今年のゴールデンウイークは晴れの天気が続いて,中身の濃い観察ができています.ゴールデンウィーク第3弾(GW-3)はカワトンボ Mnais 属2種の産卵観察記です.
カワトンボ属の2種,すなわちニホンカワトンボとアサヒナカワトンボは,春の川に行けばたいがい出会うことのできるカワトンボです.しかし私は,これら2種の産卵現場に,ずいぶん長い間立ち会っていません.あまりに普通種なので真剣に探そうともせず,そのうち出会えるだろうなどという軽い気持ちでトンボ観察を続けている間に,アサヒナカワトンボの方は15年,ニホンカワトンボでも7年の間,産卵を見ずに来てしまいました.
▲P01. アサヒナカワトンボのオス.薄暗い樹林の中で生活していることが多い./5月4日.
▲P02.
ニホンカワトンボのオス.これは明るい細流で縄張り活動をしている個体./5月4日.
5月4日,午前中コサナエなどの観察を終えてから午後に観察するべきトンボが無くなったので,ヤマサナエの未熟な個体などを探しに薄暗い林の中の沢に入っていきました.するとそこにアサヒナカワトンボたちがニホンカワトンボと混じって止まっていました.関東の方にはにわかに信じられないでしょうが,兵庫県では源流といってよい沢にまで成熟したニホンカワトンボは入り込んで,繁殖活動を行っています.
さて,沢に沿って歩いていると,自然と今日はアサヒナカワトンボが産卵していないかと気になります.時間帯もぴったりですし,朽木をそっとのぞいていきましたが,いつも通り産卵しているメスはいません.「やはり見つからないな」と当たり前のように考えていたとき,2度ほど,足元からオスに追い立てられるように,メスが飛び立つのを目にしました.そのとき,兵庫県のアサヒナカワトンボのオスはメスを警護することを思い出し,またシコクトゲオトンボの例が頭にひらめきました.シコクトゲオトンボのメスは非常に敏感で,ちょっとした物音でも産卵を止めて,近くの葉の上に飛び上がります.
▲P03.
メスをエスコートするように寄り添うオス.これは2回目に飛び立った時のもの./5月4日.
そこで,2例目に飛び立ったメスが近くのシダの葉の上に止まったので,その後どうするかをじっと待ってみることにしました.10分ほど待ちますと,予感がぴたりと当たり,メスは産卵を始めました.ジャゴケの根際に産卵しようとしています.
▲P04.
朽木に産卵するとばかり思っていたので,この基質への産卵には少し驚いた./5月4日.
ところが,ストロボを2発も炊くと,すぐに産卵を止めて飛び立ってしまいました.オスはかいがいしくメスの後を追って近くに止まります(P03.).まだ産卵意欲はあるようだったので少し待ちましたら,再び産卵を始めました.今度は朽木です.
▲P05. 朽木に産卵を始めたメス.なんか妙に安心した気になった./5月4日.
再び撮影を始めましたところ,やはりストロボの光が気になるのか,今度はずっと遠くまでメスが飛んでいきました.オスもメスを見失ったようで,流れの上を行ったり来たりしています.例によってしばらく待ちました.しかし飛び立ったメスはさらに離れたところへ移動し,15分くらい待っても産卵にはやってきませんでした.どうやら産卵を中止したようです.
この個体はあきらめて,別の個体を探すことにしました.ほどなく,メスが飛び立ち,オスがその後を追いかけるという,自分的にはパターン化されてしまった動きを目にしました.「これは産卵する,絶対に…」と,もう自信をつけてしまいました.予想どおり,5分もしないうちに産卵を始めました.
▲P06. 生態が分かってくると,安心して写真も撮れるようになってくる./5月4日.
最初は杉の葉に産卵しようとしましたが,気に食わないのでしょう,すぐに移動し,樹皮と思われる板状の朽木に産卵を始めました.この個体はストロボの光が全く気にならないのか,いくら撮影しても動じず産卵を続けました.やはりトンボには個性がありますね.
▲P07.
やっと気に入った産卵基質が見つかったようだ.まわりを気にせず産卵に集中している./5月4日.
この産卵は実に長時間続きました.じつは十分撮影してから,時間があるのでビデオ撮影しようと,車までビデオカメラを取りに行き,戻ってきたところまだ産卵を続けていました.この間約20分ほどかかっています.ということで,最後はビデオを紹介します.ただただ産卵を続けるだけですので,角度を変えて撮影したのを1分ほどに編集しています.
さて,次は,ニホンカワトンボです.ニホンカワトンボはあちこちに姿が見え,源流域の沢に集中しているアサヒナカワトンボと違って,ポイントを見つけるのが大変です.次の日またコサナエの観察に出かけましたので,その午後をねらって探してみました.木杭が並んでいるところがあって,そこにオスが数頭集まって闘争をしていました.メスもどこからか飛び立ちました.昨日アサヒナカワトンボで見たパターンと似ています.そこで,待ってみることにしました.しかしニホンカワトンボはこちらの期待通りには動いてくれませんでした.と,そんな時産卵しているメスが目に入りました.
▲P08.
ニホンカワトンボ橙色翅型メスによる木杭への産卵.水しぶきを浴びながら産卵していた./5月5日.
慎重に近づき,写真撮影ととビデオを回しました.ただ,この個体もやはりかなり敏感で,ビデオカメラのズームリングを回したときに産卵を止め,飛び立ってしまいました.腹端を下に折り曲げたりして,まだ産卵したそうにはしていましたが,再び産卵を開始することはありませんでした.短いビデオを紹介しておきます.
この2種,いずれもメスはかなり敏感に「何者」かが近づくのを感じ取っているような気がしました.今日の観察が当たっているかどうか,この春,また別の場所でカワトンボの産卵観察に挑戦してみようと思っています.普通種ほど難しい…