No. 910. 池まわりで見つけたトンボたち.2023.5.25.

今日,友人の調査の案内役で,県南部の池をいくつか回ってきました.そこで見つけた今年初顔などのトンボを紹介しておきます.まずはサラサヤンマ.湿地状の廃田で摂食飛翔をしていました.時刻は午後,おそらくなわばり活動を終えて農道や廃田に出てきたのでしょう.


▲サラサヤンマのオスの摂食飛翔.▲

コサナエ属は,フタスジサナエ,タベサナエが見られました.老熟したタベサナエを紹介しておきます.


▲淡色部がすっかり緑灰色になったオスのタベサナエ.▲

もうコサナエ属も終わりに近いようですね.オグマサナエには出会えませんでした.最後の案内地で出会ったのがハッチョウトンボ.この場所でハッチョウトンボを見つけたのは初めてでした.というのは,この池はアカトンボしか見に来たことがなかったからです.まだ未熟で羽化して日が経っていない感じでした.


▲ハッチョウトンボの未熟な個体.上がオスで下がメス.▲

ハッチョウトンボの新産地を見つけたのが嬉しかったです.自分の基準で池を回らなかったのがよかったみたいです.

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No. 909. 台湾のトンボたち:シオカラトンボ属.2023.5.24.

台湾のトンボたち,第三回目は台湾のトンボ科-シオカラトンボ属です.私の居住地兵庫県では,シオカラトンボ属といえば,シオヤトンボ Orthetrum japonicum,シオカラトンボ Orthetrum albistylum spciosum,オオシオカラトンボ Orthetrum melania melania の3種だけになります.日本国内に目を広げると,やはり南方に種類数が多くなり,次のようなトンボが加わります.

ハラボソトンボ Orthetrum sabina sabina
ミヤジマトンボ Orthetrum poecilops miyajimaensis
タイワンシオヤトンボ Orthetrum internum
ホソミシオカラトンボ Orthetrum luzonicum
タイワンシオカラトンボ Orthetrum glaucum
コフキショウジョウトンボ Orthetrum pruinosum neglectum
オキナワオオシオカラトンボ Orthetrum melania ryukyuense
ヤエヤマオオシオカラトンボ Orthetrum melania yaeyamense

日本では,トンボ科では,アカネ属に次いで種数の多い属です.アカトンボは普通種でも結構注目されたり取り上げられたりしますが,シオカラトンボ属はそうではないように思います.ちょっとトンボ屋が見下している感じがしないでもありません.シオカラトンボがあまりにも普通種だからでしょうね.

台湾には,上記のうちミヤジマトンボ,シオヤトンボ,ヤエヤマオオシオカラトンボ,オキナワオオシオカラトンボを除くすべてのトンボが分布しており,さらにクロコフキショウジョウトンボOrthetrum pruinosum clelia,タイワンオオシオカラトンボ Orthetrum triangulare が加わります.ただしクロコフキショウジョウトンボは今回の観察地には分布せず,出会う可能性はありません.

なお,台湾のオオシオカラトンボに関しては,亜種名を melania と原名亜種としてよいかどうかは議論が必要かもしれません.すぐ隣りの八重山の個体群には,本土とは異なる亜種名 yayeyamense が与えられています.現在私は情報を持っていませんので,情報が得られれば書き直したいと思いますが,ここではとりあえず,Orthetrum melania subsp. としておきたいと思います.

シオカラトンボ属,特にそのメスは同定が難しく,現地で見ただけでは確定に自信が持てないことがありました.以下の記述には誤同定が含まれる可能性があり,読者の皆様のご指摘を歓迎します.

◆コフキショウジョウトンボ Orthetrum pruinosum neglectum 台湾名:霜白蜻蜓
 台湾名は「霜のように白い粉をふくトンボ」という意味です.

まず最初に,コフキショウジョウトンボにあてられた台湾名が「霜のような白」というのは,今までの中でもっとも状況にあっていない感じがしますが皆さんはいかがでしょうか.腹部が赤く胸部がやや紫がかった青という独特の色彩です.老熟すると体色がくすんで見えるので,細かい白粉をふいているのかもしれません.


▲コフキショウジョウトンボのオス(B),2023.5.17. ▲


▲コフキショウジョウトンボのメス(A),2023.5.18. ▲

メスにはほとんど黒斑が発達せず,一見ショウジョウトンボのメスのようですが,黄褐色の地色はより濃い感じです.台湾ではもっとも普通のトンボの一つだそうです.確かにすべての観察地で出会ったように思います.また観察地Bでは警護産卵を見ることができました.


▲警護産卵するコフキショウジョウトンボ(B),2023.5.17. ▲


▲警護しているオスと,産卵しているメス.(B),2023.5.17. ▲

産卵は普通のオオシオカラトンボなどと同じで,水を前方に飛ばしながら産卵しています.


▲腹部先端で水面をかいている産卵メス(B),2023.5.17. ▲


▲水をかいた後,水滴が飛んでいる(矢印)(B),2023.5.17. ▲


▲打水位置を見極めるように停止飛翔するメス(B),2023.5.17. ▲


▲水滴はかなり遠くまで飛んでいる(矢印)(B),2023.5.17. ▲

◆ハラボソトンボ Orthetrum sabina sabina 台湾名:杜松蜻蜓
台湾名は「ネズのようなトンボ」の意味です.

台湾名のネズはヒノキ科の針葉樹で,腹部が細いからでしょうか,この名がついています.日本名は名の通りです.非常に広範な分布を持つ極めて普通の種類です.日本では九州以南に分布しています.私も九州で見たことがありました.


▲ハラボソトンボのオス(B),2023.5.17. ▲

シオカラトンボ属というと,オスが全身に青白い粉をふくということを想像しますが,ハラボソトンボに関しては,粉をほとんどふくことがなく,胸部の緑色がきれいです.


▲ハラボソトンボの交尾(B),2023.5.17. ▲

ハラボソトンボに関しては一例交尾を観察しました.近寄ろうとすると逃げてしまい,その後どうなったかは分かりません.観察地B以外では,Dでも姿を見ていますが,繁殖活動らしきものは見られませんでした.


▲ハラボソトンボのオス.複眼の緑がきれいだ(B),2023.5.17. ▲

不均翅類になると個体数が多く群れているような場面にあまり出会うことがなく,今回のようにあちこち順番に回るという観察では,繁殖活動に出会うのは偶然になります.交尾していたハラボソトンボ,驚かせずにそっと待つのも一手でした.

◆ホソミシオカラトンボ Orthetrum luzonicum 台湾名:呂宋蜻蜓
 台湾名は「ルソン島のトンボ」の意味です.

これから紹介するシオカラトンボ属は,非常に同定が難しいものばかりですが,ホソミシオカラトンボはその中でもまだましな方です.


▲ホソミシオカラトンボのオス(B),2023.5.17. ▲


▲ホソミシオカラトンボの未熟なオス(F),2023.5.17. ▲

ホソミシオカラトンボについては,メスと出会わなかったようです.写真をいろいろとひっくり返して調べてみても,それらしい個体はありませんでした.胸側に太い1本の黒条がないので,他のシオカラトンボ属とは比較的見分けやすいのです.

局所的には普通だが分布は散らばっていると「台湾的蜻蛉」には書かれており,今回の観察地ではそれほど多くはなかった感じです.

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さて残りのシオカラトンボ属の同定が難しくなります.同定が容易なタイワンシオヤトンボとシオカラトンボは見つからなかったので,残るはタイワンシオカラトンボ Orthetrum glaucum,タイワンオオシオカラトンボ Orthetrum triangulare,そしてオオシオカラトンボ Orthetrum melania subsp. の3種です.特に後者2種は,かつて Orthetrum triangulare melania として日本と台湾のそれらは同種であるとされていたくらいですから,非常に似通っています.「台湾的蜻蛉」をもとにまとめておきましょう.

>タイワンシオカラトンボ Orthetrum glaucum
・オスの複眼は暗緑色.胸部と腹部は青灰色の粉をふく.腹部第8,9,10節は黒色.後翅基部は褐色,先端部は無色.縁紋は黄褐色.腹長27-31mmで他の2種より小さい.
・メスの胸部・腹部は褐色.老熟すると黒化する.後翅基部は褐色,先端部は無色.縁紋は黄褐色.腹長32-35mmで他の2種より小さい.

>タイワンオオシオカラトンボ Orthetrum triangulare
・オスの腹長33-36mm.胸部は黒色で青灰色の粉が少ない.翅の基部は黒いが青灰色の粉は吹かない,翅の先端部は無色.(腹部第1節基部が黒くなる).
・メスの腹長33-36mm.合胸の背隆線は黒くならない.翅の基部は黒褐色.先端部は黒褐色ではない.

>オオシオカラトンボ Orthetrum melania subsp.
・オスの腹長36-39mmで他の2種より大きい.胸部は青灰色の粉を吹く.翅の基部は黒色で青灰色の粉を吹く,翅の先端は褐色.縁紋は黒色.腹部第7-10節が黒色,ただし7節は部分的.
・メスの腹長36-39mmで他の2種より大きい.胸側に黒条斑.合胸の背隆線に沿って黒条がある.後翅基部は黒褐色,先端部は黒褐色.縁紋は黒色.

