トンボ観察記
No.530. 真夏のトンボたち その参 チョウトンボ.2016.7.30-8.9.

チョウトンボの観察,と名をつけて記録をするのは初めてではないかと思います.夏になるとどこの池に行っても飛んでいる,というのは大げさですが,トンボがいそうな池にはたいがい飛んでいるトンボです.夏の最も暑い時期に,日向で飛び回っているチョウトンボ.それでいてそれなりに警戒心が強く,敏捷ですばしこい.暑い中でじっくり腰を落ち着けるには,あまりに普通種,いつでも見られるから後回し… という感じで観察を避けてきたのだと思います.ホームページの改訂にあたって写真を整理していると,チョウトンボのまともな写真がないことに気づきます.何かのついでに撮ったものばかり… そこで,今年は暑い中で頑張るトンボをテーマにしていますので,チョウトンボに負けず,炎天下で粘って観察をしました.といっても,一日でことをなすにはあまりに暑すぎますので,何回かに分けて観察をしました.

0809-902▲ハスのつぼみの先端に止まって腹部挙上姿勢をとるオス.

0809-901▲腹部を90度以上倒しているオス.前翅の先端に色がついているタイプである.

まずは定番.ハスのつぼみのてっぺんに止まっての腹部挙上姿勢.もう一つは,90度を超えての倒立姿勢です.たまたま止まった位置が,頭が太陽の方角に向いていたからでしょう.これらいずれも正午前後,止まるとすぐに腹部を上げました.もう人間は,立っているだけで汗がだらだら出てくるような状況です.

0809-903▲オスはほとんどこのように飛び回っている.

そして止まっても仲間がそばを飛ぶとすぐに飛び立って追いかけ合いです.本当に暑い中,よく頑張ります.外気温はたぶん37度くらいです.体温越えの中を飛び回るすごい奴です.そしてオスを追い払うとまたしばらくして止まります.

0809-904▲通常の休止姿勢.太陽の光がきつくなければこのように水平に止まる.

そんな時にメスが入ってきました.メスを追いかけてオスは飛びますが,メスがほんの少し先に気づくと,まずメスの逃げ切りが成功します.メスが一瞬オスに気づかなかったら,オスは見事にメスを捕捉し,あっという間に交尾態になります.たいがい交尾態のまま飛び回っていますが,他のオスの干渉がない場合は静止することも結構あります.

0809-905▲メス(右)を追うオス(左).

0809-906▲交尾.交尾は非常に短時間.飛んでいることの方が多い.

交尾は非常に短時間,1分ほどでしょうか.メスはすぐに産卵を始めます.産卵を始めるとすぐに他のオスが気づき,ここでもメスの気づきが早いかオスの気づきが早いかで,逃げ切るか交尾に持ち込まれるかが決まります.一度の産卵で数回交尾されることもあります.もうメスもそういったことは織り込み済みで産卵しているようにさえ見えます.

0809-907▲産卵のために草陰を飛ぶメス.

0809-908▲産卵のために水面近くを飛び回るメス.

0809-909▲打水の瞬間.少し開けたところで産卵する.

メスの打水産卵は,非常に周期が早く,またあちこち移動しますので,なかなかカメラでとらえるのは困難です.すぐにフレームアウトしますし,またそんなですからピントを合わしている暇はほとんどありません.ほとんど勘でシャッターを切っているような状況です.そしてピンボケの山になります.

0809-910▲産卵のために水面近くを飛び回るメス.

0809-911▲打水の瞬間.

さて,メスには多型があります.翅の色が金色に光るタイプ,これが一番数が多いように思えました.次にオスと同じ翅色のタイプ.メスの後翅の先端はふつう透明になっていますが,オスと同じように,先まで色がついているタイプのものもあります.前翅の先が黒いタイプのメスもあるようですが,これは目にすることがありませんでした.オスについては,上から2枚目の写真の個体が,先端に色がついているタイプになっています.

0809-912▲一番数が多いように思われる金色に輝く翅をもつメス.

0809-913▲オスと同色型のメス.後翅の先端まで色がついている.

0809-914▲オスと同色型のメス.こちらは後翅の先端は透明である.

チョウトンボは今が盛りですが,この時期に羽化する個体もあるようすね.未熟なオスも見つけました.

0809-915▲この日に羽化したと思われるオス.