新 トンボ歳時記
No.406. タイリクアカネの観察/カトリヤンマの産卵 2012.10.27.

今年はアカトンボの観察がなかなかうまくいっており,出会っていない兵庫県産のアカトンボは,飛来種を除くと,タイリクアカネだけになってしまいました.そんなわけで,今日は,タイリクアカネの観察に出かけることにしました.タイリクアカネは海岸近くを好むトンボです.そもそもは海岸のロックプールのようなところに生息していたらしいのです.ですからタイリクアカネがたくさんいそうで,しかも産卵を間近で観察できる場所という条件を満たすのは,海岸地帯にある緑地公園の人工的水辺です.

現地に到着したのはちょうど9:00.公園や緑地帯を水辺にそって順に歩いていきました.しかしいやな予感がするような...全くトンボというトンボがいません.空は青空,風は涼しいですが,歩いていると汗ばむくらいの陽気ですのに... 緑地帯を最後の最後,海にたどり着くまで歩きましたが,結局ヌル状態でした.観察場所の変更まで考えたりしましたが,とにかく引き返しながらもう一度トンボを探しました.9:33,やっと1頭のメスが,水辺の岸に止まっているのを見つけました.続いてオスも発見できました.

秋のトンボはやはり時間に厳しいようですね.人間は暖かいと思っていても,トンボにしてみると,まだ十分ではなかったのかもしれません.そういえば私は長袖にさらに一枚上に羽織っていましたからねぇ,そしてせっせと太陽を浴びながら歩いていたわけですから,これでは体感温度は暑いはずです.でもこれで,今日はこの場所で心中する(縁起でもない言葉を使って申し訳ありません)覚悟ができました.さらに水辺に沿って道を戻っていきますと,また1頭発見しました.今度は近づきやすいところに止まっています.近づいてカメラを向けますと,これはアキアカネでした.

アキアカネが都会で見られるのは,以前は当たり前でしたが,最近はちょっと嬉しくなる状況です.タイリクアカネもアキアカネも,白っぽい岩に止まっています.彼らにとっては,やはり秋の気温なのでしょうね.体を温めてから,活動を開始するといったところでしょう.さて,アキアカネが見つかってからは,次々とタイリクアカネのオスの姿が見られるようになりました.ほんの30分前には,トンボっ子ひとりもいなかったのに,なんともトンボたちの環境に対する反応は同調していますね.

さて,水辺にはオスが続々と集まっていますが,メスの姿は最初に一つ見ただけで,全く見つかりません.きっとまだ草むらなどで出番を待っているのだということで,水辺から離れ草むらを探してみました.すると,いましたいました,メスが植木の添え木に止まっていました.

オスもそうですが,出てきた直後のトンボたちはとても敏感で,すぐに飛び立ってしまいます.メスも結局はあまり近づくことができずに終わりました.まあ,周辺に隠れていることだけははっきりしましたので,これで良しとしましょう.時間はどんどん経っています.そろそろ産卵しているのではないかということが気になり始めました.時刻は10:30を回りました.最初の写真の場所に差しかかったとき,産卵しているカップルを見つけました.

このペアの産卵が一段落し,次にまたカップルが入ってきたとき,オスが1頭のメスをつかまえました.メスが単独産卵に入ってきたのでしょう.オスに目ざとく見つけられてつかまり交尾に至りました.幸い近くの植栽に止まって交尾をしてくれました.

タイリクアカネはなかなか渋い色彩をしています.メスのオリーブがかった薄赤色が何ともいえない感じで私の好みの色です.オスの赤色も,他のアカネとは少し違う錆色に近い感じの赤です.さて,池ではもうオスたちもたくさん飛んでいて,産卵するカップルに干渉しています.産卵も最盛時間帯に差しかかったようで,次々にカップルがやってきています.

タイリクアカネの産卵は,オオキトンボと同様に,打水してから跳ね上がる高さが結構高く,近づくとカメラのファインダーをはみ出る動きをします.だから,打水の瞬間か,飛び上がった瞬間か,どちらかに的を絞って狙う必要があります.これがなかなか難しい.今日は,近くで産卵してくれたにもかかわらず,ピンぼけの大量生産をやってしまいました.タイリクアカネは手強いです.

