今日は同じ場所に午前と午後の二回,出かけました.まずは午前の部です.
夏の終わりには,いくつかのトンボに面白い状況が見られます.それは,二化目のトンボたちです.そういったトンボたちは,今頃未熟な個体が結構多く見られるのです.そんな中にショウジョウトンボがあります.飼育による卵期間,幼虫期間は,それぞれ6日,69日というデータがあります(関西トンボ談話会,1984:近畿のトンボ)から,温度にもよりますが,この時期に二化目が羽化してくる根拠には十分なり得ると思います.
▲ショウジョウトンボのオスは,このようにアオミドロが浮かぶような環境でメスを待っている.
ショウジョウトンボはアオミドロなどの浮かんだ水面によく産卵します.そしてその中で幼虫が生活しています.以前幼虫調査をしているとき,コンクリート貼りの深い池に浮かぶヒシの根,もちろんこれは水中に浮かんで漂っている根ですが,その根にショウジョウトンボの幼虫がしがみついていたのを観察したことがあります.また,ビオトープ用トンボ池の調査でも,アオミドロの中にたくさんのショウジョウトンボが潜っていました.ショウジョウトンボは,元来は底生生活者であると思いますが,このように水面に漂う基質内にも生活しているのです.そして夏の強い太陽光を受け,高水温のもとで速く成長し,この時期にたくさん羽化してくるものと思われます.平地の日当たりのよい池でこの状態はよく観察できます(上の写真).
▲体の赤色が斑になっているオスのショウジョウトンボ.翅のつけ根の橙色から見ておそらく未熟な個体.
▲普通の色彩をした,未熟なショウジョウトンボのオス個体.
▲翅の黄色が濃い,ショウジョウトンボの未熟なメス.
▲ショウジョウトンボの未熟なメス.翅の黄色はこれくらいが普通である.
ショウジョウトンボほどに多くは見られませんが,オオシオカラトンボ,コフキトンボなども二化目と思われる個体がこの時期出てきます.イトトンボ類の二化目はもう少し早く,7月下旬から見られます.オオイトトンボ,クロイトトンボなどがその代表例でしょう.
今日は,そんなトンボの中で,アオモンイトトンボを観察することにしました.観察適期は7月下旬ですので少し遅い気がします.まずは午前中,交尾を見に行きました.群れるほどは見られませんでしたが,いくつかの個体が交尾をしていました.
▲同色型のメスとの交尾.アオモンイトトンボ.
▲まだ腹部が緑褐色をしているメスとの交尾.アオモンイトトンボ.
▲腹部の緑色がほとんど消え,褐色になったメスとの交尾.
▲体全体がやや紫を帯びた褐色になったメスとの交尾.かなり老熟しているようだ.
これらの個体が二化目かどうかは分かりません.アジアイトトンボは,夏の時期に一時的に個体数が減少するのを経験しますが,アオモンイトトンボの方はそれほど感じません.だらだらと羽化が続いているのかもしれませんね.写真は補助光としてストロボを使っているので,分かりづらいですが,アオモンイトトンボは太陽の光を避けて草の陰側に止まっています.そうやって少しでも暑さをしのいでいるようです.ストロボを使わない写真を紹介しておきましょう.
▲驚かせて飛んだ後静止したところ.陽の当たらない側に止まろうとする.
さて,ここからは午後の部です.ねらいはアオモンイトトンボの産卵です.14:00ころに現地に入りました.以前の観察でこの頃に多数産卵していたからです.しかし,産卵個体はまったく見られませんでした.メスは産卵基質のある場所に出てきてはいますが,植物の茎や葉をつつくような動作,つまり摂食しているような行動を取っています.もう産卵時間は終わってしまったのでしょうか.以前来たときは7月の末でした.時期が異なると産卵時刻も違ってくるのでしょうか.トンボの観察もなかなか一筋縄ではいきません.気温は37度を超えています.池の岸辺にじっとして産卵が始まらないか見守っていましたけれども,黒い長靴の上に照りつける日差しの熱が長靴の中まで伝わり,足が火傷するのではないかと思うくらい熱く感じました.観察は1時間が限界でした.
▲午後,池面に出ている成熟メス.産卵する気配は全くない.
▲アオモンイトトンボの未熟な色彩のメス.今でも羽化している証拠である.
▲アオモンイトトンボの老熟メス.やはり産卵する気配はない.
オスも同じ場所で摂食的な行動を取っていました.オスのサイズが早い時期に出てくるものに比べてやや小さい感じがしましたが,写真で比べてみてもあまりはっきりしませんでした.
▲オスも産卵場で摂食を繰り返していた.
イトトンボ類は,アオモンイトトンボ以外に,セスジイトトンボ,アジアイトトンボがごく少数見られました.
▲セスジイトトンボのメス.今年はあまり出会えていないので,もっと個体数が増えれば良いのにと思う.
▲アジアイトトンボのメス.オスも少数飛んでいた.
ショウジョウトンボも暑さのせいで,池周囲の通路のワイヤーに止まっている個体は,一斉に腹部挙上姿勢を取っていました.一方で,池に出ている成熟個体は,腹部を下げて日差しの当たる面積を小さくしていました.
▲池の周囲の観察路に張られているワイヤに止まるショウジョウトンボの未熟なオスとメス.
▲斑模様のオスの腹部挙上姿勢.この色きちんと赤くなるのだろうか.
▲ショウジョウトンボの未熟なメスの腹部挙上姿勢.
▲池に出ている成熟したショウジョウトンボのオス.腹部を下げて暑さをしのいでいる.
これ以上頑張って熱中症になってもつまらないので,今日はこれで終えることにしました.いやはや,暑い,トンボの観察も命がけという感じです(笑).