ゴールデンウイークの最初(GW-1)は,トラフトンボを観察することにしました.まだ4月ですが,シオヤトンボ,トラフトンボ,オグマサナエ,フタスジサナエなどの不均翅亜目は繁殖活動に入っています.昨年はコサナエ属の観察にこの時期を費やしました.今年はトラフトンボに焦点を当てようと考えています.昨年コサナエ属の産卵が夕方だったことを反省材料として,トラフトンボも先入観を捨てて観察することにしました.
4月30日,初日,トラフトンボを9:30ころから観察を始めました.今年の観察池はヨツボシトンボが多数発生していて,トラフトンボはヨツボシトンボが飛び回っているヨシ帯を避けて,土手の方を飛んでいます.数はあまり多くありません.
▲パトロールするトラフトンボのオス.十分成熟している./4月30日.
数が少ないのでまだ時期的に早いのか? などと考えましたが,先入観を捨ててじっと待ちました.少し池の周りを様子見に歩いたとき,道端の草に止まって卵塊を形成しているメスを見つけました.アッと思ったためか気配を感じられ,少し高い木の枝に飛んで移りました.
▲初の撮影チャンスはやはり気が焦るのだろう.気づかれて高いところへ逃げられてしまった./4月30日.
12:00前後になると,何組か交尾態が入ってきましたが,連れ去っていくパターンが多くて写真にもビデオにもなりません.そうこうしているうちにトラフトンボの姿が見えなくなり,オスは道の上を摂食飛翔するようになってしまいました.13:00を過ぎ昼食タイムでもあるので,夕刻の観察まで池を離れました.
池にはちょうど15:00頃に戻りました.戻った時に,池の中でヨシの茎につかまってメスが卵塊を作っていました.着いたばかりで長靴も履いていなかったため,ビデオの望遠でその様子を撮影しました.やはり午前中だけでなく,こんな時間にもやってくるのだと思いを新たにし,次の産卵メスを待ちました.
▲午後3時,池の中のヨシの枯れ茎につかまって卵塊をつくっている./4月30日.
さて,その後は,18:00ころまで,退屈しない程度に次々に交尾ペアや,単独メスが入ってきました.おそらく10頭以上のメスが来たと思います.
最初のメスは,うまく道端に止まりましたので,ビデオ撮影をしようとカメラを取りに行っているすきにオスが追い立てたらしく,飛び去っていました.オスが多いとこういったことにもなるのですね.したがって,卵塊をつくり始めたところまでで観察・撮影は終了.
▲卵塊をつくり始めたメス.このあとオスに追い立てられて場所を移動./4月30日.
その後も交尾態はやっては来ますが,連れ去りが結構多く,また見失ってしまったり,と,なかなか身近に観察できません.そんな中で,やっと私の立っている岸近くでメスを放したペアに出会いました.しかしながら,メスはぽたりと落ちるように草の上に止まってしまいました.このメス,たぶん産卵した後のメスだったようです.全然産卵する気がないように見えました.
▲オスが去るのを待つかのように,草の上に落ちでじっとしているメス./4月30日.
こんなふうに,交尾が離れても,メスが産卵せずに逃げるペアも結構いました.そんなこんなでなかなかうまくいかないと気持ちが萎えてきそうになりましたが,16:30頃から,ラッキーが続きました.巡回しているときに卵塊をつくっているメスに出会ったり,目の前にメスが卵塊をつくりに入ってきたりしました.
▲トラフトンボの卵塊つくり.夕方が個体数が多いようである./4月30日.
やはり,夕方に産卵活動が盛んになるという現象を体験できました.春のトンボは結構朝や夕方が好きなのですね.一番下のメスが水面に卵を落とす瞬間も観察できました.結構岸から離れた,オオフサモの生えているあたりで卵を水面にこすりつけたようです.
▲卵塊を打水して放卵した./4月30日.
