トンボの生態学
モノグラフ:南西諸島のトンボたち/中琉球のトンボたち 目次
南西諸島のトンボたち/中琉球のトンボたち
中琉球のトンボ相概観
写真1.奄美大島.北部の笠利町付近.
中琉球は,
概論で解説したように,トカラギャップと慶良間ギャップによって他の島々と切り離されてから,比較的長い期間が経過していると考えられています.ここでは,主に奄美大島と沖縄島のトンボを取り上げますが,これら両島に分布する種は,この地史を反映したいくつかの特徴があるといえそうです.まず,奄美大島と沖縄島に共通する固有種(その中には互いに亜種の関係へと進化が進みつつあるものも含めて)が存在することです.
次に,中琉球は渡瀬線の南側の東洋区に位置していますので,南方に分布中心を持つ種が多く存在するということです.これらは過去から現在に至る間に,その祖先が陸続きに,あるいは海を越えて南方から分布拡大してきたものの子孫と位置づけられるでしょう.この中には最近の気温上昇で北上していることが報告されているアオビタイトンボのような種も含まれ,まさにこれらの島々のトンボ相が動的に変化しているようすを我々は目にすることができます.またこれらの種の中には,分布が沖縄島が北限であるもの,奄美大島が北限であるもの,さらに奄美大島より北方にまで分布を広げている(広げようとしている)ものなどがあります.
ただ面白いことに,この中には南琉球に分布しないのに台湾に分布している,ハネナガチョウトンボのような例があります.これはごく最近に起きたことですから,南琉球や沖縄島を飛ばして北へ分布拡大したと考えねばならないでしょう.また台湾および西表島または石垣島に見られるのに,沖縄島などを飛ばして奄美大島に見られるものがあります.サイジョウチョウトンボは,与那国島や西表島に進入した後いきなり奄美大島に現れました(松比良ら,2024)し,奄美大島に分布する種イシガキヤンマ Aeschnophlebia ishigakiana (亜種アマミヤンマ Aeschnophlebia ishigakiana nagaminei) は,沖縄島などを飛ばして途中の島々には分布せず,石垣島(ただし1例のみ)・西表島(原名亜種イシガキヤンマ Aeschnophlebia ishigakiana ishigakiana),そして台湾(亜種 Aeschnophlebia ishigakiana flavostria) に分布しています.
その逆に,本来渡瀬線より北側の旧北区に分布中心を持つ種が南に向かって分布拡大したと考えられるものも存在します.ただしその数はそれほど多くはありません.またこれらのほとんどは沖縄島または先島諸島を飛ばして台湾に分布しています.ひょっとしたらこの中のいくつかは,ハネナガチョウトンボのように,台湾から逆に北上してきたものがあるかもしれません.南北広域分布種と本ページで定義しているオオヤマトンボは,兵庫県でも普通のトンボですが,中琉球へは台湾の方から北上してきたもののようです(石田,1969).
以上,これら3つのカテゴリーに分けて奄美大島と沖縄島を中心とした中琉球のトンボたちを紹介していきましょう.
南西諸島のトンボたち/中琉球のトンボたち
沖縄島・奄美大島の固有種・固有亜種
中琉球の主な島々では,奄美大島,徳之島が高島で,喜界島,沖永良部島,与論島が低島になります.沖縄島は,石川地峡
※1を境にして,北部が高島,南部が低島の特徴を有する興味深い島です(目崎,1985).低島の一つである
沖永良部島については別の記事をご覧ください.
高島で面積の広い沖縄島北部や奄美大島などは,森林やそこに起源を発する安定した河川系が発達し,長い時間を必要とする進化の道のりが約束されました.したがってそこでは,地域固有種が進化することが可能になったと考えられます.低島である沖永良部島や与論島などに固有種がいないのはそういった進化を進める環境が安定していなかったためだと思われます.
それではまず,これら両島の固有種・固有亜種についてまとめて,各種を紹介していきましょう.
※1.石川地峡とは,沖縄島の石川岳付近の幅の狭い部分.
