続 トンボ歳時記
No.630. ナニワトンボの観察.2018.9.16.

いやはや,9月に入ってからの天気は大変なものでした.台風21号が9月4日上陸し,その後は長雨,そしてどんよりとした曇り空の連続でした.唯一晴れたのが台風前後の3日,5日で,また10日にも晴れ間が見えましたが,なんとこれらの日は仕事が入っていて観察できず.天気とこちらのスケジュールが合わず,半月観察がストップしました.

まあ愚痴を言っても仕方ないので,今日は気持ちを入れなおして,ナニワトンボの観察に出かけてきました.ただ,2個の大型台風とその後の長雨で降水量が大幅に増え,例年ならこの時期の各地のため池はたいがい水を落としているのですが,今年はほとんどのため池が満水状態.ナニワトンボは水落をしたため池にやって来るので,今日は水落をしているため池探しから始めなければなりませんでした.とりあえずよく行くため池を覗きました.しかし満水で望みなしなので,その近くのため池を見て回りました.この池のナニワトンボがそちらへ避難している可能性があるからです.案の定,同じ谷続きの池の一つが水を少し落としていました.

▲満水状態が多い中,ナニワトンボ的な環境が現出されているため池の岸辺.

環境的にはナニワトンボがいても良さそうです.現にオスが3頭ほど姿を見せていました.ただ,池岸が濡れていて,沈水植物のオオフサモがまだ半乾きの状態で岸の上に横たわっていました.2,3日前に水が落とされたという感じでした.

▲樹木の陰に止まってメスを待つナニワトンボのオス.非常に敏感で近寄り難かった.

現地到着は10時前,産卵はだいたい10時半くらいに始まります.しかし待てども待てども,ナニワトンボは産卵にやって来ません.岸で縄張りを持っていたマユタテアカネがメスを見つけ,交尾,産卵をしてくれました.

▲樹陰で縄張りを持っているマユタテアカネのオス.

▲メスが入って,このオスがそれを捕まえ,交尾となった.マユタテアカネの交尾.

▲交尾後すぐに産卵を始めた.マユタテアカネは打泥のストロークが大きく,撮影が非常に難しい.

▲打泥の瞬間.今日はこればかり狙ってシャッターを切ったが,唯一ピントが来た1枚である.

あと,リスアカネがやってきたり,アオイトトンボやギンヤンマが水面に落ちていたり,それなりに待っている間にいろいろなことはありました.ギンヤンマは助けてあげて,羽が乾くように木に止まらせました.

▲リスアカネもいても良さそうな環境であるが,このオス1頭だけが姿を見せていた.

▲他のトンボに追われたのだろうか,アオイトトンボが水面に落ちてもがいていた.

▲このギンヤンマのメスは,水面に落ちたのを見ていないので,かなり長い間この状態だったものと思われる.

▲助けてあげて木に止まらせた.頭を掃除している.

池では,クロイトトンボ,アオイトトンボ,ギンヤンマが飛び交っていました.またタイワンウチワヤンマもいましたしチョウトンボの生き残りがオオフサモの群落の中で産卵していました.水落をして時間が経っていないのでまだナニワトンボが集まってきていないのだろうかなどと考えながら,12時まで待ち,この池を後にしました.気温はだんだんと上昇してきて青空が広がりはじめています.こういうときは諦めないことが肝心なので,近くに水落をした別の池はないか探しましたら,林の影にほとんど水がない池がありました.思わず「しまった」と心の中で叫んでしまいました.

▲移動した先のため池の岸辺の状況.大きく水が落とされている,というか抜かれていた.

まあ,とりあえず池に入って林縁を歩いてみましたら,ナニワトンボがたくさん飛んでいます.こちらで待っていたらよかったと後悔したことはいうまでもありません.

▲ここのナニワトンボは日向に止まる個体が多かった.

▲あちこちに止まっているオスの姿が見られた.

▲ナニワトンボの顔面には,マユタテアカネのような眉斑がある.

▲腹部の先端に障害があるナニワトンボのオス.

▲青い赤とんぼの名にふさわしく,本当に青い(青白い).

いやはや本当にやられました.ロケハンはていねいにやらねばなりませんね.最初に見つけた池があまりにナニワトンボの生息環境的だったので,一も二もなくそこに決めてしまったのですが,こちらの池が正解でした.でも,諦めずにこの池にたどり着いたことが幸いしました.1ペアのナニワトンボが産卵をしにやって来たのです.12:30です.時間的にはもう本日最後の産卵でしょうね.

▲水落としされたため池の岸で産卵を始めたナニワトンボのカップル.

▲羽の動きを同調させて,見事に連結飛翔をするナニワトンボ.

▲卵を撒くときは,体を下方に振る.

▲結構よく動き回って産卵する.

▲メスにもオスと同様の眉斑があることが分かる.

▲池岸の縁の方に向かって移動していく産卵ペア.

▲池岸の縁の壁になった部分の前で産卵を続ける.卵が落ちているのが分かる.

このペアは途中でオスがメスを放し,連結産卵から警護産卵に移行しました.昨日遅くまで映画を見て起きていたのが災いし,目がしょぼしょぼしてピントが合いません.大量のピンボケを出してしまいました.撮影するのは難しいトンボではないのですけどね.

▲オスが突然メスを放した.連結産卵から警護産卵への移行である.

▲オスはメスの後を追うように寄り添って産卵に付き合う.メスの腹端から卵が落ちている.

▲単独産卵になると,上下の振れるような動きは小さくなり,ほぼ水平状態で産卵を続ける.

▲卵を撒くときにわずかに腹部を下に振る.卵が落ちている..

▲ホバリング状態での産卵.

▲卵が腹部先端から落ち始めた瞬間である.

ということで,なんとか目的を果たし,13:00ころに池を後にしました.

この「諦めない」という言葉は,先日NHKテレビでやっていた昆虫写真家栗林慧さんののドキュメンタリーで,栗林さんが言っていた言葉です.何日も諦めずに写真を撮る姿が描かれていました.私などとても足下にも及びませんが,「写真を撮るなら絶対に諦めない」というのには共感しています.

9月の前半が飛んでしまい,この後もあまり天気予報は芳しくありません.9月中に観察したいトンボがまだたくさん残っています.これから,ペースを上げていかねばなりません.最後にナニワトンボの顔で締めくくります.

▲ナニワトンボオスの顔面.