兵庫県のトンボを語るとき,地味ですが,欠かすことができないのが,県下では淡路島だけにしか見られないアサヒナカワトンボの橙色翅型オスです.極めて普通種であるアサヒナカワトンボを見るために,わざわざ明石海峡大橋を渡って...というのは,なかなかできません.でも,まもなく,休日の上限1,000円というのが廃止になるかもしれないので,行くなら今しかないということで,意を決して行ってきました.
▲県下では淡路島南部にだけ見られるアサヒナカワトンボの橙色翅オス.
上:成熟個体,下:未熟個体.
過去の記録を参照しながら,まず最初に入った川で,早速,高いところに止まっている目的のオスを見つけました.1頭だけは標本作製のため採集しようと思っていましたので,写真には撮れない位置ということで,これを採集しました.少し探すと,もう1頭飛び立ち,幸先のよいスタートでした.しかし,どういうわけか,高いところばかりに止まります.これでは写真にならないと思い,簡単に見つかったのでほかの川にもいるだろうと考えて,次々と移動しながら探すことにしました.
▲最初以外の川では,透明翅型のオスばかり...
上:いくつか入った川のうちの一つ.
中2段:アサヒナカワトンボの透明翅型オス.下:透明翅型メス.
ところが,その後に入った川では,アサヒナカワトンボがまったく見られなかったり,いても透明翅型のオスばかりだったりで,橙色翅を見つけることができません.12:00を過ぎ,成果が芳しくないので,最初の川に戻ることにしました.
▲最初に入った川.結局ここに戻って観察することになったのだ.
上:木漏れ日が射す,どちらかといえばうす暗い川である.
下:朽ち木が産卵基質になる.これが観察個体のなわばりの資源.
最初の川に戻って,少し探すと,橙色翅の個体が,川からすぐ上の葉上に逃げるのが見えました.そこでこれが降りてくるのを待つことにしました.ほどなくすると舞い降りてきて,産卵場所となるであろう朽ち木のまわりを確かめるような飛び方をして,木漏れ日の射すスポットに止まりました.
▲樹上から降りてきて,木漏れ日の射すスポットに止まる橙色型オス.
中左:座っている私の膝に止まってなわばりを見守る.
川に入っていくと,敏感に感じ取り,上へと逃げます.気にせず,撮影に一番いい位置に腰を下ろし,あとは持久戦に持ち込みました.そのうちに相手も慣れてきたのか,時々降りてきては,朽ち木のまわりを飛び回って調べ,その後石の上に止まって,しばらくするとまた樹上へ上がる,といった行動を繰り返すようになりました.上へ上がるのは,必ずしも驚いたからというわけでもなさそうで,なわばり行動の一環であるように感じられました.
▲なわばりを調べる行動.
上:流れにオーバーハングしている木の葉の上に止まってなわばりを見守る.
中2段:産卵基質である朽ち木のまわりを飛び回って調べるオス.
下:ときどき透明翅型オスも朽ち木を調べにやってくる.
観察を続けていると,相変わらず,樹上→朽ち木のまわりの飛翔→石の上の木漏れ日スポットに静止,といった行動を繰り返しています.このオスも慣れたと見えて,私の膝の上に木漏れ日が射すと,そこに止まるようにもなりました.
この朽ち木のまわりには,ときどき透明翅のオスもやってきて,調べるような行動を見せます.橙色翅型はなわばりを持ってその場所にとどまる傾向があり,透明翅型はうろうろしながらパトロールするようにしてメスを見つける,といった繁殖戦略の違いが垣間見え,とても楽しい観察になりました.
15:00近くになると,冷たい風が吹き始め,木漏れ日も移動して,朽ち木の場所が陰になりました.このオスはまだ頑張っていましたが,ここで観察を切り上げ,帰途につきました.なお,この日,ヤブヤンマが飛ぶのを見ました.これは私には最早記録です.