台湾 |
先島 |
沖縄 |
種名 |
奄美 |
大隅 |
九州 |
本四 |
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● |
オキナワトゲオトンボ (F1) |
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● |
ヤンバルトゲオトンボ (F2) |
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● |
オキナワサラサヤンマ (F3) |
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● |
オキナワミナミヤンマ (F4) |
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● |
オキナワコヤマトンボ (F5) |
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アマミトゲオトンボ (F6) |
● |
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● |
リュウキュウハグロトンボ (F7) |
● |
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● |
リュウキュウトンボ (F8)※2 |
● |
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亜 |
アマミサナエ/オキナワサナエ (F9) |
● |
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● |
リュウキュウルリモン/アマミルリモン (F10) |
亜 |
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ヒメミルンヤンマ/ミルンヤンマ (C1) |
亜 |
● |
● |
● |
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亜 |
チビサナエ/オキナワオジロサナエ (C2) |
● |
● |
● |
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● |
カラスヤンマ/ミナミヤンマ (C3) |
亜 |
亜 |
亜 |
亜 |
亜 |
● |
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イシガキヤンマ/アマミヤンマ (J1) |
亜 |
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亜1 |
亜2 |
亜 |
オオシオカラ/オキナワオオシオカラ (E1) |
亜 |
● |
● |
● |
表1.中琉球の固有種・固有亜種.亜種に関しては,原名亜種を「●」で示し,「亜」はその亜種.( )の記号は
概論図7のサブグループと通し番号.種イシガキヤンマの台湾亜種は
Aeschnophlebia ishigakiana flavostria で,奄美大島の亜種
A. i. nagaminei とは異なる.種チビサナエ,種カラスヤンマ,種ミルンヤンマ,種オオシオカラトンボは,それぞれ奄美大島または沖縄島に亜種オキナワオオシオカラトンボが存在し,先島諸島のものは別亜種ヤエヤマオオシオカラトンボ,台湾のものはさらに別亜種
Orthetrum melania continentale である.
■トゲオトンボのなかま
トゲオトンボ類は,中琉球に3種1亜種存在しています.1亜種というのは,徳之島に生息するトクノシマトゲオトンボ
Rhipidolestes amamiensis tokunoshimensis で,これは奄美大島に分布するアマミトゲオトンボ
Rhipidolestes amamiensis amamiensis の亜種とされています.またオキナワトゲオトンボは沖縄島以外に渡嘉敷島にも分布しており,forma
tokashikiensis 型とされています.これらトゲオトンボ類の生息する島々はすべて高島です.トゲオトンボ属の一般的生息環境である,源流から地表を流れる河川のある島々に分布するということでしょう.
※2.リュウキュウトンボはトカラ列島中之島で見つかっており,厳密には中琉球だけの固有種とはいえない.ただ中之島の個体群は形態的特徴が少し異なるという(尾園ら,2022).
写真2.中琉球のトゲオトンボ類オス.左から,オキナワトゲオトンボ,ヤンバルトゲオトンボ,アマミトゲオトンボ.トゲオトンボ類はどれも非常によく似ており,顔面が赤いオキナワトゲオトンボ以外は写真ではとても区別できない.
尾園ら(2022)の分子系統樹によると,このうちアマミトゲオトンボとヤンバルトゲオトンボは比較的近縁ですが,オキナワトゲオトンボはそれに比べると少し遠縁になっています.オキナワトゲオトンボとヤンバルトゲオトンボは分布が隣接しており,さらに一部は同じ水系に生息しているそうですから,同一祖先から地理的隔離によって種分化したとは考えにくい2種です.おそらく起源が異なるのでしょう.対して,ヤンバルトゲオトンボとアマミトゲオトンボは共通の祖先から,これらの島々の分離による地理的隔離によって種分化したと考えることが可能です.
写真3.(左)ヤンバルトゲオトンボメスの羽化.(右)アマミトゲオトンボのメス.
