トンボノート
No.687. ニホンカワトンボの観察など.2019.5.13.

昨日まで観察が難しいトンボの行動を追いかけてきて,ちょっと疲れ気味になりました.今日はたくさんいるトンボの行動をじっくりと観察したいと思い,ニホンカワトンボを見ることにしました.予定地に行く前に,別の川の,アオハダトンボのようすをちょっと見に寄りました.



▲アオハダトンボのオスとメス.まだやや若い.

アオハダトンボの個体数は去年より少ないと感じました.ざっと見回っただけですが20頭もいなかったような気がします.いつも一緒に見られるグンバイトンボは0.他にはシオカラトンボ,クロイトトンボ,セスジイトトンボ,ニホンカワトンボなどがちらほら.一番個体数が多かったのは,タベサナエでした.これは去年以上にたくさんいたような気がしました.ただこれは,川の水量が少なく,伏流によって小さな水たまりになっている場所に,タベサナエが集中的に集まっていたからかも知れません.

▲川の畔で縄張り活動をするタベサナエのオス.

まあ,アオハダトンボなどはまだ時期が早いためか,とあまり深く考えませんでした.朝のうち曇っていた空も晴れ上がってきて,暑い太陽が照りはじめて来ました.ニホンカワトンボは正午ころから繁殖活動が開始されるので,そちらへ移動することにしました.今日はビデオを回すのが中心です.

現地に着くと,意外や意外,ニホンカワトンボがほとんどいません.ダビドサナエも少ない.去年の喧噪が嘘のようです.

▲日当たりのよい石の上に2,3頭のダビドサナエがいた.
▲腹部挙上姿勢をとるダビドサナエのオス.ゴミのプラ袋がいやらしい.

現地に着いたのが11時ころだったこともあって,まだ繁殖活動は始まっていませんでした.しばらく待つよりありません.しかし,この個体数の少なさは…,あまりにも去年と違うので,今年はビデオ撮影は無理かも知れないと思ったほどでした.なんせ,川に出ているオスが,3,4頭なのですから.その少ないオスのうち,いかにも産卵基質になりそうな朽木のそばに陣取っているオスのそばに,撮影位置を決めました.ここは日当たりもよく,撮影位置としては申し分ありません.

▲ニホンカワトンボが好きな産卵基質,大きな朽木を縄張りに持つオス(ビデオの切り出し).

よく見ると,縄張りのすぐ上に,メスも止まっています.メスは時間が来るまで産卵をする気配を見せませんので,これは可能性があると思いました.

▲縄張りのすぐ上の方に止まっているメス(ビデオの切り出し).
▲このオスの縄張り.大きな朽木の左側を排他的空間にしている.白矢印:メス,黄矢印:オス.

本当に面白いもので,まさに時間通り,正午を回った12:16,メスが産卵に降りてきました.このオスの縄張りのど真ん中です.別のオスもそれを見つけて,メスを追うように縄張りに侵入しましたが,このオスに追い払われてしまいました.そしてオスは悠々とこのメスを捕らえて交尾,そして縄張り内で産卵をさせました.

▲悠々とメスを捕らえて,縄張り内で交尾(ビデオの切り出し).
▲縄張り内で産卵するメス.

良い資源(産卵基質)を持つオスの所にはメスが複数入り,ハーレム状態になることが多々あります.このオスの縄張りも,見渡した限りでは一番上質のようで,その後もメスがやって来て,交尾,産卵が行われました.

▲2頭目のメスとの交尾(ビデオの切り出し).
▲そしてダブル産卵へと….(ビデオの切り出し).

まあ,後は延々と産卵が続くだけの時間になります.13:30くらいまでは観察を続けました.2回目のメスが飛んだとき,このオスはこれを捕らえて再交尾をしました.やがて,メスの姿も消え,産卵のひとときは終わったようです.

改めて,産卵時刻になって個体数が増えていないか,周辺を調べてみました.他に産卵しているメスは2頭のみ.オスも確認したのは4頭.産卵しているメスにはオスが警護に付いていません.つまりオスが見逃しているのです.これほどオスが少ないということです.本当に去年の十分の一以下の数です.こんなに一気に減少した原因として考えられるのは,昨年7月初めの長期豪雨です.おそらく孵化したばかりの小さな幼虫が,その隠れ家である植物の沈積物と一緒に流されてしまったのではないでしょうか.そういう意味で,今年は,川によっては,トンボの数が少ない所があるかも知れません.

最後の確認の時,ヤマサナエが羽化していました.

▲ヤマサナエの羽化.

ニホンカワトンボをはじめとしたカワトンボは,どちらかといえば観察しやすいトンボたちですが,その行動はユニークで,見ていても飽きません.でも,それを映像にとらえるのは,非常に難しい.今日の観察結果をいちおうまとめました.興味のある方はどうぞ.