最初の産卵を見たのが10:36でした.その後息つく暇もなく次々に産卵にやってきましたが,11:10ころになると,ピタっと産卵が終わったような印象になりました.そして,産卵が終わって逃げ去るメスを捕まえるオスが見られました.産卵後交尾です.このような交尾と思われるカップルはその後もいくつか見られました.

この11:11に交尾したカップルは,交尾後産卵を始めましたが,比較的短時間で産卵を終えてしまいました.その後もぼちぼち産卵に訪れるカップルもありましたが,明らかにピークは過ぎ去ったようです.わずは30分ほどのピークでした.オスたちは産卵後も水辺に残って,水面上をホバリングして飛ぶようになりました.単独で入ってくるメスを待っているようです.単独メスを見つけることができた運の良いオスもありました.

11:39に産卵のカップルを見たのを最後にして,観察を終えることにしました.水辺を歩くと,次々にタイリクアカネのオスが飛び立ちます.もうすぐハイヌーン,今日の繁殖活動も終わりに近づき,オスたちも水辺で止まって,これから午後の一時を過ごすのでしょう.

帰り道,コノシメトンボを見つけました.都会のもっとも海よりにある人工島ですから,タイリクアカネやアキアカネのような長距離移動をするトンボは,都会を飛び越えてこういった場所にも集まってきます.コノシメトンボも各地でタイリクアカネと混じってよく見つかりますので,結構移動していることが分かりますね.それとも,この人工島で夏を過ごしているのでしょうか...

さて,駐車場を出たのがちょうど12:00,今日は午後から曇ってくると言う予報でしたが,まだ空は青空で,天気が崩れる気配などありません.そこで,一気に転進して,カトリヤンマの産卵を見に行くことにしました.夕刻に産卵するカトリヤンマは,曇ってくるとむしろ早い時刻に産卵に来てくれるかもしれませんので,天気の崩れは気になりません.それに目的地はかなりここから遠いので,それなりに時間がかかることもかえって好都合です.


現地についたのは14:30です.まだ空は十分な青空,ほんの時折,太陽が薄雲に隠れる程度です.カトリヤンマは,気温が高い夕刻の日陰で産卵するのが好きなようで,今日は絶好のカトリヤンマ日和だと判断し,徹底探索をすることにしました.

この場所は,知人が昨年摂食飛翔する群れを見たという情報をくれた場所で,私としては初めての場所です.着く早々,カトリヤンマの飛翔する姿を発見しました.幸先のよいスタートです.ただこの個体はオスのようで,すぐに飛び去ってしまいました.あちこち歩いて探索しますと,オスに結構出会いました.稲刈りが終わった水田の上を,あちこち気ままに飛び回っています.気ままといってもこれは明らかにメスを探しているようです.産卵しそうな場所は念入りに探して飛んでいます.のべ10回くらいオスの姿を見ました.そして到着後約1時間経った15:21,ついに産卵しているメスを見つけました.

そっと近づくと,ぱっと飛び立ちホバリングをします.そしてこちらの動きに全神経を集中して,安心したらまた産卵を開始します.このメス,硬直してじっとしている私の股の下に止まって産卵しました.股のぞきの格好で記録を撮りましたので,実は上の写真は180度回転させています.このメスはすぐにどこかへ姿を消してしまいました.まだ時間が早いような感じなので,さらに探しました.15:44,もう1頭別のメスを発見しました.

こちらのメスは,あちこち飛びながら産卵場所を変えてくれましたので,多少違ったアングルの記録が取れました.先のメスも,このメスも,産卵しているのは陽が当たる場所ではありましたが,太陽の陰になる斜面で産卵しました.やはり日陰が好きなのでしょうね.

ということで,16:00,かなり離れた2地点での観察を,終えることにしました.カトリヤンマも少し老熟が見られ,タイリクアカネはまっ盛り.いよいよトンボシーズンも,秋のピークが今の盛りで,これからだんだんとトンボの数が減ってくる時期に入ろうとしています.いやはや,一年経つのは本当に早いです.あとはオオアオイトトンボ,そしてキトンボ,彼らが今しばらくは最盛期で頑張ってくれることでしょう.