■どちらか一方にだけ分布するその他の固有種・固有亜種
沖縄島と奄美大島はいずれも高島で中琉球に属する島ですが,どちらか一方だけに分布するトンボの固有種・固有亜種に関していえば,興味深い違いがあります.コヤマトンボ属とサラサヤンマ属は奄美大島に見られず,ミルンヤンマ属は沖縄島に見られません.そしてミナミヤンマ属は両者に分布しています.さらに奄美大島の固有ミルンヤンマ属はヒメミルンヤンマとアマミヤンマという亜種レベルです.そして沖縄島のオキナワコヤマトンボ,オキナワサラサヤンマ,そしてオキナワミナミヤンマは世界でそこだけにしか見られない固有種です.このことに関する解釈は簡単ではないですが,それらの起源については,南西諸島沿いのトンボの移動だけでは語れない,大陸との関連性なども考えねばならないのかもしれません.
写真4.(左)オキナワサラサヤンマのメス.(右)オキナワコヤマトンボのメス.
写真5.幼虫写真.左から,オキナワミナミヤンマ,アマミヤンマ,ヒメミルンヤンマ.
■両島ともに分布する固有種・固有亜種
両島の属島も含めて,中琉球に分布する固有種の中には,同種であるとされるもの,亜種に分化していると考えられるものが存在します.
同種とされているものには,リュウキュウハグロトンボとリュウキュウトンボがいます.リュウキュウハグロトンボの奄美個体群と沖縄個体群では遺伝的に少し相違があるということです(尾園ら,2022).外観的には,オスの青色翅脈部分の広がり方の違い(内側は奄美個体群の方が大きい),メスでは偽縁紋の大きさが違うようです(写真7右).また表1には示していませんが,トカラ列島中之島の従来ミナミトンボとされてきたものがリュウキュウトンボと考えられています(尾園ら,2022)ので,厳密には中琉球だけの固有種とはいえません.ただこれについては検討の余地があるとも記されています(尾園ら,2022).
写真6.リュウキュウトンボの沖縄個体群オス
写真7.リュウキュウハグロトンボ.(左)沖縄個体群のオス.(右)奄美個体群のメス.枠内は沖縄個体群のメスの偽縁紋で少し小さい.
写真8.リュウキュウトンボ奄美個体群.(左)ホバリングするメス.(右)交尾.リュウキュウトンボは流れに生息するエゾトンボである.
両島間で亜種に分化しているとされているものには,オキナワサナエとアマミサナエ,およびリュウキュウルリモントンボとアマミルリモントンボがあります.
アジアサナエ属であるオキナワサナエとアマミサナエは,本土のヤマサナエやキイロサナエと比べると,斑紋の黄色部分が目立ち,きれいなサナエトンボという感じです.また前肩条がないか細くて胸部の黒色が引き締まって見えます.特記すべきはアマミサナエで,複眼が緑色ではなく青緑色をしています.
これら2亜種のアジアサナエ属は,沖縄島,奄美大島以外の中琉球の島々には分布していません.高島でも規模の大きな河川が存在する環境が必要なのかもしれません.
写真9.亜種関係にあるアジアサナエ属.(左)オキナワサナエのメス.(右)アマミサナエのオス.アマミサナエは複眼が青緑色をしている.
ルリモントンボ属のリュウキュウルリモントンボとアマミルリモントンボは,別種かと思うほど斑紋が異なります.パッと見て分かる違いは,成熟したリュウキュウルリモントンボのオスの腹部先端が黄色をしていることでしょう.アマミルリモントンボでは,未熟なうちは黄色ですが,成熟すると黄色は消失します.またオス翅胸前面の一対の淡色斑が,リュウキュウルリモントンボでは短く,アマミルリモントンボではメスと同じように長くなっています(写真10参照,白矢印).また,これらルリモントンボは,産卵管が非常にしっかりとしたつくりになっています.これは堅い朽ち木に産卵するためかもしれません(写真11参照).
