幼虫(ヤゴ)の生活
■幼虫のすがたのひみつ

ヤゴの漢字
 トンボの幼虫のことをヤゴといいます.広辞苑(こうじえん)という大きな国語辞典を調べると,ヤゴというのは左のような漢字を書くそうです.2番目のむずかしい字には,さそりの意味があって,「水の中のさそり」というのがヤゴの意味のようですね.でも心配しないでください.ヤゴに毒(どく)はありません.ただ,かみついてきたり,おしりのとげでついてきたりすることはあります.ちょっと痛い(いたい)ですけど,ヤゴも自分の身を守るために戦っているので,許(ゆる)してあげてください.

 さて,そんな漢字で表現されるトンボ幼虫のヤゴですが,どんな形をしているのでしょう.まずはいろいろな形をした幼虫のすがたを見てみましょう.

いろいろなかたちをした幼虫
いろいろなかたちをした幼虫
 均翅類と不均翅類は,成虫でも形がかなりちがいました.幼虫でも,上の図のように見ただけで区別がつくほどちがいますね.均翅類の幼虫には3枚の尾さいがあるのが大きな特ちょうです.不均翅類にはそれがありません.でも,幼虫のすがたは,成虫のすがたにくらべると,形のちがいが大きくなっていますね.例えば(7)番から(11)番のサナエトンボのなかまは,幼虫のすがたはずいぶんとちがいますが,成虫ではどれも同じような形や色をしています.

サナエトンボ科の成虫
サナエトンボ科の成虫.上の幼虫の(7)番から(11)番の成虫である.
 生物は,ふつう,命に大きくかかわる部分については,進化(しんか)のスピードが速くなることが知られています.進化のスピードが速くなるというのは,それだけ特ちょうがはっきりとするということです.

 たとえば,みなさんは,熱いものに手をふれたら,何も考えずにさっと手を引っ込めますね.またけがをしたらものすごく痛いです.やけどやけがは命にかかわることですから,考える前に手をひっこめるという動作は命をまもりますし,はげしい痛みは記憶(きおく)にしっかりときざまれ,今後けがをしないように注意して行動するようになります.つまり考えずに手をひっこめるとか,はげし痛みをともなうという「はっきりとした特ちょう」が,進化によって人間の身についてきたといえます.

 ところで,トンボにとって,幼虫の時代に命にかかわることといえば何でしょう. そう,天敵(てんてき)である魚に食べられてしまうことです.そのためには,魚に見つからないように,うまくかくれなければなりません.(11)番の幼虫は,まるで落ち葉のような形をしていますね.(11)番の幼虫は,落ち葉の間などにもぐりこんで生活しているので,このような形をしていると,見つかりにくくなります.このように,食べられてしまうというのは命にかかわることですから,進化のスピードが速まって,(11)番のトンボはこのような見つかりにくい形を身につけたということになります.

コオニヤンマ幼虫を落ち葉の上に置いたところ コオニヤンマ幼虫を砂利の上に置いたところ
コオニヤンマ幼虫を落ち葉の上に置いたところ
落ち葉と似ていてまぎらわしい
コオニヤンマ幼虫を砂利の上に置いたところ
はっきりと幼虫がいることが分かる

 こうやって,幼虫たちは,自分が住んでいる場所で,見つかりにくくなるような色や形に進化してきました.だから,こんなにいろいろな色や形の幼虫ができてきたのだと考えられています.こういうふうに,住んでいる場所やその他の理由によって,色や形が大きく変化していく現象(げんしょう)を,適応放散(てきおうほうさん)といいます.

 ところで,まわりにとけこんで見えにくくなるような,動物の色や形のことを保護色(ほごしょく)といいます.つぎの4枚の写真にはトンボの幼虫が写っていますが,わかりますか?

アオサナエの幼虫 キイロヤマトンボの幼虫
アオサナエの幼虫
砂利の中にもぐりこんで生活している

キイロヤマトンボの幼虫
砂の中にもぐりこんで生活している

ヤマサナエの幼虫 タベサナエの幼虫
ヤマサナエの幼虫
砂の中にもぐりこんで生活している
タベサナエの幼虫
砂利の中にもぐりこんで生活している

 均翅類の幼虫やヤンマ科の幼虫は細長い形をしています.これらの幼虫は,水中の植物の茎などにつかまって生活しています.ですから細長い形の方が見つかりにくいと考えられますね.

キバライトトンボの幼虫 ヒヌマイトトンボの幼虫
キバライトトンボの幼虫
すきとおった体が茎の色にとけこんでいる
ヒヌマイトトンボの幼虫
ヨシの枯れた茎とよくにた色をしている

 さて,トンボ幼虫の生命にかかわることといえば,あと,「呼吸(こきゅう)すること」と「エサをとること」があるといわれています.

