2週間ほど観察に出なかったので,昨日一昨日ともうすっかり秋のトンボに様変わりしていたのを感じました.アカトンボの季節に入っているのですね.アカトンボとして割合に早い時期に繁殖活動を始めるのがナニワトンボとリスアカネ.そこでこれをまず片付けました.今日は,これまたやや早い時期に繁殖活動を始めるミヤマアカネを見に行くことにしました.帰り道にオオルリボシヤンマが見られる池があるので,これをついでに見に行くことにしました.
▲今日のメインターゲット,ミヤマアカネ.私は地味なメスの色彩の方が好きである.
▲ミヤマアカネのオス.正面から撮ってみた.
ではまずミヤマアカネから.現地に着いたのが9:30ころでした.早速川を覗くと,ミヤマアカネが連結状態になって産卵をしている姿が上から見えました.ここのミヤマアカネは川の個体群ですので,実は非常に心配していました.それは,西日本集中豪雨がちょうど羽化期の前後に当たり,幼虫が流されてしまったのではないか,さらにまた台風20号,21号の風と豪雨,その後の長雨と,川が相当に荒れた時期があったからです.最初産卵ペアを2組見た後,ポツンポツンと止まっているミヤマアカネが川の上から見えましたが,以前のように群れている感じではありませんでした.丹念に様子を確認しながら川を上っていって,浅い側流のある部分を見つけ,そこを覗いてみますと,またペアが産卵していました.ここに決め,川に降りました.
▲川の上から見つけたペア.岸近くの植物の中で産卵をしている.
先ほどのペアは,川岸に近い部分で,打水産卵をしていました.9:44です.結構大きく移動しながら産卵するので,動きが予想しづらく,うまく記録が取れません.それに空には雲が広がっていて,どうもすっきりとしません.オスやメスの単独個体はそこそこ見られましたので,次の産卵に期待することにしました.ふと横をペアが横切りました.交尾個体です.産卵はまだまだこれからということを予感させてくれました.9:51です.
▲交尾ペアがやって来て静止した.空は曇っている.
近づくとこの交尾ペアは飛び立ち,場所を移動しました.この交尾が終われば産卵を開始すると思われるので,後をついていきました.別の所に止まってしばらくすると日が差してきました.ミヤマアカネの輝きは,太陽直射光の下でないとその本領を発揮しません.
▲別の場所へ移動したとき,日が差してきたので,そこをもう一枚パチリ.
いつまで待っても交尾が終わりそうもないので,止まっている個体の記録を撮っていると,産卵ペアがやって来ました.先ほどの交尾ペアでしょうか.日が差してきたこともあるのでしょう,その後も産卵ペアが途切れずにやって来ました.入れ替わり立ち替わりあっちへ行ったりこっちへ行ったり,もうどのペアを撮影しているのか分からなくなりました.
▲右へ左へ移動して産卵を続けるミヤマアカネ.
▲これはこの後急降下して打水する直前の姿勢である.オスが産卵動作の主導権を握っているのが分かる.
▲打水直前の状態.水面に水紋ができていないので打水直前であることが分かる.
▲翅のバンドが本当に可憐さを際立たせている.
そんな間にも交尾個体が一つ二つとやって来ます.だいぶんミヤマアカネの数が増えてきたように思えました.浅い側流のあるこの場所を選んだのは正解だったようです.産卵ペアの中には,例によって私の陰に入って産卵するものがいました.股の下をくぐるようにして産卵するので,真上からの撮影になります.
▲私の股の下で産卵するペア.
▲交尾カップルや連結で止まるカップル,川は賑やかになってきた.
ひとしきり撮影をしましたが,いつの間にか空はどんより曇り空.ストロボ光に頼った撮影になっています.曇ってきたせいか,トンボの動きが少し鈍りました.私も一休みです.
