新 トンボ歳時記
No.426. ヒメサナエの産卵観察.2013.7.6.

例年7月中旬にヒメサナエとオジロサナエを観察に出かけています.例年の観察では,7月下旬になると,ヒメサナエの産卵数が減り,オジロサナエはまだまだ継続中という状況になります.これは,ヒメサナエの方が産卵の開始が早いからだと考えられ,今年は,それを確かめる意味で,例年より1週間早いこの時期に観察に出かけてみました.

現地に着いて川縁を歩いていると,オジロサナエの処女飛行個体を3頭ほど見かけました.オジロサナエはまだ羽化が継続しているようです.

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一方で成熟した個体もいて,羽化期間に結構幅があるようです.オジロサナエの繁殖活動は,これからが本格的な時期にはいるのでしょうね.結果から言えば,オジロサナエの産卵メスは,今日は見ることがありませんでした.

さて,目的のヒメサナエですが,産卵の観察場所に着いたとき雲が少し切れて太陽が顔を出し,早速メスが1頭舞い降りてきました.このメスはいったん石に止まって翅をふるわせていました.卵塊をつくっているのかと,横からのぞき込んでみたところ,卵塊は形成されていませんでした.そして,ちょっと目を離した隙にふっと姿が消えたかと思うと,すぐ横の流れに現れ,産卵を始めました.ホバリングの時間が長いのでオートフォーカスも試してみました.しかし背景の水面に光が乱反射し,そちらにフォーカスが行ってしまいます.結局マニュアルでの撮影に切りかえ,数枚しかピントが来ませんでした.

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この地でのヒメサナエの産卵観察は,2009年に始まり,今年で5年連続になります.毎回何とか写真記録を取っていますが,打水した瞬間の写真がうまく撮れません.トンボ科の打水産卵のように,一定のリズムでやってくれると,シャッターもそれに同調させやすいのですけれども,ヒメサナエは,じっとホバリングしているかと思うと,突然打水します.その予兆が分かりません.上の最初の産卵でも,まったくだめでした.記録撮影も5年連続にもなりますと,だんだんと欲が出てきます.今回は,まず産卵メスの写真を最初にゲットできましたので,次のが来たら,できるだけ低いアングルから卵塊を写し込むことと,できれば打水の瞬間にシャッターを切ることを心がけることにしました.失敗しても保険はあるというわけです.

最初の産卵からしばらく待ちました.空はどんよりしており,時折日が射すだけです.日が射すとオスが降りてきます.曇のせいか,今日はオスの数が少ないので,しっかりと記録を取っておきました.でもオスもなかなか敏感で,近寄るのに苦労しました.良く晴れた日の,たくさん集まっているオスとは大違いです.トンボは個体密度が小さいと,どうも敏感になるような気がします.

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産卵はだいたい午前中がピークです.時刻が12:00になりました.今日は「隅一(すみいち)」かなと思っていたとき,突然,流れの中央付近の石の下流側にメスが入りました.あわてて,まずシャッターを切りました.そのあと,低いアングルから撮るという作戦を思い出し,流れに腰を下ろして,卵塊を入れた写真を撮ることに成功しました.そしてこれは全く偶然ですが,打水した瞬間にシャッターが切れ,しかも,ピントが完全に来ているという1枚を手にすることができました.こういうラッキーは,1年に1,2回しかありません.念願の打水の瞬間を記録することができました.

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これで,今日来た甲斐があったというものです.非常に気をよくして,撮った写真を確認していますと,またもや同じところにメスが入りました.連発ですね.ちなみに,産卵環境は次のようなところです.

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同じメスが帰ってきたのかと思いましたが,2番目のメスは,右前肢がうまく曲がらずに立っていますので,3番目のこのメスとは違う個体であることが分かりました.このメスは,結構流れの速いところへも出て,産卵をしています.浅くて緩やかなところで産卵することが多いような気がしていましたが,結構急流でも産卵していますね.

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さて,このあと13:00まで待ちましたが,トンボの動きが止まったような印象を受けましたので,アオサナエを探しに佐用町の方に移動することにしました.でも,残念なことに佐用町の川は増水しており,アオサナエらしき個体が1頭いましたが,とても川に入れる状態ではなく,諦めて今日は終了することにしました.佐用町の川ではハグロトンボがたくさんいて,川の横の木陰で過ごしており,夏本番の出番を待っているようでした.

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ということで,今日は,ヒメサナエの産卵は,7月上旬にはすでにピークに入っているということを確認することができました.7月中旬というのは,ヒメサナエからオジロサナエへとゆっくりと産卵ピークが移行していく時期なのですね.7月下旬にはオジロサナエを見に来ることにします.