写真で同定する場合腹長は使えませんので,他の形質で判定するしかありません.以上の記述から,この3種だけの写真判定用の簡単な検索表を作ってみました.

<成熟オスの場合>
縁紋が黄褐色==タイワンシオカラトンボ
NOT=胸部が黒色で青灰色の粉が少ない==タイワンオオシオカラトンボ
NOT=後翅基部が黒色で青灰色の粉を吹く==オオシオカラトンボ

<未熟オスの場合>
縁紋が黄褐色==タイワンシオカラトンボ
NOT=腹部第7-10節が黒色==オオシオカラトンボ
NOT=タイワンオオシオカラトンボ

<メスの場合>
縁紋が黄褐色==タイワンシオカラトンボ
NOT=背隆線が黒くない==タイワンオオシオカラトンボ
NOT=オオシオカラトンボ

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◆タイワンシオカラトンボ Orthetrum glaucum 台湾名:金黄蜻蜓
 台湾名は「黄金色のトンボという意味です.

タイワンシオカラトンボの他の2種にない特徴は,縁紋が黄褐色であるということです.これはかなり決定的です.写真の中から縁紋が黄褐色のものを選んでみました.


▲タイワンシオカラトンボ,成熟オス(C),2023.5.18. ▲


▲タイワンシオカラトンボ 成熟オス(E),2023.5.17. ▲


▲タイワンシオカラトンボ 成熟オス(A),2023.5.17. ▲


▲タイワンシオカラトンボ 半成熟オス(E),2023.5.17. ▲

以上,成熟または半成熟のオスは,すべて複眼が濃緑色をしており,タイワンシオカラトンボの特徴に一致します.腹部先端の黒い部分の範囲には,「台湾的蜻蛉」の記述よりかなり変異があるようです.


▲タイワンシオカラトンボ 未熟オス(E),2023.5.17. ▲

この個体は撮影時かなり悩みました.尾部付属器の形態からオスと判定しました.そして縁紋が黄褐色をしているというところ,翅の基部が褐色,先端部が透明であることで,タイワンシオカラトンボと判定しました.


▲タイワンシオカラトンボ 老熟メス(C),2023.5.18. ▲

メスは老熟すると黒化すると書かれているので,全身の濃色部の黒さも特徴に一致します.これはタイワンシオカラトンボで間違いないでしょう.


▲タイワンシオカラトンボ 未熟メス(E),2023.5.17. ▲


▲タイワンシオカラトンボ 未熟メス(E),2023.5.17. ▲


▲タイワンシオカラトンボ 未熟メス(D),2023.5.17. ▲

一番最後の写真の縁紋はちょっと褐色が濃く,誤同定の可能性があります.ただ胸側の黒条がオオシオカラトンボではよりはっきりしているので,少しぼやけた感じのこの個体はタイワンシオカラトンボでいいと考えています.

こうやって見ると,撮影したほとんどがタイワンシオカラトンボであることが分かりました.タイワンシオカラトンボは,国内では九州南部(大隅半島)から奄美大島にまで分布しているトンボで,八重山諸島にいないので,台湾と日本の間に分布空白地域があることになります.

次はタイワンオオシオカラトンボです.

◆タイワンオオシオカラトンボ Orthetrum triangulare 台湾名:鼎脈蜻蜓
台湾名は「鼎形の翅脈を持つトンボ」という意味ですが,ちょっとよく説明できません.

タイワンオオシオカラトンボは,成熟オスについては胸部+腹部第1節が黒いトンボとして判断すればいいようです.


▲タイワンオオシオカラトンボ 成熟オス(C),2023.5.18. ▲


▲タイワンオオシオカラトンボ 成熟オス(C),2023.5.18. ▲

問題は次のメスの写真です.オオシオカラトンボとタイワンオオシオカラトンボを区別する場合,翅胸前面の背隆線に沿った黒条があるかないかが一番わかりやすい点なのですが,横向きのためこれが写っていないのです.「台湾的蜻蛉」にある老熟メスの小さな写真を見ると,これにそっくりです.つまり腹部側面の褐色条が腹部第1節から太く貫かれています.ということでいちおうここではタイワンオオシオカラトンボとしておきますが,ひょっとしたらオオシオカラトンボのメスかもしれません.ただ近くにタイワンオオシオカラトンボのオスがいたのを見ています(ピンボケなので割愛)ので,メスがいても不思議ではありません.


▲タイワンオオシオカラトンボ?の老熟メス(A),2023.5.18. ▲

ということで,写真を検討した結果,オオシオカラトンボ Orthetrum melania subsp. には今回は出会えていなかったということになりました.ただ最後の写真がオオシオカラトンボの誤同定ならば,話は別です.ということで,目標としたシオカラトンボは,意外と見つからなかったということでした.

さて次回は,シオカラトンボ属以外のトンボ科+アルファを紹介したいと思います.

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No. 908. ヤマサナエの産卵.2023.5.23.

昨夜から今日の午前中にかけて雨.雨後の晴れということで,天気が回復した午後から,ヤマサナエの観察に出かけました.この春に羽化を見た公園です.ここは人工的な流れが100mほど造られており,そこ以外に流れがありません.これまでの観察で,オスは2,3頭がいつも流れに降りてきていることを確かめているので,メスも必ずやってくると思っていました.しかも,経験的に考えて,この流れのうち産卵に降りてくるとすればここしかないというところが,20mほどだけです.そこは背後の林と流畔の木立によって,三方が囲まれている場所です.そして羽化を観察したところから10mほど上流です.

現地に入ったのは12:00過ぎです.まだ空には雲がかかっており日差しを遮っています.しかし天気は回復の方向に向かっているので,待つことにしました.ヤマサナエのオスはもう降りてきていました.ただ,日差しが遮られて時間が経つと,水を飲んで樹上に帰って行きました.13:00前に雲が切れ,日が射し始めてきました.西の方は青空が広がっており,いよいよ本気モード炸裂です.まずオスの姿を撮っておきました.


▲オスの行動ははっきりしており,晴れると流れに降りてくる.▲

オスは降りてくるのですが,メスがなかなか来ません.例によってオスがいるとメスを持って行かれますので,適当に蹴散らせて追い払っておきました.オスとのなわばり争いです.先住効果はバッチリ,必ず私が勝ちます(笑).

段々と時間が過ぎ,14:00をまわりました.来てから2時間ほど経っています.場所が違うのかなとか,今日も失敗かなという考えがふと頭をよぎり始めました.しかし自分の経験と勘を信じて待つ以外にありません.だいたいヤマサナエという相手は,時々産卵を見るのですが,ここぞという場所でねらって成功したためしがありません.いわゆる普通種は産卵ポイントを特定しにくいのです.

そんなこんなで14:30をまわりました.ぼんやりと流れを眺めていましたら,サーッとトンボが1頭入り,石の上に止まりました.ヤマサナエのメスです.ねらったポイントに入ってきました.勘が当たったときはとても気持ちいいものです.疲れは一瞬で吹っ飛びました.あとは驚かせて逃がさないように撮影をするだけです.


▲流れに降りてきたヤマサナエ.まずは止まり,様子を見る.▲

止まった最初が肝心です.ここで驚かせては逃げられてしまいます.あまり近づきすぎないようにします.オスを追い払っていたおかげで,オスにも邪魔されません.やがてヤマサナエは飛び立ち,産卵を始めました.私が近づいていることは感知しているようで,まずは草の下に隠れるようにして産卵を始めました.


▲まずは手前の禾本科植物の下側で産卵を始めた.▲

できるだけ私から姿が見えないような位置で産卵をしています.しかし,だんだんと私が何もしないと分かると,行動が大胆になってきて,隠れずに産卵をするようになりました.


▲だんだんと表にで産卵をするようになった.▲

撮影を続けていると,石の上を低く飛ぶような行動を示し,やがてその石に止まりました.中休みのようです.写真のように,もうすっかりオープンな場所で行動をとるようになっています.


▲石に止まって中休みするヤマサナエの産卵メス.▲

再び飛び立つと,今度はちょっと高く飛びました.私の動きが少し気になるのでしょうか,逃げるかどうか考えているみたいです.こういうときは,私は硬直状態になることにしています.もっとも写真は撮り続けました.


▲流れから7-80cm上昇し,しばらくホバリングをした.▲

しかし,やがて意を決したように水面近くに降り,産卵を再開しました.流れの底に敷き詰めている黒い敷石の隙間の砂地をねらっているようです.そこに何回か打水しました.ただ打水の瞬間にピントが来たものはありませんでした.


▲敷石の間の砂地をねらって産卵.卵塊が見える.▲

流れのすぐ上の空中でホバリングしながら卵塊形成をする様子が,きれいに写っていました.このあと,これを打水して放卵し,その後卵塊形成と打水を1,2回繰り返して飛び去っていきました.産卵エピソード継続時間は,3分25秒でした.


