新 トンボ歳時記
No.397. ナニワトンボの観察.2012.9.22.

今日は,先日はまだ早すぎたと思われたナニワトンボの産卵の再観察にサイトBまで出かけました.朝少し早かったので別の場所を回ってみました.農道には栗の実が落ちていて,秋本番を感じさせてくれました.

トンボの方はあまりたいしたものがいませんでしたが,リスアカネが農道で休んでいました.オスもメスもいて,時々摂食なのでしょうか,飛んでは止まりしていました.

ここで10時過ぎまで時間をつぶして,ナニワトンボの産卵にちょうどよい時刻になったころ,サイトBへ移動しました.先日少しまとまった雨が降りましたが,まだまだ水は少なく,ナニワトンボの観察には願ってもない状態です.オスたちはすでに池に出ており,木の枝の先などに止まって,メスを待っています.彼らは7月のはじめころからこうやって池の畔に止まっているのですが,一体いつごろから繁殖活動ができるまでに成熟したのか,よく分からないトンボです.

時刻は10:30ころで,ナニワトンボの繁殖活動にはまだ少し早いようです.池の畔ではマユタテアカネがホバリングをしてあちこち飛び回り,なわばり活動を展開していました.

先週はまだアカトンボはまだ少し早い感じでしたが,今週初めのころから涼しくなり,夜の気温も下がって,アカトンボたちもいよいよ卵の成熟が本格的になったのでしょうね.産卵意欲のあるメスが出てきたということでしょう.まずはマユタテアカネのペアが産卵活動を見せてくれました.

マユタテアカネの産卵は,水際の水をたっぷりと含んだ泥の上で行われます.一見すると腹部先端で泥を叩いて産卵する,いわゆる打泥産卵を行っていますが,よく見ると,時々腹部先端が泥の中に挿入されているようにも見えます.

オオキトンボなどは,明らかに泥面を「叩いて」います.それは打泥の瞬間,腹部が泥面と鋭角をなしているから分かります.しかしマユタテアカネは,これが鈍角になることがあります.

マユタテアカネは3回ほど産卵を見ることができました.上の写真はそのうちの2回分の記録です.さて,今日のメインのナニワトンボですが,なかなか産卵に訪れません.今日はリスアカネも数が少ないと感じました.空模様も,太陽が雲に隠れ,何となく涼しい感じです.秋のトンボは涼しいのが好きなくせに,太陽の日射しを求めるところがあります.特に晩秋にそれを感じるのですが,リスアカネやナニワトンボのような日陰で産卵するトンボも,微妙に日射しを感じているようで,産卵によく出てくるのは日が射しているときの日陰です.

何度も何度も産卵しそうな岸辺を往復して歩きました.そして11時29分,はじめてナニワトンボの産卵を目撃しました.連結産卵をしていましたが,私が近づくとオスはさっとメスを放し,単独産卵へと移行しました.ところが,このメス,すぐに止まってしまいます.そして,卵をしぼり出すようにして産卵弁から押し出し,ぱらぱらと下に落とし始めました.そう,遊離性静止産卵を行いました.

ナニワトンボがこれを行うのは十分に知られているところですが,このメスは,単独打空産卵せず,少し飛んでは止まって卵を放出,また少し飛んで止まっては卵を放出,と,静止産卵を「連続して」行いました.打空産卵よりどちらかといえば珍しい遊離性静止産卵をいをいきなり観察・記録できて,今日はラッキーな日になりそうです.

日射しも戻ってきて,その後,だんだんと産卵に訪れるメスの姿を見ることができるようになりました.ですが,ここのメスは,どうも単独でやって来てこっそり産卵するのが好きなようで,ほとんどが単独産卵です.また,連結態で産卵しているカップルを見つけても,私が近づくとオスはぱっとメスを放し,単独産卵に移行してしまいます.また近づくとどんどん距離を取って逃げていきます.たいがいの写真がやや後ろ向きになっているのはそのためです.でもやっとのことで,近づいても平気で産卵してくれる単独メスに出会うことができました.

ナニワトンボは,今までの経験では,連結産卵の方が普通なような感じを抱いていましたが,一昨年の神戸の産地での観察や,ここの観察から,単独産卵の方がむしろ普通な気がします.もっとも,シーズンの時期が早いという可能性もあります.これから産卵意欲のあるメスが頻繁に池を訪れ始めると,オスがメスを見つける可能性も高くなってくるでしょうから...などと考えていると,やっと「離れない」連結産卵のペアを見つけることができました.

ナニワトンボは全部で10回くらい産卵に来たと思います.写真に全く記録できない産卵も3例ほどありました.それにしてもオスは,メスが近くで単独産卵していても,それを見つけることができないでいるようです.というより,メスの方が一枚上手で,オスの死角を狙って産卵位置を決めているのかもしれません.そんな中,オスが執拗に単独産卵メスを追いかけているシーンに出会いました.

このオスは,一定の距離を取って,メスの動きに同調するようにメスのすぐそばを飛んでいました.でも,残念ながら,タンデムにはなれませんでした.

さて,ナニワトンボの産卵を観察している間,ずっとリスアカネの産卵が続いていました.今日はリスアカネは完全に脇役ですから,暇に任せて記録するといった感じでした.

リスアカネは,数えはしていませんが,感覚的にはナニワトンボの3倍の数は産卵に来ていたと思います.リスアカネは産卵の密度が高くなると連結態での産卵が多くなるというか,メスを放さず産卵を続ける傾向があるように感じました.というのは,まだあまり産卵にやってこない早い時刻のカップルは,容易にオスがメスを放して単独産卵に移行したからです.

ということで,いよいよ秋本番ですね.あと1,2週間もすると,どこもかしこもアカトンボの産卵であふれるようになるでしょう.今日は記録はできませんでしたが,池の開水面部ではコノシメトンボも2,3回産卵をしていました.

ということで,13時ころにここを後にしました.昼食をとってから別の場所へ行こうかと思いましたが,空が曇ってきましたので,帰ることにしました.帰りに,神戸市内のオオキトンボがよくやってくる池をのぞきました.今年は雨が少ないので池の水が少なければやってくる可能性が高いのです.が,池は満水状態,今年はここはだめのようですね.コフキトンボやアオモンイトトンボなど,夏のトンボが残っていました.

ということで,今日は約半日,秋をいっぱい感じて観察を終わることにしました.