新 トンボ歳時記
No.410. キトンボの生き残り調査.2012.12.16.

早いもので,「トンボの生き残り調査」というようなタイトルで一連のお話をするのは,5回目になってしまいました.トンボ歳時記も足かけ5年経ったということですね.その5年目のシーズンももう終わりに近づきました.

昨日の予報では,朝から晴れということで,朝起きて期待して空を見上げましたが,どんよりとした曇り空.12月に入って初めて週末が好天になりそうだったのに,残念な気持ちで仕事をまずは片付けました.そう,12月に入ってからも休日に仕事が入って,今月の観察のチャンスは今日が初めてだったのです.この時期になると,もうほとんどキトンボしか生き残っていませんので,今日は,他のトンボは放っておいて,キトンボだけを見に行ってきました.

朝遅くに家を出ましたので,現地に着いたのは11:40でした.早速コンクリートの壁にキトンボが止まっているのを見つけ,まずは一安心.なにしろ今年の12月は寒波が襲来して,かなり気温の低い日が続きましたから,ちょっと心配していました.

着くと早速池に降りました.降りるやいなや,足元からキトンボのカップルが飛び立ち,少し飛んで止まりました.キトンボがあの程度の寒波はものともせず元気に活動している姿を見て,まずは手応えを感じました.体を温めているのでしょう,少し飛んでは移動することを繰り返していました.そしていきおい産卵を始めました.

ところがどういうわけか私の足元で産卵をして離れようとしません.風が吹いているので,私を風よけに使っているのでしょうか!? 写真としてはとても撮りにくい位置です.おまけに,どういうわけか,産卵を初めると,太陽が小さな小さな雲の陰に入ってしまいます.全天ほとんど青空なのに,その0.01%にも満たない大きさの雲に太陽が隠れてしまうのです.しかし,キトンボはそれでも産卵を続けました.これは今日の気温が高いせいでしょうね.車の外気温計で14.0℃ありましたから.

2,3分産卵を続けた後,また岸辺に戻って日向で体を温め始めました.休憩は5分ほど.そしてまた2,3分産卵をして休憩,と昨年の年末に観察したような,インターバル産卵を行いました.そういったインターバルを3回ほど繰り返してから,メスはオスから離れ,上空へと飛び去っていきました.するとすぐに次のカップルができました.「できた」というのは,実はメスが単独で止まっているのを見つけたのですが,同時に近くのオスの目にも入ったようで,それに持って行かれてしまいました.

このカップル,交尾をしようと頑張るのですが,なかなかうまくいかないようです.飛びながら交尾を試み,止まって完成...とはいかず,離れてしまいます.どうやらメスの腹部がちょっと曲がっているのが原因のようです.それでも何度か挑戦するうちに,やっと交尾が成立しました.交尾時間は約10分ほどでした.

交尾を終えてしばらくあちこちを飛んだり止まったりした後,このカップルは,水面上へ出ていき,打水産卵を始めました.水が冷たいでしょうに,その上で連続打水産卵をしています.動きもややぎこちなく,やはり寒いのでしょうね... あるタイミングで水面にぺたりと落ちてしまいました.しかしその瞬間危険を感じたのか,力一杯水面から飛び立ち,一気に上空へ舞い上がって,池から外へ出てしまいました.

私も水から出て,岸辺の方に帰っていきますと,ペアがまた止まっていました.でもよく見ると腹部の曲がっているメスのペアです.池の外から帰ってきたようです.と,今度は,このカップルは打泥産卵を始めました.

私は,かねてから,打水産卵をするカップルと打泥産卵をするカップルというのは,行動遺伝子の表現型の違いではないかとひそかに思っていましたが,これは完全に打ち砕かれました.同じカップルが,池の中程で打水産卵した後,すぐに打泥産卵を始めたのですからね.これは産卵戦略ではなく産卵戦術だったというわけです.このカップルが先と同じカップルであることは,メスの腹部の曲がり以外にも,オスの左後翅の破れの形から間違いないようです.

この二番目のカップルは実に50分以上池にとどまり,産卵と休息を繰り返しました.時刻は12:50ころになっています.気温はどんどん上がり,さらに次のカップルが入ってきました.これも,産卵と休息を繰り返しています.このカップルに付き合っているとき,また別のカップルが離れたところで産卵をしてるのを目にしました.近づくと,産卵を終え,メスは上空へ逃げ去りました.かなり前から産卵をしていたようですね.

産卵カップルの数は,7ペアくらいまで数えましたが,一度に2,3カップルが来る状態になり,途中で分からなくなってしまいました.でも,ざっと10ペア近くは産卵に来ていたようですね.今回のキトンボ産卵行動で一つ面白かったのは,打水を間にはさむことなく,岸辺の水から少し離れたところで連続打泥する個体がいたことです.水が冷たいからでしょうかねぇ.

13:30ころ,まだ産卵カップルがいましたが,引きあげることにしました.まだまだキトンボは元気いっぱいでした.今日の産卵観察数が多かったのは,たぶん,昨日一昨日と天気が悪かったせいでしょう.産卵したい個体が好天を待ちかまえていたのだと思います.

あと2週間ほどでお正月です.今シーズンは何とかして,越年産卵を見てみたい気がしますね.今日の数なら行けるかもしれませんね.また1週間後に観察に来ることにしましょう.