続 トンボ歳時記
No.603. キイロサナエの産卵観察.2018.6.21. Part-2.

今日のもう一つのメインの観察対象は,キイロサナエの産卵です.キイロサナエの産卵については,ヤマサナエの産卵を観察に行った6月7日にすでに見ています.ただこれは偶然ともいえるものですし,産卵方法が静止して卵塊をつくってから打水するというものでした.今日は,連続打水または連続打泥産卵を観察しようと,ねらいを設定しました.

▲最初に迎えてくれたのはヤマサナエのオスであった.

現地に着いて,まず出迎えてくれたのは,なんと上の写真のヤマサナエのオスでした.まだ頑張っているんですね.さて,キイロサナエの方は,まだ朝が早くて空も雲がおおっているせいか,オスは1,2頭が止まっているだけでした.

▲キイロサナエのオスは,このように下を向いて止まることが多い.

メスはあまり早い時間には来ないだろうと思いながら,流れに沿って歩いて行きました.オスは,少しずつ数が増えていきました.観察範囲を2往復くらいしたときでした.メスが産卵に入ってきました.9:18でした.オスに見つかりにくい,草におおわれ,コンクリートの壁のあるコーナーでした.流れを上からのぞき込んでいるような位置でしたので,はじめは上からのショットです.

▲上から見下ろしながら産卵を観察.

▲上から見ていると打水の瞬間はこんなふうになってしまう.

1分ほど産卵を行ったあと,このメスは姿を消しました.簡単に終わったと思いながらも,早速産卵を観察できたことに喜びを感じながら,撮影画像を点検していました.すると,9:21,またメスが入ってきました.まったく同じところで産卵を始めています.これは先の個体と同じかもしれませんが,また後日検討することにします.

▲先の個体が去ったあと,すぐに次の個体が入ってきた.

今度は草の中にもぐり込むようにして産卵する場面が多くなりました.上からでは陰にもなるし,同じような写真ばかりになってしまうので,流れに降りることにしました.驚かせると逃げてしまうので,慎重に水に入りました.この個体ヒトをあまり恐れないようです.全然動じることなく産卵を続けています.産卵場所が狭いので大きな移動もなく,狭い範囲を,往ったり来たりというよりは向きを変えながら,連続打水産卵しています.

▲草の茎などに腹端を打ちつけて産卵をするメス.

草の茎や葉に腹端を打ちつけるようにして何度も打水しています.キイロサナエには下向きに突き出した産卵弁があります.前回観察した静止して卵塊をつくって打水する方式では,静止中につくった大きな卵塊を,産卵弁で挟むようにして保持していました.このような連続打水の場合は,ゆっくりと卵塊をつくる暇はないはずです.そこで,腹端が明瞭に写っているコマを探してみました.

▲連続打水産卵中のメスの腹部先端部.水滴のようなものがついていて,中に何かがあるように見える.

卵塊とまではいきませんが,水滴の中に卵があるように見えます.あくまで「あるように」ですけど.

産卵は植物の中だけでなく,泥の岸辺近くでも行われました.チョンチョンと打水しながら泥のそばへ寄っていきます.数回ですが泥を打ったようなときもありました.

▲泥の水際で連続打水産卵するメス.

キイロサナエは,その水辺の環境に応じて,いろいろな産卵方式を採用することができるトンボに見えます.あと,記録できていないのは,広い範囲を速い飛翔で往復して連続打水する方式と,泥面を専門に打って産卵する,連続打泥産卵です.そうそう,顔シリーズを忘れていました.今回はレンズの至近距離近くで,オートフォーカスで撮影ができましたので,ピントが来た写真を山のように量産することができました.その中から顔にピントが来た一枚を!

▲キイロサナエメスの顔.

産卵が終わると,メスは私の股をくぐって,岸辺の草に止まりました.そしてしばらくして飛び去りました.

▲産卵が終わってしばらく止まっていたメス.

今日はこれ以外にももう1頭産卵を見ました.こちらはホバリングして卵塊をつくり打水するという,ヤマサナエ流の産卵方式でした.ただこの個体はヒトが嫌いみたいで,私のストロボを嫌がったのか,すぐに飛び去ってしまいました.

▲腹部先端に卵塊がわずかに見える.

▲長い時間このようにホバリングしていた.卵塊をつくっているのだと思われる.

▲下に突き出た産卵弁(白矢印)で挟むように卵塊(水色矢印)を保持しているのが見える.

さて,流れの方は賑やかになってきました.空からは薄日が差し,気温もおそらく25℃を超えていると思います.オスが水面を往ったり来たりしています.止まっているオスの前を飛ぶと,そのオスがスクランブルをかけます.流れはオスの世界になりました.こうなるとたいていメスは来ないんですね.オスってむなしいなぁ.

▲流れに止まっているオスたち.今日は個体数が多かったので,それに比例して写真も多い!?.

今までキイロサナエの産卵をなかなか見ることができなかったのですが,今年,前回も含め,やっとゆっくりと観察できました.あちこちにいて個体数も多いヤマサナエの産卵が見られないのが不思議です.まだヤマサナエのことがよく分かっていないのでしょうね.さて,明日も晴天,どうしましょうか...