トンボ歳時記
No.251. ホンサナエの大変な羽化. 2011.5.5.

4月29日に三田市で採集してきたホンサナエの幼虫が,5日の夜に羽化を始めました.19:20ころにアオハダトンボの羽化用に立てた木の枝に登っている幼虫を発見しました.その後,21:24に羽化を開始しました.

ファイル 253-1.jpg
▲羽化を始めたホンサナエ.@21:24,A21:37,B21:40,C21:43.

最初のうちは,順調に脱皮を始めていました.ところが,直立姿勢になったときに異変が起きたのです.気管部分が脱皮して出てくる細い糸状の繊維に,右中肢がからまってしまったようです.直立姿勢になっても,上半身をぐるぐる回し,なかなか静止期に移行しません.そしてついに,腹部が抜けてあわや落下かという状態になりました.

さて,もうだめかと思いましたが,からまった繊維が命綱になり,落下はまぬがれ,ぶら下がった状態で静止期を迎えました.下の写真Dがその状態です.肢を腋に締めて,じっとしています.

ファイル 253-2.jpg
▲静止期から立ち上がりまで.D21:57,E22:00,F22:00,G22:02

静止期は10分足らずで終わり,次は肢で立ち上がります.しかし,これができません.羽化殻に足をかけようとするのですが,背中部分は滑り,爪がかからないのです.結局,からまった肢で命綱である繊維を手綱のように引いて後肢で体を支えるという,力学的な安定状態を見つけて,翅の伸展に入りました.これがGの状態です.

ファイル 253-3.jpg
▲翅の伸展.H22:11,I22:28,J22:34,K22:57.

ごらんのように,静止期で腹部が抜けてしまうというアクシデントがあったにもかかわらず,羽化を完了させることができました.ものすごい適応力ですね.