今日からは中流域のトンボ観察に切り替えます.まずはアオハダトンボ,グンバイトンボ,アオサナエの観察です,と,いつもの観察場所へ行きましたら,すっかり川の様子が変わっていました.
植生がほとんど剥ぎ取られ,堆積していた土砂が約50cmほど掘り下げられていました.二つに分かれていた流れは,向かって左側の一つだけを残して埋め立てられています.そして重機で平らにされていました.去年の夏に来たのが最後ですので,それ以降に工事がなされたようです.これでこの観察地も終わりか... ちょっとショックを受けながら,とりあえず生き残っているトンボたちを探そうと,いつもより広い範囲を捜索しました.
まず降りて見つけたのはアオサナエです.流れが全般に浅く平らになっていて,流れ全体が明るくなっているので,アオサナエ好みの状態になっているせいでしょうか,オスが10頭以上集まっていました.
これだけいればメスも来るかもしれないと思い楽しみにしながら探索を続けました.しかしアオサナエの嬉しい状況に反して,アオハダトンボ,グンバイトンボ,セスジイトトンボなど,植物内産卵をして,流れの植生内に幼虫が潜んでいるトンボたちの姿が全くありません.クロイトトンボがちょっと飛んでいるだけです.
水際を歩きながらさらに捜索を続けますと,水際から飛び立つコオニヤンマの処女飛行が見られました.続いて,オジロサナエの処女飛行も見られました.その後も処女飛行は数多く見られ,コオニヤンマは7頭,オジロサナエは6頭飛び立つのを観察しました.アオサナエにしても,コオニヤンマ,オジロサナエにしても,砂の中に潜り込んで生活している幼虫は無事羽化に至っているようです.
川をよく見てみると,水の流れている部分は結構大きな岩も転がっていて,どうやら重機は,土砂が堆積している部分だけを掘り起こしたように見えます.それでサナエトンボたちは無事なのでしょう.その後もサナエトンボたちは次々に見つかります.
ホンサナエのメスは,卵塊をつくるような動きをし,飛んで打水する行動も見られましたが,卵塊は見られませんでした.
ここで以前から見られたサナエトンボはすべてその姿を見ることができ,どうやら流れそのものに手がつけられていないことは事実のようです.しかし,均翅類のトンボの姿が見えません.が,いつもの場所からかなり離れたところで,やっと1頭のアオハダトンボを見つけました.
かろうじて生き残っていました.さらにグンバイトンボも1頭,セスジイトトンボも3頭(うち2頭はタンデム)見つけました.ほんの少しだけ生き残っているみたいです.
まだ付近の流程をすべて捜索したわけではありませんので,均翅類も生き残っているかもしれません.さらに上流の方には植生も残っているみたいですし,そちらへ避難しているかもしれません.しかしこの少なさは,ほぼ壊滅状態と言ってよいでしょう.特にアオハダトンボやグンバイトンボのような,他の個体群から孤立している種は,これだけ少なければ,アリー効果によってこの生息場所では絶滅するかもしれません.今後しばらくは目が離せません.
さて,ここの調査はこれくらいにして,もう一つ今日は行こうと思っているところがあります.掲示板によく投稿してくださるRONNIEさんからの情報で,私たちが共通に知っている池でムスジイトトンボが羽化したということなので,それを見に行くつもりです.ムスジイトトンボは,最近,たくさん集まっているところが少ないので,状況を知りたいと考えていました.結果は,たくさん集まっていました.ただオスばかりで,潜水産卵していないかと水中に目を凝らしたり,周りの草むらなどを探し回りましたが,メスは見つかりませんでした.
よく見ると,中にセスジイトトンボも混じっていました.少し小型で,頭部と胸部の青の部分が,飛んでいるときにややうす緑色に見え,アオモンイトトンボみたいに感じられるのがセスジイトトンボでした.
下の写真は,この池のムスジイトトンボと先の川で見つけたセスジイトトンボの比較です.上の写真と比べれば,セスジイトトンボとわかります.
ということで,今日はショックを受けましたが,トンボたちの復活を望みたいものです.そういえば,よく出かけていたヒメサナエとオジロサナエの繁殖場所も少し以前に破壊されたのですが,ここもまた一度どうなっているか見に行くことにしましょう.
最後にゲストです.今日はイシガケチョウを見ました.温暖化で北上しているのではないかと言われているチョウです.翅の破れもない新鮮な個体でしたので,このあたりで羽化したのかもしれません.