リュウキュウルリモントンボは,沖縄島以外には伊平屋島,渡嘉敷島,久米島といった中琉球の島々に分布しており,アマミルリモントンボは徳之島に分布しています(津田,2000).これらの島々はすべて高島に属するものです(目崎,1985).ルリモントンボ属の生息環境となる,山地があり地表を流れる小河川が発達している島々に生息しているといえるでしょう.
写真10.(左)リュウキュウルリモントンボ成熟オス.(中)アマミルリモントンボ成熟オス.(右)アマミルリモントンボ未熟オス.淡色部が黄色.
写真11.(左)リュウキュウルリモントンボの交尾.産卵管が大きくがっしりしている.(右)アマミルリモントンボの産卵.
■旧北区に分布している種の亜種
渡瀬線をまたいでより北側に分布している種が,中琉球で亜種化しているものが3種存在しています.
沖縄島のオキナワオジロサナエは種チビサナエ Stylogomphus ryukyuanus の亜種とされています.原名亜種チビサナエ Stylogomphus ryukyuanus ryukyuanus は九州南部から屋久島,種子島,そして渡瀬線を越えて奄美大島,徳之島に分布し,沖縄亜種オキナワオジロサナエ Stylogomphus ryukyuanus asatoi は沖縄島と阿嘉島に分布しています.
写真12.(左)オキナワオジロサナエの産卵にやって来たメス.(右)チビサナエのオス標本(奄美大島産).
種カラスヤンマ Chlorogomphus brunneus は中琉球から渡瀬線を越えて北琉球,九州南部,四国南部にまで分布しています.沖縄島の個体群は原名亜種カラスヤンマ Chlorogomphus brunneus brunneus で,徳之島以北の個体群は亜種ミナミヤンマ Chlorogomphus brunneus costalis とされています.また慶良間諸島には別亜種アサトカラスヤンマ Chlorogomphus brunneus keramensis が存在します.
カラスヤンマの翅が黒褐色をしているのは,同所的に生息しているもう一つのミナミヤンマ属のオキナワミナミヤンマメスの翅が透明であることによるものと考えられています(尾園ら,2022).
写真13a.慶良間諸島渡嘉敷島のアサトカラスヤンマメスの標本.
写真13.(左)カラスヤンマのメス.(右)ミナミヤンマのメス標本(奄美大島産).奄美大島のミナミヤンマは翅前縁の褐色のラインが明瞭.
写真14.ミナミヤンマ属の産卵,放卵の瞬間.(左)カラスヤンマ.(右)ミナミヤンマ(徳島県).ともに流れの小石が堆積したところに腹端を打ちつける.
種オオシオカラトンボ Orthetrum melania はベトナム,台湾,中国,朝鮮半島,国内では与那国島から北海道,に至るまで広範囲に分布しています.そして原名亜種オオシオカラトンボ Orthetrum melania melania の亜種オキナワオオシオカラトンボ Orthetrum melania ryukyuense はトカラ列島から中琉球の島々に分布しています.なお南琉球のものは,別亜種ヤエヤマオオシオカラトンボ Orthetrum melania yaeyamense とされています.
オキナワオオシオカラトンボのメスは,腹節の黄色部分が他の亜種より長く広がっています.メスだけ見ると,別種かと思うほどです.成熟オスも腹部先端の黒い部分が小さい傾向があります.
写真15.オキナワオオシオカラトンボは,両島に分布する亜種.(左)沖縄島.警護産卵.(右)奄美大島.交尾.
写真16.(左)奄美大島のオキナワオオシオカラトンボ.(右)兵庫県のオオシオカラトンボ.オス腹部先端の黒色部分の大きさが異なる.
南西諸島のトンボたち/中琉球のトンボたち
東洋区に分布中心のあるトンボたち
沖縄島や奄美大島は東洋区に属します.したがって,東洋区に分布中心があるトンボたちが多く分布するのは当然と考えられます.ここではこういったトンボたちを紹介します.この中には,沖縄島や奄美大島を北限とする種以外に,さらに渡瀬線を越えて北へ分布が広がっている種もいます.まずはこれらをまとめておきましょう.