▲飛び去る直前のヤマサナエメス.▲

今日は日向で産卵してくれたおかげでピントも合いやすく,さらにオートフォーカスもよく効いてくれたので,撮影成功率は70%ぐらいありました.やっとねらった場所で待つという方法でヤマサナエの産卵を記録にとることができました.

公園では,フタスジサナエ,トラフトンボ,ヨツボシトンボという春のトンボがほとんど姿を消していました.一方で次のトンボになるはずの,コシアキトンボ,ショウジョウトンボなどはほとんど姿を見ませんでした.具体的にいうと,ヨツボシトンボ1頭,ショウジョウトンボ1頭,シオカラトンボがぱらぱら,クロイトトンボはそれなりにいましたが,ピークよりは減っている感じでした.

散歩がてらのワンポイント観察,今日はうまく成功しました.実はヤマサナエの産卵をねらった観察は4回目なのでした.以上.

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No. 907. 台湾のトンボたち:均翅亜目(2)2023.5.23.

台湾のトンボたちの二回目は,均翅亜目のうち,カワトンボ科,ミナミカワトンボ科,ハナダカトンボ科の紹介です.このうち私が特に見たかったのがハナダカトンボ科です.日本国内では,西表島や小笠原諸島など,非常に限られた場所でしか見ることができないトンボです.台湾には,ハナダカトンボ科のトンボは3種が分布しているようですが,そのうち北部で見られるのは1種だけです.あとは中部と南部に見られ,しかも非常に限局的な分布をしているようです.

北部で見られるのは,Helicocypha perforata perforata という種で,日本名はスキバハナダカトンボと言います.中国,香港,ラオス,台湾,ベトナムに分布している,かなり数の多いハナダカトンボです.それではハナダカトンボ科から紹介していきましょう.

Helicocypha perforata perforata 台湾名:棋紋鼓蟌
 台湾名の「棋紋」というのは「碁の紋様」という意味です.

まず台湾名ですが,これはいったいどこから付いたのでしょうか.碁の紋様? 下の写真を見てもちょっと想像がつきません.水色の斑点が白石が並んでいるように見えるためでしょうか?.


Helicocypha perforata perforata のオス(C),2023.5.18. ▲


Helicocypha perforata perforata のメス(C),2023.5.18. ▲

観察地に着くと,次に紹介するナカハグロトンボ Euphaea formosa に混じって,あちこちオスが飛んでいました.「台湾的蜻蛉」にも,ナカハグロトンボと同所的に生活していると書かれていて,本当に隣同士で止まっているような状況でした.


▲特に探すまでもなく止まっているスキバハナダカトンボ(C),2023.5.18. ▲

ハナダカトンボといえば,オス同士が向かい合って闘争するシーンを是非見たいものです.これ,うまい具合に足下で,それも相当長時間やってくれました.でも,写真はことごとくピンボケ.こういう写真を撮るために普段から飛ぶトンボを撮る訓練をしていたのに,いざ本番でうまくいきませんでした.大量に撮った中からかろうじて紹介できそうなのを掲げておきます.


▲スキバハナダカトンボのオス同士の闘争(C),2023.5.18. ▲

オスの翅の内側が,継ぎはぎのように紫色に光っているのが見えます.これは何か意味があるのでしょうね.今回の観察では全く分かりませんでした.

最初のうち,オスはかなりの数が川に出ていて活動しているのが見られましたが,メスの姿が見当たりませんでした.メスを探しに川を歩いてみると,河畔の木の葉に止まっているのが見られました.


▲河畔の木の葉に止まり出動機会をうかがっているメス(C),2023.5.18. ▲

時刻はお昼頃になりました.それまであまり姿を見せなかったメスが川面に降りてきて目立つようになりました.交尾は観察できませんでしたが,1頭のオスがメスを気にしながら止まっている姿に出会いました.今までの観察の経験から,これはメイティングしたペアに違いないという直感がしました.


▲オスが少し離れたメスを見てじっと止まっている(C),2023.5.18. ▲

ちょっとメスの方にピントが来ませんでしたので,アップで別々に示しておきましょう.


▲おそらくメイティング・ペアと思われるオスとメスの静止(C),2023.5.18. ▲

しばらく観察していると,メスがおもむろに飛び立ち,産卵を始めました.こういう普通種でも,産卵を見るのはそれなりの幸運が必要です.まず見つけるのが結構大変です.実際,スキバハナダカトンボより数多くいたナカハグロトンボの産卵は見つけることができませんでした.


▲最初のうちオスはメスのすぐ近くに止まり警護する(C),2023.5.18. ▲


▲オスの脚の白い筋がメスを囲う檻のように見える(C),2023.5.18. ▲


▲止まっているメスのすぐ横に止まり警護する(C),2023.5.18. ▲


▲メスが飛び立つとオスも飛び立つ(C),2023.5.18. ▲


▲中肢・後肢の内側の白い部分を際立たせるようにして飛ぶ(C),2023.5.18. ▲

メスが産卵を始めた頃には,オスはメスにぴったりと寄り添うように止まったり飛んだりしながら警護をします.中肢・後肢の内側が白くなっていて,それを前面に向け,飛び立ったメスを囲んで誘導するように飛びます.ハナダカトンボでよく見られる姿勢です.またパッチワークのような紫色の翅の輝きも見せつけています.


▲少し離れたところで見守るオス(C),2023.5.18. ▲

しかし,産卵も時間が経ってくると,オスの警護も落ち着いた少し緩やかなものになってきます.メスのすぐ横にへばりつくというより,上の写真のように少し離れてなわばりを見渡すような位置に止まっています.このメスはもう十分自分の精子で受精した卵を生んだから,次にまた新しいメスを待つほうが得策だとでも考えているのでしょうか.

一方でメスの方は,まだまだ産卵したりないらしく,黙々と産卵を続けています.


▲黙々と産卵を続けるメス(C),2023.5.18. ▲

ハナダカトンボの産卵を十分に満喫できました.地元では普通種でいつでも見られるのでしょうが,やはり異国にいる私にとって,とても刺激的な時間を過ごせました.惜しむらくは,もうちょっと美しい場所で産卵してほしかったと思います.最後に撮った水面ぎりぎりのショットでは,この雑然とした産卵場が水の反射で写らなくなって,ちょっとましになりました.基本的に朽ち木に産卵することは分かりました.

ということで次はナカハグロトンボ Euphaea formosa です.

Euphaea formosa 台湾名:短腹幽蟌
台湾名は「腹部が短いミナミカワトンボ」という意味です.

台湾にはミナミカワトンボ科のトンボが2種います.ひとつがこのナカハグロトンボ Euphaea formosa で,もう一つがヒメカワトンボ Bayadera brevicauda brevicaudaです.ヒメカワトンボは石垣島にいるチビカワトンボ Bayadera brevicauda ishigakiana の原名亜種です.「日本のトンボ」によりますと,ナカハグロトンボは,八重山諸島にいるコナカハグロトンボ Euphaea yayeyamana と遺伝的に非常に近いと書かれています.いずれにしても,台湾のこの2種は八重山諸島のミナミカワトンボ科の2種と非常に近縁であるということです.そして同じようにこの2種だけが分布しているという点も,八重山諸島と台湾の生物学的な近さを示しているのかもしれません.

ナカハグロトンボは,観察地A,B,Cの3カ所で見ることができました.結構どこにでもいるようですね.観察地A,Bではそれほど個体数が多いわけではなく,ぽつんと1頭が止まっているといった状態でした.そんな中で一つ感じたのは,ぽつんといるときは翅を閉じて止まっていることが多いのに対し,密度が高くしきりに繁殖活動をしている場所では,翅を開いて静止する個体が多いということです.


▲翅を閉じて止まるナカハグロトンボのオス(B),2023.5.17. ▲


▲翅を開いたまま閉じずに止まるナカハグロトンボ(C),2023.5.18. ▲

繁殖活動が盛んに行われており密度が高い場所では,翅を開いてこの黒褐色の翅を見せることが何らかの他個体に対する信号になっているのかもしれません.


▲翅を開いたまま着地するという感じでそのまま開き続ける(C),2023.5.18. ▲

台湾でもっとも数の多い川のトンボであると「台湾的蜻蛉」には書かれており,とにかくまわりを非常にたくさんの個体が飛び回っていました.交尾態になっているものもそれなりに多かったです.


▲とにかくあちこちに止まっているナカハグロトンボ(C),2023.5.18. ▲

とにかくこれだけいるのだから,産卵する姿も簡単に見られるだろうと思い,あちこちの朽ち木を見て回りましたが,全く見つかりませんでした.これは後でこのブログを書くときに「台湾的蜻蛉」を見て気づいたことですが,どうやらこいつは潜水産卵をするのが普通なようで,単独でも連結でもするそうです.以前,潜水産卵を常態とするムスジイトトンボでも,なかなか産卵が見られないと思いながら過ごしてきた経験が,この場面で役に立ちませんでした.事前の下調べが不十分だったことなど,不覚です.潜水産卵しているという目で探しておれば,これだけの個体数です,見つけていたかもしれません.

