トンボノート
No.834. アサヒナカワトンボの着色翅.2022.5.18.

今日は晴れなのに午前中は仕事が入っていました.午後,近所になら出かけられるということで,市内のアサヒナカワトンボを見に行くことにしました.この場所は,着色翅の個体が見られるということを,もうずっと以前に聞いて知っていました.これまでも機会があるたびに出かけて探してきました.うっすらと色づいた個体は過去にも見つけていますが,今日は,本格的に茶色の翅のアサヒナカワトンボに出会うことができました.


▲翅が茶色に着色しているアサヒナカワトンボのオス.


▲一番上と同じ個体を別の角度から撮影したもの.


▲この個体の標本写真.

この個体は,いわゆる橙色翅のアサヒナカワトンボとはちょっと違うようです.下の写真は,淡路島に産する橙色翅のオスです.見てわかるように橙色の部分は,翅脈まで橙色で,べたっとした一様な橙色になっています.しかし上の個体は翅脈が黒く,これは透明翅型の形質です.また淡路島産の個体の翅胸前面には白粉が付着していますがここの個体にはそれがありません.これも透明翅型の形質です.浜田・井上(1985)によると,これは,f-esakii (橙色翅型)と f-strigata (透明翅型)の中間型とされています.


▲淡路島の橙色翅型のオス.2011.5.15. 撮影.


▲上記の今日の個体は翅脈が黒いままである(翅室の白濁は汚れ).

今日はこの個体が一番色が濃く着色していましたが,淡く着色した個体もいくつか見られました.


▲淡く橙色に着色した翅を持つアサヒナカワトンボのオス.


▲これも翅が淡く色づいている.前縁部が特に赤く光っている.


▲これもわずかに色づいているが,もうほとんど普通の透明翅型といってよい.


▲これは普通の透明翅型オスといえる個体である.

このように,いろいろな段階の翅の色をしたオスが見られるのが,ここの個体群の特徴です.兵庫県では,アサヒナカワトンボの透明翅型オス,透明翅型メスの組み合わせが基本で,橙色翅は淡路南部の一部地域だけということになっています.そういう意味で,神戸市のここの個体群は興味深く,遺伝子プールに他とは違った特徴があるように見受けられます.

さて,昼からここを訪れたので,ちょうどアサヒナカワトンボの繁殖活動時間帯に一致しました.着く早々,交尾態のペアがあちこちで観察されました.


▲タンデム形成から,移精行動,そして交尾へ.このオスも翅が淡く色づいている.


▲葉上ばかりでなく流れの近くでも交尾をしている.いずれもだいたい13:00頃.

少し流れの中を歩いてアサヒナカワトンボたちを探してみますと,あちこちで産卵をしているメスが見つかりました.いずれのメスもすぐ近くに縄張りオスがいて,警護されていました.


▲オスに警護されながら朽ち木に産卵するメス.


▲産卵するメスたち.

さて,仕事帰りに立ち寄った観察でしたが,目的の着色翅の個体も観察できましたので,これでよしとしました.アサヒナカワトンボ以外には,若いヤマサナエがいました.ここは毎年ヤマサナエが結構たくさん見つかるところで,産卵観察にいいかもしれません.


▲ヤマサナエのオス(上)とメス(下).それなりに個体数が見られる.

というところで今日は終わりです.