そんなとき,川の横を一人のご婦人が通りかかりました.私に向かって「ミヤマアカネですか?」と聞かれました.まさかトンボの名前を知っているとは思いもよりませんでしたので,思わず「トンボを見ています.」とちょっとちぐはぐな返事をしてしまいました.続けて「いますか?」と聞かれたので,「今年は大雨や台風で川が氾濫するほど荒れたので心配していましたが,たくさんいます.」と答えました.すると,「よかった.」と言って立ち去られました.この川のミヤマアカネ,地元の人もよく知っているんですね.地域のみなさんに愛されているのかもしれません.
さて,まがりなりにも記録も取れたし移動しようかと思ったとき,空から太陽が顔を出し,さらに日向のやや流れの速い部分で産卵するペアが入りました.やっぱりミヤマアカネは太陽の日差しの中でこそ美しさが生えますので,このペアを徹底的に記録することにしました.
▲やや速い側流の部分で産卵をしようと飛んでいるペア.
▲草の間を飛んだり,私の足下を飛んだり,とにかく日向で飛び回るペアであった.
日向の明るさもあって,ピントも合わせやすく,たくさんの記録が取れました.特に打水する瞬間をねらったのですが,これもうまくいきました.
▲例によってこれから急降下する直前の姿勢.
▲とにかく足下を飛ぶので,打水の瞬間も真上からになる.
▲草の間にもぐり込みながら産卵を続ける.
▲打水後飛び上がってきたところ.
▲打水の瞬間.日が差していると水の透明感が際立つ.今日いちばん気に入っている写真.
▲本当に足下から離れないので,見下ろすアングルになるが,水の輝きが入るのでまあいいか.
▲再び打水の瞬間がヒット.やはり写真は明るいところで撮るに限る.
▲その後も産卵は続く.産卵を見始めてから5分経過している.
このペアはやがて,オスがメスを放しました.ほんの少しだけ,オスが警護しメスが産卵するような仕草が見えましたが,メスはすぐに静止しました.すると,オスがこれを見て怒ったのか(あくまで擬人化),止まっているメスのすぐそばで翅を激しく震わせながらホバリングを続け,産卵を催促しているようでした.仕方なくメスは飛び始めました.オスは再び警護飛翔的な動作をしましたが,メスは産卵せずまたすぐに止まりました.すると今度は,このオスはメスにつかみかかり,メスを引き剥がそうとしました.メスはオスに引っ張られてオスもろとも落下しました.このオスよほど警護産卵がしたかったのでしょうね.それならメスを放さなかったらよかったのに….まあ強引なオスもいるものですね.
▲オスがメスを放した.その後警護産卵的な動作が少しの間見られた.
▲止まったメスのそばでしつこく翅を震わせてホバリングする警護オス.
▲もう一度,オスは警護飛翔的な状態になった.
▲ついに堪忍袋の緒が切れたか,オスはメスにつかみかかった.
▲オスはメスの頭をつかんで,草からメスを引き剥がそうとした.
▲これにはメスもたまらず,オスもろとも落下した.
▲メスはたまらず飛んでオスから逃れた.
オスはやがて諦めてメスのそばを離れました.そしてオスの邪魔が入らないと分かったとき,メスは単独産卵を始めたのです.オスとメスの駆け引き,面白かったですね.
▲オスがいなくなったとき,メスは単独で流れの上を低く飛び始めた.
▲そして,少しの間産卵をしたのだ.
▲産卵を終えて,草に止まり,休息した.
メスの産卵は短時間で終了し,しばらく静止した後,どこかへ姿を消しました.ミヤマアカネは,成熟・未熟,オス・メスを問わず,流畔の草むらで同所的に生活しています.ですから他のトンボのように,上空へ飛んで逃げていったということは起こらないのです.この点コフキトンボと似ています.
さて,今日は次のオオルリボシヤンマの観察があるので,ここで昼食をとり,移動することにしました.移動しようと川を歩いていると,まだ交尾しているペアがいました.10:40,まだまだこの後繁殖活動は続くようです.
▲帰り際に見つけた交尾カップル.まだまだ産卵は続きそうだ.
最後にミヤマアカネのオスの顔拡大写真で Part 1 を締めくくります.全体に赤っぽくてリンゴの実を見ている気がします.
▲ミヤマアカネのオスの顔の拡大写真.
では次はオオルリボシヤンマです.(Part.2へ続く)