ということで,意外と単調な観察に終わってしまいました.なお,ヒメカワトンボは,生息記録のある場所へは行ったのですが,見いだすことができませんでした.

次はカワトンボ科です.台湾に分布するカワトンボ科のトンボは,全部で3種1亜種(4種類)です.そのうち,3種と出会うことができました.他の一亜種はキヌバカワトンボ Psolodesmus basilaris dorothea と呼ばれ,台湾の中南部に分布していますので,今回は出会う可能性はほぼありません.

Matrona cyanoptera 台湾名:白痣珈蟌
 台湾名は「白い縁紋(原意はほくろ)のあるカワトンボ」の意味です.

さてまず紹介するのは Matrona cyanoptera です.日本名をタイワンハグロトンボといいます.台湾名の白い縁紋のあるトンボというのは,メスの偽縁紋のことをいっているのでしょう.ただ,他の2種1亜種にも,メスには白い偽縁紋があります.

このトンボは国内に分布するリュウキュウハグロトンボ Matrona basilaris basilaris と同属のトンボで,色彩もよく似ています.オスの翅はアオハダトンボより青みが鮮やかできれいなトンボです.メスの翅は茶色の地味な感じがしますが,実は内側には非常に美しい青色部分があるトンボです.チョウでいえばコノハチョウのような感じですね.ただ,このトンボはどういうわけか止まったときに翅をパタパタと開閉しないので,メスの翅の内側を見ることが難しい.唯一産卵時によく翅の開閉を行うので,なんとか産卵するメスを見つけねばなりません.


Matrona cyanoptera のオスとメス(C),2023.5.18. ▲

タイワンハグロトンボは観察地C以外にも,観察地AやBでも出合いました.


▲観察地Bで見たタイワンハグロトンボ(B),2023.5.17. ▲


▲観察地Aで見たタイワンハグロトンボ(A),2023.5.16. ▲

ナカハグロトンボをかき分けながら進むと,水生植生がかたまっているところに少し数が集まっていました.とそのうちの1頭のオスがメスに向かってホバリングのディスプレイを見せ,すぐにタンデムになりました.そして交尾を始めました.近づくと敏感に感じ取って逃げていきます.途中で交尾も解消しタンデムで逃げていきました.そのうち植生の向こう側に隠れて見えなくなってしまいました.


▲タンデムで遠ざかっていくタイワンハグロトンボ(C),2023.5.18. ▲

仕方ないのでこれは諦め,別のトンボに集中しました.しばらくして上流の方に移動してみましたら,1頭のオスが2頭のメスをなわばり内で産卵させているのに出くわしました.翅をパタパタと開閉しながら産卵しています.しかし近づこうとすると1頭のメスは産卵を止めて逃げていきました.かなり敏感ですね.もう1頭も少し移動しましたが,なんとか近い場所で産卵を続けてくれました.


▲1頭のメスは飛び去ったが,残りの1頭は移動しながらもその場にとどまった.▲


▲産卵メスが翅を開いた瞬間.青色が美しい(C),2023.5.18. ▲

メスの開いた翅は,黒い縁取りに明るい青色が輝いて,とてもエキゾチックです.この写真を見ていると,台湾名の「白い縁紋のあるカワトンボ」というのがうなずけます.

Mnais andersoni tenuis 台湾名:細胸珈蟌
 台湾名は「細い胸のカワトンボ」の意味です.

このトンボは,日本のアサヒナカワトンボやニホンカワトンボに似ています.日本名はタイワンカワトンボです.他のカワトンボに比べ春早くに現れるようで,今回の観察時期はもうかなり末期に近いように感じられました.出会ったのもただの1頭だけ.特別な観察も出来ずじまいでした.


Mnais andersoni tenuis のオス(C),2023.5.18. ▲

台湾では,北部と南部に分布し,散発的に見られる種と書かれています.南部に比較すると北部には限局的に数の多い個体群が存在するようです.そういうこともあって,わずか1頭ではありますが,出会えたのかもしれません.兵庫県の河川では,ニホンカワトンボ,アオハダトンボ,ハグロトンボというふうに春から夏にかけて順次カワトンボが出てきますが,台湾でも,タイワンカワトンボ,タイワンハグロトンボと時期をずらして出てくるのかもしれません.もっとも三番目がありませんが….

Psolodesmus mandarinus mandarinus 台湾名:中華珈蟌
 台湾名は「中国のカワトンボ」の意味です.

日本のクロイワカワトンボ Psolodesmus kuroiwae に近いカワトンボです.以前は日本のクロイワカワトンボも Psolodesmus mandarinus kuroiwae という学名が付されていて,本種の亜種の位置づけでした.本種の日本名はシロオビカワトンボといいます.中国本土と台湾に分布しており,それが台湾名の「中国のカワトンボ」の命名につながっているのでしょう.

今回の観察行では,観察地Aだけでその姿が見られました.個体数はそこそこでした.


Psolodesmus mandarinus mandarinusオス(A),2023.5.16. ▲


Psolodesmus mandarinus mandarinus メス(A),2023.5.17. ▲

このシロオビカワトンボは台湾に着いて始めて見たトンボで,ああ海外に来たな,という実感を抱かせてくれたトンボでした.どちらかというと薄暗い場所に集まっているような印象を持ちました.「台湾的蜻蛉」にも同様の記述があります.あまり活動的でないトンボで,時々摂食のような動きは見せますが,薄暗いところにじっと止まっているだけです.翅の白い模様だけが目立ちます.


▲実際の暗いところにいる感じを出した写真.(A),2023.5.17. ▲

このトンボが集まっているところに,山の水を送る送水管が破れて水が漏れ,それが山道に流れ出て浅い水路になっている場所がありました.初日の夕方にここを訪れたとき,友人が2,3頭ここで産卵していたと言っていたので,後日(実はここには3回来ている)産卵を期待して夕刻に待ったのですが,私は産卵を観察することができませんでした.この場所の産卵基質としては,もともとが山道であることもあり,落ち葉のようなものしかありません.帰国後「台湾的蜻蛉」を読むと,水中の落ち葉にも産卵すると書かれており,納得しました.


▲オスがメスを見つけて交尾しようとしている.(A),2023.5.17. ▲

2日目にここと訪れたときに,オスがメスを捕らえ交尾に至ったシーンを目撃しました.追跡しようと近づくとどんどん逃げていき,結構人の動きを気にするトンボでした.結局見失い,その後はどうなったか分からず仕舞いでした.この日もうちょっと粘っても良かったかもしれません.というのは,他にオオメトンボが飛ぶ水たまりがあったため,そちらも気になり,移動したのです.そして,なんとその後でここをタイワンミナミヤンマがなわばり活動をするように飛んだそうです.二重の意味で残念でした.


▲顔や胴体だけを見ていると普通のカワトンボと変わりない.(A),2023.5.17. ▲

以上で,均翅亜目(2)の内容は終わりです.次回はこの旅行の目的の一つ,台湾のシオカラトンボ属について,見たり感じたりした内容を紹介しましょう.

最後に見ることができなかった均翅亜目の残りをまとめておきます.

(1) カワトンボ科 Calopterygidae 1亜種
・南部に分布する Psolodesmus mandarinus dorothea
(2)ミナミカワトンボ科 Euphaeidae 1種
・Bayadera brevicauda brevicauda
(3) ハナダカトンボ科 Chlorocyphidae 2種
・南部に分布する稀種 Libellargo lineata lineata,中部に分布する Aristocypha bibarana

というところで,北部に分布するトンボはほぼカバーできてたことになります.

カテゴリー: エッセイ, 台湾のトンボ | No. 907. 台湾のトンボたち:均翅亜目(2)2023.5.23. はコメントを受け付けていません

No. 906. 台湾のトンボたち:均翅亜目(1).2023.5.21.

2023年5月16日から19日まで,友人と一緒に,台湾の北部へトンボを見に行ってきました.台湾には日本国内分布種との共通種も多くいて,国内種に興味がある私にとって,国外種を目的にしている友人とは違って別の楽しみを心に抱いて出かけました.なんと,私の目的の一つはシオカラトンボ属 Orthetrum のトンボを見ることです!.

観察地は6カ所で,それぞれ,観察地A:細い渓流に沿った谷筋の山道,観察地B:平地の水田地帯を流れる小川,観察地C:山間の河川,観察地D:丘陵地の池,観察地E:水が涸れた河川の畔,観察地F:やや大きな河川の上流域,となっています.

なお,カテゴリーを「観察記」とせず「エッセイ」としたのは自由な形式で,各観察地で出会ったトンボを種別にまとめて,思ったり感じたりしたことを書きたかったからです.第一回は均翅亜目(1)として,主にイトトンボ科,モノサシトンボ科,そして日本には分布しない ミナミイトトンボ科 Protoneuridae のお話です.南国のイトトンボたちは,本当にエキゾチックな色できれいなのです.拡大して大きくすることのできる写真でトンボと接するなら,イトトンボの仲間は外せない存在でしょう.

