新 トンボ歳時記
No.383. 接近遭遇したネアカヨシヤンマ 2012.8.1.

今日は夏季休暇の最後の日で,昨日目撃したネアカヨシヤンマとの接近遭遇を期待して,いつもの場所へトンボの観察に出かけました.朝,昨日ネアカヨシヤンマが飛んだ小さな池へ行って座っていました.

着くなりオニヤンマのメスが産卵したそうにそばの流れの上を往き来しましたが,結局産卵せず(いやちょっとしていたかもしれません,というのは腹部先端に水滴が付いているのが見えましたので)飛び去ってしまいました.毎日違うトンボがやってきます.30分ほど待ったとき,池で黒い小さなトンボが打水産卵を始めました.激しく飛び回るので正体は分かりませんが,おそらくエゾトンボだと思いました.やがて,池を離れ,近くの流れの中にもぐりこみました.

そっと流れをのぞいてみますと,エゾトンボが連続打泥/打水して,産卵をしています.トントントントンというリズミカルな動きで,水面や砂の上を腹端で叩いています.なかなか産卵をやめず,かなりの時間継続しました.池に産卵に入ったのが9:54で,産卵をやめたのが10:03でしたから,ざっと9分間産卵を続けていたことになります.写真の方は,暗いところで動きの速い黒いトンボですので,エゾトンボのなかまはうまく撮れません.しかもストロボやカメラの設定があまりよくなく,全体が暗い写真ばかりになってしまいました.しかしこの失敗が後に生きました.これをラッキー連鎖の一とします.

さて,10時半を過ぎたころ,思い立って,この池を離れることにしました.今日はここにいたくないという「胸騒ぎ」がなぜか強くなったからです.これがラッキー連鎖の二でした.カトリヤンマのオスが林の中にぶら下がっているのも見たかったし,ヤブヤンマは結構別の池でも産卵をしていることがよくあるので,ひとまわりしたらまたここに帰ってくればいいという感じで,林の中を歩くことにしました.すると,「胸騒ぎ」は的中し,まずカトリヤンマのオスが,山道を横切り,すぐそばの木に止まりました.

最近はカトリヤンマの数が激減し,昔はちょっと探せばいくらでも見つかったカトリヤンマが,今は一年に1,2度しか出会わなくなってしまいました.ということで,まずは目標を一つ達成しました.

次に,小さな別の池の横を通ったときでした.オオルリボシヤンマかと思われるトンボのメスが産卵に入って飛んでいるのが見えました.ただ,オオルリボシヤンマはまだ季節的には早いので,ヤブヤンマかとも思いましたが,とにかく池の方に降りてみることにしました.すると,5mくらい離れたところで産卵していたようで,私が池に降りる音で産卵をやめ,木の幹に一時的に待避するように止まりました.コシボソヤンマやヤブヤンマでもよく見られる行動です.カメラを覗いてその止まったトンボを見たときに,一気にアドレナリンが出ました.まさに今日のねらいのネアカヨシヤンマが止まっていたのです.

近づいて写真を撮ろうかとも思いましたが,この池は泥深く,長靴がどんどん沈むので,それができませんでした.これがラッキー連鎖の三.ただ,可能な限りということで,3歩ほど進んで写真は撮ってみました.このときにできた足跡がラッキー連鎖の四.ところで,コシボソヤンマもヤブヤンマも,こういう一時待避の後は必ず産卵を再開しますので,それを信じて待つことにしました.産卵場所は,全くの勘ですが,自分の立っているところが一番いいと感じました.ネアカヨシヤンマの好きなコケの生えた倒木が池から突き出ていたからです.これがラッキー連鎖の五.

11:57,ネアカヨシヤンマが飛び立ちました.このとき姿を見失いました.しかし4分後の12:01,予感は的中し,まさに足元に産卵に入ってきました.気配を消して,固まったようにじっと止まるのを待ちました.そしてついに着地,産卵を始めました.その場所はすぐに飛び立ちましたが,次にネアカヨシヤンマが止まったところが,私の長靴でできた足跡の凹み部分でした.産卵しやすい角度なのでしょう.そこで産卵を続けてくれました.しかもこちらに体の横を向けています.これ以上の要求はできないほど,完璧な産卵姿勢です.先にエゾトンボでカメラの設定をしくじっているので,落ち着いてストロボやカメラの設定を見直し,後は一気に連写モードで攻めました.

その後産卵場所は小さな移動がありましたが,長靴から10cmの所まで近づいてきました.兵庫県ではネアカヨシヤンマの産地が非常に少なく,個体数も非常に少ないので,これほどの接近遭遇は非常に稀なことです.今日はラッキー連鎖がすべてつながって,この接近遭遇が実現しました.物事は,偶然がつながって,それらがすべてよい方向に結びつくことがあるものですね.

さて,今日は早い目に帰ることにしました.帰り道,オオシオカラトンボのオスの未熟個体を見つけました.オオシオカラトンボは,オスでも羽化してからほんの少しの間ですが,メスとそっくりの色彩をしています.ただこの期間は非常に短く,すぐに粉をふいてきます.今日はそんなオスに出会うことができました.そして,帰ろうとしたとき,アオヤンマの湿地でメスが産卵を始めたのです.目の前2,3mの所です.そっと近づき,また産卵の写真を撮ることができました.

このメスが飛び立ったとき,また偶然にもオスが飛んでいて,すぐさま連結状態になって連れて行かれました.まあ,撮れるときは帰り道がてらにでも撮れるのですから,,,,,今日は本当につきまくっていた一日でした.最後のよい夏季休暇でした.