期待して歩いた流れに沿った道.

写真で分かるように,環境は,昔,神戸のトンボを調べていたときとほとんど変わっていません.かつてトンボがたくさんいたこの川はどうなってしまったのでしょう.調査しているときにちょうど草刈りをしている地元の方に話を伺うことが出来ました.「翅の黒いトンボは見たことがないが茶色のトンボは見た」とか「ここはまだホタルがいる,先日も見に来ている人がいた」とかいうお話でした.茶色い翅というとニホンカワトンボかミヤマカワトンボでしょう.

この川の上流には川を挟むようにゴルフ場があります.また水田地帯もあります.薬品によるトンボの減少の可能性が考えられる地勢になっています.でもゲンジボタルが生き残っているという点にちょっと合点のいかないものを感じました.ただ田植えの6月ごろは,ゲンジボタルは水から出ており,蛹または成虫のステージです.

ただ一つ,今がちょうど川のトンボの端境期になっており,トンボが見られない原因と考えられます.決着は幼虫調査しかありません.ただ今は幼虫が小さい時期なので,これは後日の話になります.そこで,今日7日,確実にトンボがいる川へ,端境期である今の状況を見に行くことにしました.


▲今日7日に出かけた川の景観.ツルヨシが茂っていて上の神戸の川と似ている.


▲ハグロトンボを期待して歩いた川に沿った薄暗い道.

できるだけ同じような環境ということで,川にはツルヨシが繁茂し,川に沿った薄暗い道のある場所を選びました.ここは毎年アオハダトンボを見に来る場所で,今年は来ることが出来なかったところでちょうどよい機会でもありました.

結果は歴然としていました.こちらの川に沿った薄暗い道には,ハグロトンボがたくさんいて,私が歩くとあちこちから飛びたちました.端境期だからこそ,未熟なハグロトンボはこういった薄暗い道の中に潜り込んでいるのです.なんかほっとしました.


▲薄暗い道や川沿いの竹林に潜り込んでいたハグロトンボたち.

川面に出てみると,数はもう減っていましたが,アオハダトンボがまだ活動をしていました.さらに次の川の主役たちであるコオニヤンマやオナガサナエも姿を見せていました.ただ昨年も感じましたが,かつてたくさんいたグンバイトンボは姿が見られませんでした.


▲まだ生き残って活動していたアオハダトンボたち.


▲次の川の主役,オナガサナエも出てきていた.


▲コオニヤンマも川に姿を見せ始めている.

確かに川で見られるトンボは数がとても少なく,今は初夏のトンボと盛夏のトンボの端境期であることが感じ取れます.しかし,初夏の生き残りがいたり,気の早い夏のトンボが出てきていたりして,それなりに川が生きている感じがします.

また川とは関係ありませんが,川沿いの道ではオオヤマトンボのメスが摂食飛翔をしていました.また時々止まったりもしました.


▲川沿いの道で出会ったオオヤマトンボのメス.

6日に行った神戸の川には,このような川のトンボの移り変わりの風景も,コオニヤンマが1頭ぽつりと止まっていたこと以外,まったくの沈黙状態でした.

前にも書きましたが,このサイトは「神戸のトンボ」と題して公開しています.神戸には94種類のトンボの記録があります.国家戦略としての生物多様性のモデル地域でもあります(した,と過去形の方がいいのかな?).なのにこれほどまでに昔の姿がなくなってしまったのはなぜなのでしょう?

風景は昔と大きく変わっていないところが多いのです.ここで紹介した川の写真でも,どこにでもある自然豊かな川の風景です.30年前にはそれなりにトンボがそこで見つかりました.でも今はそこにトンボ一匹飛んでいない.30年の間に開発が進んで環境が変わったのではないのです.私が歩いた道は「太陽と緑の道」というハイキングコースです.自然を味わうことの出来る市民の憩いの場所なのです.非常に複雑な気分です.