東洋区 |
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旧北区 |
台湾 |
先島 |
沖縄 |
奄美 |
種名 |
大隅 |
九州 |
本四 |
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● |
● |
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アカナガイトトンボ (J2) |
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● |
● |
● |
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ヒメキトンボ (J3) |
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● |
● |
● |
○ |
トビイロヤンマ (J4) |
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○ |
○ |
● |
● |
● |
○ |
アメイロトンボ (J5) |
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○ |
○ |
● |
● |
● |
○ |
オオキイロトンボ (J6) |
|
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● |
● |
● |
○ |
ホソミシオカラトンボ (J7) |
○ |
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● |
● |
● |
● |
ヒメイトトンボ (J8) |
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● |
● |
● |
● |
リュウキュウカトリヤンマ (J9) |
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● |
● |
● |
● |
リュウキュウギンヤンマ (I1) |
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● |
● |
● |
● |
ウミアカトンボ (J10) |
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● |
● |
● |
● |
コシブトトンボ (J11) |
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亜 |
● |
● |
● |
オキナワチョウトンボ (J12) |
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○ |
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● |
● |
● |
● |
ヒメトンボ (I2) |
● |
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● |
● |
● |
● |
タイリクショウジョウトンボ (H2) |
亜 |
亜 |
亜 |
● |
● |
● |
● |
オオメトンボ (H3) |
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● |
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● |
● |
● |
● |
オオハラビロトンボ (H4) |
● |
● |
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● |
● |
● |
● |
ハラボソトンボ (H5) |
● |
● |
○ |
● |
● |
● |
● |
リュウキュウベニイトトンボ (H6) |
● |
● |
● |
● |
● |
● |
● |
ハネビロトンボ (H7) |
● |
● |
● |
● |
● |
● |
● |
ムスジイトトンボ (H8) |
● |
● |
● |
● |
● |
● |
● |
アオモンイトトンボ (H9) |
● |
● |
● |
● |
● |
● |
● |
コフキヒメイトトンボ (H10) |
● |
● |
● |
● |
● |
● |
● |
タイワンウチワヤンマ (H11) |
● |
● |
● |
● |
● |
● |
● |
アオビタイトンボ (H12) |
● |
● |
● |
● |
● |
● |
● |
ベニトンボ (H13) |
● |
● |
● |
● |
● |
久 |
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コシアキトンボ (H14) |
● |
● |
● |
● |
○ |
● |
● |
カトリヤンマ (H15) |
● |
● |
● |
● |
|
|
● |
マルタンヤンマ (H16) |
● |
● |
● |
● |
|
|
● |
クロスジギンヤンマ (H17) |
● |
● |
● |
● |
○ |
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● |
タイワンシオカラトンボ (H18) |
● |
● |
|
● |
|
|
● |
ハネナガチョウトンボ (J13) |
|
|
|
● |
● |
|
○ |
サイジョウチョウトンボ (K15) |
|
|
|
● |
● |
○ |
○ |
ヒメハネビロ/コモンヒメハネビロ (J14) |
○ |
○ |
○ |
● |
● |
○ |
○ |
ウスバキトンボ (H19) |
○ |
○ |
○ |
● |
○ |
○ |
○ |
オオギンヤンマ (H1) |
○ |
○ |
○ |
表2.東洋区に分布中心がある沖縄島・奄美大島のトンボ.「亜」は亜種.○は偶然の飛来と考えられるもの.( )の記号は
概論図7のサブグループと通し番号.オナガアカネ,タイリクアカネなどの飛来種は割愛している.「久」は沖縄諸島の久米島に分布することを示す.
■沖縄島以南に定着している東洋区のトンボ
偶然の飛来を除いて,渡瀬線を北に越えず奄美大島以南に分布するトンボたちを見ていきましょう.まずは沖縄島にまでは定着しているが,奄美大島以北には飛来はしているもののまだ定着していないと考えられるいくつかの種です.
