5月も下旬を迎え,いくら今年の季節進行が遅くても,そろそろ高原のトンボも活動を始めているだろうと思い,クロサナエ,ヒメクロサナエをターゲットに,県中部のとある高原とその周辺に出かけました.
まずは,一昨年クロサナエの幼虫を採った川に来てみました.来る道々,川の水が「異常なほど」澄んでいるのを,「きれいだ」と感動しながら山を登ってきましたが,現地について驚きました.どうやら,先日,大雨警報が出たときに,この川は大水が出たらしい.砂や植物沈積物などはすべて流されており,大小の石が,まだ晒されたばかりの岩肌を白々と光らせて転がっています.おそらくトンボの幼虫も含めて,すべてが流されてしまったでしょう.残っているのは石ころだけ.雪解け水にさらされる荒々しい信州の川を彷彿とさせる風景です.あらゆるものを押し流したあとの川は,濁りを与える微小なシルトや砂泥もなく,これ以上ないくらいに水は澄んで,青色をしています.
▲現地の川.石々は白い岩肌を晒し,水は異常なほど澄んで青色をしている.
それでも,大水の前に羽化しているかもしれないと思い,石の上に止まるサナエトンボを探しましたが,カワトンボさえいません.ここでのトンボはあきらめ,高原へ出かけました.
▲高原はシオヤトンボのシーズンであった.
上:現地の風景.標高約850m.
中:羽化直後のヒメクロサナエのメス.
下:シオヤトンボのオスとメス.
高原に着いて歩き始めるとすぐに目についたのがヒメクロサナエの羽化直後の個体でした.ヒメクロサナエを探しに来たので,やったという感じです.でも,ヒメクロサナエは去年もこのような羽化直後の個体との出会いで,成熟した個体になかなか出会えません.それでも気合いを入れて探しましたが,いるのはシオヤトンボだけ.数は多くいました.前に来たときにいたニホンカワトンボは,湿原の細流には見られませんでした.まだ羽化していないような印象でした.そしてここもまた,かなり水が出たようで,あちこちに氾濫した跡があり,砂が堆積していました.
兵庫県中部の源流から上流にかけてのトンボは,川の状況から見て,今年は厳しいかもしれない,そんな予感がした午前の探索でした.
午後からは,この春にヒメクロサナエの幼虫を採った峠へ出かけました.
▲第二の観察地.標高約500m.
こちらは,細流でもあり,荒れはあまり感じられませんでした.しかし,サナエトンボは目につきません.いたのは,シオヤトンボとカワトンボ類 Mnais 属だけでした.
▲シオヤトンボはたくさんいた.まだ未熟なオス(左下)もいた.
シオヤトンボは非常に数が多かったです.2,3m間隔で止まるオスに,川の周囲をメスが飛び回っていました.オスは,成熟した個体から,まだ黄色をした未熟個体までいました.5月末にまだオスが未熟というのも,いくら標高があるとはいえ,遅いように思えます.
▲カワトンボ属,
上:未熟なニホンカワトンボのオス.
中左:ニホンカワトンボのメス.少し成熟度合いは進んでいる.
中右アサヒナカワトンボの成熟オス.
下:アサヒナカワトンボのやや未熟なメス.
この場所は,ニホンカワトンボとアサヒナカワトンボが完全に混在して活動しているところです.追いかけ合いまでしています.今では別種にされていますが,以前亜種どうしとされていた時だったら,この場所の混在は説明がつきにくかったでしょうね.それはさておき,ここのニホンカワトンボやアサヒナカワトンボに中にもまだ未熟な個体がいます.
今日高原は,春がまだ始まったばかりという印象でした.また春のトンボにしては成熟程度ばらばらで,低温が影響してか羽化時期が拡散しているようです.一部の低地の川ではアオハダトンボが羽化していたりしましたし,今年は,季節感がずれており,トンボをうまく探すのが難しそうです.