トップ写真の解説
モートンイトトンボの生息地をあちこち知ってはいましたが,なかなか産卵にめぐり逢いませんでした.午前中に交尾し,午後に単独で産卵するということで,午後を中心に出かけて行っても,たいがいが空振りでした.成熟したメスはあちこち飛んでいるのに,産卵をしていないのです.植物組織内産卵を行うトンボは多少のことでも驚かずに産卵するという,コシボソヤンマなどの観察から覚えた先入観が,いくつかの種類の産卵を見つけにくいものにしていたのでした.そこである日,産卵していなくても,成熟したメスを辛抱強く観察を続けました.すると,突然水面に降りて産卵を始めたのです.しかしカメラの位置を決めようとちょっとでも動くと,すぐに産卵を止めてしまいます.モートンイトトンボのメスは非常に神経質だったのです.でも相手の性格が分かると,あとは根比べです.年齢を重ねると根比べでは負けなくなりました.そんな経験から,この日メスたちが集結していたのを見つけたときも,慌てず腰を落ち着けて観察していました.案の定しばらくして複数のメスが産卵を始めました.そのときの一枚です.
単独植物内産卵.2021.6.10.
成虫
成虫は5月下旬に出現し,7月の終わりころまで見られます.産卵は単独で水面の位置にある植物組織内に行われます.アジアイトトンボと似て水面上の位置で産卵しますが,トップ写真のように直立した茎に止まって産卵することもあります.幼虫は次の年の春から初夏までに終齢になり,翌年羽化するようです.一年一化の生活史を営んでいると考えらます.成虫は生息地をほとんど離れて移動することなく,多産地では未熟虫から成熟虫までが混在しています.交尾は早朝に行われ,晴れた日では8時過ぎには見られなくなってしまいます.
交尾.2010.6.10.
幼虫
モートンイトトンボの幼虫はとても小さいです.全長12mm程度です.頭部の後頭角が尖っているのですぐに分かります.写真でもそれが見えると思います.尾鰓は細く尖っていて,はっきりとした斑紋はありません.水のたまった休耕田や水田の用水路などで見られます.
スタジオ写真.2010.6.5.