◆アオナガイトトンボ Pseudagrion microcephalum 台湾名:痩面細蟌
台湾名は「小さな顔のイトトンボ」の意味です.

今旅行で,イトトンボの一番のねらいは「アオナガイトトンボ 」です.日本では,台湾のすぐ隣に位置する与那国島にしか分布していません.これを見るためにわざわざ与那国島に渡るというのは,費用対効果が悪すぎますので,是非見ておきたいトンボです.

台湾名の「小さな顔」というのが面白く,確かに下の写真を見ると,胸部と頭部の大きさのバランスが他のイトトンボと違っていて,胸部がやや膨らんでいるような印象を受けます.色彩のせいかとも思いましたが,やはり頭部が少し小さいのでしょうか? 台湾名の命名者の観察力に脱帽という感じですね.


▲アオナガイトトンボ(B),2023.5.18. ▲

さてアオナガイトトンボを探しにこの観察地Bには,2回訪れました.17日午前と18日午後です.いずれもよく晴れていて申し分ない天気でした.午前に訪れたときには,アカナガイトトンボがもの凄い数いましたがアオナガイトトンボは少なく,しかもビュンビュン飛び回っていて,なかなか写真に撮ることができませんでした.

次の午後に訪れたときには,逆にアカナガイトトンボは目立たず,アオナガイトトンボが少し数を増やしている感じでした.アカナガイトトンボとは活動時間帯が違うのかもしれません.


▲水面を飛び回るアオナガイトトンボ(B),2023.5.18. ▲

さて,18日午後の観察で一番嬉しかったのが,アオナガイトトンボの産卵です.友人との3人での観察なので,目の数が違います.産卵しているのを見つけてくれました.


▲産卵するアオナガイトトンボのペア(B),2023.5.18. ▲

この写真を撮っているときには全く知らなかったのですが,このメス青色をしています.自宅で図鑑(日本のトンボ,原色日本トンボ成虫幼虫大図鑑,台湾的蜻蛉など)を見てみると,普通は淡緑色なのだそうです.青色メスの記述はありません.メスはアカナガイトトンボによく似た淡緑色系の色彩と記されています.


▲全身水色をしたアオナガイトトンボのメス(B),2023.5.18. ▲

そこで「Pseudagrion microcephalum female」という語でちょっと画像をググってみました.それでも青色の写真が出てきたのは一つだけ.そのサイトの記述を読んでも,メスの体色が多型であるという記述は見つかりません.ただ,緑色の体色が水色に変わりつつあるような写真が掲載されていました.

与那国島のアオナガイトトンボも,このように「変色」するのでしょうか? それとも,そういう遺伝的形質を持った個体はいないのでしょうか.面白い課題が一つ提供できそうですね.

◆アカナガイトトンボ Pseudagrion pilidorsum pilidorsum 台湾名:弓背細蟌
台湾名は「アーチ状の背中を持つイトトンボ」の意味です.

アカナガイトトンボは,かつて石垣島で実物を見たことがあります.沖縄本島以南の主な島々に分布しているトンボです.普通種と言えるトンボで,きれいな流れに入ると目にすることが多いです.しかし深紅と黒のコントラストの非常に美しい色彩をしており,エキゾチックな南国トンボの代表格でしょう.観察地Bで,アオナガイトトンボと同所的に活動していました.


▲アカナガイトトンボのオス(B),2023.5.17. ▲

この日,アカナガイトトンボは,非常にたくさん飛んでいました.しかも多くがタンデム状態です.産卵している個体もいましたが,割合敏感で写真に撮れる機会に恵まれませんでした.というか,群れの効果?でしょうか,いつかは撮れるチャンスに出会えるだろうと高をくくっていて,結局撮影機会を逃してしまいました.珍しいトンボなら産卵するまで辛抱強く待つものですが,これほどたくさんいると気が緩むのですね.いわゆる普通種ほどまともな写真がないという,よくある状況になってしまいました.アオナガイトトンボなどは1ペアだけが産卵していたのに,上のようにちゃんと記録を録りましたからね.


▲タンデムであちこち移動しているアカナガイトトンボ(B),2023.5.17. ▲

アカナガイトトンボは,まだまだ羽化が続いていました.川を歩いていると未熟なイトトンボが飛び立ちました.腹部が太くキイトトンボの仲間かと思うようなトンボもいましたが,多分これもアカナガイトトンボだと思います(ひょっとしたら誤同定の可能性はあります).また,オスの体色がまだ赤くなくてオレンジ色の未熟な個体も見かけました.これはこれでまた美しい色彩コントラストです.


▲未熟な色彩のアカナガイトトンボのオス(B),2023.5.17. ▲


▲羽化直後のアカナガイトトンボ(だと思う)(B),2023.5.17. ▲

アカナガイトトンボは,単独でもタンデムでも,よくホバリングするトンボです.

こんなにたくさんいたアカナガイトトンボですが,翌18日の午後には嘘のように少なくなっていました.タンデムペアもほとんどいなくて,静かな小川でした.繁殖活動時間帯があるのかもしれませんね.

最後に,台湾名の「アーチ状の背」という状態ですが,上の未熟なオスの写真を見ると,腹部は確かにまっすぐではなくて微妙にカーブしているようです.アオナガイトトンボのところでも書きましたが,台湾名の命名者は非常に細かい特徴に目が行っているみたいです.「赤くて細長い」,「青くて細長い」というような意味の日本名と違って,目の付け所が違うのが興味深いです.

◆コフキヒメイトトンボ Agriocnemis femina oryzae 台湾名:白粉細蟌
台湾名は「白い粉をふくイトトンボ」の意味です.

コフキヒメイトトンボは,日本では,四国中南部・九州以南,南西諸島に広く分布しています.かつては山口県にも記録があったようですが,現在はどうなのでしょうか.

観察地Bでたくさん飛んでいるのを見ました.あまりにも小さいトンボですので成熟オスの白い色だけが動き回っているのしか見えません.個体数から見れば,繁殖活動が観察できるのではないかと思いましたが,見つけることができませんでした.


▲コフキヒメイトトンボの成熟オス(B),2023.5.17. ▲


▲まだ白粉をまとっていないオス(B),2023.5.17. ▲


▲白粉をまとい始めたオス(B),2023.5.17. ▲


▲コフキヒメイトトンボの成熟メス(B),2023.5.18. ▲

今回はアオナガイトトンボという目的があったため,コフキヒメイトトンボの繁殖活動を見つけることにまで時間を割くことができなかったのが残念です.笑い話ですが,台湾でのトンボ観察において,この観察地は本格的調査一番手だったので,あらゆるトンボが初見で,あちこちに目が移ってしまい気もそぞろ状態であったということも,生殖活動にまで注意が向かなかった理由でしょう.もう一日くらいここに居たい感じでした.

◆アオモンイトトンボ Ischnura senegalensis 台湾名:靑紋細蟌
台湾名は「青い紋があるイトトンボ」の意味です.


▲アオモンイトトンボのオス(B),2023.5.18. ▲

超普通種アオモンイトトンボは台湾にも分布しており,そこに限らず熱帯地方に広く分布する種類です.ただ実際にアオモンイトトンボに接してみると,かなり小型であると感じました.日本では二化目の個体に近いです.またメスには色彩多型があって,オスとの同色型と異色型がありますが,異色型の地色が日本の個体のようにくすんだ緑色ではなく,鮮やかな薄緑色をしているのが印象的でした.


▲アオモンイトトンボの同色型メスとの交尾(B),2023.5.17. ▲

17日の午前の観察では,単独個体のほか交尾が観察されました.午前中に交尾をするというのは日本と同じです.ということは,18日の午後の観察では産卵が見られるかもしれないとの期待が高まります.この午後観察では,コフキヒメイトトンボの産卵と同時にアオモンイトトンボの産卵もかなり丁寧に探しました.アオモンイトトンボの産卵は案外簡単に見つかりました.あまりに小さな個体でしたので,コフキヒメイトトンボかと一瞬見まがうほどでした.


▲異色型のメスは地色の薄緑色が非常に鮮やかである(B),223.5.18. ▲


▲アオモンイトトンボの単独産卵(B),2023.5.18. ▲

わざわざ台湾まで来てアオモンイトトンボを一生懸命探して観察する日本のトンボ屋はほとんどいないだろうと想像します.でも,よくよく観察すると,艶やかなアオモンイトトンボ異色型メスの色彩は,「ところ変われば品変わる」の格言通りでしょうか.品変わると言えば,台湾のトンボ図説「台湾的蜻蛉」の英文解説中に,「交尾は流畔で簡単に見られる」と書かれていて,この観察のように,止水環境だけでなく流水環境にも普通に生息しているのかもしれません.

身近にいるアオモンイトトンボに異国の地で出会うと,海外旅行で日本人に出会ったようなちょっと嬉しい感覚に見舞われます.

