この時期はトンボの端境期に当たり,夏のトンボの生き残りと,秋のトンボの出始めの間の時期になります.温暖化のせいか秋のトンボの出足が遅く感じられ,夏のトンボはだいぶん消耗していて,今が旬のトンボはオオルリボシヤンマやタイワンウチワヤンマくらいのものです.今日は貪欲に,夏の名残りと,小さな秋と,今が旬,の3つを追いかけて,兵庫北部へ出かけてきました.
◆夏の名残から...
まず最初は豊岡市にある公園です.
ここでは早速オニヤンマに出会いました.この時期になると,オスよりメスが目立つようになります.オスはやはり消耗するのが早いのでしょうか,メスは,腹部に産卵の泥跡が付いており,かなり老熟した感じではありますが,園内のあちこちで,まだ元気に摂食をしていました.産卵には出会いませんでした.
普通種といわれるトンボたちも,数は減ってきたように感じましたが,まだ元気で頑張っていました.ハネビロトンボが池に入ってきており,網が欲しいと思わず思ってしまいました.ネキトンボが産卵に入ってきました.これはアカトンボではありますが,6月から産卵を開始するアカトンボで,秋のトンボというよりは夏のトンボという感じです.川の方ではコオニヤンマが産卵にやってきました.翅はボロボロで,やはり生き残りという感じが全身にあふれています.
コオニヤンマもメスが目立つようになり,この後行った香美町の川にもメスが止まっていました.香美町では,コシボソヤンマのオスが,丹念に朽ち木のあるところをのぞき込み,メスを探して飛んでいました.私がメスを探すのと同じ場所を探しているので,私のトンボ感覚もまだ鈍っていないようです.
◆小さい秋...
香美町の川へ行く前に別のところへちょっと寄ってみましたところ,草原にノシメトンボが止まっていました.これは純粋に秋ですね.アカトンボでも,ナニワトンボ,リスアカネ,ネキトンボは,夏から池に出ていますが,ノシメトンボはどこかに隠れていますから,これが平地の草原に出てきたのを見つけたということは,小さな秋を見つけたと言っていいでしょう.
◆今が旬...
さて,今日の最後に,今が旬のオオルリボシヤンマを見に行くことにしました.香美町の公園です.ここの池は水が落ちていて入りやすく,旬のオオルリボシヤンマに出会うのには都合がよかったです.今日はこれをメインターゲットにしてきましたので,時刻も午後2時過ぎと,産卵にはばっちりです.池に降りて少し歩くと,早速メスが産卵をしているのに出会いました.
まずはよく見る産卵姿勢.浮葉植物の葉や葉柄に産卵する姿勢です.池の岸近くにたくさんジュンサイの葉が浮いていましたので,メスはこういった産卵をしているのだろうと漠然と考えていました.しかし,今日は,産卵基質バラエティショウという感じで,オオルリボシヤンマのメスは,実に多様な産卵基質に産卵をしていました.今日は,このバラエティを記録することにしました.次は,水面上に倒れた朽ち木への産卵です.
これもまあ普通に見られる産卵姿勢と言っていいでしょう.オオルリボシヤンマは,私の今までの観察では,水のないところには産卵しないように見ていました.しかし,岸辺の陸地に転がっている朽ち木に産卵をしているメスに出会いました.それも,この基質を好んで産卵している感じで,私の気配を感じて飛び立っても,別の朽ち木へ移動するというほどの入れ込みようです.
ここまで来れば,と思いきや,やってくれました.ヤブヤンマよろしく土中への産卵です.土中への産卵も,他に比べると数は少ないですが,結構あちこちで見かけることができました.
ということで,生きた水生植物,水面上の朽ち木,陸上に転がる朽ち木,土,と異なる条件下にある,さまざまの産卵基質に産卵を見せてくれました.ここまではすべて青色型のメスでした.兵庫北部には比較的普通に見られる緑色型のメスにここまでは出会いませんでした.空が暗くなって帰ろうかと思って歩き始めたとき,飛び立ったのが緑色型のメスでした.このメスも,さらに色々な産卵姿勢を見せてくれました.まずは,水面下の位置への水生植物内産卵.次が,なんと,石の表面への産卵.しばらく産卵行動を続けましたので,これはきっと石の表面に付いている何かへ産卵をしているのだと思われます.最後は普通の,水面に倒れた朽ち木への産卵です.
先週神戸市内で水面上のヒメコウホネ葉柄への産卵を見ましたので,ギンヤンマも色々な産卵基質の色々な位置に産卵しますが,オオルリボシヤンマは,それ以上に何にでも産卵できるトンボである気がします.この産卵基質選択の柔軟性が,比較的個体数が多いということにつながっているのかもしれませんね.
ということで,帰りがけの駄賃までいただいて,オオルリボシヤンマの観察を終えました.空には雲が重くたれ込め,雨も降ってきました.高原の天気はすぐに変化します.まだ3時半過ぎなのに,もうあたりは夕方のように暗くなってしまいました.そうそう,うっかりしていました.オスもたくさん飛んでいて,メスを執拗に追いかける行動はたくさん見られました.
飛んでいるメスを追いかけているオスは,メスが産卵を始めると,そっと近づいていってタンデムを形成しようとします.一度だけ,産卵中のメスにつかみかかり,メスもろとも地面に落ちるということがありましたが,これでも交尾には至りませんでした.飛んでいるメスに体当たりする行動は見られませんでした.
さて,暗い池はもう夕方の様相です.オオルリボシヤンマは暗いのが好きなのでしょうか,ますます活発に活動を続けています.そんな中,オオヤマトンボが産卵に入ってきました.動作が小さく,狭い範囲で打水しています.これはチャンスです.
結果的にはあまりうまく撮ることはできませんでした.でも,なかなかこういうチャンスはないし,1枚でも見られるものがあっただけでもラッキーです.帰りがけの駄賃のまた駄賃という感じで,最後まで楽しませてくれました.