 たとえば,いちばん上の幼虫の写真の(10)番の幼虫は,腹の先が長くのびています.これは,泥にもぐったときに呼吸するためだと考えられています.泥にもぐってこれを上に向けて泥からつきだし,呼吸しているのです.


■幼虫のエサのとり方

 トンボ幼虫は肉食です.小さな昆虫や,エビ,魚などをとって食べます.このときの,トンボ幼虫のエサのとり方は独特(どくとく)です.おりたたみ式の下唇(かしん)をのばして,いっしゅんのうちに獲物をとらえます.

クロスジギンヤンマがエビをとらえるところ とらえたエサをさらに攻撃するところ
クロスジギンヤンマがエビをとらえるところ
下唇(かしん)をのばしてとらえている

とらえたエサをさらに攻撃(こうげき)するところ
腹の先のとげでエビをついている

下唇をのばしてエビをとらえたしゅん間 腹の先のとげでエビを攻撃するしゅん間
下唇をのばしてエビをとらえたしゅん間
上のアニメーションの一コマ
腹の先のとげでエビを攻撃するしゅん間
上のアニメーションの一コマ


■幼虫の成長

 幼虫時代の出発点は,卵から小さな幼虫が出てくる,ふ化というできごとです.私はふ化のしゅん間の写真を持っていませんが,Shosuke Shimuraさんのホームページにすばらしい写真がたくさんあります.

 ふ化した直後の幼虫は,ふつうの幼虫とちがって,エビのような形に見えます.これをとくに前幼虫(ぜんようちゅう)といって,他の幼虫と区別することがあります.しかしこれもりっぱな幼虫ですので,1齢幼虫(いちれいようちゅう)とよぶことにします.

 その後,幼虫は,脱皮(だっぴ)といって,いちばん外側の皮を脱ぎながら大きくなっていきます.ふ化した直後の幼虫を1齢幼虫とよびましたが,その後皮をぬぐたびに,2齢(にれい)3齢(さんれい),...,と数えていく約束(やくそく)になっています.そして,次に脱皮すると成虫になるという,最後の齢(れい)を,終齢(しゅうれい)といいます.

 トンボの幼虫は水の中で生活しているために,小さな齢(若齢(じゃくれい)といいます)の幼虫はなかなか目につきません.一方,終齢幼虫はよく目につきます.そこで,齢を,終齢から逆に数える方法がよく使われます.終齢を英語でいうと FINAL になりますので,その頭文字(かしらもじ)の F をとって,終齢を F 齢または F-0 齢,その一つ前の齢を F-1 齢,さらにその一つ前の齢を F-2 齢,...,とよんでいきます.

幼虫の成長と齢の数え方
幼虫の成長と齢の数え方 (サラサヤンマ)
 上の図を見ると,幼虫の体長(たいちょう)(長さのこと)は,一定の割合でふえているように見えます.おもしろいことに,多くのトンボでは,1回脱皮するごとに,体長がその前の齢の1.3倍前後になることが知られています.種類がちがっても,脱皮ごとの成長の比(ひ)が同じになるというのは,おもしろいですね.

 さて,幼虫が成長して,羽化が近づくと,幼虫の形に変化があらわれてきます.特にはっきりしてくるのが,翅芽のふくらみです.翅芽の中で成虫の翅がつくられていくので,しががふくらんでくるのです.翅芽がふくらんで,白っぽい色がついてくると,羽化は間近です.

ギンヤンマの若い終齢幼虫 ギンヤンマの羽化間近な終齢幼虫
ギンヤンマの若い終齢幼虫
翅芽がうすくまだ透き通っている

ギンヤンマの羽化間近な終齢幼虫
翅芽がぶあつくなってすきとおっていない

ムスジイトトンボの羽化間近な幼虫
ムスジイトトンボの羽化間近な幼虫
翅芽はふくらみ,胸や腹の部分も白っぽくなっている

 トンボをはじめとした昆虫は,気門(きもん)とよばれる,胸や腹にあいた穴から空気を取り入れて呼吸します.トンボの幼虫は水の中でくらしていますので,その間はえらで呼吸します.均翅類には尾さいがあって,それで呼吸していますし,不均翅類には直腸というおしりの穴のすぐ内側にえらがあります.トンボ幼虫の羽化が近づくと,呼吸の方法も変化してきます.胸の気門がひらいて,そこで呼吸しはじめるのです.ですから,羽化近い幼虫は,上半身を水面から出してじっとしていることが多いです.こうなると,あと2,3日で羽化します.

クロスジギンヤンマの羽化間近な幼虫 ミルンヤンマの羽化間近な幼虫
クロスジギンヤンマの羽化間近な幼虫
目や胸が成虫の色がすけて見える
ミルンヤンマの羽化間近な幼虫
上半身を出して羽化のタイミングを待っている


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