トンボ観察記
No.534. 真夏のトンボたち その七.コシボソヤンマ.2016.8.14.

シリーズ「観察 真夏のトンボたち」もいよいよ終わりに近づきました.お盆が過ぎるともう夏も終わりに近づきます.これからは夏のトンボも衰退の時期を迎えます.本当に夏は短いです.今日は,真夏のトンボたちの最終回を飾るべく,コシボソヤンマの観察に行ってきました.最近はコシボソヤンマも,数が減ったのか,見づらくなってきました.今回の観察はついていて,うまくコシボソヤンマが集まっているところに遭遇することができました.

0814-013▲産卵するコシボソヤンマ.背後の光は流れる水にストロボが反射したもの.

コシボソヤンマは朽木に産卵をします.朽木といっても,何でもよいのではなく,結構選んでいるように思えます.好きな状態は,水にぬれていて,適当に朽ちていて,組織が柔らかくなっていることです.そして水が必要なようです.一般的には,朽木が半分水に浸かっているようなところに止まって,腹部だけを水中に沈めて水面下に産卵していることが多いです.水面上に産卵する場合は,十分木が水を含んでいることが大切なようです.今回は後者の状態の場所でした.

0814-007▲朽ちた木に産卵管を突き立てようとするメス.

コシボソヤンマは夏の午後に産卵をします,今日は,午後1時くらいに観察を始めました.着いた時にはコシボソヤンマはいませんでした.折り畳みの小さな椅子を持って行ったので,それに座って,ビデオとカメラを準備して待ちました.ビデオに録りやすいように,朽木をカメラのすぐ前に並べて,撮影トラップも用意しました.あとでよく分かったのですが,この朽木トラップは,いろいろな意味で,失敗でした.

0814-008▲朽木のすき間に腹部を差し入れて奥の方に産卵する.

現地に着いて10分もたたないうちに,メスが入ってきました.明らかに産卵に来たようですが,やや上空を旋回して飛んで,私の存在を気にしているようでした.まずは,少し高いところに止まって産卵管を突き立てました.

0814-002▲様子見に,高いところに止まっての産卵ポーズ?.

ストロボを炊くと,気に入らなかったのか,すぐに上空に飛んで,木の枝に止まりました.これはよくある行動で,待てば必ず産卵に降りてきます.仕方なく,根比べとなりました.だいたい木に止まって様子を見るのは20分と相場が決まっています.

0814-014▲最初のストロボで驚いたのか,とりあえず木の枝に止まって様子見.

本当に計ったように,20分後に舞い降りてきて,水にぬれた木材に止まり,産卵を始めました.この木材は常に水がかかっていて,水がその表面を流れています.朽ちた状態も適切.メスは産卵を始めました.しばらくは驚かさないように慎重に写真を撮りました.ストロボを炊いても逃げようともしません.もうここで産卵すると決心したのでしょうね.

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0814-012▲降りてきて産卵を始めた.迷うことなく産卵に精を出している.

こうなってくると,こっちのものです.急激な動きにだけは注意を払って,どんどんシャッターを切っていきました.このメスは,この木材の裏側(下面)に入るのが好きなようで,側面から下に潜り込んで水浸しになりながら産卵をします.さすがにこれは撮影しにくく,カメラを天地逆さまにして,下からねらいました.カメラを新しくしたので,ライブビューができ,アクロバティックな撮影も可能になりました.下の写真は,撮影後,180度回転させています.

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0814-011▲木材の裏側で産卵するメス.大きな水滴が翅の横を1つ落ちているのが写っている(上).

撮影を十分に済ませると,次はビデオカメラの出番です.とにかく産卵を始めると,2時間近くは産卵を続けるトンボなので,時間はたっぷりとあります.ただ,材木の木目の方向と材木の位置が悪く,真横から撮れる位置にトンボがほとんど止まりません.産卵管を突き立てるときに,木目の方向に沿っての方がよいのでしょう.木材の側面に木目に平行に止まることが多く,真横から撮ろうとすると,上からか下らしかねらえないのです.

0814-004▲材木の側面で木目にそって止まる.これはま上から撮影した状態.

上面に止まってくれればいいのですが,これは不思議と全くありません.逆に下面に潜り込んで産卵することは,先に述べたように,非常に多く,写真ならカメラを天地逆さまという手がありますが,ビデオは無理な相談です.思いきりローアングルからカメラを上に向け,ライトを手にもって下から照らして,何とか撮影しました.記録を撮るのも大変でしたが,こんな日のために用意した超小型三脚が活躍してくれました.

そんなこんなで,時間がどんどん過ぎていきます.時々飛び立って,周辺を飛んで次の産卵場所を探す行動を見せます.コンクリートの壁にさえ止まって,一応産卵管を突き立てたりするのに,私の仕掛けた産卵トラップには見向きもしません.高いところが好きなんでしょうかね? これは完全に失敗でした.

0814-009▲コンクリートの壁に産卵管を突き立てる動作をするメス.

0814-003▲上の方にある枯れ木に産卵ポーズ?.

そこで,十分記録が取れた時に,このメスが大好きな木材をおおうように立ちはだかり,トンボが止まれないように邪魔してみました.そうして何とか撮影トラップに誘導しようとしてみたのですが,なんと,彼女,私のおでこに止まって,目に!,目にですよ! 産卵管を突き立てようとしたのです.昨日,ロケハンにここを訪れたときには,腕に止まって産卵管を突き立てられましたが,今日は目! さすがにこれは危険なので手で追い払うと,びっくりしたのか,産卵を止めて飛び去りました.そして今日の観察はお開きです.時刻は15時少し前.産卵観察は1時間30分以上に及んでいました.驚かさなければまだまだ産卵していたでしょうね.

では最後に,木材の裏側で産卵をするコシボソヤンマのビデオを紹介しておきます.