新 トンボ歳時記
No.387. キトンボの幼虫 2012.8.12.

今日はいつもとは違って,幼虫採集を行いました.盛夏のこの時期は幼虫は端境期なのですが,1種だけ,今頃成熟する幼虫がいます.それはキトンボです.キトンボも,生息地によっては7月に羽化してしまいますが,この生息地ではそれが9月にずれ込むのです.そう,ここは,今年のお正月まで成虫が飛んでいた池です.ここは以前の調査でも,9月23日の秋分の日にも羽化直後の個体がいたのです.

この池のキトンボ個体群は,他と比べて,生物季節が少し遅い方にずれているように感じられます.昨年7月当初に幼虫採集に来ましたが,全く見つかりませんでした.そこで,今年は8月下旬にねらいを定めて,幼虫調査を行おうと考えていました.ちょっとまだ早いのですが,どれくらい成長しているか確かめる意味もあってやって来たのです.

ごらんのように,キトンボの終齢幼虫がいました.全部で6頭ほど採集でき,1頭は間もなく羽化するというところまで成長していました.これは別途自宅羽化させる予定です.

さて,幼虫が採れたので,あとはトンボたちを眺めていました.この池には,オオヤマトンボ,タイワンウチワヤンマ,ギンヤンマ,ショウジョウトンボ,チョウトンボ,コシアキトンボなど夏のトンボたちが乱舞していました.日陰では,もう出動準備の整ったナニワトンボがいました.マユタテアカネはまだ未成熟でしたけどね.

帰り際,お盆のころに数が増えることから「精霊トンボ」と呼ばれることもあるウスバキトンボが,水田の上で風に向かってみんな同じ向きに群飛していました.いよいよ夏も終わりに近づきました.季節は着実に秋に向かって進んでいます.トンボたちも含め,生き物たちはそのことをよく知っているようですね.ツクツクボウシも鳴き始めています.

実はここへ来る前に,定点池の方にも寄って,キトンボの幼虫を探したのですが,こちらは水がほとんどなくなっていて,シオカラトンボが産卵をしているだけといった感じでした.

この後は,夏に確認しておかねばならないベニイトトンボの生息状況を見に行きました.時間的に産卵活動は終わっていたようで,オスが3頭見られただけでした.

あとはショウジョウトンボの赤さが輝いていましたので,記録を「撮って」おきました.

ただ,今日やって来てみて,一つ心配なことがありました.ブルーギルが大量に発生していたのです.ブルーギルの稚魚は,藻の中に入り込んで,イトトンボの幼虫を食べるのです.この生息地のベニイトトンボ幼虫の生息場所は非常に限られていて,ここにたくさんのブルーギルがもぐりこんだりすると,ベニイトトンボは激減すると思われます.下手をすると絶滅するかもしれません.それにオオクチバスもいて,時々ジャンプしてトンボの成虫を捕ろうとしています.この池はずっと以前に「かいぼり」がなされて,一時,こういった外来魚は駆除されたはずなのですが,また復活しているようです.誰かが導入したのでしょうか? 釣り糸も岸辺の木にからまっていました.

こうやって,貴重な在来種が数を減らしていく,また最悪の場合姿を消していくのですね.ちょっと後味の悪い調査になりました.