◆リュウキュウベニイトトンボ Ceriagrion auranticum ryukyuanum 台湾名:紅腹細蟌 台湾名は「赤い腹をしたイトトンボの意味です.

日本では九州中部以南に分布しています.亜種 ryukyuanum は日本・中国に分布すると書かれていて(日本のトンボ),「台湾的蜻蛉」の学名には亜種 ryukyuanum が充てられています.


▲リュウキュウベニイトトンボのオス(B),2023.5.17. ▲

この写真を見ると,胸部が真っ赤であることに気づきます.日本のリュウキュウベニイトトンボの写真を見ると胸部が黄緑色っぽい感じになっています.また「台湾的蜻蛉」の写真は,オス胸部が黄緑色をしています.このトンボの台湾名が「赤い『腹』の...」というのが,緻密な観察結果を表しているように思えます.


▲リュウキュウベニイトトンボのタンデム(B),2023.5.17. ▲

タンデム態の写真を見ると,メスは胸部が黄緑色をしていますね.リュウキュウベニイトトンボは,ここ以外では,観察地Dでも出会いました.リュウキュウベニイトトンボもコフキヒメイトトンボと同じく優先順位が低かったせいで,産卵観察にまで至りませんでした.また個体数が少なかったせいもあって,記録はこれだけです.

Paracercion calamorum dyeri 台湾名:葦笛細蟌
台湾名は「葦笛イトトンボ」の意味です.

日本のクロイトトンボの別亜種です.コクロイトトンボと呼ぶこともあるようです.ただ見かけたのは池に止まる1頭だけで,ほとんど見ることはありませんでした.でもこのコクロイトトンボ「葦笛」のどこに似ているのでしょう?


Paracercion calamorum dyeri(D),2023.5.18. ▲

次はモノサシトンボ科です.

Copera ciliata 台湾名:環紋琵蟌
台湾名は「環状の紋を持つモノサシトンボ」という意味です.

日本では「ミナミモノサシトンボ」と呼ばれることもあります.一見すると,日本のモノサシトンボとほとんど同じに見えます.


Copera ciliata (D),2023.5.18.色彩・外観とも日本のモノサシトンボと酷似.▲

ミナミモノサシトンボが集まっている場所は,日本のモノサシトンボ同様,日陰の場所でした.台湾的蜻蛉の解説にも,日陰の草地を好む,と書かれています.


▲池の横の水路で繁殖活動をするミナミモノサシトンボ(D),2023.5.18. ▲

この池の隣の池では,ミナミモノサシトンボの三連結に出会いました.オス-オス-メスの連結で,先頭のオスは重い2頭分の重さを持ち上げて,移精行動をしていました.先頭のオスは自分のつかんでいる個体がオスであることに気づかないのでしょうか? この後交尾がどうなったかは,残念ながら時間切れで確認できていません.


▲ミナミモノサシトンボの三連結(D),2023.5.18. ▲

それにしても,よく似たトンボが別種となって他国にいるのですから,なんかトンボの進化が,大型動物などに比べ割合短時間で起きているような気がしてなりません.

Copera marginipes 台湾名:脛蹼琵蟌
台湾名は「脛節が水かきのようになったモノサシトンボ」の意味です.

日本名はキアシイトトンボとなっています.台湾名の「水かき」というのはちょっと合わないように思えますが,よく見ると少し脛節が膨らんでいるような感じです.グンバイトンボほどではありません.ここでも,黄色い脚というパッと見て分かる日本名と,ものすごく微妙な特徴に目を付けている台湾名との違いが出ていますね.

このトンボには2回だけで会いました.台湾的蜻蛉によりますと,一般的には止水性の種のようで,用水路などにも生息すると書かれています.私が出会ったのは観察地Bと観察地Cという,いずれも河川でした.


Copera marginipes 未熟なオス(B),2023.5.17.  ▲

観察地Bで見たのは未熟なオスの個体でした.腹部の大方の各節が白くなっています.この川は水田の横にある川なので,水田の止水で生活している個体が小川の草地に入り込んだのかもしれません.

一方観察地Cは山間の河川でまわりに水田などはありません.南国では止水性の種が流水環境に入り込むことはよくあることです.ベニトンボなどは,沖永良部島では河川性の種かと思うほど普通に川で幼虫がすくえます.ここで見たキアシイトトンボは成熟したオスでした.腹部各節は黒くなっています.


▲キアシイトトンボの成熟オス.確かに脛節が膨らんでいる(C),2023.5.18. ▲

成熟個体は脚の黄色や胸側の薄緑色が派手に輝く,やはり南国のトンボという感じです.台湾に分布するモノサシトンボ属 Copera はこの2種だけで,モノサシトンボ属は全種制覇したことになりました(笑).なお,メスには出会えませんでした.メスは地味な色彩をしているようで,特に未熟なメスは脚も含めて全身が真っ白のようで,ちょっと興味を惹かれるトンボです.

次は ミナミイトトンボ科 Family Protoneuridae です.

Prodasineura croconota 台湾名:朱背樸蟌
台湾名は「朱色の背をしたミナミイトトンボ」という意味です.

このトンボの属するミナミイトトンボ科 Protoneuridae は日本には分布していません.台湾にもこの1種だけが分布しています.日本名は「タイワンミナミイトトンボ」と名付けられています.観察地Cだけで見ることができました.

キアシイトトンボを見つけた後,イトトンボに気をつけながら川を遡って歩いているときでした.水面にオレンジ色の点が見えました.真っ黒な地色にオレンジ色がライトのように輝くイトトンボ,こんな色彩のイトトンボは見たことがありません.まさに南国的色彩の派手なトンボです.そしてほとんど1点でホバリングをしています.


▲タイワンミナミイトトンボ Prodasineura croconota オス(C),2023.5.18. ▲

2頭が,川の植生のあたりを飛んでいました.しばらく飛ぶと枝の先に止まりました.飛んで止まるだけの観察でした.メスを見つけることはできませんでした.


▲ 陰を飛ぶとオレンジ色だけが輝いて見える(C),2023.5.18. ▲


▲ ほとんど1点でホバリングするので撮影しやすい(C),2023.5.18. ▲


▲エキゾチックな南国トンボです(C),2023.5.18. ▲

ということで,均翅亜目の3つの科,イトトンボ体型のトンボたちを紹介しました.最後に今回出会えなかった台湾に分布するイトトンボ体型のトンボについてまとめておきましょう.

(1) アオイトトンボ科 Lestidae 3種.
・6月以降の出現のようで出会えませんでした.
(2) ミナミアオイトトンボ科 Synlestidae 1種.
・過去に記録のあった地に出向きましたが,気温が低く見られませんでした.
(3) ヤマイトトンボ科 Megapodagrionidae 1種.
・観察に出かけましたが気温が低く何も見られませんでした.
(4) モノサシトンボ科-ルリモントンボ属 Platycnemididae - Coeliccia 2種.
・河川に多く行ったにもかかわらず見つけられませんでした.
(5) イトトンボ科 Coenagrionidae 10種.
・記録がわずかな5種が含まれ,実際は5種ほどが見られていないと言ってよいでしょう.

次回は均翅亜目(2)として,カワトンボ科,ミナミカワトンボ科,ハナダカトンボ科で,出会えたトンボたちを紹介します.

カテゴリー: エッセイ, 台湾のトンボ | No. 906. 台湾のトンボたち:均翅亜目(1).2023.5.21. はコメントを受け付けていません

No. 905. ムカシトンボを見に行った.2023.5.21.

今日は兵庫北部へムカシトンボを見に行ってきました.同時に同所的に見られるヒメクロサナエとクロサナエの状況も確かめに行きました.

9:00過ぎに現地に入りますと,ほどなくムカシトンボのメスが入ってきました.こんなに早い時間帯に産卵に来るのは,フライングシーズン末期ならではのことです.


▲ムカシトンボの産卵.▲

少ししたら飛び立ち,場所を変えて産卵をしました.後を追いましたが途中で見失ってしまいました.ムカシトンボはもう数が減っているのでしょうか,その後は12:00前後に,オスと思われる個体が2,3頭が飛んだだけでした.写真の複眼も少し透明感が増し,かなり日齢が進んでいるようです.時間を見つけてフキの葉柄の産卵痕を探しましたが,見つかりませんでした.

ムカシトンボ以外には,今日はヒメクロサナエの活動が活発でした.オスは結構頻繁に(ヒメクロサナエにしてはということですが)流れの畔に降りてきました.メスも2回はいりましたが,いずれもオスにお持ち帰りされてしまい,写真にはなっていません.


▲結構頻繁に降りてきたヒメクロサナエのオス.▲

メスがオスに持って帰られてしまうので,途中からオスを追っ払う作戦に出ました.しかし,普段結構敏感なオスなのに全然逃げない個体がいました.あまりに逃げないので手づかみすると,簡単に採れてしまいました.記念写真を一枚撮って逃がしてやりました.


▲手づかみしたヒメクロサナエのオス.▲

今日はクロサナエの姿を全く見ませんでした.また帰りに寄ったヒラサナエの個体数も非常に少なく3オス1メスが見られただけでした.