写真17.(左)アカナガイトトンボのオス(沖縄島),奄美大島には記録がない.(右)ホソミシオカラトンボ(石垣島産),奄美大島には飛来記録がある.
写真18.(左)オオギンヤンマのオス(神戸への飛来個体).(右)アメイロトンボのオス(南大東島産),いずれも奄美大島には飛来記録がある.
写真19.(左)トビイロヤンマのオス(沖縄島).(右)オオキイロトンボ(沖縄島),いずれも奄美大島には飛来記録がある.
これら7種はすべてアジア地域に広く分布するトンボばかりです.また表2を見ても分かるように,オオギンヤンマ,トビイロヤンマ,アメイロトンボ,オオキイロトンボ,ホソミシオカラトンボの5種は,定着個体群の北限が沖縄島であっても,奄美大島,および九州,四国,本州などに飛来記録があり,海を越えて移住する能力を有しているといえます.
オオキイロトンボは,1973年に西表島で始めて発見されてから,1978年沖縄島,1982年石垣島で発見されているトンボです(渡辺,1989).またヒメキトンボは,1963年に与那国島において国内で始めて発見され,1976年に石垣島,1983年西表島でそれぞれ発見されているトンボです(渡辺,1989).さらに最近沖縄島の南部に飛来定着したと思われる個体群が記録されていて(興善,2018),また宮古島などの低島にも記録があることから,台湾から進入し分布を広げているトンボといえるでしょう.
ただ一つ,アカナガイトトンボだけは海を越えて移住する力に乏しい種かもしれません.というのは沖縄島周辺の島々では,伊平屋島,久米島のみに記録があり(尾園ら,2007),いずれも高島です.このことから,大陸と地続きだった頃にその祖先種あるいはアカナガイトトンボ自体が定着し,遺存的にこれらの島々に残ったと考えることができます.そういう意味で,国内北限となる沖縄島のアカナガイトトンボ個体群は,分布論的に重要な意味を持つものだと思います.
■奄美大島,沖縄島,およびそれ以南に定着している東洋区のトンボ
次に奄美大島かつ沖縄島の両方に分布するトンボのうち,九州,四国,本州には分布しないか,または飛来記録はあっても定着はしていないトンボ種・亜種を見ていきましょう.
写真20.ヒメイトトンボのオス(左)とメス(右).いずれも沖縄島.
写真21.コシブトトンボのオス(左),コフキヒメイトトンボ?を摂食中(奄美大島).ヒメトンボ(右)(石垣島).
写真22.リュウキュウカトリヤンマのメス(左)(西表島).リュウキュウギンヤンマのメス(右)(奄美大島).
写真23.オキナワチョウトンボの交尾(左)(奄美大島),タイリクショウジョウトンボのオス(右)(奄美大島).
写真24.ウミアカトンボのメス(左)(石垣島).オオメトンボのメス(右)(西表島).
これら9種のトンボは,東から東南アジア地域に広く分布しており,海洋島である南大東島でもすべて記録があります.つまり海を渡って移動できるトンボたちだといえ,日本における北限が中琉球地域であるとまとめられるでしょう.
■分布中心は東洋区だが,九州,四国.本州に分布拡大しているトンボたち
ここで紹介するトンボたちは,上記の中琉球を分布北限とするトンボたちと比べて,より北方の気候に適応できるトンボたちだと言えるでしょう.またこれらのトンボたちの多くは南大東島に記録があり,渡海移動できるトンボたちが多いといえます.
これらのトンボの中には,兵庫県などでも普通に見られる,アオモンイトトンボ,ムスジイトトンボ,タイワンウチワヤンマ,コシアキトンボなどが含まれます.また最近特に北上傾向が著しいベニトンボ,またときどき飛来して姿を見かけるハネビロトンボなどもそのなかまです.クロスジギンヤンマ,マルタンヤンマ,カトリヤンマも南方のトンボといえますが,南西諸島に限ってみればクロスジギンヤンマとマルタンヤンマは奄美大島以北に,カトリヤンマは沖縄島以北にしか定着しておらず,南西諸島への進入は北の方から行われたのかもしれません.
