新 トンボ歳時記
No.433. ナゴヤサナエと夏のヤンマ 2013.8.11.

今年は川のサナエトンボを中心に観察を進めています.でも,やはり盛夏になると,ヤンマを見たくなるのが心情というもの.今日は兵庫県北部に,午前中はナゴヤサナエの状況観察,そして午後はヤンマの産卵観察という予定で出かけました.

まずはナゴヤサナエの状況観察です.現地にはコウノトリが餌を採りにやってきていました.「野生の」コウノトリをこんな近くで見るのは初めてです.いたずら心でもっと近づいてやろうとしたら,さすがに飛び立ってしまいました.

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さて,肝心のナゴヤサナエですが,オスが全部で3頭,水面をスライドするように飛んでいました.時刻は10時過ぎで,気温はとうに30℃を越えています.暑い中,ナゴヤサナエは照り返す水面の上をゆうゆうと飛んでいます.シャッターを切り続けましたが,全部ピンぼけ.集中力というか,暑さのせいで眼が言うことを聞いてくれない感じです.こんな状態では,網で採集して写真を撮る以外になかったのですが,今日に限って網を置き忘れです.

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川には,ギンヤンマ,オオヤマトンボ,シオカラトンボなどが飛び交い,ウチワヤンマも所々に止まっていました.ここのウチワヤンマは川に生息していますね.交尾態が川面の上を2回飛ぶのを見ました.そんな時,止まっているウチワヤンマの腹部にシオカラトンボが止まりました.ウチワヤンマは面倒くさいのか,意に介さずそのまま動こうとしませんでした.これは記録に取らねば,と横にまわってシャッターを切ったと思ったら,ウチワヤンマは飛んでしまいました.でも,その飛び立つ瞬間が映像に残っていました.

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ナゴヤサナエがいることが分かったので,次はヤンマの観察です.今年は5月に雨が降らず,ネアカヨシヤンマが去年卵を産んでいた湿地が,春の幼虫がまだ水中にいる時期に完全に干上がってしまって,壊滅状態が予想されました.しかし湿地に生活するトンボというのはそういうリスクは想定内のはずです.願わくば生き残っていることを期待して,出かけてみました.

現地到着は12時30分ころ.早速湿地の陰に入り込んでみますと,ヤブヤンマのメスがさっと飛び上がりホバリングして様子をうかがう行動を取りました.こちらももう慣れたもので,それを見た瞬間に身体をカチンカチンに固まらせ,もう一度止まるのを待ちました.2ヶ所ほど場所を移動した後,落ち着いて産卵を始めてくれました.

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こうなると,こっちのものです.ストロボを至近距離でバンバン焚いても,びくともしません.ただこの個体,私が到着するまでにかなりの時間産卵をしていたようで,10分ほどしたら飛び立ち,樹林の中へ消えていきました.昼食を後回しにして大正解でした.その後しばらく次のメスが入るのを待ちましたが,なかなか入ってきません.そこでこちらから移動し,あちこちをうろうろしたり,またもう一度待ってみたり,色々とやってみました.その間ヤブヤンマのオスが,多分メスを探しに来たのでしょう,2往復しただけで飛び去るのを見ただけでした.

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まあいちおう記録は取れたし,ということで,14時に引き払うことにしました.そして最後に,もう一度湿地を見回ったとき,腹部を弓なりに曲げて低くリズミカルに飛ぶヤンマを見ました.間違いなくネアカヨシヤンマです.日向をものともせず飛ぶのがヤブヤンマと違うところですね.執拗にこれを追い続けましたが,ちょっと止まってはすぐに飛び立ち,なかなか近寄らせてくれません.目を離すとどこへ行ったのか分からなくなるので足元を見ずに歩いていると,少し深みに入って長靴の中に生暖かい水が入ってきました.それにもめげず,30分以上追いかけ回して,やっと落ち着いて産卵している場面に接近することができました.

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このネアカヨシヤンマ,どうやら朽ち木に産卵するのが好きなようです.去年来たときにはほとんどの個体は湿土に産卵していました.この個体は,湿土に産卵しようと静止してもすぐに飛び立ちます.あれほど敏感にすぐに飛び立っていた個体ですが,この朽ち木が気に入ったのか,至近距離でストロボを焚き続けても,全く動じません.でも私が少し横に動いたとき,とうとう嫌気がさしたのか,すぐ上に飛び立って,木に止まってしまいました.この辺コシボソヤンマに似ていますね.

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もっと続けて撮影してもいいのですが,去年もたくさん撮っていることだし,この辺にすることにしました.希少種のネアカヨシヤンマですが,なんか余裕です(笑).帰ろうと少し歩くと,なんと,今度はヤブヤンマのオスが一瞬飛び立ちホバリング,そして木の枝にぶら下がりました.

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先ほどメスが産卵していた場所のすぐ上です.いつも本当に感心するのですが,オスはメスが来るところをよく知っていますね.帰り際,もう一度ネアカヨシヤンマがぶら下がっているところを見に行きましたが,また産卵を再開していました.「たくさん卵を産んで来年また数を増やしてね....」と祈りつつ,今日の観察を終えました.本当なら黄昏飛翔も見たいところですが,またまた私事で時間に制約があるのでした....