今年は,なんとなくですが,トンボの出現時期が例年と違う感じがします.経験的な感覚と合いません.ヒラサナエなどは例年であれば,まだたくさんいるはずです.クロサナエはムカシトンボの後ヒメクロサナエの前に出てくることが多いのですが,これが全く見られなかったことも腑に落ちません.両者とも Davidius 属です.今後のトンボの動向を見ていきたいと思います.

カテゴリー: 兵庫県のトンボ, 観察記 | No. 905. ムカシトンボを見に行った.2023.5.21. はコメントを受け付けていません

No. 904. 神戸のトンボ調査(5).2023.5.11.

ここのところ天気がよかったのですが,所用が続き,やっとのことでトンボを見に出かけることができました.今日は,今年の一つのテーマである地元神戸のトンボを確認する調査を続けることにしました.春の早い時期にしか出てこないトンボが探せるのももうあとわずかです.特に今年は早い感じがしていますので,時期を逃すことができません.今日のねらいはトラフトンボとヨツボシトンボとオグマサナエです.

まず前回フタスジサナエがたくさん生き残っていたところへ,オグマサナエを探しに行きました.ここにはオグマサナエの記録もあるからです.できるだけ今までのぞいたことのない池を目当てに,観察に入りました.二つ目の池があたりでした.タヌキモとヒシが繁茂しており,腐植酸性質のいい池です.最近はこういった植生が外来生物に荒らされて消えてしまっている池が多いのですが,この池はアカミミガメも入っていないようでした.そして嬉しいことに今日の目的であるトラフトンボとヨツボシトンボが飛んでいました.


▲No.11:トラフトンボ.2頭のオスが飛んでいた.▲


▲No.12:ヨツボシトンボ.ヨツボシトンボも2頭が池に現れていた.▲

トラフとヨツボシはセットになっていることが多いのですが,それがこの池では実現されていました.ヨツボシトンボを神戸市内で見るのは,私は久しぶりです.トラフトンボも同じくです.ちょっと気合いを入れて探せばまだ見つかるようですね.

この池はなかなかいい池なのですが,コサナエ属の姿がほとんど見られません.目を凝らして探すと,フタスジサナエが1頭だけ池に出て,メスを待っていました.


▲フタスジサナエのオス.成熟して池に出てきている.▲

さて,次の池に向かいました.途中で,フタスジサナエのまだ未熟な感じのするオスに出会いました.ただ数はメスが多かったです.


▲移動する道の途中に止まっていたフタスジサナエたち.▲

さて次の池は小さな池です.やはり腐植酸性質の池で,水は黒っぽい色ですが,きれいです.ヒメガマとヒツジグサが生育していました.池に着いたとき,向こう岸の方からクロスジギンヤンマのメスらしいのが飛び立ちました.池を出て行ったので,ちょっと残念な気がしました.池には成熟したフタスジサナエが活動をしていました.オグマサナエはいませんでした.


▲草の葉に止まってメスを待っていたフタスジサナエが摂食した瞬間.▲

フタスジサナエの写真を撮っていると,目の前におそらく先の個体でしょう,クロスジギンヤンマが産卵に降りてきました.そしてヒツジグサに止まって,おもむろに産卵を始めました.クロスジギンヤンマは神戸市内でもそれなりに出会えるのですが,写真に撮りやすい条件に巡り会うことがありませんでした.やっとという感じで,神戸産クロスジギンヤンマの産卵写真をゲットしました.


▲No.13:クロスジギンヤンマ.これで「神戸のトンボ」のページの写真ができた.▲

この池にはオスが入ってきて,植生の中を順次のぞき込んでいました.オスに見つかると強引に連れて行かれることが多いので,そういったシーンが見られるかと思って期待していました.でも私が陣取っているからでしょうか,オスは私の前にだけはやって来ません.ですからこのメスは最後まで産卵を続け,池を出て行きました.

さて,その後もしばらく新しい池をのぞき込みながら移動しました.シオカラトンボやクロスジギンヤンマは飛んでいますが,肝心のオグマサナエの姿がありません.トラフトンボが飛んでいる池はありました.


▲トラフトンボが1頭だけ飛んでいる池があったが,他には何もいなかった.▲

すぐ横の溝に,成熟したニホンカワトンボが止まっていました.こんな流れにいるなんて,ニホンカワトンボが中流域のトンボであるとはとても思えませんね.ニホンカワトンボはおそらく近くの小川から来ているのだとは思いますが,池の上でもオス同士が追いかけ合いをしていました.


▲コンクリート護岸された用水路で活動するニホンカワトンボ.▲

ということでお昼がやって来たので,オグマサナエは諦めました.また別の場所を探ってみます.神戸市内でこの時期に見つけておかないといけないトンボは,あとダビドサナエ,ムカシトンボ,ヒメクロサナエ,ヤマサナエなど,川のトンボと,ムカシヤンマ,サラサヤンマといった湿地のトンボです.これらの湿地のトンボが難しい.サラサヤンマは最近見つけたという情報をいただいているのですが,ムカシヤンマは全く無しです.よほどの幸運に出会わねばならないでしょう.

さて,お昼とはいえ,まだ少し時間的にはトンボを探せるので,ヤマサナエが羽化していた公園に行ってみることにしました.前回フタスジサナエがたくさんいたので,それもどうなっているか見てみたいと思います.フタスジサナエは激減していました.またヨツボシトンボとトラフトンボの姿がありませんでした.そしてショウジョウトンボが出現しており,なんか季節が前に進んだような印象を受けました.


▲フタスジサナエは数頭出会っただけであった.▲


▲クロイトトンボはまだまだ羽化を続けておりたくさん活動していた.▲


▲ショウジョウトンボが姿を見せていた.▲


▲ヤマサナエは成熟していて2頭のオスが流れに出ていた.▲

ヤマサナエが活動を始めていたので,少しの間メスを待ってみましたが,来ませんでした.こちらは日を改めて本気で観察する必要があるでしょう.

神戸市内のトンボ,最大80種との出会いを目指していますが,たぶんオツネントンボは逃したように思います.9日に,所用の空き時間を使って,オツネントンボを探しに過去の記録地に行ってみましたが,オツネントンボどころか,トンボはシオカラトンボ2頭ととクロイトトンボ1頭,ギンヤンマが1頭飛んでいただけでした.

現在13種と出会って写真が撮れています.

カテゴリー: 兵庫県のトンボ, 神戸市のトンボ, 観察記 | No. 904. 神戸のトンボ調査(5).2023.5.11. はコメントを受け付けていません

No. 903. 春のトンボの出現状況.2023.5.4.

今日は兵庫県は北から南まで晴れ.兵庫北部へ春のトンボの出現状況を見に行きました.最初に見に行ったのはホンサナエです.今年の状況はどうでしょうか.現地に入ると,オスが4頭ほど飛び回り,追いかけ合いをしていました.まだ出始めという感じで,あと数日で最盛期に入りそうです.


▲ホンサナエのオス.まだわかそうな感じがする.▲


▲これは少し離れたより上流部で見つけたホンサナエのオスである.▲

ホンサナエが確認できたので移動しました.そこでまず最初に出会ったのがクロスジギンヤンマ.メスで産卵をしているところに出くわしました.


▲流れがよどんだ小さな水たまりで産卵するクロスジギンヤンマ.▲

クロスジギンヤンマは,前回来たときにも姿を見ました.もう翅が破れており,結構活動を重ねたメスのようです.

続いて移動しました.途中の湿地ではシオヤトンボが活動していました.前回より少し数が減ったように思います.池ではトラフトンボ,ヨツボシトンボ,コサナエ,オオイトトンボ,ホソミオツネントンボ,シオカラトンボなどが活動をしていました.


▲シオヤトンボのオス.十分成熟した壮年期といった感じ.▲


▲湿地の横の草原には未熟なハラビロトンボがいた.▲


▲ムカシヤンマも飛び出した.未熟なメスである.▲


▲池ではコサナエが産卵していた.珍しく飛び散る卵が写っている.▲


▲シオカラトンボがオスの警護なしで単独産卵していた.▲


▲オオイトトンボが成熟し,繁殖活動を始めていた.▲


▲ホソミオツネントンボはまだたくさん繁殖活動をしていた.今が最盛期!▲


▲ホソミイトトンボの交尾.今年はホソミイトトンボをほとんど見ない.▲

池から流れの方に移動しました.流れではニホンカワトンボが繁殖活動の最盛期を迎えており,もうあちこちで闘争を繰り広げていました.ちょうどお昼頃だったので,産卵も始まっていました.


▲2頭のメスをなわばりで産卵させているオス.▲


▲ニホンカワトンボは産卵基質として朽ち木が好きだが,水草に産卵している.▲

今日はこれ以外には,クロイトトンボ,ヤマサナエ,アサヒナカワトンボがいて,13種と出会いました.春のトンボたちは順調に出てきているようです.

