T.ヒメイトトンボ属 Agriocnemis,モートンイトトンボ属 Mortonagrion
まず,イトトンボ科をいくつかのグループに分けてみたい.分類学上は「科」の下は「属」のレベルになるわけだが,形態のよく似たグループとなると必ずしも属のレベルと一致しない.井上(2005)では,まず翅脈によって大きく2つのグループに分け(図1).その後モートンイトトンボ属とヒメイトトンボ属とを分けている(図2).
- a.弧脈が第2結節前横脈より大きく外側から出ている[図1(a)].体長25mm以下.
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・モートンイトトンボ属・ヒメイトトンボ属 2.
b.弧脈が第2結節前横脈付近から(やや外側の場合もある)出ている[図1(b)].
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・その他の属U - a.第1肛脈は横脈と直交するように交わる[図2(b)].・・・・・・モートンイトトンボ属
b.第1肛脈は横脈と直交するように交わっていない[図2(a)].・・ヒメイトトンボ属
U.キイトトンボ属 Ceriagrion,カラカネイトトンボ属 Nehalennia
次に体全体の色彩・斑紋でいくつかのグループを分けることができる.体が金緑色に輝くのはカラカネイトトンボ Nehalennia speciosa だけである.
- a.体全体が黄色,黄緑色,赤色,赤褐色,淡緑褐色をしており,胸側には黒条斑がなく,少なくとも腹部第1節〜第6節の背面に黒条斑が見られない.・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・キイトトンボ属
b.翅胸全面や腹部背面が金緑色をしている,体長25mm以下.・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・カラカネイトトンボ属
c.体色は様々で,胸側,腹部背面等に,様々の黒条・黒斑がある.または黒灰色の粉を吹いている.・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・その他の属V
V.ナガイトトンボ属 Pseudagrion,ホソミイトトンボ属 Aciagrion
次は体型が非常に細長いイトトンボである.これには3種あって,ホソミイトトンボ Aciagrion migratum,アカナガイトトンボ Pseudagrion pilidorsum pilidorsum,およびアオナガイトトンボ Pseudagrion microcephalum である.アカナガイトトンボは沖縄本島以南の島々,アオナガイトトンボについては与那国島にしか分布していない.ホソミイトトンボの記録は石川県から栃木県を北限とする本州・四国・九州に分布し,南限は沖永良部島である.したがって,これら3種は,与那国島で前2種の分布が重なっているだけである.
- a.腹部や翅が細長い.翅はその最大幅の5.6倍以上はある[図4(a)].・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ホソミイトトンボ属・ナガイトトンボ属 2.
b.腹部はそれほど細長くなく,翅はその最大幅の5.4倍以下である[図4(b)].・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・その他の属W - a.本州・四国・九州から沖永良部島以北に分布する・・・・・・・・・・ホソミイトトンボ属
b.沖縄本島以南に分布する.・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ナガイトトンボ属
W.アカメイトトンボ属 Erythromma
残りの16種のイトトンボ科のうち,アカメイトトンボ属(アカメイトトンボ Erythromma humerale 1種のみ)は,眼後紋も後頭条もなく,♂では複眼が赤く色づく.
- a.眼後紋も後頭条もない.♂の複眼が赤く色づく.北海道にのみ分布する・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・アカメイトトンボ属 [アカメイトトンボ]
b.眼後紋が見られる.後頭条が見られるものもある.・・・・・・・・・・・・・・その他の属X
X.クロイトトンボ属 Paracercion・エゾイトトンボ属 Coenagrion
このあとはどれもよく似た一群で,さらに♂♀で色彩や斑紋が大きく異なるものばかりである.また個体変異があって必ずしも検索キーの通りにいかない場合がある.各種の形態や分布情報も参考にしながら試行錯誤して,同定の練習を積んでいくよりないであろう.
まずは胸側の第1黒条の形態で,クロイトトンボ属とエゾイトトンボ属とを分ける.
- a.胸側の第1黒条は,その先端が円い感じで終わるか,膨らむか,または少し離れて円形の点になり,下端までは届かない.または黒灰色の粉に被われていて第1黒条が確認できない[図6(a)].・・・・・・・・クロイトトンボ属・エゾイトトンボ属.2.
b.第1黒条は,見られなかったり,細い線で下端まで届かず途中で終わっていたり,太い線で下端に届く場合もある.胸側の第1黒条が途中で終わっている場合は,その先端は細く切れていて,膨らんだり少し離れた円形の点にならない[図6(b)].・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・その他の属Y - a.第2次肛横脈が肛横脈よりはるかに長い[図7(a)].・・・・・・・・・・クロイトトンボ属
b.第2次肛横脈が肛横脈より短い[図7(b)].・・・・・・・・・・・・・・・・・・エゾイトトンボ属
Y.アオモンイトトンボ属 Ischnura(オガサワライトトンボを除く)
オガサワライトトンボ Ischnura ezoin がアオモンイトトンボ属に含められ,この検索表は使えなくなった.ここでは暫定的に,オガサワライトトンボを除いて,旧来の検索表を用いている.アオモンイトトンボ属は♂と♀で色彩が顕著に異なる.ただしアオモンイトトンボ Ischnura senegalensis には♂と同じ色彩の♀がいる(アンドロモルフ).またマンシュウイトトンボ Ischnura elegans elegans には肩縫線上に黒条のある♀の個体がある(浜田・井上,1985)ので,下記の検索キーを使う場合に注意すること.
- a.♂の場合,前翅の縁紋の半分が淡色になっていて2色である[図8(a)].♀の場合,第2側縫線上の黒条が見られない[図9]か,またはあっても細い.・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・アオモンイトトンボ属
b.♂の場合,前翅の縁紋は全体が濃い色をしていて1色である[図8(b)].♂♀とも第2側縫線上の黒条が顕著である[図9参考].・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・その他の属Z
Z.ルリイトトンボ属 Enallagma・アオモンイトトンボ属 Ischnura
/オガサワライトトンボ
これら2種は分布域が全く異なるので,それで決定してよいであろう.ルリイトトンボは斑紋の変異が大きいので注意したい.
- a.小笠原諸島に分布する.体色は♂♀とも水色だが,♀は未熟なときに鮮やかなオレンジ色である.・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・オガサワライトトンボ
b.本州の中部山岳地帯以北,北海道までに分布する.体色は,♂はルリ色,♀は,第1黒条が下端に届くまでにのびるような個体など様々な変異がある.・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ルリイトトンボ属
Fraser, F. C., 1957. A Reclassification of the Order Odonata. Royal Zoological Society if New South Wales.
浜田康・井上清,1985.日本産トンボ大図鑑.講談社.