写真25.ムスジイトトンボの非潜水産卵(左)(沖縄島).アオモンイトトンボのメス(右)(沖縄島).
写真26.カトリヤンマの産卵(兵庫県)(左),コシアキトンボの摂食飛翔(兵庫県)(右).コシアキトンボは中琉球では久米島にだけ分布する.
写真27.クロスジギンヤンマのオス(兵庫県)(左),マルタンヤンマのオス(右).これらは南西諸島では奄美大島以北に分布する.
写真28.ベニトンボのオス(左)(奄美大島).タイワンウチワヤンマのオス(右)(奄美大島).これらのトンボは最近の北上傾向が著しい.
写真29.ハネビロトンボ.強い日差しを浴びながら木のてっぺんに止まる(左)と,連結産卵の直前でメスを放すオス(右).いずれも奄美大島.
それ以外は,兵庫県などではまだ南方のトンボという印象が強い,オオハラビロトンボ,ハラボソトンボ,リュウキュウベニイトトンボ,コフキヒメイトトンボ,アオビタイトンボが含まれます.そのうちアオビタイトンボとリュウキュウベニイトトンボは九州や本州における北への分布拡大が取り上げられています(尾園ら,2022)ので,今後,より北へ広がる可能性が十分にあるでしょう.
写真30.オオハラビロトンボの静止(左)(奄美大島).ハラボソトンボの夕方に見られた交尾(右)(沖縄島).
写真31.リュウキュウベニイトトンボのメス(左)(沖縄島).コフキヒメイトトンボの成熟オス(右)(徳島県).
写真32.アオビタイトンボ.オスがねぐらの樹林で静止している(左)と,葉の上に産卵するメス(右).いずれも奄美大島.
■台湾・南琉球から奄美大島へ,飛び越えて出現したトンボたち
中琉球のトンボの中で非常に興味深いのが,台湾や先島諸島に分布しているいくつかのトンボが,途中の島々を飛び越えて奄美大島に出現しているという事実です.種イシガキヤンマ(亜種アマミヤンマ),タイワンシオカラトンボ,ハネナガチョウトンボ,サイジョウチョウトンボの4種です.しかも後二者は最近の出来事です.トンボの移動については
別のページで議論していますが,風(気流)の力が重要です.これは全くの想像ですが,台湾や先島諸島から奄美大島へつながる空気の動きが存在するのかもしれません.
写真33.サイジョウチョウトンボのオス(左)(西表島).ハネナガチョウトンボのオス(右)(奄美大島).両者とも南琉球や台湾から飛来したと思われる.
一方,タイワンシオカラトンボは先島諸島には分布せず台湾に見られるトンボで,奄美大島以北,九州南部に至るまで,途中の島々に転々と分布しています.一見すると次に紹介する「台湾に●印の付いたトンボ」と同じ仲間に入れても良いような気がしますが,朝鮮半島に分布していませんので(李,2001),南から進入してきているように思われます.また種イシガキヤンマは奄美大島で亜種アマミヤンマに分化しており,台湾や先島諸島のものは別亜種です.
写真34.タイワンシオカラトンボのオス(左)(台湾).アマミヤンマのメス標本(右)(奄美大島).
南西諸島のトンボたち/中琉球のトンボたち
その他のトンボたち
さて最後に,ここまで紹介しなかったトンボたちを見ていきましょう.
まずオオヤマトンボとギンヤンマです.これらは旧北区から東洋区にまたがる広域に分布する種で,このページでは「南北広域分布種」としています.ギンヤンマは南北どちらから南西諸島へ分布を広げてきたかわかりにくい種ですが,オオヤマトンボについては,『(オオヤマトンボは)台湾から飛来したものが,石垣ダムの造成(1962年4月)により,世代を重ね得るようになった(石田,1969)』『かつて(沖縄)県内には分布していなかったが,1967年に石垣島で採集されたあと,与那国島,西表島,沖縄島久米島伊是名島で記録されている(尾園ら,2007)』との記述があり,南西諸島へは南方から進入してきたものと考えられます.