最後にダビドサナエを探しに行きましたが空振りでした.最近本当にダビドサナエの姿を見なくなりました.昔はちょっと川の上流に入ると止まっていたものでしたが...一度本気で探しに行きたいと思います.

カテゴリー: 兵庫県のトンボ, 観察記 | No. 903. 春のトンボの出現状況.2023.5.4. はコメントを受け付けていません

No. 902. 公園まわり.2023.5.3.

今年は3月が異常に暖かく,そのせいか成虫越冬種などは早くから活動を始めていました.しかし4月に入って寒さがぶり返し,場所によって微妙に羽化のタイミングが異なるため,コサナエ属をはじめとした春一番のトンボたちが,早く羽化したところもあれば,遅くなってしまったところもあるといった感じになりました.

例えば例年の観察場所でフタスジサナエの羽化を4月9日に見て早いと感じましたが,そこはもともと早い目に羽化する場所で寒さがぶり返す前に羽化を終えてしまったのす.それに対し,例えば昨日のオグマサナエの観察場所では,例年の羽化がおそらく遅いのでしょう,その結果,4月の寒さによって羽化が遅らされたので,成熟前の個体ばかりといった状況になったのだと思います.

さて,今日は3カ所の公園を回る予定で出かけました.最初に半月ぶりに先日ヤマサナエの羽化を見た公園に行きました.公園のトンボたちの状態はそのときと様変わりしていました.まず驚いたのがフタスジサナエがたくさん活動していたことです.ヤマサナエを見た日には,実はコサナエ属のトンボを探すのが目的でした.そのときには全く姿がありませんでした.

そのときには,4月9日の羽化を見て今年は早く出てくると感じてその感覚で,もうコサナエ属は羽化しているはずだと思っていましたから,この公園にはコサナエ属のトンボがいないというふうに(気持ちの中で)判断してしまったのです.

ともかく,この公園にはフタスジサナエがたくさんいることが分かりました.一方で,それ以外のコサナエ属は見当たりませんでした.


▲たくさんいたフタスジサナエのほんの一部.▲

先日ヤマサナエの羽化を見た流れにもたくさん止まっていました.また1頭のメスもそこで産卵していました.


▲公園に造られた流れで産卵していたフタスジサナエのメス.▲

フタスジサナエは,その他の場所でも産卵活動が見られ,全部で5回観察しました.ただ結構敏感なのと,発見が遅くすぐに飛び去ってしまい,ほとんど写真になりませんでした.


▲フタスジサナエメスの産卵.体をねじって卵をまき散らす直前.▲

さて,フタスジサナエがたくさんいたことにしばらく心を奪われていましたが,それ以外にもトラフトンボ,ヨツボシトンボ,シオカラトンボ,クロイトトンボなどが活動をしており,ヤマサナエも未熟な個体が飛んでいました.


▲トラフトンボのオスたち.7,8頭は飛んでいたと思う.▲

トラフトンボはたくさん飛んでいて嬉しく思いました.実は例年トラフトンボを観察していた池が浚渫され改修されて,完全にだめになってしまったのです.新しい観察場所を探さねばと思っていたので,ラッキーでした.ただ今日交尾態で飛ぶことを期待したのですが,それはかないませんでした.


▲ヨツボシトンボ.全部で5,6頭はいたと思う.▲


▲産卵するシオカラトンボのペア.▲


▲まだ若いヤマサナエ.流れのそばの草原に降りてきていた.▲


▲羽化直後のクロイトトンボ.羽化殻が横にある.▲

ヨツボシトンボが飛び,シオカラトンボが産卵し,クロイトトンボはもう数え切れないほど飛び,ヤマサナエが樹上や広場を飛ぶ,本当にいいところです.

さて,ここに長居しすぎて,2つめの公園には行くのをやめ,昼からは3つめの公園に行きました.ここは神戸市内の公園で,やはり先日コサナエ属を探しに行って全く見られなかったところです.最初にややこしく書いたように,ここも来るのが早すぎたのではないかと思ったからです.

公園に着いて,歩き回りましたが,ここはコサナエ属がなかなか見つかりませんでした.やっとのことで,合計4頭のコサナエ属を見つけました.なんとタベサナエでした.タベサナエは,兵庫県下ではあちこちにたくさん見られるトンボですが,神戸市域内には非常に少ないのです.私などはもう二十数年以上ぶりの神戸市内での出会いでした.


▲No.10:タベサナエ.神戸市域で二十数年ぶりに出会った.▲

あと,歩いていたときに,自動車?で踏み潰されてぺちゃんこになったペアのコサナエ属の遺体を見つけました.


▲車に踏み潰されたペアのコサナエ属.▲

潰れているので種名を確認しづらかったですが,わずかに前肩条が見え,二本の黒条も見えるのでフタスジサナエのようです.この公園にはコサナエ属の数は非常に少ないですが,フタスジサナエとタベサナエがいるようです.

ということで,今日の観察を終えました.

カテゴリー: 兵庫県のトンボ, 神戸市のトンボ, 観察記 | No. 902. 公園まわり.2023.5.3. はコメントを受け付けていません

No. 901. オグマサナエの活動を見に行った.2023.5.2.

そろそろオグマサナエが産卵活動を開始するはずだということで,今年羽化を観察した池に様子を見に行くことにしました.朝,池の堰堤を歩くと,たくさんのコサナエ属のトンボが飛んでいました.ここはなかなかいいところですね.集水域に田畑がないので,おそらく水に薬品や過剰な栄養塩が流れ込まず,水がよい状態に保たれているのでしょう.

飛び交うコサナエ属の正体を確かめようと近づくと,ほとんどがフタスジサナエでした.羽化を観察に来たときはオグマサナエとタベサナエだけだったのですが,その後フタスジサナエが羽化してきたのでしょう.明らかにまだ十分成熟していない,淡色部が黄色の個体ばかりでした.遅れて羽化したことは間違いありません.


▲池の堰堤を飛び回るフタスジサナエたち.まだ十分成熟していない.▲

中にはオグマサナエが混じっていて,それらは淡色部が淡いグリーンをしており,成熟を感じさせる個体でした.


▲フタスジサナエに混じってオグマサナエも堰堤で活動を始めていた.▲

少し池のまわりを歩いて観察を進めると,オグマサナエは,オスたちが池に出てメスを待ちながら繁殖活動を始めています.今日のこの状態は,見事にオグマサナエとフタスジサナエの出現時期がずれていることが表現されていました.そこで次に,オグマサナエの繁殖活動を観察すべく,もっともメスがやって来そうな場所に陣取ることにしました.


▲今日の観察ポイント.▲

産卵は,写真のように,池に覆い被さるような広葉樹の存在する場所で行われることが多いのです.ここが産卵ポイントで間違いないことは,この場所に異常に密度高くオスが集まっていることからも明らかでした.ちょっとオスたちの顔ぶれを並べてみましょう.


▲産卵ポイントと思われるところに集まっているオグマサナエのオスたち.▲

待っていると,10:30ごろに,メスが入りました.しかしこれだけのオスが待ち構えているのです.2秒としないうちに連れて行かれてしまいました.ここはいい場所ですが,メスがオスがたくさんいることを学習してしまうと,きっとここを避けるか時間をずらして産卵に来るようになってしまうでしょう.産卵に適した立体構造の場所ですが,写真に撮るには良くないかもしれません.

少し移動して別の場所も見てみました.ぱらぱらと.別の場所でも,オスが止まってメスを待っている姿が見られました.


▲池のあちこちにオグマサナエのオスがメスを待っているのが観察できた.▲

やはり元の場所がいいようなので,戻ってしばらく待ちましたがメスはやって来ません.本当は雨後の晴れだった昨日がよかったのでしょうね.所用があってくることができなかったのが残念です.そうそう,この場所には,水に落ちて瀕死の状態のタベサナエのメスがいました.ここにはタベサナエも産卵にやって来るようですね.


▲水に落ちて瀕死のタベサナエのメス.救助して陽の当たるところに止めておいた.▲

ということで,今日は別の池に観察に入ることにしました.この時期はいろいろなトンボが出てくるので忙しいです.今年,ヨツボシトンボとトラフトンボの姿をまだ見ていないので,それらを探しに行くことにしました.今年春一番にオツネントンボを観察にいった池へと転進しました.


▲オツネントンボは,老熟していたが,まだ数頭飛んでいた.▲

トラフトンボが1頭だけ飛んでいました.岸に近づかないので,遠くを飛ぶ姿を証拠写真に撮っておきました.


▲トラフトンボ.▲

ここでは,ヨツボシトンボが2頭いて,時々激しいバトルをやっていました.じっと待っていると岸に止まったので,パチリ.


▲ヨツボシトンボのオスたち.▲

そんなとき,メスが産卵に入ってきました.1頭のオスが交尾をし,警護を始めました.メスは激しく移動して産卵するので,写真にはほとんどなりませんでした.


▲警護するオス(上)と産卵するメス(下2枚).▲

この池ではクロイトトンボが次々と羽化していました.春が本格的に始まったようです.

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