今日最後の交尾態は18:00少し前に池に入りました.これも交尾を解くのを慎重に待ちましたが,解いたメスは逃げようとして,またオスにタンデムされてしまいました.そしてどこかへ飛び去りました.
▲本日最後の交尾態ペア.もっとも18:00に引き上げたのでその後のことはわからない./4月30日.
トラフトンボは朝早くからオスが飛んでいます.そして夕方にも飛び,結局のところ一日中繁殖活動している印象でした.一つ気づいたのですが,15:00以降は,ヨツボシトンボの姿が消え,池はトラフトンボの天下になっていました.これなんかも,夕刻の繁殖活動と何か関係があるかもしれません.以上で4月30日の観察を終えました.
昨日の観察に気を良くし,続けて5月1日もトラフトンボを観察することにしました.昨日が9時30分くらいからの観察でしたので,今日は8時前には池に入りました.もはやオスたちは池の上を飛んでいます.卵塊を付けたメスも池の中央を飛んでいました.そうこうしているうちに8時20分ころ,交尾態が入ってきてすぐ近くでメスを放しました.メスはすぐ近くの枯れ茎に止まって卵塊をつくり始めました.
▲卵塊をつくるメス./5月1日,8時20分.
メスは産卵に朝早くからも来ていることが分かりました.今まで12時ころが一番多いような印象を受けていましたが,昨日の夕方といい,今日の朝といい,これらの時間帯にも産卵に来るのですね.
その後もやってきますが,近くでの観察機会はありませんでした.10時42分次の観察機会が訪れました.私のすぐ前で交尾ペアがメスを放しました.メスは1回だけチョンと打水し,すぐそばの折れ茎に止まって卵塊をつくり始めました.
▲左;産卵場所を見き分けるように飛ぶ交尾態.右:卵塊をつくる前に打水するメス./5月1日,10時42分.
これは接近のチャンスですので,ビデオカメラを回して至近距離から撮影ができました.
▲卵塊をつくるメス.今回最も近くで観察できた個体である./5月1日,10時42分.
卵塊をつくって飛び立つまで4分半ほどかかっています.卵塊をいっぱいにつけたメスは,水面に一の字を引くように水面をこすって放卵しました.
この後もいくらかの交尾態は入りました.昼間はいったん引き揚げ,夕方の産卵個体の多い時間帯にもう一度来ることにしました.そしてここでも目の前で卵塊をつくるメスの観察ができました,15時15分頃です.これはビデオで紹介しておきましょう.
この日の観察はこれでおしまいです.トラフトンボの観察はこれで終える予定でしたが,5月3日に,天候が悪かったこともあって成虫観察はお休みにし,水中の卵の撮影に挑戦しました.そう,ハウジングされた水中ビデオを使ったのです.水の中のトラフトンボの卵は,妙に美しい印象を受けました.
▲トラフトンボの卵塊の水中のすがた./5月3日.
最後におまけですが,5月4日のコサナエの観察時にハプニングが起きました.コサナエ観察池でトラフトンボが卵塊をつくり始めたのですが,岸辺で観察していた私の腕に止まって卵塊をつくり始めたのです!.手にはビデオカメラを持っていたので,その時の一コマを紹介しておきましょう.
▲私の腕で卵塊をつっているメス.最後まで作って無事飛び立った./5月4日.
では最後に,2日間のトラフトンボ観察で気づいたことをまとめておきたいと思います.まず,トラフトンボは,朝8時ころから夕方6時ころまで,ほとんど途切れることなく繁殖活動をしているようです.昼下がりにやや途切れる感じはありますが,午後2時過ぎにもなると交尾ペアが水面を飛んでいました.次に,交尾ペアは,その後交尾を解いたら,必ずしもメスが卵塊づくりに入らないということです.半数以上の交尾ペアで,交尾を解いた後メスが逃げてしまいました.卵塊を形成するときには,観察している限りにおいては,一度メスは軽く打水します.対して逃げてしまうときには打水しないようです.オスは産卵意欲のないメス,あるいは産卵を終えたメスと交尾しているのかもしれません.