ヤブヤンマとシオカラトンボは台湾には分布していますが,先島諸島に記録がなく,南西諸島へはおそらく北の方から分布を広げてきたのだと思われます.コフキトンボ,オニヤンマ,ナツアカネ,ホソミオツネントンボは,中琉球が定着南限になっており台湾より南には記録がありません.これら6種は旧北区のトンボたちだといえるでしょう.
東洋区 |
旧北区 |
台湾 |
先島 |
種名 |
沖縄 |
奄美 |
大隅 |
九州 |
本四 |
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オオヤマトンボ (E2) |
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ギンヤンマ (E3) |
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ヤブヤンマ (D1) |
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○ |
シオカラトンボ (D2) |
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コフキトンボ (C4) |
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オニヤンマ (C5) |
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ナツアカネ (C6) |
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○ |
ホソミオツネントンボ (C7) |
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表3.旧北区に分布中心がある種・亜種.( )の記号は
概論図7のサブグループと通し番号.多くが南琉球を飛ばして台湾に分布している.これはおそらく,大陸から九州や台湾に分布拡大してきたものだろう.
■兵庫県でもおなじみのトンボたち
こういう兵庫県などで普通に見られるトンボは,南西諸島ではなかなか見つけにくいものです.実際シオカラトンボを奄美大島で見ただけでした.ここにはかなりの数が見られました.アオビタイトンボと同じ場所で繁殖活動をしていました.ただ,シオカラトンボは午前中割合早い時間帯に活動していたのに対し,アオビタイトンボは午後から夕方を中心に活動していました.一見すると,同じ場所を時間帯を分けて利用しているといった感じに見えました.
写真35.オオヤマトンボのオス(兵庫県)(左),ギンヤンマの交尾(兵庫県)(右).オオヤマトンボは南西諸島へは南方から進入してきたようだ.
写真36.シオカラトンボのオス(奄美大島)(左),ヤブヤンマのメス(兵庫県)(右).これらは奄美大島と沖縄島に分布する.
写真37.ホソミオツネントンボの産卵(兵庫県)(左),オニヤンマの産卵(兵庫県)(右).
写真38.ナツアカネの産卵(兵庫県)(左),コフキトンボのメス(大阪府)(右).沖縄のコフキトンボのメスは写真のような帯型である.
参考文献
石田省三,1969.原色日本昆虫生態図鑑 Uトンボ編.261pp.,保育社,大阪.
尾園 暁・渡辺賢一・焼田理一郎・小浜継雄,2007.沖縄のトンボ図鑑.200pp.,いかだ社,東京.
尾園 暁・川島逸郎・二橋亮,2022.日本のトンボ 改訂版.電子書籍.文一総合出版.東京.
Odonata of China, https://dragonflies.kiz.ac.cn/.
興善昌弘,2018.沖縄本島でヒメキトンボを採集.Tombo 60(1/4):129.
Sasamoto, A. & R. Futahashi, 2013. Taxonomic revision of the status of Orthetrum triangulare and melania group (Anisoptera: Libellulidae) based on molecular phylogenetic analyses and morphological comparisons, with a description of three new subspecies of melania. Tombo 55(1/4):57-82.
津田滋,1991.世界のトンボ分布目録.自刊.
藤崎憲治,2014.昆虫生態学.218pp., 朝倉書店,東京.
松比良邦彦・今村久雄・江平憲治,2024.サイジョウチョウトンボが奄美大島に侵入.月刊むし (643):44.
目崎茂和,1985.琉球弧をさぐる.254pp.,沖縄あき書房,沖縄.
李 承模,2001.韓半島産 (蜻蛉)目 昆虫誌.230pp., 正行社,韓国.
渡辺賢一,1989.琉球列島における分布拡大蜻蛉種について.Tombo 32(1/4):54-56.
汪 良沖,2000.台灣的蜻蛉.349pp.,人人月暦股イ分有限公司,台北.