ヤンマ科♀には原産卵管がある.この長さは属内でだいたい同じであり,また科内では「通常の」産卵基質とよく相関している.すなわち,水から離れた場所にある,朽ち木,湿土,抽水植物の高い位置の茎中など,どちらかといえば乾いた固い基質に産卵するグループ(サラサヤンマ属,コシボソヤンマ属,ミルンヤンマ属,アオヤンマ属,カトリヤンマ属,ヤブヤンマ属)は一般に原産卵管が長く,第9腹節の後縁を越えるほどの長さがある.一方,水面上あるいは水面より少し下の生きた水生植物の組織など柔らかい基質に産卵するグループ(ルリボシヤンマ属,トビイロヤンマ属,ギンヤンマ属)は一般に原産卵管が短く,第9腹節の後縁を越えない.もちろん産卵基質は多様であって種内でも例外があることは事実であるが,一般的な傾向としてこのように特徴づけることに無理はないと考えられる.この原産卵管の長さによるグループ分けは,前者が先,後者が後と,成虫分類の並び順ともよく一致している.したがって,系統分類学上も重要な形質ではないかと予想される.
しかしながらこの形質を適用すると♂の検索がうまくできないので,以下では原産卵管の長さをキーに使っていない.ちなみに,以下の06までに出てくる属が♀の原産卵管が第9腹節後縁を越えるグループ,07,08に出てくる属が第9腹節後縁を越えないグループである.したがって,♀で,原産卵管の先端が第9腹節の後縁を越えていなければ,いきなり07から検索を始めてよい.
しかしながらこの形質を適用すると♂の検索がうまくできないので,以下では原産卵管の長さをキーに使っていない.ちなみに,以下の06までに出てくる属が♀の原産卵管が第9腹節後縁を越えるグループ,07,08に出てくる属が第9腹節後縁を越えないグループである.したがって,♀で,原産卵管の先端が第9腹節の後縁を越えていなければ,いきなり07から検索を始めてよい.
01.背面から見た肛上片先端が二叉になっていない(a:矢印).・・・02
− 背面から見た肛上片先端が二叉になっている(b:矢印).・・・03
var.Matsuki & Lien (1985)によると,サキシマヤンマの肛上片先端が二叉にならない奇形がある可能性が指摘されているので,石垣島・西表島のヤンマを検索するときには注意を要する.また,非常に浅い二叉でしかない種,あるいは突起の先が欠損して二叉になっていないような個体が結構ある.
a.アオヤンマの尾部付属器,b.イシガキヤンマの尾部付属器.
a.アオヤンマの尾部付属器,b.イシガキヤンマの尾部付属器.
02.触角が長くはっきりと目立つ(a:矢印).尾毛先端部(cer.)は肛側片先端部(para.)とほぼ同じ位置にくる(b).・・・サラサヤンマ属
− 触角は短く細く目立たない(c).尾毛先端部(cer.)は肛側片先端部(para.)より明らかに短い位置にくる(d).・・・アオヤンマ属
a.サラサヤンマの触角,b.サラサヤンマの尾部付属器,c.ネアカヨシヤンマの触角,d.ネアカヨシヤンマの尾部付属器.
03.中央欠刻の両側に1対の突起がある(a:矢印).流水性である.・・・04
− 中央欠刻の両側には突起はない(b).止水性である.・・・05
var.杉村ら(1999)によると,アマミヤンマの中央欠刻両側の突起は,時に消失することがあるというので,奄美大島産のヤンマを同定する際には注意を要する.アマミヤンマは肛上片がイシガキヤンマを除く他のヤンマに比べて短い(アマミヤンマのページ参照).
a.サキシマヤンマの下唇中片前縁,b.クロスジギンヤンマの下唇中片前縁.
a.サキシマヤンマの下唇中片前縁,b.クロスジギンヤンマの下唇中片前縁.
04.頭部後頭角に明瞭な突起があり(a:矢印),側棘が第4−9腹節(b),または第5−9腹節にある.いずれの場合も第5腹節の側棘は大きく明瞭である.・・・コシボソヤンマ属−コシボソヤンマ
− 頭部後頭角は顕著な突起はなく(c:矢印),側棘が第5−9腹節(d)または第6−9腹節にある.第5腹節の側棘は,存在する場合でも小さいか不明瞭であることが多い.・・・ミルンヤンマ属
var.杉村ら(1999)の検索表によると,「関東型には第4腹節に側棘がない」との注釈がある.筆者の手元の北海道の標本でも第4腹節の側棘が認められない.したがって,検索においては,第4腹節の側棘の有無は無視した方がよい.
a.コシボソヤンマの後頭角,bコシボソヤンマの側棘,c.ミルンヤンマの後頭角,d.ミルンヤンマの側棘.
a.コシボソヤンマの後頭角,bコシボソヤンマの側棘,c.ミルンヤンマの後頭角,d.ミルンヤンマの側棘.
05.下唇側片内葉片先端部の幅[x]は,内葉片外縁の可動鉤基部節の位置(内葉片と可動鉤の分岐点ではない)から前縁までの長さ[y]とほぼ同じかやや短い程度である(a).・・・06
− 下唇側片内葉片先端部の幅[x]は,内葉片外縁の可動鉤基部節の位置から前縁までの長さ[y]より明らかに短い(b).・・・07
var.カトリヤンマ属は前者(a)のグループに属するが,個体によっては,はっきりと x<y であるように見えるものがある.しかしこの場合,カトリヤンマ属には下唇側片上に刺毛がある(検索キー06a)ので,この部分を確認するとよい.
a.ヤブヤンマ,b.アマミヤンマ.
a.ヤブヤンマ,b.アマミヤンマ.