新 トンボ歳時記
No.421. ムカシトンボの観察,そしてやっと出会ったヒメクロサナエ 2013.5.25.

今日は最初に衝撃的な写真をお見せすることから始めましょう.ムカシトンボの生態をよくご存じの方なら,この写真はきっと驚きの眼でご覧になるのではないでしょうか.

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そうです.ムカシトンボが,流れに横たわっている朽ち木に産卵しているのです.ムカシトンボは普通生きた植物体に産卵します.それもどちらかといえば,フキやウワバミソウなどのような,柔らかい植物です.たとえば硬い茎を持つヤマアジサイなどにはもうほとんど止まることさえありません.写真で明らかなように,移動しながら,産卵管を突き立てようとしています.

私は最初これを見たとき衝撃が走りました.これは大発見と言っていいほどの新知見だと... でも,これにはわけがあったのです.このムカシトンボ,実は瀕死の状態で木につかまっていたのでした.何かに襲われたのか,寿命が来て力尽きたのか分かりませんが,飛ぶことができなくなってしまったので,最後の力をふりしぼって,足元の朽ち木に1粒でも卵を産み残そうとしているようでした.以前も神戸で産卵後ぽたりと落ちたメスを見ました.ムカシトンボは命つきる直前まで産卵を続けるけなげなトンボのようですね.

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さて,話をはじめに戻しましょう.今日は「黄昏あきつ日記」のブログを書かれている方から得た情報をもとに,ヒメクロサナエを探しに出かけました.高原はもうタニウツギ(だと思う:植物は苦手です)の花が満開で,気温も高く,初夏を思わせる天気でした.ここにはヒラサナエがいるのですが,そのようすをちょっと覗いてみましたところ,ダビドサナエかと思わせられるような,胸側の黒条が2本ある個体を見つけました.

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そしてすぐに,源流域の方に入っていきましたヒ.メクロサナエはすぐに見つかりました.この3年間あちこちで探し歩き,それでも全く出会えなかったヒメクロサナエが,いるわいるわ,あちこちに止まっています.一体今までは何だったんでしょうね.もう笑うしかないような感じです.ヒメクロサナエのオスは,木漏れ日の射す林床の流れの,日が当たっているところによく止まっていました.

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現地入りしたのが9:00ころでした.しばらく観察していると,次第にヒメクロサナエの数が減ってきたように感じました.朝のうちに下に降りてくるのでしょうか.流れの上を飛ぶ小昆虫をしきりに摂食していました.まだまだ生態のよく分からない「普通種」のサナエトンボです.

さて,ロケハンのため,よさそうなところを一通り見て回りました.そのとき,ムカシトンボの産卵痕を見つけました.

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これはムカシトンボの産卵も期待できそうだと思いました.この場所で待ちたかったのですが,ムカシトンボの産卵は昼頃ですので,ロケハンを優先させました.一通りロケハンして,気になる産卵痕のところへ戻ってみると,なんと,ムカシトンボのメスが産卵しているではありませんか.まあ,絵に描いたような出来事ですね.

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ところが,これがまた失敗.「また」というのは,神戸で観察したときも,最初に見つけた産卵メスを石を蹴って驚かせてしまい写真にできなかったのです.で今回は何をしたかというと,この産卵植物にクモの巣がかかっていて,私が無造作に動いたとき,そのクモの巣が肢にからまり,思い切り産卵植物を揺すってしまったのです.驚いたメスが飛び立ったのはいうまでもありません.でも,飛んだ後の写真は,何とか1枚だけものにしておきました.

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さて,ヒメクロサナエのメスやムカシトンボのメスが産卵に来ないかと,上の写真の流れの畔でしばらく待っていました.すると,ムカシトンボのオスが,流れの上をパトロールするのが目に付きました.ムカシトンボは飛ぶのが速いのですが,パトロールの時は結構ゆっくりと飛んだり,短時間ですがホバリングをしたりします.写真が撮れる可能性が高く,シャッターチャンスです.あちこち移動してみますと,1頭のオスが浅い流れの上で同じ場所を往き来しながら飛んでいるのを見つけることができました.思い切って,マニュアルフォーカスで飛ぶトンボを追いかけながら,シャッターを切ってみました.林床の流れは暗いので,ストロボで動きを止めることが可能です.シャッターは1/200で切りました.

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結構たくさんフォーカスが来ていて,ムカシトンボらしい写真が撮れました.そうこうしているとき,目の前にメスが止まり,産卵を始めました.流れの石に着いたコケに産卵をしています.目の前でしたので,撮影は難なくできました.その後,このメスはすぐに飛び立ち,飛んでは止まりと,次々に色々な産卵基質に卵を産みました.

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そして最後には,植物の名前は分かりませんが,その直立した茎に産卵を始めました.一番絵になる産卵方法です.これは座り込んでゆっくりと観察をすることができました.

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ただ,こういう写真は何枚撮ってもほとんど同じ写真になってしまいますので,少し離れて,他のトンボを探してみました.すると,またまたオスが飛び回っています.ちょっと集中力が切れてきたので,今度はあまりいい写真は撮れませんでした.

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このほか,私が歩いていて飛び立たせてしまったムカシトンボのメスを,オスがタンデムにして連れて行ってしまうシーンを見ました.いずれにしても,今日は充実した観察であったように思います.「黄昏あきつ日記」さん,どうもありがとうございました.やっと残された課題の一つが片付きました.あとはメスの産卵ですね.