新 トンボ歳時記
No.361 放浪の旅.2012.6.10.

今日は晴れるとの予報でしたが,朝はどんよりとした曇り空.風も全くなく,空気がよどんでいる感じのする朝でした.でも梅雨の時期は雨さえ降っていなければよしとする,ということで,まずはクロスジギンヤンマが時々入る池に7:00台に行ってみました.アジアイトトンボらしいのが飛んでいるだけで,全くトンボの動きはなし.池の水面も波一つ立たず,本当に空気が止まっている感じでした.曇で,湿度が高く,空気が止まっているというのは,トンボにとっては最悪です.いやな予感がします.

さて,最初の池は観察地に数えず,まずは定点池に行ってみることにしました.定点池近くで採ったヤブヤンマの幼虫が先日自宅羽化したので,こちらでも出ているのではないかということで,確かめに行きました.ヤブヤンマは羽化殻もついていなくて,幼虫をすくってみても採れません.少し以前に羽化してしまったのでしょうね.そこで,定点池の周辺を歩いてみました.相変わらず空気はよどみ,トンボの動く気配さえありません.と,アカトンボのテネラルな個体が池の土手の草むらから飛び立ちました.

最初はアキアカネかと思いましたが,翅がやけに黄色っぽく色づいています.よく見るとタイリクアカネです.オスメス1頭ずつ飛ぶのを見ました.定点池では初めての記録です.タイリクアカネは海岸近くで繁殖すると言われていますが,最近は,かなり海岸から離れた山間の池でも繁殖活動などを見ます.定説を少し書き換える必要がありますね.タイリクアカネの幼虫がいるかもしれないと思いすくってみましたが,採れませんでした.


さて,タイリクアカネ以外は全くトンボが動く気配がないので次に行くことにしました.

次はこの春アオヤンマの幼虫を採ったところで,成虫がいるかどうか確かめることにしました.複数飛んでいればその後はそこで一日つぶすつもりでした.しかし相変わらず空気がよどんでいて,ヨシの葉にはまだ水滴が付いたままの状態.やや大型のトンボが2回ほど飛んだのを見ましたが,アオヤンマではないようでした.しばらく待っていると,ヤマサナエのメスが入ってきました.湿地のわずかに水が流れているところを動き回っています.産卵しているのかどうか分かりません.動きからして単に飛んでいるだけなのかもしれませんね.

その後10:30ころまで待ってみましたが,アオヤンマは飛びませんでしたので,プランB,すなわち「放浪の旅」に出ることにしました.まずは大きく西に移動し,佐用郡の方まで川のサナエトンボを見に行くことにしました.アオサナエやヤマサナエがシーズンのはずです.中国道を走っていると,だんだんと晴れ間が見えてきます.これは予報通りと気持ちも軽くなってきました.


現地に着くと,今度は空気が止まるどころか,ビュービュー風が吹いています.まったく天気というヤツは困ったものです.しかし晴れているからまあいいか!

さて,川に入って,ものすごいヨシに手こずりながら,歩いていきました.タベサナエが生き残っていて出迎えてくれました.アオハダトンボもたくさん飛んでいます.ハグロトンボももう羽化をしており,未熟な個体がこれまたたくさんヨシの間にもぐりこんでいました.ニホンカワトンボがオス・メス各1頭だけ生き残っているのを見ました.そう,春から夏にかけてのカワトンボ三世代が一同に顔をそろえていました.これって結構珍しいと思いますよ.

グンバイトンボも数が結構いました.一昨年は2,3頭見ただけでしたのにね.連結ペアもいましたが,産卵ペアは見つけることができませんでした.

さて,目的は早苗ちゃん(今日はサナエトンボのことを早苗ちゃんと呼ぶことにします)なのですが,ヤマサナエもアオサナエも姿が見えません.一昨年はたくさんいたのに...? 生き残りのタベサナエをのぞくと,コオニヤンマが,まだ未熟ですが,オス・メス混じって川をあっちへ行ったりこっちへ行ったりしながら飛んでいました.これが出てくると,春のトンボと初夏のトンボで弱っているのは食い尽くされてしまうんですよね.あとオジロサナエが処女飛行に飛び立ち,オナガサナエも羽化したテネラルな個体が飛んでいかずに残っていました.


結局目的のアオサナエ・ヤマサナエには出会えず,ヤマサナエの顔くらい見たいということで,帰りに飛び込みで,まだ行ったことのない川の上流に上ってみました.

ここは昔の風景が残っているような川で,ヤマサナエのオスが石の上に止まっていました.幸い雲の間から太陽も顔を出し,写真に収めることができました.


空模様はまた晴れ基調になってきましたので,最後に源流域へ行ってみようと,これも飛び込みで,行ったことのない源流域で,早苗ちゃんをねらってみることにしました.

いたのは,ダビドサナエが1頭だけ.でもなかなか雰囲気のよい川で,オジロサナエが産卵しそうなポイントもありました.また夏に来てみようと思っています.

ということで,今日はあちこちへ行ってみましたが,この時期の特徴である,春のトンボ(タベサナエ,ダビドサナエ,ニホンカワトンボ,アサヒナカワトンボ,シオヤトンボ),初夏のトンボ(アオハダトンボ,ヤマサナエ,グンバイトンボ),夏のトンボ(ハグロトンボ,オジロサナエ,コオニヤンマ,オナガサナエ),そして秋のトンボ(タイリクアカネ)など,全シーズンのトンボに出会うことができました.特にカワトンボ科は兵庫県で見られる5種全部を一日で見ました.そういう意味では,今らしいトンボ観察の旅でした.